第3話 消えろ、パトラー
レーリアは青い刃を持つ剣を手に、私に向かって来る。私も剣を抜き、戦闘態勢に入る。彼女は七衛士の1人だ。今までのヒーラーズ制圧兵とは比べものにならないほど強い。
「…………」
剣闘士のクローンは無言で、何度も激しく斬りかかってくる。私はその激しい斬撃を全て剣で受け止め、防ぐ。その衝撃が手に、腕に、身体に走る。
凄まじい斬撃を受け流しながら、私は魔法で自身にシールドを張る。万が一、防ぎきれず、まともに攻撃を受けたら本当に死んでしまう。
「クッ……!」
何度も金属音が鳴り響き、火花が散る。これじゃ防戦一方だ! このままじゃ、いつか殺られてしまう。反撃しないと……!
私は隙を見て、地面を蹴り、後ろに向かって飛ぶ。宙を高く飛びながら、手を振る。3発もの白色をした魔法弾――衝撃弾が飛ぶ。
「逃がすものか……!」
レーリアも地面を蹴って宙に飛び出し、私を追って来る。長い青色の剣で白色の衝撃弾を斬り、爆発させる。その衝撃波によってレーリアは地面に落ち、上手く着地する。着地すると、間髪入れずに再び飛ぶ。地面に着地した私に向かって飛んでくる。
私は手を振り、宙を舞うレーリアに向かって火炎弾や電撃弾を飛ばす。赤色の魔法弾や黄色の魔法弾が飛んでいく。
「こんなもの……!」
レーリアは剣を振り、火炎弾や電撃弾を爆発させる。しかも、振った衝撃で斬撃が飛んでくる。私は素早くもう一度後ろに飛び、斬撃を避ける。私がいた場所が大きく斬れる。
今度は私がレーリアに走り近づく。手に持った剣で剣闘士の脇腹を貫こうとした。だが、その刃は青色の剣に防がれる。
「フフ、やるじゃないか。だが、――」
青色の剣は私の刃を滑らせ、狙いをブレさせる。その隙に、私の首を狙って剣が振り降ろされる。私は間一髪、剣でその斬撃を防ぐ。剣同士が擦れ合う度に小さな火花が散る。
レーリアは素早く私の剣から自身の剣を放し、再び激しく何度も斬りつける。とても強い力だった。叩き付けられる度に、手や腕が痛くなる。
「クッ……!」
私は防ぎながら、僅かな隙を突いて反撃する。だが、それらの攻撃は全て防がれてしまう。防がれ、また防御に徹する。
不意にレーリアは後ろに飛ぶ。私と距離を開けると、その場で剣を大きく振りかぶる。僅かな間の後、剣を振り降ろす。大型の斬撃が飛んでくる。
私は素早く横に飛び、大型の斬撃を避ける。強烈な斬撃は私の後ろにあった建物を、斜めにスッパリと斬ってしまう。斜めに切られた建物の上半分が、滑るようにして倒れる。
「あ、あんな斬撃、見たことも――」
「なら、もう一度見せてやろう」
「えっ?」
声がしたとときには、レーリアは既に剣を振り降ろしていた。再び大型の斬撃が飛んでくる。私は地面を斬りながら、勢いよく飛んでくる斬撃を剣で受け止め……られなかった。
「うわぁっ!」
斬撃の威力はあまりに高すぎた。剣が折れることはなかったが、剣と共に私の身体は宙を舞い、吹っ飛ばされる。レーリアが飛んでくる。空中で私の首を斬ろうと、剣を振り上げる。
「ぐッ……!」
「消えろ、パトラー」
冷たいレーリアの声。赤茶色の瞳は、私をしっかりと捉えていた。そこに、何の迷いもなかった。私を殺す、強い意志があった。
そのとき、発砲音が鳴り響き、レーリアの剣を持った右手の甲から血が噴き出る。私は地面に倒れ、レーリアも空中でバランスを崩し、地面に落ちる。グリップに血の付いたレーリアの剣が振ってくる。先っぽがこっちを向いていた。
「…………!」
青色の剣は、私の顔のすぐ横に突き刺さる。あと少しズレていたら、顔に突き刺さるところだった。
私は素早く立ち上がる。レーリアも同じだった。地面に刺さった剣を左手で取ろうとする。私はサブマシンガンを手に持ち、何十発もの銃弾を連射する。
だが、レーリアはそれを素早い細かな動きで避ける。何度も小さく飛び、身体を捻らせて避ける。地面に刺さった剣を抜こうとする。
「パトラー!」
「…………! クラスタ!」
仲間のクラスタが私の剣を投げる。私は大きくジャンプし、空中でそれを受け止める。そうか、さっきレーリアを射撃したのも、クラスタだったんだ……!
私は剣でレーリアに斬りかかる。レーリアは左手に剣を持ち、それで防ぐ。再び激しい斬り合いになる。だが、レーリアの利き手は右らしく、明らかに動きが鈍かった。
「――レーリア、もういいよ」
「…………! セネイシア卿!」
「えっ?」
私は声のした方に目をやる。そこには、黒色のローブを着た少年――セネイシアと、紫色のラインが入った黒色の装甲服を着たクローン――エデンが立っていた。
レーリアはセネイシアの前に飛び、2人の前で跪く。ヒーラーズ軍のリーダーがなぜここに……?
「申し訳ございません、セネイシア卿……!」
「レーリア、大丈夫だよ。そんな哀しそうな顔しないで…… ほら、手の傷、早く直さないと……」
3人の後ろの空間が歪み、大きな黒色の穴が開く。特殊ワープホールだ。どこに繋がっている……? 2人はエデンを残し、特殊ワープホールへと入っていく。
今、私がセネイシアに襲い掛かっても、間違いなく次の瞬間には、セネイシアの横に控えているクローン・キャプテン――エデンに殺されるだけだろう。彼女の強さは異常だ。
「……第1ラウンドは、お前たちの勝ちだ。だが、まだ終わったワケじゃない」
そう冷たく言うと、エデンもまた特殊ワープホールの向こうへと消えていく。彼女の瞳は、さっきのレーリアよりも遥かに冷たかった――
<<統治機構と人物>>
◆ヒーラーズ軍
かつては「ヒーラーズ・グループ」を名乗る医療連盟だった。現在は「ヒーラーズ軍」と名乗り(侵略完成後は「ヒーラーズ政府」を名乗る予定)、統治機構へと姿を変えた。“世界の治癒”をスローガンとしている。
クローン技術は医療連盟時代のもの。医療連盟時代を含み、数年かけて130万人ものクローン軍人を作り続けた。
セネイシアをリーダー(ヒーラーズ政府総帥)に、7人の幹部(レーリア、エデンら)がいる。
◇セネイシア
14歳の少年。ヒーラーズ軍のリーダー。ヒーラーズ親衛隊管理官。ヒーラーズ政府完成後はヒーラーズ政府総帥となる。
◇エデン
女性クローン。親衛士。ヒーラーズ防衛部隊管理官。
◇レーリア
女性クローン。剣闘士。ヒーラーズ制圧部隊の管理官。