「 本望じゃん。よかったね」
「伊咲」
「ん、俊哉」
私の彼氏の話をしようか。
私の彼氏は織田 俊哉という。
高谷には劣るけどまあまあ美形で、私の美しさには釣り合ってはいないけどまあ外を一緒に歩いても恥ずかしくないくらいのイケメン。
学校は違う。
中等部は一緒だったんだけど、内部進学には学力が足りなくて外部の高校に進学した。
普通に頭は良いんだけど、何せうちは進学校だから勉強についてこれなかったようだ。
そして私の本性を知っている。
実は俊哉は幼馴染みで、まだ猫を完全に被りきれていなかった小学校から一緒の上に、家も近所だから知っていて当たり前なんだけど。
俊哉はかなりの物好きか、かなりの美少女好きだと思う。
私は可愛すぎて死にそうなくらいの外見をしてるけど、中身は最悪。
そんなこと、自覚している。
だから、本性を知ってもなお、私と付き合いたいと思った俊哉はとにかく変だと思っている。
そして私は俊哉のことを“好き”なはずなのだ。
「結構待ったんだけど」
「うん? 本望じゃん。よかったね」
「……」
これが私たちの普段の会話である。
「で、さ。話って何」
俊哉は馬鹿正直というか、嘘がつけない人である。
そんなところを私は軽蔑している。
嘘をつけない、というのはいいように聞こえることもあるけど、ただのバカだ。
上手く生きれないだけの、世渡り下手。
それなのに実はプライドが高い。
私には負けるけど。
「俺たち、別れよう?」
風が、私の色素の薄い髪をさらった。
だから私の表情は伺えなかったのか、俊哉は何とも言えない顔をしながら、私の顔を覗き込もうとする。
「いいよ?」
綺麗に綺麗に、そう言って笑った。
ああ、ほら顔真っ赤。
高谷に見せてあげたい、これが本来の反応なんだよって。
綺麗な笑顔と裏腹に、私の心は真っ黒である。
なぜそれに、私の本性を知っている俊哉が気づけない。
……まあ、いいけど。
“屈辱的”
ああ、それに尽きる。
この際、私が俊哉のことが好きだったとかそんな話どうだっていい。
好きとかわからないのだ、私は自分を圧倒的に一番愛してるから。
何で、この私がフラれないといけないのかな?
私と俊哉が付き合ってることを知っている人は学校にたくさんいる。
私と俊哉が別れたって知られたら、どう言うの?
“私がフラれた”って馬鹿正直に言うの?
ないでしょ?
そりゃ、私はもう言葉で表せないくらい可愛すぎて、彼氏にフラれた儚い美少女でもかなりいけると思うよ?
でも、何回だって言うけど、私は完璧でありたい。
男受けだとかモテることだとかに全く興味がない。
てゆーか、私は立ってるだけでモテるし。
……面倒なんだけど、仕方ないか。
私は自分の威厳を守りたい。
高谷に劣ろうとも、それでも私は自分の中で一番でありたい。
惨めになんかなりたくない。
「俊哉」
ああ、私ってクズだなって思う。
でも可愛いから良いよねって笑う。
十分それで、生きていける。
「……っ今まで、ありがとう…」
目にいっぱい涙を溜めて、それでも決して溢しはしない。
苦しそうに、それでも引き留めないで大人しく引き下がって。
それが、何も言わずとも俊哉を引き留める術。
俊哉は私の本性を知ってる。
だから、素で泣いたり笑ったりしたことはない。
そんな私が、泣きそうな顔してるんだよ?
まあ、演技だけどさぁ、でも長年培ってきた私の演技を俊哉が気づけるわけないでしょ?
いつもとは違う、それでもプライドの高い私らしい演技。
今日はここで帰るの。
だってこういうのって、数日経たないと効かないっていうか、まあ上手くかからなくてもいいけどさ。
屈辱的だったし、暇潰しくらいにはなったら良いかなって思う。
俊哉に背中を向けて歩く。
結構やばめで病んでる自分を嘲りながら。
……何か、無性に高谷に会いたくなるのは、なぜ。
あれか、大してそこまでイケメンじゃない男に屈辱を味わされたから、極度の整った顔を見たいのかな。
それだと鏡見るのが得策だよね、じゃあ別の理由?
─────明日、楽しいことがありますよーに。
私、病んでるのに楽しいこと期待してる。




