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鈴鹿御前編7

 どこからか聴えてくる笛や太鼓のメロディーを耳にして、薄暗い牢屋にいる桃の不機嫌レベルがぐ〜んと上がった。

「ったく、なんだいなんだい、どっかで宴会でもやってのかい?」

 雉丸は銃のメンテナンスしながら桃に顔を向けた。

「俺たちを捕らえた宴ですかね」

「サルはどうしたい、サルは!」

「もしかしたら向こうに寝返ったのかもしれませんね」

 半分冗談のつもりだったが、まさか向こうではあんな状況になってるなんて、桃たちはまったく知らなかった。

 だって、猿助と鈴鹿が戦っている最中、のんきに四人は寛いでいたから!

 猿助が鈴鹿の唇を奪ったことや、責任を取らされて求婚されたことも知らない。

 だってのんきに寛いでたから!

 そして、気づけば牢屋に落とされていた。

 雉丸は縦横に線の入った格子に銃弾を撃ち込んだ。だが、金属音が響いただけで弾丸は床に落ちた。

「武器を取られなかったのは幸いでしたが、牢屋を壊せないのなら無意味ですね」

「ったく、アタイの物干し竿でもビクともしないよ」

 というか、物干し竿で牢屋を壊そうと試したことがスゴイ。

 床に這い蹲っていたかぐやがゆっくり顔を上げた。

「おなかすいたんだけどー?」

 雉丸に寄り添っていたポチもおなかをさすった。

「ボクもおなかすいたよぉ」

 二人のガキを桃は睨みつけた。

「てめぇら、さっき菓子食ってただろう!」

 食べたには食べたが、あれからずいぶんと時間が経ったような気がする。

 かぐやは格子に掴み掛かって、激しく揺さぶった。

「ひ〜ら〜け〜っ!」

 やっぱりまったくさっぱりビクともしない。

 物干し竿がかぐやをぶん殴った。

「うっさい、兎鍋にして喰うぞ!」

「痛いし! クソババアぶっ殺すぞ!」

 かぐやの紅い眼がさらに紅く血走っている。

 あぐらを掻いて座っていた桃の爆乳を揺らしながら力強く立ち上がった。

「おう、いつでも相手になってやるよ!」

 女と女の激しい争い。血肉の雨が降りそうな予感だ。

 が、その緊迫した空気に中、撃鉄を起こしたカツッという冷たい音が響いた。

「はいはい、そこまで。ポチが寝てるんだから、静かに」

 雉丸の向けた銃口はもちろん桃じゃなくてかぐやに向けられている。

 かぐやはショックで落ち込んで、床に四つんばいになった。

「ちくしょー、周りは敵ばっかりだわ。でも、いつかきっと……王子様が迎えに!」

「来るわけないだろうボケッ!」

 かぐやは桃に物干し竿で頭を殴られた。

 でも、今度はグッと怒りをこらえた。

「いつか……絶対に……復讐したる……」

 頑張れかぐや、負けるかぐや!

 牢屋という閉鎖空間。

 遠くから楽しげな音が聞こえてくるし、今度は美味しそうな匂いまで漂ってきた。

 腹が立つ!

 桃は格子に回し蹴りを放った。

「飯くらい喰わせろ!」

 格子は激しく揺れるが、やっぱり壊すことは不可能だ。騒いでもおなかが空くだけだろう。

 中からの脱出は不可能に思える。やはり外からの助けが……。

 時間が流れ、桃たちがぐったりしていると、人影が壁に映るのが見えた。

 響き渡る足音。

 牢屋の前に現れたのは猿助と鈴鹿だった。しかも、鈴鹿は猿助に抱きついている。どう見てもラブラブ。

 それを見た桃は怒り狂って格子に飛びかかった。

「てめぇ貴様! 寝返ったな!!」

 激しい怒号に猿助は怯えた。

「ひぇ〜っ、ちが、違うってば……成り行きで……」

 尋常ではない怯え方をする猿助の顔を鈴鹿がのぞき込んだ。

「この女がそんなに怖いのですか? だったら今すぐ殺してしまいましょう!」

 殺すなんてとんでもない。そんなことしたら絶対に末代まで祟られる。

 慌てて猿助は大通連を飛ばそうとしていた鈴鹿を止めた。

「ちょちょちょ、オレの大事な仲間を殺さないって約束したじゃんかよ」

 格子から桃の手が伸び、猿助の頭をヘッドロックした。

「仲間じゃないだろ、てめぇは下僕だろうが!」

「姉貴……くるじ〜……そこから出すから……オレを離して!」

 そうしないと――睨みを効かせている鈴鹿の大通連と小通連が桃を殺す。

 察した雉丸は桃を羽交い締めにした。

「まあまあ、桃さん。出してくれると言っているんですから、サルを離してあげてくださいよ」

「ったく」

 舌打ちしながら桃は手から力を抜いた。

 へなへなと崩れ落ちる猿助。すぐに鈴鹿が抱きかかえた。

「なんて野蛮な人なのでしょう。大丈夫ですか猿助さま?」

「ぜんぜん平気……」

 でもなさそうな青い顔をしていた。しかし、ここで大丈夫と言っておかなければ、桃に危害が及ぶかも知れない。

 鈴鹿は牢屋の鍵を握りながら猿助に最後の確認をする。

「本当にこの方々を出してよろしいのですか?」

「オレらの婚約を一緒に祝って欲しいんだよ。だからみんなも変なマネしないでくれるよな、な!」

 お願いだから暴れないでくれ、という祈りを眼光に込めて猿助は桃たちを見た。

 鈴鹿はあまり気が進まない顔をしながらも、ゆっくりと牢屋の鍵を開けた。

 カチャッ!

 次の瞬間、桃が牢屋の扉を蹴飛ばして外に飛び出し、猿助を置いて逃げた!

「オレを置いてく気かよ!」

 叫ぶ猿助。

 雉丸のリボルバーから銃弾が放たれた。

 瞳を丸くする鈴鹿。

 銃弾は猿助と鈴鹿をつないでいた手錠の鎖を断ち切った。

「ナイス雉丸!」

 喜んで逃げる猿助に雉丸がポチを預けた。

「ポチを担いでさっさと行け!」

 ポチは幸せそうな顔をしてスヤスヤ寝ている。

 桃のあとを追ってかぐやとポチを担いだ猿助が逃げ、背後を雉丸が守りながら走った。

 まんまと婚約者に逃げられた鈴鹿はハッとし呟く。

「これが噂に聞くマリッジブルー!?」

 違います。

 桃たちは走り続け白石の敷かれた中庭に飛び出した。

 すぐあとを追って鈴鹿が現れる。

「ダーリンを返してくださいませ!」

 呼ばれたダーリンに視線が集中した。

「鬼となんか結婚したくねーよ!」

 桃の詰めたい視線が猿助に向けられる。

「おいサル、いつあの小娘と婚約なんかしたんだい?」

「してないっつーの!」

 否定する猿助。すかさず鈴鹿が叫ぶ。

「嘘八百ですわ! 妾たちは愛し合っていますもの!」

 さらにすかさず猿助が反論。

「愛し合ってねーよ。そもそもオレはもう約束した人がいるんだい!」

「どこのどなたですかそれは!」

 瞳を丸くする鈴鹿に猿助が紹介した相手とは!

「ここにいる桃の姉貴だ!」

 これこそ嘘八百だった。

 桃のグーパンチが飛ぶ。

「てめぇ、そんな約束してないだろうが!」

 ぶっ飛ばされた猿助は大きく宙を舞って、池にドシャーンと落ちた。

 そんな約束なんてしてなくても、鈴鹿の敵意はすでに桃に向けられていた。

「ダーリンをその体で誘惑するなんて卑怯者! 妾が成敗してくれますわ!」

「返り討ちにしてやるよ、あんたら手ぇ出すんじゃないよ!」

 桃は物干し竿を構えて鈴鹿に立ち向かった。

 かぐやは物陰に隠れて小声で応援。

「頑張れ鈴鹿御前さまーっ」

 雉丸は銃をしまってポチを抱きかかえた。

「桃さん、気をつけてください」

 下僕たちが見守る中、桃は物干し竿を大きく薙ぎ払った。

 それを高く飛翔してかわす鈴鹿。

「そんな乱暴な武術では妾を倒すことなど到底敵いませんわよ」

「柔は剛を制すとでもいいたいのかい!」

 豪快な桃の攻撃を風に舞う花びらのように、ひらりひらりと鈴鹿はかわし続ける。

 そして、ついに放たれた二振りの妖刀!

 烈風を起こしながら物干し竿が振り回され、左右から襲ってきた二振りの妖刀を弾いた。

 まさかという顔をする鈴鹿。

「たかが竹竿が妾の刀を!?」

「気合いが違うんだよ気合いが!」

 気合い――それはなんでも解決してくれる魔法の言葉♪

 気合いを入れれば、寒くても風邪を引かない!

 気合いを入れれば、焼け石の上を素足で歩ける!

 気合いを入れれば、干し竿で刀を弾き返すのです!

 鉄扇を両手に構えた鈴鹿が優雅に舞いながら桃に襲いかかる。

 さらに二振りの妖刀までもが襲いかかって来るではないか!

 風を切り裂く鉄扇の舞。

 桃は紙一重で鉄扇をかわすが、背後からは小通連が心臓を狙っていた。

 すぐに桃は地面に伏せた。

 しかし、上空からは大通連が降ってくる。

 見守り続けていたかぐやがこっそりガッツポーズ。

 そして、雉丸が叫ぶ。

「桃さん!」

 リボルバーが抜かれた瞬間、桃は飛び上がりながら叫んだ。

「手ぇ出すんじゃないよ!」

 上空から降ってきた大通連は桃の真横をすり抜け、地面に深く突き刺さった。

 大通連はかわしたが、鈴鹿の追撃は怒濤のごとく続く。

「避けてばかりでは妾は倒せませんことよ!」

「うっさい!」

 威勢良く叫んだ桃の服を鉄扇が切り裂いた。

 ヤバイ、ポロリしそうだ!

 ただでさえ前全快で谷間丸見えなのに、破れた服で激しい動きをしたら……。

 構わず桃は激しい動きで猛攻撃を開始した。爆乳も大騒ぎだ。

 こっそり池の中から爆乳を見守る猿助。

 それに気づいた桃。

「どこ見てんだいサル!」

「オ、オレはどこも……」

 慌てて否定するが、鼻からはツーッと鼻血が垂れている。

 猿助に気を取られていた桃に鈴鹿が鉄扇が!

「よそ見は禁物ですわよ!」

「てめぇなんてよそ見してても倒せるよ!」

 桃は連撃された二枚の鉄扇をかわし、さらに飛んできた小通連を物干し竿ではじき返した。

 しかし……鈴鹿は静かに微笑した。

 桃は気づいた。

 地面に刺さっていた大通連が消えた!?

 刹那、桃の口から血の華が咲いた。

 白い小石に飛び散った鮮血。

 猿助も雉丸も唖然として口から声すら出なかった。

 かぐやは両手でガッツポーズ。

「かぐやは今このとき悪魔から解放されました!」

 すぐに立ち直った雉丸が猿助に向かって叫ぶ。

「さっさと桃さんを運べ!」

 そう言って雉丸はポチを脇に抱えて、さらにかぐやも脇に抱えて走り出した。

「なんでかぐやまで!」

 かぐやは手足をばたつかせるが雉丸はまったく無視。

 猿助は自分より大きな桃を背負って雉丸の後を追った。その背中で桃は苦しそうに言葉を吐いた。

「あの野郎……まだアタイは戦え……」

 そのまま桃の声は小さく消えた。意識を失ってしまったようだ。

 まさかこんなことが起こるなんて……。

 桃も人間だ。しかし、猿助と雉丸には信じられなかった。絶対に負けないと信じていた。

 猿助は歯を食いしばりながら走り続けた。

 すぐ背後からは鈴鹿が追ってくる。

「逃がしませんわよ!」

 真横をかすめる大通連と小通連の刃。

 雉丸が前方に何かを見つけて叫ぶ。

「鬼の乗り物だ!」

 流線型のフォルムをした乗り物。座席はあるが、車輪などはない。タイヤのないオープンカーだ。

 かぐやとポチを抱えた雉丸が前の座席に飛び乗る。続いて乗った猿助は後部座席に桃を寝かせた。

 座席に流れる血の雫。

 傷は深い。一刻を争う事態だ。

 ずっと安らかに寝ていたポチが目を覚ました。

「ふわぁ〜、よく寝たぁ」

 そして、ポチの眼前をかすめた大通連。

「わっ!」

 一気に目が覚めた。

「なに、どうしたの!? うわっ、姉御さん大けがしてるよ!!」

 慌てるポチの座席を猿助が後ろから蹴っ飛ばした。

「さっさとこの乗り物動かせよ!」

「……えっ?」

 目を丸くするポチ。

 ポチが乗っていたのが運転席だったのだ。

 鈴鹿はすぐそこまで来ていた。

 焦りまくるポチ。

「ボ、ボク運転なんてできないよ!」

 弱音を吐くポチの後部座席を再び猿助が蹴っ飛ばした。

「気合いでやれ、姉貴が死んでもいいのかよっ!」

 でました気合い!

 ポチは破れかぶれでハンドルを握ってアクセルを踏んだ。

 ――何も起こらない。

「ダーリンを返して!」

 鈴鹿の投げた大通連がポチの首を刎ねんとする!

 雉丸がポチの後頭部を掴んだ。

「危ないポチ!」

 ゴツン!

 雉丸に無理矢理頭を押し込められたポチはおでこを強打した。

 その瞬間、モーターの駆動する音が響き、なんとエンジンがかかった。

 しかも、アクセル踏みっぱなしだったのでいきなりの急発進。

 レッツ激突!

 いきなり塀に大激突したが、そのまま壁を突き破って爆走。

 どうにか鈴鹿から逃げ切ったかと思ったが、なんと鈴鹿は大通連をスノーボードのように使って追って来るではないか!?

「ダーリンばかりか、妾の愛車『光輪車』まで奪うとは許しがたき所業!」

 宙を低く浮かびながら走る光輪車。

 紅い反り橋を飛ぶように超えた。そのとき、赤青黄色のナマモノを撥ねたような気がするけど、気にしな〜い!

 てゆーか、ポチはそれどころではなかった。

「わっ、ぎゃーっ、無理だよぉ!」

 叫びながらもどうにか運転できているのでオッケーさ!

 雉丸のリボルバーが連続して火を噴いた。

 小通連がすべての銃弾をはじき返す。あの妖刀がある限り、鈴鹿は鉄壁に守られているようなものだ。

 猿助は懐から何かを取り出して投げた!

「くらえ火遁の術!」

 目が眩む閃光が辺りを包んだ。

「しまった火遁じゃなくて、閃光だった!」

 うっかりさん♪

 しかし、その間違いが功を奏した。目を眩ませた鈴鹿がバランスを崩して大通連から落ちのだ。

 地面を激しく転がる鈴鹿を尻目に光輪車は全速力で走り続けた。

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