表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰トクだっ!?  作者: ちびっこ
五歳児の『現実』
1/8

前世の記憶。

ども、ちびっこです。

一次小説は初めてです。


基本、書きたいことしか書きません。

私の作品は必死に読むものではありません。暇つぶし感覚です。

スローベースで駄文ですが、完結まで頑張ります。


では、最後に私の合言葉を。

『微妙と思ったらすぐにUターン!ストレスが溜まるだけですよ!』


※ 挿絵描いてもらいました!ありがとうございます!

 パタン。


「はぁ……」


 本を閉じ終わると同時に溜息が出た。ニコリとも笑わない私のために母が買って来たのだが、溜息しか出なかった。自身でも思うが、本当に可愛くない五歳児である。


「この絵本、サクラちゃんには合わなかったかな」

「んーん。お父さんが帰ってこないから」

「そうねぇ。サクラちゃんも寂しいよね。でも大丈夫。今日は帰ってくるはずよ!」

「ん、楽しみ」


 それでも読み聞かせてくれた母を気遣うことが出来る可愛さはある。それならば溜息を吐くなという話だが、出てしまったものはしょうがない。ニコリとも笑わないのも状況が状況だからだ。


 気付けば、私は転生していた。


 頭を打ったり、熱を出して思い出したわけではない。赤ん坊の時から覚えていたわけではない。物心がつくと同時に、前世の記憶も自然と思い出していったのだ。


 ちなみに前世の記憶と言っても、はっきりと覚えてるわけではない。一般常識とほんの少しの思い出ぐらいだ。死んだ時の記憶がないのはありがたいのだが、もう少し覚えてほしかったものだ。


 チラリと母の顔を見る。


 髪と目の色が違うだけで、前世と一緒だ。そして、父も髪と目の色が違うだけ。当然、前世と私も同じ顔。ただ目の色はそのままだった。元々前世の私は色素が薄かったので、今の父と母の色の方に似ている。つまり髪が黒から金髪になっただけということだ。


 はっきり言って、微妙だ。


 別に前世の私はそこまで不細工な顔ではない。どちらかというと良い方だろう。だが、面白くないというのも事実。せっかく転生するのなら、違う顔が良かった。それに自身の限界を知ってるというのも微妙と思ってしまう理由の1つだ。


 次に前世で人見知り体質だった私がもう1度初めから友達を作らなければならないのが辛い。ちなみに作らないという選択肢はない。顔も思い出せないぐらい朧げだが、楽しかった記憶がある。その記憶がある以上、ぼっちは寂しい。


 それに恋をした記憶もある。もちろん相手の顔は覚えていない。薄情かもしれないが、この点については覚えてなくて良かったと思う。はっきり覚えていると動けなくなった気がするから。そう思ってしまうほど悪いものではなかったようだ。


 だが、あまりにも前世に対しての心情が良すぎるのも困る。生きていると良いことばかりではないと私は理解している。そこまで単純な頭ではない。だから躊躇してしまう。前世の良い記憶だけで生きていけばいいと心のどこかで考えてしまうから。そして再び寂しいという気持ちに戻る。エンドレスだ。


 そして、先程の絵本。


 絵本なので子ども向けだったが、この世界で起きた昔の話らしい。要約すると、この世界の危機を救うために召喚され、魔法を駆使し平和に導いた勇者の話だった。問題はその『勇者』である。


 この『勇者』が残したもので有名なのは、箸と話し言葉、一夫一妻。


 母が絵本を読みながら、いろいろ付け加えてくれたのでわかったのだが、箸は『勇者』が二本の棒で器用に食べることで有名になったようだ。話し言葉は『勇者』が来る前は違っていたらしい。でも精霊がその言葉を使っていたから変わったと伝わっている。一夫一妻は『勇者』が姫に一目ぼれをし、求婚して結婚したから。ちなみに絵本は「幸せに過ごしましたとさ」という感じで終わった。まさに王道ものである。


 道理で両親が器用に箸で食べて、日本語を話していたわけだ。そのせいで転生したのか、過去に戻ったのか一瞬わからなかった。実に紛らわしい。


 つまり、『勇者』は日本人だったわけである。


 ここで問題が起きた。前世の私の特技は箸の持ち方と字が綺麗さ。何でも出来る兄に追いつこうと、幼い時に努力して覚えたものだ。あの頃は、私も兄のように何でも出来ると思っていたからな。……若干だが、遠い目になった。


 前世の現実を知った日を忘れるように首を振る。思考を戻そう。


 この世界、箸は誰でも使える。それだけではない。絵本が残るほど『勇者』を尊敬しているため、誰もが正しい持ち方をしているのだ。日本人、頑張れと言いたくなった。


 そして最大の問題は話し言葉は伝わったが、書き言葉は伝わらなかった。この絵本も全く読めないのだ。


 前世の特技が全く使えない、また役に立ちそうな知識も覚えてないこの転生は、果たして意味はあるのだろうか。


「はぁ……」


 再び溜息に戻る。


「ただいま」

「サクラちゃん、お父さん帰ってきたわよ!」


 母と手を繋ぎ、トコトコと歩く。時間がかかってしょうがない。早く大きくなりたいものだ。……いや、大人になれば面倒事が増えるな。程ほどに成長したいものだ。


 実はせっかく絵本の中で興味を持った魔法や精霊のことを母に聞いても教えてくれなかったのだ。何度も言ってみたが、「まだサクラちゃんには早い」らしい。『勇者』のことは聞かなくても勝手に補足してくれたのに、これについては口が堅い。今度ゆっくり考えようと思う。


「おかえりなさい」

「うん、ただいま」


 母と父の声で考えを中断する。玄関まで迎えに行くつもりだったが、父は廊下まで来てしまったようだ。本当に動きが遅い。それでも短い足を駆使し、父の足元に抱きつく。……絵本を持ってくるんじゃなかった。邪魔だ。


「……おかえり」

「今日も元気だね。サクラ」


 優しく頭を撫でられ、思わず笑みがこぼれる。どうも前世の影響か、父に甘えてしまう。私の家族は母と兄のテンションが高く、よく振り回された。その時にいつも助けてくれたのが父だった。……1番怒らせてはいけないとも言う。ニコリと笑みを浮かべてキレる父はかなり怖い。まぁ今は母しか居ないので、頼る回数は少ないのだが。


 そういえば、兄は何をしているのだろう。学校にでも通ってるのだろうか。この世界の仕組みが良くわかってないので、学校というものがあるのかもわからないが。といっても、兄のことだ。どこへ行っても上手くやっているだろう。兄は天才だからな。


 だが、それでも気になる。私が物心がついた時――薄っすらと自覚し始めた時にはこの家に兄は居なかった。つまり1度も会っていないのだ。前世では気付けば私の隣に居たり、気付けば両手を広げ私が抱きついてくるのを待っていたり、気付けば私からのツッコミ待ちをしていたり、気付けばバラの花を私に捧げようとする兄が、だ。


 1度そう思うと、不思議でしかない。……べ、別に静かに過ごしたくて思い出さないようにしていたわけではないぞ。兄ならどこへ行っても大丈夫だと思っていたからだ。


 なぜか心の中で言い訳しながら、父のズボンをほんの少し引っ張る。


「ん?」


 私と視線を合わせるために父はしゃがんでくれた。とても話しやすくて助かる。


「お兄ちゃんは、どこ?」


 父はほんの少し顔をあげた。その動きがどこか迷ってるように見える。だから今まで放置していたことに後悔した。


「お父さん……」


 近くにあった父の手を握り、引っ張る。聞くのが怖いが、早く話してほしい。


「サクラ、お兄ちゃんは難しいかな。弟か妹なら出来るかもしれないけど、こればっかりは父さんにもわからない」

「でも滅多にないサクラちゃんのワガママよ?」

「……真剣に養子について考えようか」


 意味を理解するのに時間がかかった。そしてその間に話が進んでることに焦った。


「違う。絵本にお兄ちゃんが出てきたから、誰でも居ると思っただけ」


 絵本を2人に見せつける。持ってきた自身の行動に褒めてやりたい。


「そういえば、お姫様におにいちゃんが居たわね~」

「サクラ、本当に?」

「ん」


 母は私のウソにすぐに騙されたが、父は私の顔を覗き込み確認してきた。なので、しっかりと頷く。友達を作るのに躊躇しているのに、義兄とかレベルが高すぎるだろ。胃痛で倒れることになりそうだ。


 そのため私が本気で遠慮しているとわかったのか、父はこれ以上追求することはなかった。






 母に寝かしつけられながら、兄について考える。あの時の両親の様子を見る限り、不幸があったというわけではなさそうだが。


 兄はこの世界に転生してないのだろうか。


 それはそれで寂しい。静かに過ごしたいと思ったのはもう否定しないが、物足りないのも事実。


 前世の世間で言うと兄はシスコンというもので、周りをドン引きに何度もさせていた。血の繋がった私ですら、引いたことがある。そんな私達を母は楽しそうに笑い、父はニッコリと笑みを浮かべていた。多分後で怒られていたのだろうと思う。


 それが、もう見れない。


「ひっく……」


 気付けばしゃくりあげるように泣いていた。


 あまり覚えていないが、私は前世の記憶を持っているため、精神年齢が高いはずだ。それなのに……みっともない。


 母があやしても泣き止まないので困り果てている。父も心配そうに私の頭を撫でていた。


 それなのに止まらない。


 ――サクラ、幸せになるんだよ。


 ふと兄の言葉を思い出し、私は疲れて眠ってしまうまで泣き続けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ