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須藤さんは可愛い。  作者: 椎名 京
本編
5/21

「そう? 案外人間関係って脆いじゃん」

「ね、高谷」



私は高谷に入れてもらったコーヒーを啜りながら、にこにことクッキーに手を伸ばしている高谷に話し掛ける。


場所は国語準備室。

昨日かなり散らかっていたから、さすがの高谷でも一人では整理できなかった模様。



それとなく授業に関係のない国語教師の趣味らしい恋愛小説のことをそれとなく持ち出して笑顔で揺すってみると、仕方ないな。と困り顔で国語準備室へ自由に立ち入れる許可とクッキーをもらった。


まあ、整理は最後までしないといけないんだけど、サボり部屋を提供してもらえたのはかなり嬉しい。

それに猫を被ってる身としては、本性を吐き出す場所がほしいと思っていたところだ。

もちろん、先生にはそこはいっていない。

自習室として。と無理矢理言いくるめた。


高谷には「優等生とは言えない行動だけど、成績と外見でどうにかなってるんだね」と嫌味ともとれる言葉をもらった。

足を踏んでおいた。


「何?」


高谷はスマホを触っていたけど、律儀に顔を上げて返事をした。

恐らく彼女にLINEをしてる。

仲良くていいですね。



「私、高谷のこと大っ嫌いだなぁ。ってずっと思ってたんだけど、そこまででもないみたい。せいぜい“嫌い”くらいかな」

「思ったよりどうでもよかった」



何を期待してたんだよ。


しかしまあ、日に日に高谷の私に対する態度が雑になってる。

この美少女を前にして……あ、照れてるの? ってこっちは本気で言ったのに、冷めた目で見られた。


ちなみに高谷を惚れさせてギッタギタにフる作戦は諦めた。

というか、めんどくさくなってやめた。




最近、サボり部屋として手に入れたこの国語準備室で、放課後高谷と一緒に過ごすことが日課になりつつある。


大嫌いで嫌悪感が半端なかったはずなのに、数日過ごしてみれば“大嫌い”ではなくなった。


高谷は私と同じく猫を被ってると思うし、私の前でもそれを完全にはやめたりしないから全部が見えてるわけじゃないけど、基本優しい。



まあ、好きでもないんだけどねぇ。



へへへ。と笑うと、高谷がこっちを向いて、口パクで“きもい”と言ってくる。


この超絶美少女のどこがきもいのか、私が納得できるようにレポートにまとめて来てほしいものではあるけど、ここでガチで反撃すればきっと高谷はバカにしたように笑みを浮かべるに決まってる。

そんなの奴の思うツボだ。

何か手の上で踊らされる感があってイラッとする。



「可愛いんだから我慢しろよ」



と、イラッとした私は安定の返し。


目の前にこんな美少女がいるのに、こっち見ずにLINEとかふざけてるな。

最近本気でお金とってやろうかと思う。



「……そうえば聞きたいんだけど、須藤さん」

「ん、」



冷静を取り繕ってるけど、かなり嬉しい。

優越感? かな、何か優位になった感じ。



「女の子って、彼氏の行動を全部把握したいって思うもんなの?」



……何その重い女。

絶対ブスだろ、決定だ。


それを女子代表として語られてもすごく困る。

そんなやつばっかりじゃないだろ、まあ私があまり執着しないだけだけど。


「彼女?」

「うん、見る?」



え、見ていいのか? と少しだけ迷ったけど、私そんなに元からいい子じゃないしね。

遠慮なく見させてもらった。



見るとLINEの画面。

1時間とか30分ごとに“今何してるの?”とか“誰といるの?”とか視界が歪むような重い言葉がつらつら送られている。

何これつらたん。




「……引いたわぁ。別れればいいのに」

「そんなに簡単じゃないでしょ」

「そう? 案外人間関係って脆いじゃん。むしろ恋人とか一時の感情で繋がってる関係なら尚更」



私はそんな脆い関係にすがるやつの気持ちなんて理解できないけどね。




「彼女、可愛い?」


可愛いから別れられないのか?

高谷はよく言い寄られるから、こんな重い彼女でも女避けとかにそばにおいてるのかもしれない。



「すごいね、単純に俺が実菜のこと好きとかは考えないんだ」

「……うーん、よくわからないけど。高谷って自分で思ってるより私に似てるよ?」



合理的で自分本意。

他人の前ではにこにこいい顔してるけど、心の内では何考えてるかわからない、そんな感じ。

多分この人の腹は私なんかより真っ黒で、自分がかっこいいことだってちゃんとわかってる。


……私に似てて、それなのに私より優れてる。


ああ、わかった。

あの苛立ちと嫌悪感は、ただの同族嫌悪。



「似てるのに、私にないものを持ってる高谷が嫌い」

「……聞くけどさぁ、俺にあって須藤さんにないものって何?」

「形じゃないでしょ、そういうのって。気持ちの問題。私が負けてるって敗北感を感じた時点で、私は高谷に劣ってることになる」



クッキーを口に運ぶ。

私の言葉を楽しそうに笑いながら聞いていた高谷は、何の話だっけ? と脱線した話を戻そうとしてる。



「あー、実菜? さんだっけ。その子が可愛いかどうかの話。高谷の態度的に好きではないんでしょ?」

「まあねぇ」



もう一度、可愛い? と聞く。

そこまで容姿を知りたいわけじゃないけど、ここまで濁されたら後は意地だ。



「普通に美人。まあ、須藤さんの方が可愛いけど」

「は? そのフィールドに私を入れないでくれる? ほんとあり得ないんだけど。比べるまでもないでしょ。比較対象にもならないよ」

「見たことないのにわかるの?」

「だって私可愛いし」



ふんぞり返って言ってのけると、須藤さんそればっかり。と、ため息混じりに呆れた声が聞こえた。




最初と比べ、大分軟化している会話を高谷と繰り広げていると、今度はこっちのスマホが鳴った。


あ、かかった? と期待して画面を開く。

が、開いたと同時に興味が冷めていくのがわかる。



“もう一度会えない?”


うーん。

私って思い通りにいかないと結構ヒステリックになるし、思い通りにいかせるために計算するけど、思い通りに行ったは行ったで面白味がなくて興味が削がれる。


我ながら面倒な性格をしてるよなぁ。

可愛いから良いけど。


「そっちも彼氏?」

「あー、ん。……自分で完璧な罠仕掛けて満足してたんだけど、引っ掛かったらそれはそれでやだね」

「須藤さん、たまによくわからないこと言うよね」



とりあえず適当に返事。


最後の一枚のクッキーを躊躇することなく奪って、口に入れる。

それを見届けた高谷は荷物を持って立ち上がる。



「一緒に帰ろ」

「いーけどさぁ、あんな重い彼女がいて、よくそんなこと言えるわぁ」

「てか須藤さん、大分心許しだしたね? 拒否らないんだ。すごいすごい」

「ねぇ、刺すよ? てか死んでよお願い。私の可愛さに免じて」



何笑ってるんだ本気だぞ私は。









「あ、」



ペシ、と口を押さえるけど、時すでに遅し。

私の目線の先を辿って、訝しげに高谷が眉を潜めた。


「何」

「あー、彼氏?」



あ、元だっけ。


視線の先には俊哉。

と、同じ制服を着た女の子。


うむうむ、薄々勘づいてはいたんだけど、マジかぁ。

どんだけ私を怒らせたいんだろ。

私が怒ったら何するか……っていうか私には暴走癖があることを俊哉は知ってるはずなのになぁ。




「あー、なるほど。須藤さん、可哀想な人なんだ。設定的に」

「そうだね、それでもいいかなぁって思ったんだけど、少し不本意かな。ところで高谷。あの女の子はどうよ」

「中の上」

「だよねぇ。圧倒的にブスだよねぇ。あはは」



ちょっとキレそう。

まあ、別に浮気はいいとして……てか、浮気じゃないか。

別れたし。


でも、さっきあのLINE送ってきたとこだよね?

バレないようにやるよな普通。

どういう神経してるんだろ、バカ超越しちゃってんじゃん。


「どうする? 何かしたいことは?」

「生き生きしてるねぇ。そういうところ嫌いじゃないよ? まあ、とにかくあの女の子に私の可愛すぎる容姿を見せつけたいんだけど」


何故か私の中で高谷の好感度が上がってる。

このタイミングで上がるとは、私もだけど高谷もクズだと思う。


「あれ、男の方はいいの?」

「私、クズの底辺に時間割くのが一番嫌いなんだよね」

「なるほど」



そう言って、頭の上に乗った高谷の手の平。

いつもなら振り払うのに、温かくてどうしようもなく泣いてみたくなった。



「須藤さん、悲しいんだね」




そうなの?

知らなかった。


“怒る”ならわかるんだけど、悲しいとか楽しいとか、よくわからないからさぁ。


ゆっくりと、高谷の手の平が上下して、私の頭を撫でる。


それと同時に、プツンと何かが切れて、イライラと真っ黒なものが沸き上がる。

可愛い私に似つかわしくないその醜い感情を、高谷に吐き出してしまうのは本当に嫌だった。

のに、高谷の前だと抑えきれなくなって抗えない。



「っお前ら意味、わかんないんだよ! こんな美少女な彼女がいるくせに、ブスの方に行ったりしてさぁっ!! ねぇ、こっちも教えてよ! 何で!? 何で、うまくいかないの……!? 私頑張ってるじゃん、完璧でいるじゃん。何で上手に生きれないの…!!」


我ながらヒステリック。

泣き叫ぶのは美しくない。

静かに涙を流した方が綺麗なのは知ってるのに。


私はまだまだで、なくなったと思っていた感情は、いとも簡単に出てきてしまう。




「っ人に、触られるの嫌い…」



ビク、と反応した高谷の手を掴んで、無理矢理頭に押し付ける。



「だけど、撫でて。顔は、触ったら殺すけど」

「……触んないだろ。変態かよ俺」




うん?

つい最近触ってきて、私はかなり拒否った覚えがあるんだけど、覚えてないふりか?



ぐしぐしとセーターの袖で不本意ながら出てきた涙を拭いていると、ふっと笑いが落ちてきて、高谷にハンカチを差し出される。



「……永久保存とか、やめてね」

「ちょっと待って。今日はやけに自意識爆発してない?」

「可愛いんだから我慢したら?」



いつもの調子で返したのに、高谷は何も言わずとんとんっと私の背中を優しく叩いていて、私はそれを甘んじて受け入れた。



「落ち着いた?」

「……ねぇ、ちょっとその辺で交通事故にあって記憶消してきてよ」

「無茶言うなよ」



何で嫌いだと言っていたやつの前で私は号泣したんだ。


だから嫌だと言ったんだ。


いつしか、全部全部高谷の優しさに吐き出してしまいそうで。


とりあえず俊哉は着拒&ブロック。

あの女は俊哉と一緒に、人望使いまくってばれない程度に重大な弱味握って脅す。

何してもらおうかなぁ。とか考えてる私はかなり強かです。



「須藤さんって、見た目は可愛いのにやること何気にエグいよね。そういうところ好きだよ」

「私は好きじゃないけどね」






残念ながら、高谷を好きになってる自分のビジョンが全然思い浮かばないっす。



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