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須藤さんは可愛い。  作者: 椎名 京
本編
17/21

「だから高谷。それまで待って。待つついでに、一緒にいようよ」

「つらいことがあったら、高谷に会いたくなるの」



家の近くの公園で。

高谷を強く抱き締めて、私は言葉を紡ぐ。




「慰めてほしいとか、そういうんじゃなくて。そばにいてほしいって思うの」







幼いのは罪だ。

何もできないのはつらい。




最善の方法なんてわかんないんだよ、ここまできちゃったら。

拗れまくって、もう修復不可能なんだよ。


だったら何もしなくていいじゃん。

何がつらいの。

何が悲しいの。


私、わからないから。

まだ子供だから、理解できないの。

だからわかるように教えてよ、何がダメで何がいいのか。



「……須藤さんは、どうするの?」

「どうもしないよ?」


私がどうこうできる問題じゃない。

私を理由にしていても、間接的にしか私は関わってないんだから。

この先を決めるのは、父親と母親で、結局私は二人の決断に従うしかないんだってわかってる。



「多分今と変わらないんだと思うの。二人とも滅多に家に帰ってこなくて、私は他人の顔色を見て過ごすの」



「それでいいの?」




いいんだよ。

綺麗な物語じゃなくて。


家族三人が綺麗に仲直りをして、私は猫被りなんかやめて、素を出せばそれを受け入れてくれる友人にたくさん恵まれて。

それがハッピーエンドだとしても、そんなのうまくいかないに決まってるんだから。



「成長して、大人になって、無力じゃなくなって、そうしたらまた考えればいい」



私は可愛い。

自分が大好きな、そんな自分でいこうよ。

それが私の選んだ答えなら。


何も解決していない今のままの状況に甘んじてもいいじゃない。




「だから高谷。それまで待って。待つついでに、一緒にいようよ」




顔を上げて、高谷の目を見る。

やっぱり綺麗で苦手だなって、そう思った。



「たかや みお」



そう呼ぶと、高谷にぐいっと抱き寄せられていて、いつのまにか立ち上がっていた高谷の胸におさまる。




「高谷のせいで、その名前をただの記号として認識できなくなったんだけど」



そう言うと、背中に回された手に力が入ったことに気づいた。




「……そんな、特別は嫌……?」



「ううん…」




私の肩に埋められた高谷の顔が口を動かしたからかもぞもぞ動く。





「須藤さん……好きです」



もうすごく。と付け足された言葉に、胸が温かくなる。








そのあと、手を繋いで家まで送ってもらった。





家に帰ると、仕事に戻るらしくちゃんと着替えている母親に会った。

じっと見つめると、母親はびくりと肩を震わせた。



「いってらっしゃい」



いつもしているように笑顔を作って言おうとしたのに、何故かうまくできなくて下手な笑顔になってしまった。

そんな珍しく不格好な笑顔を娘がするから、母親は目を見開いて固まっている。



でもそれで少しでも変わったらいいなって。

母親じゃなくて、父親でもなくて、私自身が。






いつか私の世界が、私だけじゃなくてもっと綺麗なもので溢れたらいいなと思う。



それこそ、私の可愛さが霞んでしまうくらい。








─────────────────────





「おはよう、高谷」



朝家から出ると、高谷が眠そうに玄関の前に立っていた。

迎えの約束なんかしたっけ? と首を傾げて問いかけてみると、眠たいのか声を出さずに首だけ横に振られた。



「何か曖昧になってたけど、俺たち付き合うよね? 不安で寝れなかった。眠い」



……恋愛不適合者の私に聞かれてもね。


まあ、どうでもいいか。と適当に頷いておく。

それに不服を示した高谷は、ぐいっと手を握ってきた。

これで登校するのは、何だ。

公開処刑か!? と言えば、思ったより落ち込まれたので、大人しく手を繋いだまま登校した。




「目が腫れてる。そんな私も可愛いけど完璧じゃないと許せない。キレそう」

「号泣した須藤さんが悪い」

「おいそこは可愛いから大丈夫だよっだろうが」

「慰めたら殺されそうな気がしてやめた」

「ころす」




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