01 あの男がやってきた。
あの日は、嵐が舞うような、どしゃぶりの雨だった。
男は、母に手をしっかりと握られ、その長髪のくるりとひねられた先から雨水がポタポタと流れ落ち玄関の中は、水浸しになっていた・・・・気持ちが悪い、あの無表情で丸々と目を見開きどこに焦点を合わせているのか分からない眼差しで私を見ていた。
母は、その男の頭にタオルを掛け優しく拭いていた。
私は、その男の異常さをスグに察知した。
「あの人誰?」
私は、母の耳元に口がつくほど近づけ言った。
「あの人って?お兄ちゃんよ。あなたの。」
「お兄ちゃん?」
「そうよ、言ってなかったけ?・・・忘れたの?」
「忘れたもなにも・・・」そう言えば幼い頃に聞いた事があったけ、
前に離婚した旦那がいるって・・・・でも、それ以上の事は聞いた事がなかったと思う。
男がお風呂場から出て来た。
体を洗った割りには、何も清潔感が感じられない、髪は、まだ油ぎってるし、ヒゲはボツボツと伸び、まるで公園でダンボールで区切られた敷居で毛布にくるまっているホームレスのおじさんの様だった・・・いや、それ以上かもしれない、すると
私の6つ下の弟がその男にうすしお味のポテトチップスを渡していた、男は、それを手に取った途端がむしゃらに袋をガサガサと鳴らしながら開けようとしたけど、なかなか開かなかったのでギザギザした所を両手でつかみ縦に切り開いた。すると大急ぎで喉にポテチが詰まるほどに大量に口に収めガリガリと音を立てて食べ始めた。
そして、食べカスが床に落ちたのも拾い上げ食べ袋の中のカスもぺろぺろと舌で味わっていた。・・・・言葉が出なかった、この男が私の義理の兄だなんて・・・。
なんか足が重い学校に行くのって極力ストレスだ。
毎日の様にうるさくざわめく教室。媚びをうってしか、なりたたない友達関係、何だか全身にアンテナを張り巡らせているみたいだ。
それらが敏感に働いていて私の心の近くに鋭い針がスデに用意されていて、その集団に息をそろえないと針が私の心の芯に刺さるのだ。
「ルナ、おはよう!!」
「あっ!?おはよう!!」
「昨日の進路相談どうだった?」
「う~~~ん。まぁまぁかな。」
「そっか~~私は、白鳥高校合格ラインだって。」
「へぇ~~そうなんだ、スゴイね~~」
また高校の進路の話しだ。最近なにかと、この話題が出て来る、私はと言うと、あまり高校と言うモノに関心がない。例えば良い高校に出て、大学に出て就職できたとしても、好きな男の人と結婚すれば、家事や育児に専念して、この社会を退く事になる、そうすれば、今までやってきた事なんて、何も意味がなくなってしまうだろう。でも、
私の考えとは、相反し、この社会は、社交性を持っている。だから周りの人と合わせないと何かと、この世の中では、通用しないのだ。
そう一人で考えていると、あの子が現れた、すると一部のクラスの女子の声が一斉に止まってジロジロとその子を見始めて言った。
「なんか、急に臭くなってない?」
「なんか臭いよね~~。」
「誰~~!?急に臭くなったよねぇ。」
「やだぁ~~ホントに臭いんだけど、誰かさんが・・来て。」
そして、その子は黙って下をうつむいたまま自分の机へと向かいイスに座った。
多分、泥水の中に足を入れている感じだろう、私には、とうてい我慢できない。
そうまで言われて、この教室に来たいのだろうか?そこがスゴク疑問である。
私にも、そういう状況が来るのだろうか・・・・
いや、こないと思う。だって私が・・・主犯格だもん。