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温羅編9

 ――一方そのころ。

 ナンパに惨敗した挙げ句の果ての猿助。

「うげぇ〜っ飲み過ぎた。やべっ、しょんべん漏れる!」

 トイレを探して歩き回っているうちに、なんだかいつの間にか竹藪に迷い込んでしまった。

 ガサガサっと笹が風に揺れる。

「わっ!」

 短く叫んで猿助は身を縮めた。

「どこだよここ。早く外に出てーけど、道がわかんねーし、しょんべんもしてーし」

 夜空に輝く満月。

 月光は煌々と明るいが、竹藪に入ってしまうと、身の毛がよだってしまうのは仕方あるまい。

 近くに誰もいないし、それがまた怖いのだが、周りに人気がないことを確認して猿助は立ちしょんすることにした。

 着物を下ろした猿助は、尻丸出しで仁王立ちをして、太い竹に向かってしょんべんをした。

 じょぼじょぼ〜。

 っと、黄金色の液体が放物線を描きはじめたそのとき!

 夜空が瞬く間に昼空になり、閃光を放ちながら宇宙から何かが飛来してきた。

「うわっ、なんだあれ!?」

 眼を丸くする猿助。

 帚星が流れてきたかと思ったが、それがどんどん猿助に向かって落ちてくるではないか!

「マジかよっ、うわっしょんべんが、ぎゃっ!」

 一度開いた蛇口は閉まらない。

 黄金色の液体が右往左往。

 慌てる猿助。

 着物にしょんべんがかかる!

 そして、空からは謎の光が落ちてくる!

「な、なななななーっ!」

 どうしていいかわからず叫ぶ。

 謎の光はすぐそこまで迫っていた。

 眼を潰すほどまばゆい光で猿助は目を開けていられなかった。

 風が轟々と響き、竹藪が激しく叫んだ。

 強烈な衝撃音が鳴り響き、地面が激しく揺れたと同時に猿助が吹っ飛んだ。

「ぎゃ〜っしょんべんが顔に!」

 砕かれた地面と一緒に爆風に巻き込まれた猿助が――落ちた。

「ぎゃっ!」

 踏んだり蹴ったりだ。

 顔にかぶった土を払いながら猿助は立ち上がった。

 今まで広がっていた竹藪が円を囲むように消失して、そこには超巨大なスプーンですくったようなクレーターが空けていた。

 猿助はクレーターを覗き込み、その中心に何かを発見して驚いた。

「何だあれ?」

 それは竹のような形をした『何か』だった。

 大きさは大の大人が一人か二人、詰め込めば三人くらい入れそうなくらいか。『入る』というたとえをしたのは、それがあきらかに人工物だったからだ。

 ミサイルにしては形が変だし、だとしたら乗り物だろうか?

 猿助はすっかり着物を履くことを忘れて、フルチンで恐る恐る『何か』に近づいた。

 『何か』が突然音を立てた。

「ぎゃっ!」

 思わず悲鳴を上げて猿助は地面に尻餅をついた。フルチンで。

 蒸気を噴き出しながら『何か』の扉が開き、中から幼いうめき声が聞こえてきた。

「うう……ん」

 猿助は四つんばいになって、尻を突き上げながら『何か』の中を覗き込んだ。

「……おい、生きてるか?」

 猿助が見たものは、ぶかぶかの十二単にくるまった幼女だった。

「ううっ……」

「おい、眼覚ませよ」

「ううん……」

 幼女は静かにまん丸の瞳を開き、大声で叫んだ。

「きゃ〜〜〜っ!」

「なんだよ?」

 バタンっと幼女は気絶した。

 何が何だかわからずそこに仁王立ちする猿助。

 だってフルチン!

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