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須藤さんは可愛い。  作者: 椎名 京
本編
2/21

「高谷ってブス専なんだね。おつ」



「おはよー」

「伊咲おはよっ」


おーう、このみんなの反応だと高谷はまだ言ってないね?

いくら信じないとはいえ、実は性格悪いんだよー。とか話されたら誰でもいつものように私に媚び売るなんてできないでしょ。

で、みんないつも通りだし。



チラ、と友達と話している高谷の方を向く。


まあ私が信じないよって言ったんだけど、それを馬鹿正直に鵜呑みにして言わなかったわけじゃないだろう。


じゃあ、脅す気か?

でもそんな脅しに屈するほど、私は無力じゃないし。



……何を、企んでるんだ。

高谷 澪。




「クラス委員ー」


「「はい」」



高谷と私の声が被る。

くっそ、私の可愛い声を遮ってんじゃねーよ! と心の中では悪態をつくけど、みんながいる手前口には出せない。


あ、一応私と高谷はクラス委員です。



……っと、目が合った。



「何? 高谷くん」



あまりにも見てきてイラついたから、猫被りモードで笑顔を作りながら言う。

ただで美少女を凝視するとか。

次は見物料をとってやろうと思う。



「別に?」



高谷が落とした爽やかスマイルに周りにいた女子が溜め息を溢す。

見えないように、ぎゅっと足を踏んでやった。










──────────────



「昨日の」

「は?」



放課後、朝先生に頼まれた書類をまとめていく。

新学期だから書類多いわけね、でもクラス委員に押し付けてんじゃねーよ。と思う。


私と高谷がクラス委員やってるとか、担任は楽すぎないか。


小さく舌打ちしながらホッチキスに手を伸ばすと、コト、と机に缶コーヒーを置かれた。



「昨日、須藤さんがやってたやつ、委員会の仕事だったって聞いたから。何で俺呼ばなかったの? 」

「私、高谷のこと嫌いっていたよね?」

「……頼りたくなかっただけか」



そうですよー。


あんなん一人でできる量だったし、こっちはイライラしてて一人になりたかったし、高谷には話しかけたくなかったし、高谷じゃなくても誰にも頼りたくなかった。

頼れる人がいないとか、友達がいないとかではない。

そこのところは抜かりなくそつなくしている。



でも、何度も言うけど私は常に完璧でいたいのだ。



「でもさ、最後押し付けて帰っちゃったら俺は何もしてないのにやったみたいになるよね? 逆に須藤さんは放棄したように先生は捉えたかもしれないよ?」

「………………そんなんで“須藤 伊咲”が崩れると思う?」

「あはは。それは思わないけど、須藤さん今一瞬戸惑ったね」


うん、こいつ本格的に私をバカにしてきてないか?



「……で、何これ」



目線を机に置かれたコーヒーに向けて、顎で指す。


高谷の顔は、物わかり悪いなぁ。とバカにした顔。

……イラッとした。

多分こいつは確信犯。


高谷の思うツボは腹立たしいから取り乱さずに無表情を保つ。



「一応、お礼って言うかお詫び?」

「いらない」

「でも俺ブラック飲めないからなぁ」

「……高谷さぁ、私のこと好きなの?」



可愛い私に似合わないブラックコーヒー。

自分は飲めないくせにこれを買ってきたってことは、かなり私のこと見てるんじゃ?



「好きなわけないじゃん。俺、美人系が好きだし」

「私の魅力は可愛い系だとか美人系だとかでは収まらないよね。すべての枠を飛び越えて、美の大終結だよね。美しさの塊、象徴だよね。わかる?」

「ちょっとよくわからない」

「高谷バカだね」



ははっ。と無表情で嘲笑ってあげると、爽やかな笑顔で返された。

絶対こいつ腹黒だ。



パキ、とコーヒーの缶を開けて、こくこくと飲む。

そんな私を見ながら、高谷は何故か楽しそうに笑ってる。



無性にただならぬ苛立ちを感じて、ホッチキスを高谷に投げつけると、軽やかにそれを高谷が受け止めて、それにもイラッとした。



「高谷やれ」

「はいはい。須藤さん、帰ってもいいよ?」

「何でまたお前に手柄を渡さないといけない」

「清々しくて笑える」



……こいつほんと常時笑顔だな。

私より猫被りうまいんじゃないかとすら思えてきた。

それすらも負けるのかよ。と、対抗心。





「「…………」」




沈黙。



高谷がホッチキスをカチカチと止めている音だけが響く。

仕事早いな、腹立つ。

理不尽なのは承知してる。



居心地の悪い沈黙と居心地の良い沈黙があるけど、もはやそんな問題ではない。

高谷と二人きりになると、逃げたい衝動に駆られる。


なぜだ。



高谷のことを嫌いだとずっと言ってるけど、ここまで逃げたくなるほどの嫌悪を抱いたのは初めてだ。



……嫌悪と言うか、とにかく表現しづらい。




認めたくないけど、高谷が私より秀でているのは理解している。


だから、羨ましいのか。



でも、羨ましいって弱者の思うことで。



まさか私が思うとは夢にも。





「……たかや」

「うん?」

「顔、整ってるね」



綺麗な人だ。


私をのけると、見たことがないくらい端麗で。

人形みたいで、面白味がなくて。

綺麗すぎて不気味で。



「人のこと言えないでしょ」

「うん。高谷より私の方が綺麗だもん」



高谷は完璧だよ。

かっこいいよ、綺麗だよ?






でも、私が私の一番だよ?









ビクリと肩を震わせて、そっと私の顔に伸びてきた高谷の手を払う。


パシッという音で我に返って、でも気持ちは抑えられなくて。




らしくなく揺れる高谷の瞳に自分の姿を映しながら、ガタッと音を立てて立ち上がって。





ああヤバイかも。と、冷静でいる私が告げた。





「さわっ、らないで……!」





弱い。


脆い。



そんな自分は嫌いで、でも一番好きなのは私で、その矛盾点を自分で嘲笑う。





「…須藤、さん?」





何でどうして、この人は。



何でも持ってるくせに、私まで狂わそうとするのか。



戸惑った目をしているくせに、それでも私を見透かすようなその目が大嫌いだ。

怖いんだ。

この人に、自分のことをさらけ出すときがくるんじゃないかって。






初めて感じた強い嫌悪感は、そのことをどこかで察していたからかもしれない。







「……潔癖性だから、触らないで。顔触れるとか一番嫌い。私の可愛い顔が汚れる」

「……それちょっと本気で言ってるのか冗談で言ってるのかわからない」

「私はいつも本気だけど何」




落ち着きを取り戻して、椅子に座り直す。


勘の良い高谷は訝しげな目でずっと私を見ていたけど、その目線は全て無視して、スマホを操作する。


早く終わらせろ。と睨むと、はいはい。と適当な返事が返ってくる。

でも高谷の中では終わってないようで、手を動かしながらもチラチラとたまにこっちを伺っていた。




「ねぇ、須藤さん」

「何」

「彼氏いるの?」

「逆に何でこんな可愛い私に彼氏がいないと思ったわけ」



間髪入れずに言ってのけても、高谷は私のペースに慣れてきたのか何も言わない。

そのやたらいい順応能力にまた腹が立った。



「いるんだ」



その驚いた顔、激しく失礼なんだけど、何なんだこの人は。



「やっぱり高谷、私のこと好きなんじゃん」

「須藤さん、自意識過剰って言われたことない?」

「過剰なんじゃなくて、他人からの評価をちゃんと理解してるだけだよ。私は可愛いから」



スマホに目を落としながら、失礼な高谷の言葉に返事をする。


タイムリーだわ。

丁度LINEしてるのは彼氏の俊哉である。

今私が高谷のあらゆるところに無性にイライラしてるのは、そのせいもある。


「本田が“伊咲ちゃん可愛い”ってめっちゃ言ってて笑いそうになったんだけど。本性はこんなんなのにね」

「誰だよ、本田」


マジで。

つーかそれは私に言ってもいい内容なのか?




「あれ、そこそこイケメンなんだけどな。知らない?」

「そこそこなんて私に釣り合わないでしょ。バカ?」

「清々しい」


何だろう。

なんか、こう、バカにされてる感じするなぁ。


舌打ちしながら作業の進行具合を問う。

ちょっと待て。

これ、私が手伝った方が早く終わって早く帰れたんでは?

まあ、高谷一人でやっても十分早いけども。



「終わったよ」

「ん」


半分貸せ。と横暴極まりなく右手を出すと、三分の一を渡された。

それが何かイラついた。

……高谷の全てが気に入らない。


「…………全部持てよ」

「須藤さんって頭おかしいの?」

「可愛いんだから我慢して」


高谷が黙りこくったので心の中でよっしゃ勝ったぁぁぁ!! と喜ぶ。

冷静になると、何に勝ったのかちょっとわからない。



職員室に並んで向かう。

隣に並ぶな。と目で訴えると少し離れてくれた。

でも高谷から離れられるのは何か不本意だから近づいてやった。

怪訝な顔をされた、当然である。




「先生。終わりました」

「おお、さすがだな。須藤と高谷は」


誉められるのはとても喜ばしいことだ。

私が猫を被るのは誉められたいのも理由にある。

が、でも高谷とセットで誉められるとなると話は別で。



つまり私はやっぱり、高谷が嫌いである。




「……まあ、先に名前呼ばれたのは私だしね」

「何その適当な自分慰め」

「うるさい黙って」


なぜ、一緒に帰っているのか。

やっぱり高谷は自分のペースに巻き込むのがうまい。

そういうやつはかなり厄介だと思う。




昨日今日でわかったこと。

多分高谷は少々マゾだ。


そうでなければ嫌いだとさんざん罵られてもなお絡んでくるとか常人の神経ではない。



「須藤さん」

「何」

「俺のことが嫌いならさ、何でクラス委員引き受けたの?」



高谷はやたらと理由を追求する。

そしてやたらめんどくさい。



まあ私の立場上、猫被りをしていたって発言はできる方だと思う。

適当に良さそうな人を推薦して逃れてもよかった。

クラス委員なんて半分雑用係みたいなものだし、面倒なのは中等部のときにやってたから知ってるし。



「でも私以上に完璧にできる人っていないと思うんだよね」



私の方がうまくできるのに。っていつも思うのは神経が滅入る。


逆に高谷を下ろして他の人を推薦してもよかったけど、私に釣り合う人っていないし。

この私が推薦したってなると、その男子が嫉妬を受けてかわいそうだし。



「最後にビックリするくらい清々しいナルシスト発言があったけど、事実なのが悔しいね」

「私可愛いもんね。それに私は効率を優先したいし」



にっこりと笑って見せる。

その作り笑いに一瞬動きを止めた高谷は、すぐ我に返って口を開いた。



「やっぱり、その作り笑い気持ち悪いよ」



うーん。

その気持ち悪い作り笑いに見惚れたくせに言うのか。

いい性格してる。



「高谷ってブス専なんだね。おつ」

「斜め上すぎて驚くね」

「どうでもいいけど、私が美少女って事実は変えられないよ? じゃーね、高谷」



ひらひらと手を振りながら、曲がり角で高谷と別れる。

家はこっちじゃないけど、とにかくこれ以上高谷と一緒に帰るのは耐えられない。


後ろから高谷の声が聞こえたけど、何を言っているのかは聞き取れなかったし、聞き取れたとしても従うわけないので無視して歩いた。




……あ、高谷に何で言いふらさなかったのか聞くの忘れた。

まあいいか。





とりあえずわかったことは、私はとにかく高谷が嫌いで。




自分を保つためには私は高谷と関わらない方がいい。





そして私は今日も超絶可愛い。



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