「…ってか、普通に照れるんだよ死ねバカ!」
私と高谷が付き合ったという噂は学校中にすぐ広がった。
まあ、私は可愛さが度を越えてる才色兼備だし、高谷もそんな感じだから仕方ないけど。
クラスの人にお似合いだって言われて、何も知らないくせに私のこと分かってる気になってお似合いとか言うなよブス。って言いそうになって危なかった。
最近高谷と一緒にいて素を出すことが多いからか、それともイレギュラーが多くて気が立ってて精神的にキてるからか、うまく猫を被れなくてヤバイ。
いっそのこと付き合ってることを否定しようと思ったけど、高谷がキレ気味で責め立ててくるのを思い浮かべてやめた。
安定の国語準備室。
あと二日で体育祭です仕事押し付けられた泣きそう。
いくら私と高谷が優秀で(外面は)イエスマンだからってそろそろキレるぞ、ちょうど機嫌が悪いんだ。
適当に借り物競争のお題を紙に書いていく。
私は字も綺麗ですテヘテヘ。
こんなんこの私にやらせずにググって書いとけよ、その辺に暇人溢れ返ってるだろ。
ちなみに私一人がこれは頼まれたんだけど、国語準備室で仕事からうまく逃げて暇人極めてた高谷も巻き込んでやった。
「須藤さんもググってんじゃん」
「私も借り物競争出るから不利益がないようにやっとくのが一番なんだよ」
「……付き合ってる人ってお題、無難に入れとく?」
「別れる」
睨んで言い切ったのに、はははっと楽しそうに笑うから腹立つ。
だからふいっと隣にいる高谷と反対方向に顔を向けた。
「須藤さん、」
何。って振り返ると、思ったより高谷の顔が間近にあって、距離を開けようとすれば高谷に後頭部を支えられて動けない。
……何か、前にもあったような気がする。
「っん、」
重なる唇。
不意打ちだったから目を瞑れなかった。
高谷も目を開けていた……変態か。
「たか……っ、んん」
二回目。
私の可愛い声を遮ってんじゃーねよって言える空気ではない。
長い、死ぬ。
死にたいときあるけどさ、キスで死ぬのは嫌だなぁ。って、真っ暗な視界の中で考える。
「……須藤さん」
解放されて、酸素を吸い込む。
いやマジで長いんだよ殺す気だっただろ今。
「顔あか」
「……元が白すぎるんだよ私天使だから……ってか、普通に照れるんだよ死ねバカ!」
くっそ恥ずかしいこと言わせんな! と顔を上げれば、デロデロに甘くて優しい笑顔を向けられていた。
……この人、何でそんなに私のこと好きなんだよ。
「もー……。須藤さん、マジかわい…」
私が可愛いのは私が一番知ってるし。
てゆーか、何てゆーか。
二人きりの教室で、それだけかよっていうか。
いや、ほんと、うん。
「……もっかいして」
「ふふ」
向かい合って、高谷は私の髪を掬いながら、甘すぎる笑顔を落とす。
「須藤さん、顔触れるの断固として拒否するから嫌がられると思った」
「……気分がいいから許す」
「さっきまで不機嫌だったくせにっていうかちょろ」
高谷のことが好きだから。とかは言い切れなくて、ていうか言いたくなくてちっと舌打ちして逃げる。
つーか待て。
ちょろいって何、キレそう。
「……いや、というか目ぇ瞑れな」
「でも須藤さんの可愛い顔見たいし」
「別れる」
この人、これ元からなの?
私が一番こんな変態にしたの?
いやもうどうでもいいんだけどさー……と、考えを巡らしていると、口を塞がれた。
深まっていく口づけを仕方なく受け入れる。
─────ああ、この人、私だけ見てればいいのに。
可愛いって言う顔とか、甘ったるい整った優しい顔とか、そういうの他の人に向けてほしくないなって、重いのは嫌いなくせに思った。
高谷のせいで、私のめんどくささが倍増していく。
それが嫌だとは言い切れなくて、そんな自分も好きだなって思った。
「ちょ、高谷ころす。死ねマジで殴る」
触れるだけのキスがどんどん深くなっていって、ヤバイと思ったときは遅かった。
押し倒す勢い……というか実際それほど大きくもないソファーの上に仰向けにさせられて上に乗られた。
そんで制服の中に手を入れられて、つい流されそうになってしまって、いやいかんだろ。と一応残ってる理性が訴えかけるからとりあえず高谷の腹を蹴って、そこどけ。と押し退けた。
いや、マジで何しようとしたこの人。
「俺、須藤さん関わってくると自制効かなくなる」
「困る……! それすっげえ困るやつだからな!」
もうやだ。
ほんとやだ、これ先生とか入ってきてたらどうしてたのほんと。
“プロレスごっこしてました♪”じゃ無理あるだろ!
私たち高校生な上に、一応表向きは品行方正な才色兼備だぞ!?
「はは、じょーだん。するつもりはなかったよ? 俺、須藤さんに合わせるの好きだし」
そのわりには目がガチだったじゃねーか。と無言で訴えかければ、信用ないなぁ。と腹黒スマイルを向けてくる。
この人、怖すぎ。
てかその言い方、私が合わせてもらってるみたいな。
いやそうなんだろうけど、言い方がバカにされてる感じでイラッとするわ。
「須藤さん、嫌いになった?」
私を抱き起こしながら、いつもの口調といつもの声のトーンで聞いてくる。
でも顔は寂しそうで、悪いのはこいつなのに私に積もる罪悪感。
……くっそ……。
「……死なないで」
謝るのは癪に障るから、小さな声でそれだけ言った。
死なないで。
一人にしないで。
多分私が本気で死にたくなったら、高谷を置いて自殺でも何でもするだろうけど。
でも高谷が先に死ぬのは絶対許さないと思う。
そこまで考えた気づいた。
会話が成立してない上に、謝るより屈辱的なことを言ってしまった。
死にたい泣ける。
「────ほんと須藤さん、可愛い」
そう言って、高谷 澪は少し眉を下げて、糖分たっぷりの笑顔で微笑むから。
その笑顔だけで少し救われた気がした。




