「知ってるよ。どっちの私も可愛いって話でしょ?」
「高谷と仲良いみたいじゃない」
駅前のそこそこ人気のカフェ。
フルーツタルトが美味しい。
そこに、小学時代から親友の槙瀬 小南と向かい合って座って話をしていると、ふと小南が高谷の話題を出してきた。
今日は放課後の高谷とのティータイムを中止して小南とお茶会である。
小南は美人だ。
そこらのモデルより綺麗で、もちろん私の方が可愛いけど小南は黒髪黒目の純日本人タイプ。
私とは正反対で、でも思考とかは結構被るから今でも仲が良い。
私の本性を知ってるし、むしろ猫を被って小南に対して接すると“鳥肌たつからやめてくれない?”と真顔でイラついたトーンで言ってくるから、ちゃんとした友人は小南ひとりだと思ってる。
ちなみに高校は違う。
小南は(私には劣るけど)頭が良いのに中学受験はせずに公立の中学に進学したから。
高校はうちに並ぶ進学校である。
「高谷知ってんの?」
「中学一緒」
あー、高谷の家めっちゃ私の家と近かったし、地元一緒か。
そりゃ小南と中学一緒でも何らおかしくないか。
そういえば高谷が中学のときに引っ越してきたって言ってたな。
だから小学校は違ったのか。
「まあ、仲良くはないけど他人ではないかなみたいな関係? のような? ……で、その情報源どこなの? 潰すつもりだったんだけど、俊哉の件があって後回しにしてたんだった」
「情報源っていうか、目撃情報が広がりまくってうちの学校まで来てるよ? あんたやたら有名なんだから」
可愛いからね。
ついでに進学校だからね。
「あ、じゃあ高谷の彼女知ってるじゃん」
メニューを開いてケーキの追加をしようかと思案する。
チーズケーキ好き。
まあ太らないしいっか、呼び出しボタンを押す。
昔から太らない体質だけど、可愛くい続けるための努力は惜しんだことはない。
ケーキはご褒美だ。
「あんたは相変わらずねぇ。興味ないのに聞くの?」
「面白いかと思って。高谷は防御完璧だからどうやって付き合ったとか謎なんだよね」
全く。とため息をつきながら、スマホを操作してる。
はいこれ。と見せられた画面にはそこそこ可愛い女の子。
「へぇ。私の方がやっぱり圧倒的に可愛いね?」
「まあ、あんた性格悪いけどあんた以上の外見って多分いないわ」
「小南は私の次に美人だよ」
「ありがと」
店員さんが来たからベリーキュートな作り笑いで、「チーズケーキひとつくださいっ」と猫被り。
小南は笑いをこらえて「コーヒーひとつ」と震えた声で言ってる。
最近高谷の前でもろに本性を出して冷めた目で見られているからか、小南の反応が愛しい。
「あー……ほんとあんたすごいね。久しぶりに見たけど完璧だわ」
涙を浮かべながらそう言われる。
そうやって私の性格の悪さをわらいとばしてくれる小南が好きだ。
私が色々あって一番狂ってたときに、血迷って素を知ってる小南に作り笑いを向けたらガチのお怒りモードで“そんな伊咲は大っ嫌いだわ”と私の可愛い顔をビンタして言い放ってきた。
まあ、小学生の頃だったのでそこまで痛くなかったし、自分でもあの態度はよくなかったなぁ。とあとで猛省したから今は怒ってない。
「……小南さん」
「うん、何?」
「小南のこと一番の友達だと思ってるっていうか唯一無二だと思ってるから感謝してよねこの超絶美少女の親友だなんてすごく幸せじゃない喜んでも良いよ」
「あははっ。あんた、ほんとに最高だわ」
私、小南がいなかったら多分今死んでるよ。って、ガチで思った。
「伊咲。あんたは無駄にナルシストのくせに病んでるから言っといてあげるけど、誰かに頼っても良いんだよ。あ、私にはやめてね」
「おい」
「誰か人を好きになってもいい。辛いって泣いてもいい。傷ついてもいい」
そんなこと、わかってるよ。
私は可愛くて頭もいいんだから。
「あんたの性格は悪すぎていっそ気持ちいいくらいなんだから、そのままでも好いてくれる人はいるんだからね」
ねぇ、小南。
私、その言葉を素直に受け取れなかったりする。
「知ってるよ。どっちの私も可愛いって話でしょ?」
にこっと笑う。
小南はガッと肩をどついてきた。
何事!
「ほんとその笑顔私に向けないでくれる。胸くそ悪い。他人に向けるのはいいんだけどさ、ほんと気持ち悪いから」
「……そんなこと言うの小南と高谷だけなんだけど!」
ぐっと詰め寄られて顔は間近でキレられる。
こんな可愛い私に至近距離に近づいて、それでもなお怒ってられる小南さん強し。
やっぱり性格知ってる人は惑わされてはくれないのか、いや俊哉は知ってるバカ枠だから仕方ないとしても。
小南をじっと見ると、高谷ねぇ。と意味深に呟かれて今度はこっちがキレそうだ。
「んじゃ、次は夏休みしか会えないと思う」
「特に会いたくないからそれで大丈夫」
「……伊咲ってツンデレよねぇ」
「並外れた可愛さにプラスしてツンデレとかどんだけモテ要素を発揮してんの、私すごい」
「それ発揮してるのは本性見せてる私と高谷にだけでしょ」
……まあそうだけど。
「今は軽く病んでるだけだから安心して放置できるけど、それ以上度は過ぎないでね。死ぬだなんて言われても、私の無責任な言葉では止められないんだから」
「精進するよ」
「……うん、またね」
目を細めて、心配そうに私の目を真っ直ぐに見つめている小南は綺麗で、そんな綺麗なものに見つめられてしまったら、私の黒さが引き立つきがして目を逸らした。
いつも思う。
大袈裟だけど、生きてる世界は違うんだって。
そう思うこと自体が性格悪くて、でもそれが私だから。
だから、そんな私を私は好きでいてあげる。




