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須藤さんは可愛い。  作者: 椎名 京
本編
19/21

「え、待ってこれ私が新たな扉開いちゃった感じなの?」

体育祭が終わった。

あんだけ準備に時間を奪われたのに呆気なく終わって腹が立った。


結果はA組(私のクラス)が勝った。

まあ、才色兼備の私と高谷が揃った時点でわかりきってたことだったんだけど。


バカの高谷が借り物競争に“好きなもの”と書きやがって、自分です。と真顔で答えるのもできないので妥協に妥協を重ねて高谷を連れてゴールした。

ゴールした直後の周りの歓声と高谷のにやにやした笑顔にとりあえず腸が煮えくり返ったので高谷にアイスを奢らせることにした。

まさかほんとに当たるとは。と爆笑しながら言ってきたのでハーゲンダッツに決定した。


ちなみにリレーは私がトップバッターで圧倒的な差をつけて、最後のアンカーの高谷がまたまた圧倒的な差をつけて、圧勝した。

高谷は足まで速いらしい殴りたい。







「高谷」

「んー?」



それはそうと、今日は高谷の家にお泊まりである。

展開早いな、とか体育祭の下りいる? とか言うなかれ。


実を言うと認めたくないけど高谷のせいで寂しさとかを感じるようになってしまって、夜家に一人でいると寝れないのだ。

そのたびに高谷を公園に呼び出すのは、さすがの私でも気が引けるし。

だからといって私の家に来てもらうのも少し嫌。

でも私が寝れないのはダメだって高谷がしつこく食い下がってくるからこの展開だ。

高谷は意外と押しが強いから、このまま高谷の家に住まわされそうだな、と思う。

冗談ですまされないのが高谷のすごいところだ。


高谷の父親は有名なIT企業の社長さんで、今は母親と海外に行ってるらしい。

高谷がひねくれた原因の弟くんはいるらしいけど、案外うまくやっているらしい。

そこのところ、私と高谷の差を感じる。


私は高谷がいないと困るけど、やっぱり劣等感とは一緒に過ごさないといけないんだなぁと思う。

でもやっぱり高谷を解放してあげる気も、解放されてあげる気も微塵もないのでそんなことはどうでもいい。




「私は健全なお泊まりを望む」

「……けん、ぜん。どっちの意味で?」

「あーはん? どっち? どっちって何、いや言わなくていいやめて。とりあえず手は出さないでください」

「……マジかよ……何なの須藤さん、マジで」



いやそこまでショック受けられたら体目的なのかよと怒ってもいいところだと思うんだけど。

あーまあ、今は拒否するけど先のことはちゃんと考えてる。

だってその理由で浮気とかされたら殺しそうだし。



「つーか高谷、私に合わせるの好きって言ったじゃん」

「忘れた」

「別れる」



持っていたいちごみるくにストローをぐしっと差して、ちゅうちゅう飲む。

これは体育祭の優勝祝いに担任の国語教師が全員に買ってくれたものである。


ジュースかよしょぼ。と思いながらそこら辺の友人と優勝嬉しいねー。とか適当に喜んでいたけど、全員分となると結構な出費に……いや、担任は大人なんだからもっと奮発してもよかったと思う。


それにしても私にもたまにたかられてる担任は不憫な人だ。

まあ、私がたかるのは担任が異常な量の仕事を私たちに押し付けてくるからだけども。

それにたかるときはちゃんと営業スマイルで媚びながらやってあげてるんだから、逆に感謝してほしいくらいですこっちは。




拗ねた態度をとる私の頭を困ったように笑って撫でる高谷は、私に優しすぎて、私を甘やかしすぎてる。

たくさん考えが浮かんでもいつもそれを一掃できるくらいは高谷に愛されてるって理解してるのに、“そんなに甘やかされると高谷が離れていったときに私だめになるじゃん”とか口に出しそうになってる私に呆れる。


でもそんな私も可愛いし……てか、憂いを帯びてる私はマジで襲われそうなくらい可愛い。




「弟くんかっこいい?」

「あー、どうだろ。雰囲気は似てるねって言われる。普通にかっこいいんじゃない?」

「身内のそれはあてになんねーからなぁ」



父親とか母親が外で私のことをどう言ってるのとかは知らないけど、私の親らしく外面だけはすこぶるいい二人だし、私のこと誉めてるんじゃないかなって思う。

でもそれを聞く人で私を見たことない人は、“親バカだなぁ”で終わらされると思う。


だから身内の身内自慢はあてにならないし信じない。


まあ、近所というかここら一帯でかなりの美少女で優等生の須藤 伊咲は有名だから、ここらに住んでる人は“親バカだなぁ”とは思わないだろうけど。



「弟くんの名前は?」

(ゆい)

「へーえ、お父さんたち女の子ほしかったのかな」

「それ、普通に思ってても言わない」

「私普通じゃないし? でも私可愛いし?」

「うん。好き」



……この人は、今まで色々頑張ってきた分、今になって爆発してるような気がする。

直球過ぎる、少しは恥じらえ。


しかしまあ、高谷の弟だったら高谷ほどとはいかなくても顔整ってるんだろうな。

そんで結構できるやつ。


高谷は大人びていて子供らしくない自分と、愛嬌のある弟を比べて卑屈になっていったらしいけど、多分高谷家の遺伝子的に両方怖いよ、私は。






高谷の家のマンションは、かなり高い。

値段的にも高さ的にも。

ちなみに高谷の家は最上階です。


私の家と高谷の家はかなり近いから、泊まる道具を詰めた鞄を取りに行って、制服のまま高谷の家に来た。

スマートに荷物を持って、ついでに車道側をやっぱりキープしている高谷にイラッとした。

普通ときめくところのはずなんだけどなぁ、でも私は可愛いからいっか。




「ただいま」

「お邪魔します」



とりあえず猫を被っておく。


実を言うと高谷の両親には会ったことがあって、私は素のまま話した。

高谷はビックリしてたけど、すぐ嬉しそうに笑ってた。

私は嫌われるだろうなぁ。って覚悟しながら話していたのに、何故か気に入られた。

高谷の親だけあって、あの二人は結構ずれてる。

でも好きだなぁって思った。

そして二人とも美形である。

これぞ高谷の親! って感じでかなりの美男美女だった。

めっちゃ若く見えた。


弟くんには会ったことがないし、私の本当の性格をお父さんたちから聞いてるのかもしれないけど、念のためだ。

弟くんは中学生だし、思春期だろうし、心の広いお父さんたちと違って私を受け入れられない可能性もある。

まあそれはそれでもいいかなぁと、猫被り。



靴を脱いで上がろうとしたら、弟くんが出てきた。

えっと、中二? だっけ。

それにしては背が高い。

そしてやっぱり高谷家は美形の遺伝子が流れているらしい。


高谷と違って髪色は明るい茶髪だけど、やっぱりそこは高谷と弟くんの違いだなって思った。

すっごい似てるってわけじゃないけど、高谷が言ってたように雰囲気が似てる。

でも高谷は常に笑顔だけどクールな感じを与えるのに対して、弟くんはにこにこ明るい感じ。


なるほど、弟くんの方が外見的にも確かに絡みやすいわ。





「須藤、伊咲だ」



そんなにこにこな感じの弟くんは、私の顔を見て硬直して、そんで私の名前を小さな声で呟いた。

まあ、私は有名だからな。

名前を知っていてもおかしくはない。



「はじめま、」

「えっ、ちょ、マジで!? 兄貴の新しい彼女須藤 伊咲なわけ!? あの上の下くらいの彼女はどこいった!! てか実物初めて見たやばい、何これ人形!? 生きてる!? 写真撮っていい!? 自慢するから! いやつーか、同じ学校で同じクラスってだけでも羨ましかったのに彼女ってずるくね? さすがの兄貴でも須藤 伊咲と並んだら霞むわー……。てかマジで生きてる? 血通ってる? 兄貴が須藤 伊咲のこと好きすぎて超ハイスペックな技で作り出した精巧な人形とかじゃないよな? もしそうだったら引くけど、つーか、顔整いすぎて逆に怖い。消えそう」



う る せ え な


何でいきなり私の可愛い声遮ってマシンガントークかましてんの?

殺すよ?

似てないわー……高谷と似てないわー……。


つーか距離近いな、私の可愛い顔間近で見たい気持ちはわかるけど、それにしても近い。

不快感。

そっと高谷の後ろに隠れると、高谷がぶはっと吹き出した。

須藤さんの苦手そうな人種だよね。と仮にも弟なのにその言いぐさ。

でも強ち間違ってない。

おもっきり苦手っていうか嫌い。



苦手だし高谷の家族だし、もう猫被る必要ないわ。

捨てよ。


スマホを取り出して私の顔を撮ろうとする弟くんの足を靴のままおもっきりぐりぐりと踏んづける。

弟くんは家の中なので素足である。



「えっ、いたい。いたいっす!!」

「うるさいなぁ。うるさいんだよ、私が中心なんだよわかる? だから一人でつらつらつらつら話さないでくれる? 私のことガン無視して自分の言いたいこと言い尽くすその神経大っ嫌いだわ。ついでに今日泊まるけど襲わないでください」



そう言い切って、足を踏んづけるのはやめて靴を脱ぐ。


ちら、と様子を伺うと、高谷はお腹を押さえて爆笑してて、弟くんは珍しく爆笑している兄の姿と目の前の美少女がしたことが信じられない様子で唖然としている。


高谷。と促すと、息絶え絶えの声で返事をしながら頷いていた。

こいつ、大丈夫か?




「はー、須藤さん最高。唯は無視していいよ、部屋行こ?」

「無視できる許容範囲がある。今のは範囲内じゃなかった」

「そっか。ごめんね?」



謝りながら顔は楽しそうに笑ってる。

そして目が好きだと語ってる。

この人、ほんと物好き。


右手を出しながら行こ? と首を傾げられたので、付き合ってる手前いつものように足を踏んづけるのは躊躇して、大人しく手を重ねた。



「おねーさん!」



“おねーさん”?

弟くんのそう呼ぶ声がして、振り返った。



「何」



文句か?

兄貴には釣り合わない! っていう定番の修羅場か?

でもさっき弟くん、兄貴霞んでんじゃんアハハとか言ってなかったか?

あの部分だけだと結構な好感持てたぞ?



「好きです!」

「無理です、嫌です」



……いやー、ほんとおかしくないかこの兄弟、引くわ。

てか両親も両親で、私のこと気に入ってたし。

物好きな遺伝子でも入ってんの?



「もう一度踏んでください!」

「……きっも……」

「ありがとうございます!」

「……」



いや、ガチで嬉しい顔してんじゃねーよ。

高谷は一応Mではないし、罵倒なんて普段は外面いい子だからしないし、だからこの反応規格外すぎて対応策皆無。


助けを求める目で高谷を見ると、ひーひー言いながら爆笑してた。

殺したくなった。




「……ほんとに人形みたいなその綺麗な顔で罵られるとか、Mに目覚めそう……」

「……いや、すでに目覚めてるよね? え、待ってこれ私が新たな扉開いちゃった感じなの? ……やっべ……」



やばいよ。

やばいよ、私そんなの責任とれない。

てか私、自分のことが大好きなだけでSとかじゃないし困る。





「好きです!」

「泣きそう」







とりあえずあとで高谷ころす。







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