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鈴鹿御前編1

 辺境の地を旅しながら、全国各地の怪物を退治している。と、噂される勇者さま御一行がいるらしい。

 その噂は怪物に苦しめられている民たちのみならず、今や全土の怪物どもの耳にも入っていた。魔女っ娘海賊団が壊滅させられ、大魔導士温羅がやられたらしい。それも絶世の美女とたった三人の下僕に――。

 今はそこに下僕が一人プラスされていた。

「ねぇー、なんで徒歩なわけー?」

 一行の後ろをだらだら歩く黒髪の幼女が愚痴をこぼした。顔だけ見れば類い希なる美少女なのだが、頭にはウサギのような長い耳が生えていた。明らかに人間ではない。

 桃は振り返らずに幼女を怒鳴りつける。

「うっさい、グダグダ抜かしてんじゃないよ!」

「かぐやもう歩けな〜い」

 幼女――かぐやは地面に尻をつけて座ってしまった。

 桃はすぐに引き返してきてかぐやの胸倉を掴んで持ち上げた。

「てめぇ、誰が拾ってやったと思ってんだい!」

「かぐやもっと優しい人に拾われたかったぁ」

「頭にうさ耳なんか生やした気持ち悪いガキなんか、心優しいアタイ以外の誰が拾ってくれるっていうんだよ!」

 子供にも容赦ない桃がマジギレする前に雉丸が止めに入る。

「まあまあ、桃さんムキにならないで。ポチだって同じ境遇の仲間が増えて喜んでいるんですから」

 ポチはうんうんとうなずいた。

「早くボクとかぐやたんの記憶喪失が治るといいなぁ」

 記憶喪失のガキが二人。

 ポチは温羅に拾われる以前の記憶がない。ポチという名前も温羅が勝手に名付けたものだ。

 もう一人のかぐやは昨夜以前の記憶がない。しかも、もっとも古い記憶は『フルチン』だった。

 そう、かぐやを一番はじめに見つけたのは猿助だった。あの空から降ってきた謎の乗り物に乗っていた幼女なのだ。

 かぐやについてわかっていることは名前だけ。手がかりになりそうな謎の乗り物は村に預け、自称天才発明家の亀仙人が調べている。

 空から降ってきたかぐやを見た村人たちは、その美しさを見て天女さまかもしれないと言った。真珠のように輝く白い肌で、顔立ちは子供のくせに洗練された高貴されているが、頭にウサ耳の生えた天女なんか聞いたことがない。トラ耳を生やした鬼人族と同様、異形で怪物と見る者を村の中にはいた。そして、何よりも人々を畏れさせたのは、その紅い眼だった。

 そういえば他にも手がかりがあった。なぜか大人用の十二単を着ていたかぐやを着替えさせるとき、首から〈黄金の鍵〉のついたネックレスを下げていた。ちなみにその着替えのときに、パンツに『かぐや』と刺繍されていたことと、自ら『かぐや』と自称していることから名前が判明した。

 この〈黄金の鍵〉は文字通り、記憶の鍵(、)となるのだろうか?

 こうして旅は美女一人と四人の下僕となったわけだが、新メンバーのかぐやはまだまだ桃にたいして反抗期だった。他の三人は反抗期を過ぎている。

「誰かおんぶー」

 かぐやはもう一歩も歩く気ゼロ。

 ただのワガママ娘を桃がおんぶするハズがない。

 かぐやと同じくらいの背丈のポチでは荷が重いだろう。

 雉丸は誰かを背負うと武器の制限がでる。

 残る一匹に桃は目を向けた。

「サル、あんたが役に立つときがきたよ」

「なんでオレが!」

「だってあんた若い子が好きだろう?」

「こんなガキなんか好きじゃねーよ!」

 ガキと言われたかぐやも黙っちゃいない。

「かぐやガキじゃないしー、あなたのほうがガキじゃん!」

「オレのどこがガキなんだよ!」

 猿助は顔を真っ赤にしてかぐやに掴みかかった。

 二人が取っ組み合いをはじめてしまったのを見てポチがあたふたする。

「ケンカはよくないからやめようよぉ」

 三匹のガキを見ていた桃の目尻が上がる。

「てめぇら、ここは保育所じゃないんだよ!」

 桃に恫喝された三匹はすくみ上がって身を凍らせた。これ以上やってると殺される。

 まったく動じていないのは雉丸くらいだ。

「そういうことだから、サル。お前が背負ってやれよ?」

「……わ、わかったよ!」

 ちょっぴり強気に返してみたが、言葉は震えているし、絶対に桃のほうは見られない。

 猿助がかぐやをおんぶすることで決着をしたが、これから旅はまだまだ先が長いことだろう。

 雉丸は桃に視線を向けた。

「桃さん、そろそろ乗り物がないと、この先不便だと思いますが?」

「もうすぐ京の都だ。そこで何か探そうかね」

 ポチが『はぁ〜い』と手を挙げた。

「ボク、牛車がいいなぁ。まったりしてて気持ちいいと思うよぉ」

「却下」

 即答の桃。

 次に猿助が提案する。

「オレは断然早馬がいいと思うぜ。だってカッコイイじゃん?」

「あんた馬に乗れるのかい?」

 桃に突っ込まれて猿助は少し言葉を詰まらせる。

「の、乗れないけど悪いかよ。馬なら馬車だってあるだろ!」

 馬に乗れないのはきっと猿助だけじゃない。馬車というのは妥当なところかもしれない。

 雉丸もそれに同意した。

「そうだな、俺たちが手に入れられる物で考えると馬車が一番かもしれないな。鬼たちの乗り物が手に入るなら話は別だが」

 言葉のニュアンスからわかりそうなものなのに、かぐやはあっさり言い出した。

「だったら鬼とかいうのから買えばいいじゃん?」

 かぐやを背負っている猿助はどっとため息を吐いた。

「お前なぁ、簡単に言うんじゃねーよ。鬼がどんな奴らかお前だって知ってるだろ?」

「かぐや知らな〜い。鬼って何なの?」

 記憶喪失だからなのか、それとも本当に知らないのか。

 ジパングに住んでいるものなら、鬼を知らない者はしない。鬼と言えば恐ろしいものなのだ、幼いころから教え込まれて子は育つ。

 かぐやが目を丸くして周りの者を見ながらキョロキョロして、目の合った雉丸が口を開いた。

「鬼というのは古来からこの世界にいる生き物のことだ。凶暴で野蛮な怪物だと人間からは忌み嫌われている。だが、鬼の文化は人間のそれよりも遥かに高く、科学、魔導などは人間なんて遠く及ばない。オレが持っているこの銃も鬼が作ったものだ」

 そう言って雉丸はリボルバーを見せた。

 人間の技術では作れないとされている物。大きな都では鬼から盗んだ技術を模倣している物もあるが、応用するとまでは行かずに流用の域を脱し得ない。

 そう考えると……。

 桃は少し鋭い眼でかぐやを流し見た。

「あんたが乗ってたアレは誰が作ったもんなのかねぇ?」

 かぐやの謎は深まるばかりだった。

 記憶喪失相手にその話題は深く追求されることはなかった。

 先頭を歩いていた桃を抜かしてポチが前に駆けだした。

「ほら見て、おっきな都が見えるよぉ!」

 ジパング一の大都会。

 帝も住んでいるという京の都はすぐそこだった。

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