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誰トクだっ!?  作者: ちびっこ
『転機』
7/8

常識

 時間を確認すると、いつもより早い時間だった。ソフィアとクロードと行動を共にするのが楽しみだったようだ。一時間も早く目が覚めてしまった。


 遠足前の子どもみたいで、ちょっと恥ずかしい。


 まぁ興奮して眠れず起きれなかった時と比べると可愛いものだろう。そう思うことにして起き上がる。


 顔を洗って居間に向かうと、母と父が居た。ソフィアはまだ寝てるようだ。2人に朝の挨拶をして、席に座る。今日は和食のようだ。転生しても日本食を当たり前のように食べれるのが、この世界のいいところである。勇者と聖女に感謝だ。


「お父さん、早いね」

「シフトを組み直さいといけないからね」


 私はギルドの中で1番仕事が少ないが、ないというわけではない。紹介料といってソフィアから分捕っ……貰ったお金を使えば、埋めることは出来るだろう。だが、父の負担は増えているのは間違いない。


「サクラが気にすることじゃないよ。これがお父さんの仕事だから」


 私の考えていたことに気付いたのだろう。謝ろうとする前に先手を打たれた。


「それに働きに見合った分をちゃんとハゲから貰うからね」


 父がニッコリと笑って言った。まだ分捕るつもりなところを聞き逃すべきか、ギルドマスターがハゲ呼ばわりされてるところを聞き逃すべきか、悩むところだ。


「もう、お父さん。上司の人なんだから、ハゲさんって呼ばないとダメでしょ!」


 母よ、ツッコミするところはそこじゃない。


「ん? 付け忘れていた?」 

「そうよー。忘れてたわ」

「気付かなかったよ。注意してくれてありがとう」


 父よ、気付かなかったじゃなくて、わざとだろ。


「お父さんはちょっと抜けてるんだから、気をつけてね!」


 母よ、お父さんはしっかりしているから。お母さんの方が抜けてるからな。


「やっぱりお父さんにはお母さんが必要だね。そう思うだろ? サクラ」

「……うん」


 父よ、朝から惚気ないで。そして急に話を振ってこないで。


「もう。褒めてもクッキーぐらいしかないわよー」


 おお。デザートが増えた。父に視線を向ければ、笑っていた。家でしか見ることがない笑顔の方である。そして父の分のクッキーが私の前に置かれる。いいの?いいの?と視線を再び父に向ける。


「しっかり歯磨きをするんだよ」

「うん!」


 やっぱり父は最高だ。兄がいないこの世界では、私はファザコンに一直線だった。





 ウキウキと食後にクッキーを食べていたのだが、なかなかソフィアが起きてこない。昨日は夜更かしでもしたのだろうか。私の母と意気投合していて、ずっと何か話していたしな。2人から似たような雰囲気がしていたので、意気投合したことには驚かなかったが、あまりの盛り上がりっぷりでクロードと一緒に遠い目になるレベルだったのだ。遅くまで盛り上がっていても不思議ではない。


 しかし普通に母が起きていることを考えると、そこまで遅くまで起きていたとは思えない。契約では今日からなのにいいのだろうか。


「おはようございます」

「っ!」


 いきなり声をかけられ、肩が跳ねた。せめて姿を見せてから声をかけてほしいものだ。


「……クロード、おはよう」


 様を付けられるのが嫌いなら、丁寧に話されるのも嫌だろうと判断し、いつも通りの口調で声をかけてみた。失敗しても子どもだから許されるだろうという考えもあった。


 ちなみにソフィアにはもう畏まった話し方はしていない。今から1ヶ月一緒にパーティを組むので、そういうのはなしにしてと言われたのだ。


「主はまだ起きそうにないと伝えにきました」

「わざわざありがとう」


 ソフィアのところに戻るかと思えば、クロードは私の隣にちょこんと座った。言葉遣いは問題ないようだ。だが、なぜ私の隣に座るのだろう。話題に困ったので、とりあえずクッキーを1枚渡してみる。


「ありがとうございます」


 子どもの私でも指2本で掴めるほどの大きさのクッキーだが、クロードは両手でしっかりと掴まないと持てないようだ。ちょっと心配である。


「…………」

「…………」


 無言でポリポリと食べる。何を話せばいいのだろうか。こんなチャンスは一生に一度あるかわからないのに。


 それもそのはず、この街にいる精霊使いはギルドマスターのみ。私はギルドで働いてるので何度も見たことがあるが、この街に住んでても一生見ない人もいるだろう。それぐらい精霊使いの数が少ない。もちろん、こんな辺境の街に住もうと思う精霊使いがいないのも原因の1つでもあるだろうが。王都では学園もあるので見かけることがあるらしい。


 つまりギルドマスターは変わり者である。堅苦しいのが嫌いでこの街にやってきたらしい。ほぼ1人でこの街の防衛をしているので、王都に出向くのを断る口実に便利だと言っていた。子どもに本音を話しすぎだと思う。


 ちなみにその皺寄せは父に来ている。ただ、父曰くはギルドマスターが行くより自分が行ったほうが楽らしい。王都でも上手く相手を転がしている父の姿が目に浮かぶ。


 頭を横に振る。ちょっとそれは忘れよう。


 癒しを求めてクロードを見れば、半分ほど食べ終わっていた。その間に私は5枚ほど食べたので、クロードの小ささがよくわかる。


「……美味しい?」

「はい」


 会話が終わってしまった。無念である。


 ギルドマスターに会う機会がある私だが、ギルドマスターの精霊のクラリスとは交流したことがない。いつもハゲ頭の後ろに隠れているので、人見知りタイプというのもある。しかし、尤も大きな理由はクラリスは普通の精霊だからである。


 なんと言葉を話せるのは上級精霊だけなのだ。他にも違いがあるが、これが1番わかりやすい。


 そしてこの国で確認されている精霊使いの中で、上級精霊と契約しているのはたった5人しかいない。その上級精霊が今私の隣にいるのだ。クッキーを渡せただけでも褒めてほしいレベルである。


「……そういえば、私と話しても大丈夫なのか?」


 ギルドマスターの部屋でソフィアと話しているところは見たが、ソフィア以外とは話そうとしなかったし、クロードはこの家に来てから全く話さなくなった。父が何も言わないのでそういうものだと思っていたのだ。


「あなたは私が上級精霊と知っていましたから」


 ポンっと手を叩く。Aランクのソフィアもクロードは有名だが、容姿までは知られていない。知っていても名前と年齢と性別ぐらいだろう。精霊使いに縁のないこの街では、ギルド職員でなければ知りえない情報だ。


 つまり私の母は全く知らないので、会話を避けたのだろう。父の上司がギルドマスターなので、精霊使いならば慣れているが、クロードが上級精霊と知れば卒倒するかもしれない。この世界の常識ならありえそうで笑えない。今は母がいないので、話せるのだ。


 しかし、それだけならば私と話す理由にはならない。ギルドマスターも父も知っているからな。


「それに気に入ったのは私も一緒です」

「……は?」


 首をかしげているとクロードが言った。


 特に何かした覚えがない。もしや、クッキー効果なのだろうか。思わず手元にあるクッキーを見つめる。食べ終わったクロードにもう1枚あげようか悩む。


「あなたが書いた字は心地良いです」


 精霊にまで言われると、ちょっと照れる。意地と寂しさを紛らわすためにしたことが、こんなにも役立つとは思わなかった。


「おはよ~……」


 扉の方から声がしたので顔を向けるとボサボサ頭のソフィアが居た。クロードがソフィアの元へ飛んで行き、身だしなみを整えるようにと怒っている。クロードがソフィアのお母さんみたいだと思った。


 



 ソフィアの準備が終わり、いざ街の外へ!と意気込んだのだが、なぜか私達は街の防具屋に居た。


「どれが似合うかな~」


 楽しそうにローブを見ているので、声をかけるのは躊躇する。クロードはソフィアが私には見えるようにしているが、話すことは出来ない。でもまぁ一応目で訴えることにした。


『主、彼女はこういった依頼は初めてなので、説明が必要です』


 クロードの声が頭に響く。恐らくソフィアと私にしか聞こえないのだろう。


「ごめんごめん。今日は準備の日だよ。まず、サクラちゃんにローブを用意しようと思ってね」


 そう言われてやっと気付いた。私はかなり浮かれていたらしい。いくらソフィアとクロードがいても準備もなしに街の外に出るなんて自殺行為である。


「これなんてどう?」


 ソフィアの手にあったのは、フードつきのふわふわした白いローブだった。私はギルド職員なので、素材を見れば魔物の種類はわかる。これは初心者の冒険者でも狩れるウサギの魔物である。特徴としては防寒に優れ、触り心地の良い。値段も手ごろとあって人気の品だ。


 ただし、冒険に着ていくような服ではない。汚れやすく、防御力はないといって良いものなのだ。なぜ防具屋にあるのかというと、防具の上から羽織ったり、野宿のときに布団代わりになるというので取り扱ってるだけである。普通の服屋でも買えるものだ。


「汚れそうだし、黒が良い」

「そんなの可愛くない! すみませーん、これでお願いします」


 ……私の意見を聞く意味があったのか?


 まぁお金を出すのはソフィアなので別にいいと思うことにした。重要なのはローブの下に着る服だ。でもその前に、サイズが違うと伝えなければならない。ソフィアが持っていたのは大人物だ。


「大丈夫大丈夫」


 聞き流されている気がしたので、クロードに助けを求める。が、クロードも問題ないと頷いた。……クロードがそういうなら大丈夫なのだろう。


 その後、斜めがけカバンも一緒に購入し、家に帰った。


 私の防具はローブだけなのだろうか。ソフィアのお古を使うつもりなのかもしれないが、身体に合うのだろうか。魔法で移動するといっても、あまり重い防具を用意されると着るだけで筋肉痛になりそうだ。


 父が許可を出し、Aランクの冒険者なのでこの仕事の心配はしていなかったが、ちょっと不安になってきた。



 家に着くと、ソフィアが使っている客室に一緒に向かう。正しくは、手を引かれて連行された。


「クロード、やるわよ!」


 扉が閉まったと同時にソフィアが叫ぶと、部屋の空気が変わった気がした。よく見ると足元に魔方陣がある。


「結界?」

「よくわかりましたね。風で結界を作っています」


 クロードが普通に話し始めたので、防音対策なのかもしれない。魔方陣がずっとあるので、ちょっと興味深く足元を見ていると、ゴロゴロと音がしたので顔を向ける。ソフィアがカバンの中から魔石を取り出し、適当に机の上へ放りだした音だったらしい。


 ちょっと頭が痛くなってきた。ギルドで働いていても、見たことがない大きさなんだが。恐らく数百万はする。それが何個も転がっている……。


 嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感がする。


 上級精霊にしか出来ないある能力が頭に浮かぶ。この予想が外れてほしいと本気で思った。


「ふ~ふ~ふん」


 私のドン引きに気付かないようで、ソフィアは鼻歌を歌いながら魔石を使っていく。……ああ、数百万が。


「譲渡不可機能、自動サイズ調整、耐熱、物理耐性、全属性の魔法耐性、状態異常耐性……、後は何がいるかしら?」

「オート防御を忘れてどうするんですか」

「!! 危なかったわ……。そうねぇ、魔石を宝石のように組み込みたいわね」

「裾に桜柄を入れましょう。起動するたびに花びらが減っていけばわかりやすいでしょうし」

「それなら、ちゃんと後で補充できるような機能もつけないといけないわね」

「触媒が足りませんから出してください。カバンも魔法袋にするのでしょう?」

「はいはい。魔石、魔石~」


 私は知った。この2人は常識がない。


 何はともあれ、私専用のチート装備をただでゲットした。いやっほーい。




 ……なんて、喜べるかっ!?


 次の日、私は寝込んだ。胃が痛い。

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