精霊と魔法。
挿絵を描いて頂きました。
第1話の後書きにアップしてます。
興味ある方はどうぞ!!
この歳になって父の説教で泣きそうになるとは思わなかった。……そうだった、私は5歳児だった。
若干遠い目をしていると、父が魔法について話すといったので切り替える。実に単純だと思う。
ちなみに私が魔法を使ったとバレたのは、次の日の朝まで眠っていたからだ。魔法を使った疲れとすぐに気付かれたのである。
「魔法を語るなら、まず精霊のことを知らなければならない」
父の言葉に頷く。昨日のことを考れば、精霊が関係していると私でも予想が出来る。
「この世界は精霊と友好関係を結んでいる。そのきっかけをつくったのは、絵本に出てくる精霊だよ」
父が私の絵本に指をさしながら言った。流石にそれには私も驚く。この絵本は勇者を主役に書いていた。しかし実際は、精霊の方が重要ではないか。
「そう思うように仕向けて書いているんだ」
私の考えを読んだかのように父が言った。
「この絵本の目的は精霊という存在を子どもの内から受け入れるようにするためだ。お母さんも勇者と聖女のことは教えてくれたけど、精霊については教えてくれなかっただろ?」
「ん。でも、隠されると知りたくなると思う」
子どもというのはそういうものじゃないのだろうか。
「そうだね。だけど精霊に悪いイメージを持った?」
「んーん」
教えてくれないのが嫌だっただけで、精霊と魔法には夢と希望しかなかった。これは恐らく私が転生者とかは関係ない。絵本で勇者が精霊と共に魔法を使うシーンはキラキラと描かれている。純粋な子どもであればあるほど、1度使ってみたいと思うだろう。
「僕たちはこれからも精霊と仲良くしたいと思っている。だから手ごろな値段で絵本を買えるようにしているんだ。僕の部屋を入ったからわかると思うけど、普通の本は高いんだよ」
だから本が少なかったのか。その割には資料があったので紙は発達しているんだろう。印刷技術がないのかもしれない。そういえば、前世では昔は版画のように新聞を作っていたとどこかで聞いた気がする。しかしそれなら何冊も作れて、ある程度は安く出来るはずだが。
「まぁ絵本が安いのはこの世界の考えを刷り込ませるためだろうね」
サラッと父が言った。……うん。多分これは聞き流したほうがいい。何も聞かなかったことにして、父に話をふる。
「精霊と仲良くしたい理由は?」
「絵本に出てきた精霊が現れるまで、誰も魔法が使えなかったんだ。精霊の手助けがなければ、僕たちは魔法を使うことができない」
父はきっぱりと言った。もうこれは確定しているのだろう。
精霊がいなければ魔法が使えない、か。1度その力を得てしまうと手放せなくなる。人間というのはそういうものだ。恐らくこれは異世界でも一緒。そうでなければ、この絵本は作られていない。
今まで使えなかったものが使えるようになったのは、この絵本に書かれている内容がきっかけなのだろう。
――この絵本、意外と侮れない。
確かストーリーの流れは魔物使いが現れ、精霊が勇者を召喚し一緒に倒した。
「魔物使い……」
「もうそこまで理解してるんだね」
またやってしまった。そう思ったが、頭を撫でられたので笑みがこぼれる。
「精霊にとって魔物は天敵なんだ。でもそれは人間にとっても一緒で、魔物使いが現れるまでは一緒に戦わなくても問題なかったんだ。……少し、言い方が悪かったね。ちょっとした手伝いで問題なかったんだ」
私の顔を見て父は言葉を変えた。そんなに精霊は何もしてなかったと思ったのが、顔に出てたのだろうか。
「魔物使いが現れたことにより、精霊は力を貸した。それで魔法が使えるようになった。ここまでは理解できた?」
「ん、大丈夫」
精霊様様ということだ。
「精霊と友好関係になって僕たちは魔法を使えるようになった。でも魔法を使いこなせる人は限られている」
「……!」
「魔法を使う自体は簡単だよ。イメージし精霊に呼びかければ、精霊は魔力をもらって魔法が発動する。サクラも昨日はそうやって魔法を使っただろ?」
父の言葉に頷く。私は火の玉をイメージし、精霊と言った。そして身体の中から何か抜けていった気がした。それが魔力なのだろう。
「問題はイメージにあった分の魔力を渡さないといけないんだ。僕達がちゃんと渡さないと、精霊は全てもらえると思ってしまうんだ」
なるほど。私は昨日、イメージ分の魔力を渡せてなかったのか。だから小さな火の玉でゴッソリ何かが減ったように感じた。
「どうすればいいんだ?」
精霊にイメージ分を渡せるようになって、私は魔法を使いこなしたい。
「……どうしようもないんだ」
「え?」
「これは生まれ持った『才能』なんだ。努力で出来ることじゃない。もちろん過去に研究されたよ。でも今はその研究は禁忌とされている。……これの解決方法はないんだ」
禁忌。そんなバカな。何か見逃しているものがあるだけだろう。
「禁忌の理由は、ある一定数倒れると死んでしまうから」
すぐに言葉が出なかった。
「サクラも何度か冒険者と一緒に歩く子どもを見たことがあるだろ? あれは子どもが無茶気に魔法を発動するのを恐れて、咄嗟に動ける冒険者を雇ってるんだ。1度発動してしまうと子どもはまた使いたくなるからね」
「……じゃぁ私が外に出る時にお父さんが必ずいる理由は?」
今まで私は1度も魔法を使ってなかった。なのに、父がいない時に外には出さなかった。
「外で魔法を使っているところを見てしまう可能性もあるからね。……僕はサクラが魔法を使えたのは偶然じゃないと思っている。少しのヒントですぐにたどり着くと思った」
「それなら、絵本を渡さない方が――」
私は途中で言葉を切った。両親だって渡したくはなかったのだろう。でも精霊と友好関係を築くのがこの世界の方針だ。私の将来を考えると、必ず触れさせないといけない。もしかすると与えるのが他の家庭より遅かったのかもしれない。
「サクラ」
また頭を撫でられたが、今度は嬉しくはなかった。
守りたい。最低でも、自分の身は自分で守れる力がほしかった。そう思っていた。ずっと――。
「精霊と契約できれば、『才能』がなくても使いこなせる。確率は低いけど、サクラなら契約できる精霊が現れると僕と母さんは思ってるよ。だってサクラはこんなにも賢いんだから」
私は頷いた。父がここまではっきりと話したのは私のためだとわかっているから。
「お母さんに、会ってくる」
心配しているだろう。それなのに、母は私に一切悟らせなかった。安心させるために会いに行かないと。
「僕も一緒に行くよ」
父と手を繋いで母の元へ向かおうと扉を開ければ、母が居た。ずっと待っていたのだろう。私は母の足元に抱きついた。