「私は可愛いからすべてを許される」
夏休みです。
期末は安定の高谷が一位で私が二位。
でも今回は一点差だった。
珍しく高谷がケアレスミスの連続で三問ミスってたから。
夏休み明けにすぐある体育祭の実行委員に高谷と一緒に選ばれたから、夏休みの後半は学校で高谷と会わなければいけない。
鬼畜の担任をそれとなく脅してハーゲンダッツを奢ってもらったから恨みは晴れたけど、でも夏休みの半分が潰れるのは理不尽だ。
そんで夏休み一日目の今日は小南と前のカフェでお茶会である。
小南はかなり私を心配してくれているし、高谷のことで思うことがあるらしいから、高谷に過去のことを言ったとLINEで報告すると、“明日1時”と短い返事が来た。
キレてるやべえ。と思ったときはもう遅かった。
「伊咲。あんた何考えてるの?」
小南さん、眼力恐ろしい。
美人で若干つり目だからこの人怒るとマジで怖いんだ。
「え、っと。ごめん?」
伺うように上目遣いで媚を売ると、おでこをバシィィッと弾かれた。
グスン。
「……何で言ったの? あんたはバカじゃないんだから、流れに任せて過去のことを語るなんてしないわよね?」
ぐるぐるとアイスコーヒーをかき混ぜる。
誤魔化そうと話題を探そうと視線を泳がせれば、伊咲。と静かな声で言われて肩を震わせる。
「……流れに任せた、っていうのも多少はある。でも、一応、うん。高谷は信頼できる、はずなんだよ」
高谷は私に似てるから。
そんな簡単な理由で話していい内容じゃなかったとは思う。
でも、やたらめったら沸き上がる信頼感。
私はかなり高谷に心を許しているらしかった。
……予想外。
何度も言うけど不本意。
嫌いだと大嫌いだと逃げたのに、近づいていくのも私。
自分がよくわからないけど、きっと高谷に話す流れになるとわかっていたんだ。
高谷は勘がよくて、だから怖くて戸惑って、つまりそういうこと。
「……高谷呼びなさい」
「は?」
何言ってんの、この人。
今威圧感半端ないから反抗はしたくなかったんだけど、いやでもさ。
「いや、何で。やだよ」
「うん、嫌なのはわかってるんだけどさ。少しは安心させて」
…………うーん。
小南は私のことが大好きだね。
無言でスマホを操作する。
高谷の連絡先は体育祭の実行委員に選ばれたときに無理矢理交換させられた。
LINEで打って、気づかなかったからしかたない! で終わらそうと思っていたのに、小南はそれを見抜いて、電話。と短く言う。
さすが幼馴染み。
『須藤さん? 何かあった?』
「……あー、高谷。今暇?」
『うんまあ。何で?』
「ちょっと来てほし、」
「もしもし、高谷」
私の言葉を遮って、小南が私のスマホを奪って高谷に話しかける。
私の可愛い声を遮ってんじゃねーよ! と、高谷だったら言うけど、小南の声はまあまあ好きなのでまあいい。
「いや、じゃなくて!! 何してる!?」
電話が終わった小南を見て、我に返る。
「高谷来るって。あいつも他人に興味がないねぇ。案外お似合いなのかも」
「……? 何。覚えられてなかったの?」
「うーん、微妙なところ。“須藤さんの友達”って認識らしい」
……うん?
だって小南は中学一緒だったんでしょ?
だったら私の方が“槙瀬の友達”じゃないか?
謎。
「須藤さん」
「……うむ。いきなり申し訳ない」
「え、須藤さん気持ち悪いよ?」
「死ね」
いつものように会話をしていたら、小南がなんとも言えない顔をする。
首を傾げると、いやぁ。と濁される。
高谷は当たり前のように私のとなりに座った。
四人掛けだから、小南の方に座られてもなんとも言えないけど、でも当然のように隣に座れてもなぁ……と考えたけど、最近は隣に座るのが日常になってた気がする。
国語準備室では置かれてるソファーに並んで座って各々のことをしてるし、クラスの中でも高谷の友人と私の友人で集まって会話することが多くなった。
高谷のペースに持っていかれていることに苛立ちを覚えるのに、なぜか安心する。
少しだけ、昔のことを語ったからよくわからなくなってるのかもしれない。
暫く経てば元に戻るはずだから、大丈夫。
それを考えながら高谷の方をじーと見ていると、高谷が口元を押さえて困った顔をした。
「見惚れた? 照れた? まあ私可愛いもんね」
「ねぇ、うるさいよ。須藤さん黙って」
小南がため息をつく。
何だ何だ。
今日はわからないことが多すぎる。
「もうわかったよ十分。伊咲はもう大丈夫だわ」
やけに優しい目をして笑い掛けてくるから反射的に、ん。と返事をした。
「まあ、伊咲はいいんだけど。高谷は早く問題片付けなよ。今のままの状態で伊咲を手に入れようとかするなら、私は容赦しないからね?」
「ねぇ、小南。高谷が私のことを好きになるのはないよ?」
確かに私は超絶可愛いけど。
可愛いけど、高谷はやたら手強くて私に落ちてくれない。
まあ、もう落とす気はないんだけど。
それにしても、小南の“容赦しないからね?”はシャレにならない。
俊哉と一緒にいた女の子の後片付けをしたのは小南だ。
あのときは気が立ってたから「もういらないから容赦しなくいいよ」と言ってしまって、後悔することになる。
まあ、もう俊哉のことなどどうでもいいけど。
「……伊咲。高谷に会ってバカになってない?」
「ふ、須藤さんバカだね」
「…………もう何も言わない。でも私は可愛いからすべてを許される」
私がバカになったんじゃなくて、高谷が規格外すぎて色々アレなだけだよ!
「じゃーね、伊咲。あんたは次会うまでにホウレンソウを理解しときなさい」
「ねぇ、忘れてるようだけど私頭いいんだよ?」
そう言うと、そうねぇ。と流された。
まあ今日の会計を全部奢ってくれたからよしとしとく。
……いや、それより久しぶりなのに高谷呼んだからあまり話せてない。
これからバイトだから引き留めるのは無理だし……まあいいか。
今度泊まりにでも押し掛けてやろう。
私は可愛いから小南のお母さんには気に入られている。
「須藤さん、帰ろ」
爽やかな笑顔で右手を出してきた。
足を踏んでおく。
この流れ、何回するんだ?
無言で高谷の後ろをついて行ってると、いきなり高谷がスピードを緩めて隣に並んできた。
車道側をキープしてる辺り、ほんとこいつ腹立つ。
「須藤さんの私服初めて見た」
むむ、何て説明したらいいかわからないけど、とりあえず今日は可愛い系。
服の名前がわからないのは、私は何着ても似合うから興味がないのと、私の服はいつも小南が選ぶからだ。
「須藤さんは可愛いね」
うん、もういきなり容姿を褒め称えてくる作戦にはかからないよ?
ちなみに顔も触らせません。
これはもう私のポリシーみたいなもんだから。
高谷の言葉に照れるなんていう反応なんかしてあげず、私がいかに可愛いかを語ってあげた。
家の前について、じゃあね。と言おうと高谷の方に向き直ると、やたら真剣な顔でこっちを見てて驚く。
「……」
「何すか。そろそろ見物料払う?」
「……やっぱり肌出しすぎ。スカート短すぎ。須藤さん自分の可愛さわかってるくせに無防備だよね。エロい。可愛いけど、みんな見てた」
「うーん? 可愛い子の宿命じゃない? 見られるのって」
まあ、スカートが短いのは認める。
いや確かに短いけど、エロくはないでしょ多分だけど。
夏だし、こんな格好の人たくさんいるでしょ。
ピラッとスカートを捲ってみると、高谷が柄にもなく焦って、スカートを正された。
……こいつ意外と純情か!?
まあ照れたりはしてないけども。
「……須藤さん、大丈夫?」
……ああ、家のことか。
そんな頻繁に暴力振るわれるわけでもないのに。
まあ、“たまに”もおかしいのかもしれないけど、これが私だし。
普通ってよくわからないから、私は異常なままでいいと思う。
だって可愛さは異常なんだし、バランスよくない?
「……須藤さんの、その狂った考え方嫌い」
「環境が狂ってるんだから仕方ないでしょーに」
「そういう考えも嫌い」
「……嫌いなら関わらなければいい」
ああ、結構イラついた。
嫌い嫌いって、私が言うのはいいけど言われるのは嫌だ。
「……ごめん。好き」
「へぇ」
「……須藤さん、俺が助けれないのはわかってるんだけど、でも頼って。無駄なことは嫌いだって知ってるけど、お願い」
高谷は、律儀な人だ。
ただのクラスメートにそこまで恩を着せたいのか。
まあ、私が同情を誘うような話をしたのがいけないんだけどね。
「須藤さんは狂ってても、病んでてもいいよ」
変な人だ。
「うん。私、高谷のそういうところ、嫌いじゃない」
通常デフォの無表情で言って、ばいばいって手を振る。
家に誰もいなくてよかったと思った。
高谷のおかげで上がったテンションを、あのクズな人たちに崩されたくはなかった。
まだ好きとは言えないし、まだ私は自分が一番大切だけど。
「たかや、みお」
特別に変わっていくそれが、少し怖かった。




