「だから高谷。それまで待って。待つついでに、一緒にいようよ」
「つらいことがあったら、高谷に会いたくなるの」
家の近くの公園で。
高谷を強く抱き締めて、私は言葉を紡ぐ。
「慰めてほしいとか、そういうんじゃなくて。そばにいてほしいって思うの」
幼いのは罪だ。
何もできないのはつらい。
最善の方法なんてわかんないんだよ、ここまできちゃったら。
拗れまくって、もう修復不可能なんだよ。
だったら何もしなくていいじゃん。
何がつらいの。
何が悲しいの。
私、わからないから。
まだ子供だから、理解できないの。
だからわかるように教えてよ、何がダメで何がいいのか。
「……須藤さんは、どうするの?」
「どうもしないよ?」
私がどうこうできる問題じゃない。
私を理由にしていても、間接的にしか私は関わってないんだから。
この先を決めるのは、父親と母親で、結局私は二人の決断に従うしかないんだってわかってる。
「多分今と変わらないんだと思うの。二人とも滅多に家に帰ってこなくて、私は他人の顔色を見て過ごすの」
「それでいいの?」
いいんだよ。
綺麗な物語じゃなくて。
家族三人が綺麗に仲直りをして、私は猫被りなんかやめて、素を出せばそれを受け入れてくれる友人にたくさん恵まれて。
それがハッピーエンドだとしても、そんなのうまくいかないに決まってるんだから。
「成長して、大人になって、無力じゃなくなって、そうしたらまた考えればいい」
私は可愛い。
自分が大好きな、そんな自分でいこうよ。
それが私の選んだ答えなら。
何も解決していない今のままの状況に甘んじてもいいじゃない。
「だから高谷。それまで待って。待つついでに、一緒にいようよ」
顔を上げて、高谷の目を見る。
やっぱり綺麗で苦手だなって、そう思った。
「たかや みお」
そう呼ぶと、高谷にぐいっと抱き寄せられていて、いつのまにか立ち上がっていた高谷の胸におさまる。
「高谷のせいで、その名前をただの記号として認識できなくなったんだけど」
そう言うと、背中に回された手に力が入ったことに気づいた。
「……そんな、特別は嫌……?」
「ううん…」
私の肩に埋められた高谷の顔が口を動かしたからかもぞもぞ動く。
「須藤さん……好きです」
もうすごく。と付け足された言葉に、胸が温かくなる。
そのあと、手を繋いで家まで送ってもらった。
家に帰ると、仕事に戻るらしくちゃんと着替えている母親に会った。
じっと見つめると、母親はびくりと肩を震わせた。
「いってらっしゃい」
いつもしているように笑顔を作って言おうとしたのに、何故かうまくできなくて下手な笑顔になってしまった。
そんな珍しく不格好な笑顔を娘がするから、母親は目を見開いて固まっている。
でもそれで少しでも変わったらいいなって。
母親じゃなくて、父親でもなくて、私自身が。
いつか私の世界が、私だけじゃなくてもっと綺麗なもので溢れたらいいなと思う。
それこそ、私の可愛さが霞んでしまうくらい。
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「おはよう、高谷」
朝家から出ると、高谷が眠そうに玄関の前に立っていた。
迎えの約束なんかしたっけ? と首を傾げて問いかけてみると、眠たいのか声を出さずに首だけ横に振られた。
「何か曖昧になってたけど、俺たち付き合うよね? 不安で寝れなかった。眠い」
……恋愛不適合者の私に聞かれてもね。
まあ、どうでもいいか。と適当に頷いておく。
それに不服を示した高谷は、ぐいっと手を握ってきた。
これで登校するのは、何だ。
公開処刑か!? と言えば、思ったより落ち込まれたので、大人しく手を繋いだまま登校した。
「目が腫れてる。そんな私も可愛いけど完璧じゃないと許せない。キレそう」
「号泣した須藤さんが悪い」
「おいそこは可愛いから大丈夫だよっだろうが」
「慰めたら殺されそうな気がしてやめた」
「ころす」




