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誰トクだっ!?  作者: ちびっこ
五歳児の『現実』
2/8

初めての魔法。

 今日は昨日出来なかった魔法について考えよう。


「サクラちゃんの好きなケーキを作ったわよ~」


 うん、食べてからにしよう。そうしよう。




 モグモグと必死に口を動かしていると、母がジッと私を見ていた。どうやら昨日の泣きっぷりを心配しているようだ。だから私の好物を作ったのだろう。申し訳ない。食べる手は止めないが。


 それに今までの私の行動を考えると、両親にはかなりの苦労をかけている気がする。なにせ規格外の兄を育てていないのだから。


 ……手が止まる。今気付いた、これは前世で兄が作ってくれたケーキの味と同じだ。前世では1度も母の作っていたところを見たことがなかったが、母が兄に教えていたのかもしれない。


「サクラちゃん?」 


 ケーキといっても、パンケーキ。子どもでも何とかなると思う。


「……今度一緒に作りたい」

「もちろん!」


 母の返事を聞き、また食べ始める。


 今度は私が覚えよう。兄のことを忘れないためにも。


 ただ、前世で料理をした記憶が一切ないのが引っかかる。……大丈夫だろう。多分。





 ケーキを食べ終わったので、今度こそ魔法について考える。が、満腹でちょっと眠い。まさかケーキが罠だったとは。


「サクラちゃん、お昼寝する?」


 目をこすりながら頷く。母が心配そうにしてたが、1人で大丈夫といいベッドのある部屋へ向かって歩き出す。


 くるっ。


 途中で振り返ったが、誰もいない。母はまんまと騙されたようだ。確かにちょっと眠いのは事実だが、精神年齢が高い私は我慢できる。もちろん幼い間は昼寝をした方が良いと理解しているので、ちゃんと後でするつもりだが。


 何にせよ、1人でゆっくりと魔法のことを考えれる。


 黒い笑みを浮かべながら、私は父の部屋に入る。父の部屋には書棚があるので、魔法に関する本があると考えたのだ。


「意外と少ない……?」


 父の部屋を調べて思った感想がこれだった。書棚には紐で書類をまとめたものがあるが、本屋で置いてそうな本は少ない。たいしたものがなさそうだという思いと、探すのが簡単で助かったという気持ちがうまれた。


 先に書類の方を見るか。楽しみは後で取っておこう。


 読めない字もあったが、書類を見る限り父はそこそこ偉い人のようだ。魔物の種類や数をグラフにしてまとめているものもあれば、この町?の防衛に関するものもあった。町?の周りにある塀は魔物対策だったらしい。戦争とかじゃなくて良かった。……といっても魔物も微妙だが。


 そういえば、私のような子どもを連れている人は必ず冒険者っぽい人と一緒に居たな。私も父が居る時にしか外へ出たことがない。


「ん、お父さんって強いのか」


 新たな事実が判明した。失礼かもしれないが、ちょっと意外だ。外で歩いてると何度か冒険者っぽい人が父に頭を下げてるのを見たが、それは物理的な方ではないと思っていた。まぁこの勘違いは頭を下げられた時の父がニッコリと笑ったせいだと思う。


 ブルッ。


 父のニッコリという笑顔を思い出してしまい、身体が震えた。綺麗に書類を戻しておこう。ばれたら怖い。


 ほんの少し心が折れかけたが、今度こそ魔法に関する本を探す。


「……ない」


 地図や植物図鑑、魔物図鑑のような本はあった。が、魔法に関してはない。


 これには予想外である。もしかしたら資料の方にあるかもしれないが、そろそろベッドで寝転んでおかなければまずいだろう。未練タラタラだが父の部屋を出た。


 部屋に入ったが、まだ母は様子を見に来てなさそうだ。もう少し居ても良かったかもしれないが、無理はしない方がいいだろう。流石にこれ以上両親を心配させるわけにはいかない。


 そのためベッドの上で昨日貰った絵本を読むことにした。残念なことにこれが一番魔法のことが載っている。


 ペラペラめくりながら、母の言葉を思い出す。この絵本の勇者は一番有名で初代らしい。初代というのも、今までに何度もこの世界に勇者を召喚しているからだ。召還するのはずっと城にいる精霊だとか。なぜ城に精霊がいるのかは母も知らなかった。秘匿されているのだろうか。


 とにかくこの世界の危機になる勇者が召喚される。女性の場合は聖女と呼ぶようだ。そして召喚された勇者・聖女はこの世界を救う。例えば疫病などが流行した時は医者が召喚された。食物が育たなく餓えに苦しんだ時は農家とか。失礼な話だが、私は数秒ほど農家が勇者と結びつかなかった。


 医者や農家という言葉からわかるように、ずっと日本人が召喚されている。理由は不明。城にいる精霊が日本人を好きなのだろうか。召喚された日本人のパートナーになるらしいからな。それが今のところ1番妥当な線だ。


 後、母の話によると初代だけこの世界に残ったらしい。だから初代が1番有名だと。


 異世界生活に興味はなかったのだろうか。ちょっと疑問だ。


「はぁ」


 首を横に振る。いつの間にか、また話がそれていた。


 この世界は冒険者や魔物など気になる言葉がたくさんある。だが、前世のスペックを考えると期待できそうにない。護身術を習ったが、あまりにも酷すぎて常に護衛が居たはずだ。……なぜ一般家庭の私に護衛がついているのだ。


 叫びたいのを我慢し、頭をかきむしった。中途半端な記憶にイライラする。落ち着くために深呼吸して頭を整理しよう。


「すぅ……はぁー」


 現時点でわかってることは、私が前世のままのスペックならば弱い。そして剣をつかって魔物と戦う度胸もない。だから魔法が気になる。


 よし。それだけわかっていればいい。


 では魔法について考えよう。……わからない。


「何度同じことを繰り返してるんだ……?」


 今日はもうダメだ。ずっと前世の記憶に振り回されている。諦めてベッドに寝転がることにした。


 寝転びながら再び絵本をめくる。


「『精霊、頼む』か……」


 絵本に載っている勇者の言葉を呟く。こんなことで火の玉とか出れば苦労しないのにな。


「……えっ」


 突如私の目の前に現れた魔法陣。そして、すぐに小さな火の玉が現れた。


「魔法!?」


 思わず飛び上がる。が、すぐに倒れる。身体の中から何かが抜けていく感じがする。


 ……ちょっと待て。この小さな火の玉で倒れるとかどういうことだ。


 そう、心の中でツッコミしながら私は意識を手放した。






 目が覚めると、母の顔があった。


「おはよう、サクラちゃん」

「ん。おはよう」


 ゴシゴシと目をこすりながら、起き上がる。


「サクラちゃん、もしかして魔法使った?」


 母の言葉に驚いた。もしや弱弱しく浮いていた火の玉で小火騒ぎにでもなったのだろうか。慌てて周りを見渡したが、特に何も変わらないのでホッとした。


「使ったのね。後でお父さんから説明があるから、魔法は使っちゃダメよ」


 なぜかばれてしまっているので素直に頷く。


「だけど、その前に勝手にお父さんの部屋に入ったから怒られるわよー」


 冷や汗が流れる。それもなぜばれているのだ。完璧に戻したはずだぞ。


「頑張ってね」


 とりあえずもう1度寝てもいいだろうか……?


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