第6話 そんなにいるのか!?
【グリード州 経済都市エコノミアシティ エコノミア郡庁 会議室】
エコノミアシティでの戦いから、3日が経った。私はクラスタと一緒にエコノミア郡の庁舎に滞在していた。
ヒーラーズ制圧部隊とヒーラーズ鎮圧部隊の総指揮官だった戦術士ソフィアは、私たちに無抵抗で降伏した。彼女の協力もあって、戦いはあの日の内に終結した。
「ヒーラーズ・クローン軍61万人の内、56万人以上が降伏し、4万人ほどが戦死したとの報告です。残りの1万人ほどは行方が分かっておらず――」
臨時政府の男性将官――ライポート将軍が資料を片手に状況を報告している。残りは恐らく、逃げ帰ったか、今もグリード州のどこかを彷徨っているのだろう。
戦いが、かなり早く終わったせいか、市民・軍人の死者数は少なかった。一時は国際政府滅亡も時間の問題とまで言われたが、なんとか回避できた。
「――国際政府のマグフェルト総統より、侵略を受けたグリード州西部・中部・南部は臨時政府が管理するように、との命令です」
……エコノミアシティを含むグリード州西部・南部・中部は臨時政府の管轄に置かれることになった。国際政府の下位国家である臨時政府は、復興を目的に作られた臨時統治機構だ。その任務が回って来るのは、当然だろう。
「それと、降伏したソフィア曰く、ヒーラーズ軍はまだまだ多くの兵力を有しているそうです。次の侵略に警戒した方がいいと……」
「60万人の兵を失っておきながら、まだ軍事力があるのか?」
クラスタがライポートに向かって言う。
「ええ、上級幹部はまだ6人も健在です。兵力も60万人以上残っているとか……」
「そ、そんなにいるのか!?」
私はつい声を上げてしまう。この前、ヒーラーズ制圧部隊とヒーラーズ鎮圧部隊で60万人以上もいた。あの攻撃でさえも、国際政府軍は壊滅し、国家存亡の危機に陥った。その上、まだ60万人以上もクローン兵が残っているという…… 次の攻撃で、国際政府は本当に滅亡しそうだ。
「しかし、ソフィアは我々に対して、かなり積極的に協力してくれているので、だいぶヒーラーズ軍の実態が掴めて参りました。詳しくは資料Dの方に書いておきましたので……」
「これか……」
私は資料を何枚かめくり、ヒーラーズ軍の詳細が書かれた紙を見つける。それによると、ヒーラーズ軍の兵団は、全部で8つに分かれており、セネイシアを含む、上級幹部たちによって管理されているらしい。
「この前、エコノミアシティに来たのが、制圧部隊と鎮圧部隊です。いずれも30万人以上の兵力を誇る大型兵団です。他の兵団はここまで兵力は多くないそうですが、兵の実力が高いそうです」
「……ヒーラーズ軍の動きには細心の警戒を払った方がいいな。この様子じゃ、またすぐに攻めてくるだろう」
「確かに……」
次の戦いも近い。近い内に、またヒーラーズ軍は攻めて来るだろう。なんとなく、私はそんなことを考えていた。
◆◇◆
【ヒーラーズ軍本部要塞(ダーク・サンクチュアリ=暗黒城)】
「――以上。ソフィア国際政府討伐軍総司令官は、臨時政府に降伏した」
広く、暗いダーク・サンクチュアリ=暗黒城の王の間。エデンが僕に、ソフィアの敗北と降伏を伝える。
「そ、そっか…… ソフィアが……」
僕は椅子に座ったまま、エデンの言葉を聞いていた。信じられない。いや、信じたくない。あのソフィアが、敗北し、降伏するなんて……
「ご、ごめんっ…… ちょっと休んでくる。後は任せたよ、エデン」
「了解。次に派遣する部隊は、私が勝手に決めておくぞ」
エデンの返事を聞きながら、僕は席を立つ。部屋の奥に向かい、扉を開け、自室へと逃げるようにして引っ込む。自室に入ると、そのままベッドに寝転ぶ。
「ソフィア……」
僕は毛布と布団を抱き締めながら、いなくなってしまったソフィアの名を呟く。寂しさが一気に襲い掛かってくる。
ソフィアは僕のことを嫌いになってしまったんだろうか? いや、最初から僕のこと、嫌いだったんだろうか? だから、臨時政府に降伏しちゃったんだろうか……?
「…………」
いや、そんなことない。ソフィアだって、降伏しなきゃ殺されちゃう。死ぬのが怖いから、降伏したのかも知れない。いくらなんでも、“死んで僕に忠誠を”、なんて言えない。
「…ぅっ、あ、ぁ……」
涙で布団が濡れていく。寂しい。ソフィアがいなくなっちゃった。僕のせいだろうか…… 僕が何かしたから、嫌いになっちゃって……
そのとき、部屋に誰かが入ってくる。――エデンだ。
「……泣いているのか?」
エデンはベッドの側にまで歩いてくると、僕に声をかける。僕は答えることが出来なかった。声を発し、言葉を伝えることが出来ない。
そっとエデンが僕のベッドに入ってくる。そして、半ば無理やり僕を正面から抱きしめる。僕はエデンの胸に頬を押し付ける形になってしまう。
「ソフィアは残念だったな…… 私がソフィアの代わりになってやる。大丈夫だ。ずっと、側にいてやるから……」
「エデ、ンっ……」
僕はエデンの身体をぎゅっと抱きしめる。エデンもしっかりと抱いてくれる。それでも、ソフィアがいなくなった寂しさと哀しみを消すことはできない。でも、1人で泣いているよりかは、遥かにマシだった。
エデンは僕が彼女に与えた名前だ。彼女は、僕の園。初めて、心を曝け出せることの出来る、側にいると安心できる仲間だった――
<<統治機構と軍隊>>
◆第1a兵団(ヒーラーズ制圧部隊)【臨時政府に降伏】
◇長官:剣闘士レーリア
◇兵数:五個師団(30万7200人)
◆第1b兵団(ヒーラーズ鎮圧部隊)【臨時政府に降伏】
◇長官:戦術士ソフィア
◇兵数:五個師団(30万7200人)
◆第2a兵団(ヒーラーズ駆逐部隊)
◇長官:召喚士クリア
◇兵数:三個師団(18万4320人)
◆第2b兵団(ヒーラーズ掃討部隊)
◇長官:狂戦士ハンターZ型
◇兵数:三個師団(18万4320人)
◆第3a兵団(ヒーラーズ強襲部隊)
◇長官:戦闘士アーカイズ
◇兵数:二個師団(12万2880人)
◆第3b兵団(ヒーラーズ精鋭部隊)
◇長官:魔導士フェール
◇兵数:二個師団(12万2880人)
◆第4a兵団(ヒーラーズ防衛部隊)
◇長官:親衛士エデン
◇兵数:一個大隊(960名)
◆第4b兵団(ヒーラーズ親衛部隊)
◇長官:セネイシア
◇兵数:二個分隊(30名)