「私たち、恋愛不適合者っぽいよねぇ」
「伊咲ー! 久しぶりっ」
「そだねぇ。夏休みだし、今度遊ぼ?」
「いいねぇ! 美架とかも誘ってさー」
まあ、遊びませんけどね。
だって休日まで猫被るのやだもの。
長期休暇中の私は完璧なヒッキーである。
今日は夏休みなのに体育祭の実行委員の集まりで学校に来た。
マジ暑いマジだるいので、あとで担任に何か奢らせようと思う。
「須藤さん。A組こっちらしい」
「あ、うん。ありがとう高谷くん。じゃあまたね」
作り笑いで手を振って、高谷の後をついていく。
「……高谷くんってキモくない」
「可愛い私がいう言葉はすべて可愛いと思う」
小声でいつもの会話。
学校内で素を見せれるのって改めて楽だなぁって思う。
今までは小南しかいなかったし。
私可愛い可愛いと語っていると、安定かよ。と高谷に笑われる。
実行委員の仕事は、クラスのパネル作りと各競技ごとの選手を選ぶことである。
そんなのちゃちゃっと終わらせれば一日で終わるだろ。
なぜ夏休みの半分も駆り出されるとか、あの担任は脅してきたんだ。
恨みでもあるのかこの私に。
「須藤さん、絵くっそ下手だね」
「……可愛いんだから我慢してよ。じゃあ、高谷それやって。私これやる」
絵は、絵はいいんだ。
できなくてもいいんだ受験に必要なわけじゃあるまいし。
先生に媚びれば美術も技術も家庭科も4もらえてたし!!
パネルというのは、まあクラスの紹介をする一枚の絵のようなもので、中等部のときもこれだけはやらなくていいように色々手回しをした。
絵が下手なのは小南くらいしか知らない、言わない。
「……そういえばさ、彼女はどうなってるの?」
ふと思い出して、口に出してみる。
高谷が珍しくきょとんという顔をした。
あ、一人三競技までだから点数高いやつに高谷入れてやろ。
私は楽なところだ。
運動はできるけどあの一致団結ノリが好きじゃない。
適当にあわせて早めに終わらせて、どこかにバックレよう。うん。
「別れたよ」
へぇ。
簡単なことじゃないって言ってたのになぁ。
まあ恋愛ってそんなものだよね、やっぱりすこぶる脆い。
「あー、あの子重かったもんね。あははっ」
「……須藤さんになら重くされてもいいんだけど」
おう、この人も結構狂ってないか?
意味わからん。
「何言ってんの? 私は重いの嫌だから」
「うーん、でも須藤さんってプライド高いから浮気とかするのはよくてもされるのは絶対嫌でしょ? 案外束縛とかするんじゃない?」
「……私の束縛はその人のことが“好き”だからじゃないでしょう? 結局自分のためじゃん」
うーん、わからないなぁ。
この私が理解できないんだから、もう必要ないのでは。
そんな適当な結論を高谷は許してくれないと思うけど。
「下絵できた。今日はもう帰る?」
「そうだねぇ。てかそれ、明日くらいには終わりそうだね。さすが天才美少女の私」
「須藤さんがやったわけじゃないけどね」
「美少女が近くにいたらやる気出たでしょ? 間接的に私のおかげだよね」
「清々しいね。さすが須藤さん」
うわぁ。
この人、私のあしらい方うまくなりすぎだろ。
─────────────────────
「誰その女!!」
へいへーい。
やったら面倒なのに会ったなおい。
この人、アレでしょ?
高谷の“元”彼女だよね?
ビシッと人差し指で指されて不快だ。
“その女”とかでこの私を表してほしくないんだが。
それより私より顔面が劣ってる人に話しかけられるとイラッとするって言うか、いやいつもはさすがにしないけどこの状況だからイラッとしてるんだよねぇ……てか別れたんじゃなかったのか?
というか初対面の人に向かってそういうこと言うのってどうなの。
ちゃんとした教育受けてきてないんじゃないの?
私はあんなクズの両親に育てられたけど、外面だけはすこぶるいいよ?
「友人」
「んー? クラスメートだよね」
「須藤さんうるさい」
……こいつ巻き込んでおいてうるさいはないだろ。
「じゃあ何で私とは会ってくれなかったのに、一緒に帰ってるの!?」
「委員会」
「うそ!! だって夏休みに入る前だって毎日…!」
う る せ え な
ブスが喚くな。うるせえブス。
てかそれ目撃してたならその場で顔出せよ、ストーカーかよ。
あー、ダメだ。
口を開けば性格の悪い言葉が出そうで嫌だ。
いや別にこいつに攻撃するのはいいんだけど、一応媚売っといた方がいい気もする。
まあこの状況で媚売っても無効化だと思うし、絶対話聞かないよね。
「おい、何か言えよブ…、」
ぶはははは。残念!!
私ブスじゃないし、あんたの方じゃん。
超ブーメランじゃん!!
いや、もうね可愛すぎて私ヤバイかもしれない。
「ちょっ、高谷やばい。笑いそう……!! ぶっは!」
「須藤さんほんと性格悪い」
久しぶりにこんなに笑ったわ!
あーもう、高谷の彼女面白すぎかよ! ウケるー。
高谷はため息をついて彼女のことをウザそうに見てるけど、やっぱり大概高谷もクズだ。
この状況で“元”とは言え彼女のことを庇わないとか、私だったらぶん殴ってる。
まあ、この状況に私がなるわけないんだけどね。
私、自分から行くのって嫌だし。
屈辱じゃん?
「実菜、俺別れるって言ったよね?」
「そんなの認めな、」
「認めるとかそういう話じゃなくて、俺が無理だって言ってんの。好きじゃない」
ねぇ、高谷。
“もう”が抜けてるよ?
それだと最初から好きじゃないみたいな言い方。
……私と高谷はよく似てる。
「私たち、恋愛不適合者っぽいよねぇ」
「それ須藤さんだけだから」
「あはは、まさか」
高谷の彼女に恨まれてウザいけど、面白かったから今日はいっか。
「今日は須藤さんの性格の悪さが全面に出てたね」
「面白すぎて我慢できなかった。あれ一週間くらい笑えるわ。小南にも報告しとこ」
ほんと性格悪い。って呟きながらため息をつく高谷は笑ってて。
どっちが性格悪いんだよって思った。
「私たち似てるからさ、意外と合うのかもね」
性格悪い同士とか、嫌なカップルだけど、うまくいきそうな気がしないでもない。
高谷は腹黒のくせに心が広いから、私は許容してくれるだろうし。
高谷の性格の悪さはかなりのものだけど、私は自分中心だから自分に迷惑が来なかったらそこそこ放っておけると思う。
「「……」」
うーん。
「すと、」
「ないかな。無理だわ」
うん。
やっぱり私が高谷のことを好きになるビジョンが全然浮かばない。
でもまあ、高谷はそこそこ嫌いじゃないから。
「友達に昇格させてあげよう」
自然と笑顔になっていた。
多分さっきの高谷の元カノ騒動の名残だと思う。
おまけに高谷が嬉しそうに笑うから、それにつられたのかもしれない。
「高谷ー?」
「不意打ちでフラれたかと思えば何故かランクアップしたんだけど。ほんと須藤さんおかしいね」
「私にとって多分“おかしい”って誉め言葉だ」
変だよ。と笑う高谷は、私が嫉妬するほど綺麗だった。
私には負けるけどね。




