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鈴鹿御前編4

 ――桃たちが京の都を出立して三日三晩の時が流れた。

「クソッタレ!」

 桃の罵声が山々に木霊した。

 鈴鹿のアジトがまったく見つからない。手がかりすら何もつかめない状況だった。

 舗装されている参道から外れれば、そこは険しい山道。山の中を歩き続けているメンバーも疲労の色が隠せない。

 食料も底を付きそうだった。

 猿助が腹をさすった。

「腹減ったーっ。そろそろ京の都に戻って食べもん調達しようぜー」

 ポチとかぐやも身を寄せてぐったりしている。

「ボクもおなかすいたよぉ」

「かぐや歩けなぁ〜い」

 周りの状況を見かねた雉丸が桃に取り合おうとしたが、その前に桃が先に口を開いてしまった。

「てめぇら、グダグダ言ってんじゃないよ。絶対、京には戻らないからないよ。今戻ったら安倍の野郎に笑われるだけさ!」

 プライドの問題だった。そのプライドを自ら曲げるなんてことを桃がするハズがない。

 しかし、食料が残り少ないのも事実。

 カエルの合唱のように三匹のガキが『おなかすいた』と喚き散らす。

 桃が三匹を睨みつけた。

 三匹がビクッと身をすくめて口を閉じたときは遅かった。

 桃が猿助の胸倉を掴みんだ。

「てめぇで魚でも捕ってこい!」

 投げた!

「ぎゃーっ!」

 そのまま猿助は崖の下に転落して滝壺の中に呑まれてしまった。

 惨状を目の当たりにした残り二匹、魔の手が伸びてくるのも時間の問題だった。

 桃がかぐやの胸倉を掴んだ。

「てめぇも逝って来い!」

 やっぱり投げた!

「クソババア、覚えてろよ!」

 捨て台詞を吐いて、やっぱり滝壺に呑み込まれた。

 最後に残ったポチは子犬のように体を震わせている。

「ご、ごめんなさぁい。ボク泳げないから投げないでよぉ」

 すぐに雉丸がポチを抱き寄せた。

「ちゃんと謝れば桃さんだって許してくれますよね? だって桃さんはジパング一の美人で寛大な心の持ち主ですから、ね?」

「そうさ、アタイはジパング一の絶世の美女。心の広さだって誰にも負けやしないよ」

 どうやら難を逃れた様子のポチ。瞳をキラキラさせている。

「ありがとぉ姉御さん。ボクこれからもいい子でいるね!」

 桃はポンポンと優しくポチの頭を叩いた。

 犠牲になった二匹は未だ滝壺から上がってこない。溺れ死んだ可能性も高いが、あの二匹は結構しぶとそうな感じがある。特に猿助はゴキブリよりもしぶとい。

 桃は滝壺の下をのぞき込んで祈りを捧げた。

 その祈りは無事を祈るでもなく、黙祷するでもなかった。

「あの二匹を捧げるから、どうか鈴鹿の居場所を教えておくれ」

 生け贄だった。

 すると、地獄の神が祈りを聞き届けたのか、滝壺がピカーンと光輝いた。

 次の瞬間、水しぶきを上げて滝壺の中から珍獣がっ!

「呼ばれて飛び出てハメハメハー!」

 ビキニ姿のハゲ爺が瀕死の猿助とかぐやを抱えて地面に降り立った――亀仙人だった。

 その姿を確認した瞬間、桃は亀仙人を滝壺に蹴落としていた。

「逝って来い!」

「ひぎゃーっ!」

 さよなら亀仙人、成仏しろよ!

 滝壺に呑み込まれた亀仙人だったか、次の瞬間には滝壺の中から飛び上がってきた。なんと亀仙人の背負っている甲羅からジェット噴射しているではないか!?

 再び桃の前に降り立った亀仙人の第一声は――。

「わしを誰だと思ってお――」

「知ってるわ、クソハゲだろがっ!」

 またハゲ仙人は滝壺に蹴落とされた。

 しかし、三度滝壺から飛び上がって、蹴落とされた。

 四度、蹴り、五度、蹴り、六度、蹴り……。

 エンドレスも数えるのめんどくさくなったころ、全身ボロボロでヨボヨボの亀仙人は陸地に上げってついに力尽きた。

「わしは……もう駄目じゃ……最期にわしの一生の頼みを聞いて……」

 桃は亀仙人を踏んづけながら望みを訊いた。

「なんだ言ってみな?」

「最期に……おぬしと一夜を過ごし……」

「逝って来い!」

「ぎゃ!」

 再びエロ仙人は滝壺に落ちた。もう成仏してしまったのか、上がってくる様子はなかった。

 亀仙人が最期にいた場所でポチが何かを見つけた。

「姉御さん、変な物が落ちてるよぉ?」

 そう言いながらそれは桃に手渡された。

「なんだいこれ?」

 それはまるで羅針盤のような形をしていたが、それよりも複雑な感じがする。

 いったいこのアイテムは?

 崖の下から老人の手が現れた。

「それは……わしが……ゲホゲホ……」

 やっとの思いで崖を登ってきた亀仙人だった。その胸倉を桃が掴み、そのまま引き上げた。

「てめぇ、まだ生きてたのかい!」

 再び亀仙人が滝壺に落とされそうになったのを雉丸が制止する。

「ちょっと待ってください桃さん、そのアイテムのことを訊いてからでも遅くないかと」

「それもそうだね。ほら、命拾いしたんだ、さっさとお言い!」

 桃に胸倉を掴まれ持ち上げられている亀仙人は、青ざめた顔で苦しそうに口を開く。

「そ……の前に、温かいお茶をくれんか?」

「てめぇぶっ殺すぞ!」

 桃が本気で怒る寸前だった。それを察知したメンバーは必死になった。

 雉丸がすばやくフォロー。

「殺すのはいつでもできますから!」

 ポチがまん丸の瞳をウルウルさせる。

「お爺たんを苛めちゃ可哀想だよぉ」

 猿助が桃を後ろから羽交い締めにする。

「姉貴! やっぱ好い体してんなぁ……ぎゃ!」

 便乗に失敗した猿助は、桃の肘打ちを喰らって地面に沈んだ。

 最後にかぐやが呟く。

「今度はちゃんと息の根を止めてから滝壺に落としたらー?」

 フォローじゃなかった。

 桃の両手が亀仙人の首を締め上げる。

「成仏しろよクソハゲ!」

「……す……すまん……わしぐぁっ……わる、悪かった」

「今さら謝っても遅いんだよ!」

「……鈴鹿御前の……居場所を……教えてやる……」

「なに?」

 すーっと桃の手から力が抜け、解放された亀仙人は地面に両手をついて咳き込んだ。

「うげっ……げほっ……うえぇっ……ナイスバディなねーちゃんたちが、川の向こう岸で呼んどったわい」

 臨死体験だった。

 瀕死の亀仙人をいたぶるように桃はつま先で小突いた。

「生かしてやったんだ、さっさとお言いよ!」

「そうせかすな……その前にお茶を……」

 桃にギロっとした眼で睨まれ、亀仙人は言葉を呑み込んで、別の言葉を発する。

「おぬしが持っておる羅針盤はわしが発明したスーパー浦島スペシャル羅針盤(試作品)じゃ」

「で、この羅針盤と鈴鹿が何の関係があるんだい?」

「鈴鹿御前はおそらく特殊な結界の中に隠れておる。そこでそのミラクル羅針盤を使って時空の歪みを探知して、正しい道のりを教えてくれるのじゃ!」

 桃の持っていた羅針盤を猿助が奪い取った。

「そんなにスゴイ羅針盤なんかよ。つーか、まさかこれをわざわざ届けに来てくれたのか?」

「そうじゃ、京の都でおぬしらが鈴鹿御前退治に向かったと聞いて追ってきたのじゃ」

 だったらスゴイ功労者じゃないですか!

 それを殴る蹴る滝壺に落とす。恩を仇で返しまくり。

 亀仙人が京の都にやって来たのは、おそらく桃たちを追ってきてのことだろう。

 ということは――。

 少し声を弾ませながらかぐやが亀仙人に尋ねる。

「かぐやが乗ってたあれがなんだかわかったの!?」

 それはかぐやの記憶を探す大事な手がかりだった。

「あの乗り物は……わからんから村に放置してきたわ」

 あっさり答えた亀仙人にかぐやのグーパンチ!

「くたばれ!」

「ぐはっ!」

 殴られた亀仙人は後ずさりをして慌てた。

「ま、待て、今まで鬼人たちの技術も多く見てきたわしだが、あの乗り物に使われておる技術はわしにもよくわからんのじゃ。つまり、あの乗り物は鬼人の技術より、もーっと、もーっともっとスゴイ技術が使われておるのじゃ!」

 つまりそれはどういうことか?

 一同の視線はかぐやに集まった。

 このウサ耳の少女の正体は?

 真面目モードな空気が流れている中、桃はゾワゾワっとする悪寒を感じて振り返った。すると亀仙人に尻をなでなでされていた。

「超スゴイ羅針盤を届けてやった礼じゃ、ケツくらい触らせい」

「あの世で女のケツでも追っかけてな!」

 桃の回し蹴りが炸裂!

 今度こそさよなら亀仙人。

「あ〜れ〜!」

 グルグル渦巻く滝壺に亀仙人は消えたのだった。

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