第22話 エデンは一体、何者なんだ……?
【ホープ州西部 ダーク・サンクチュアリ(フェアラート郡) ファントム・フォレスト】
3人乗りの小型飛空艇が、霧の深い森へと着陸する。ダーク・サンクチュアリ――正式名称をフェアラート地方という場所だ。
フェアラート地方は、ほぼ全域が濃い霧とファントム・フォレストと呼ばれる森に覆われている。南部に小さな郡都・濃霧都市フェアラートシティがあるだけだ。
「こんな所にヒーラーズ軍の本部が……」
ヒーラーズ軍は多くの兵士と兵器を有していた。だが、それらは離島や辺境地帯を中心に、世界各地に点在するヒーラーズ軍の支部に置かれていた。
ソフィアや降伏したヒーラーズ兵の協力で、先日、全ての支部を制圧した。つまり、残すのは、ヒーラーズの本部――暗黒城だけだ。
「ソフィア、どっちだっけ?」
「あっちよ。この道を進んでいけば、セネイシア閣下の居城――暗黒城があるわ」
私とクラスタは、ソフィアの指差す方向を見る。霧が濃すぎて何も見えない。下手すると、森に迷い込みそうだ。
「行きましょう」
ソフィアが先に歩き出す。私たちも彼女について行くカタチで歩く。
3人でエデンやアーカイズ、レーリアと戦えるハズがない。アーカイズとレーリアはさておき、エデンとはまともに戦えるだろうか? 親衛士の名を持つエデンだ。セネイシアに触れることができれば奇跡なのかも知れない。
でも、ソフィアは大丈夫という。だから、私は軍を引き連れて来なかった。私とクラスタ。2人だけでダーク・サンクチュアリに足を踏み込んだ。
「アーカイズがルベライトの自殺を知ったらどう思うのかな……」
「さぁな。ルベライトが本当に自慢の弟子だったなら、エデンを殴り殺すかもな」
「きっとそうなるわ。アーカイズとルベライトの2人は、私も知ってる」
ソフィアは歩きながら言う。でも、アーカイズがエデンと戦って勝てるだろうか? あのジェネラル・シップを一撃で半壊させるエデンだ。あの拳を身体に喰らえば、どんな生き物でも無事じゃいられない。っていうか、それで生きていたら、生き物かどうか疑いたくなる。
「エデンは一体、何者なんだ……?」
「……元は連合政府の軍人よ、彼女」
連合政府…… 国際政府と3年半も戦ってる組織だ。ラグナロク大戦を引き起こした張本人。クローン軍人を最初に作り出した組織でもある。今でこそ分離・独立したけど、ヒーラーズ軍もかつてはその組織の一角を担っていた。
「その時の名は、コマンダー・セア。戦いになると、強力な魔法で敵味方問わず虐殺する彼女を、連合政府は、上官殺害未遂事件をキッカケに捕まえ、その地位を剥奪したわ。そして、最上級反逆者として、彼女はデスペリア支部に収監されのよ」
デスペリア支部は最上級反逆者となったクローン軍人を閉じ込める連合政府の施設だ。日夜、拷問にかけられ、囚人となったクローンは、終身刑や死刑よりも辛い目に合わされるという。
「数ヶ月に渡る拷問で、さすがの彼女も、泣き叫んで許しを求めたわ。でも、そんなある日、当時のヒーラーズ・グループのリーダー・ヴァイスは彼女を今の暗黒城に移送した。それが、悲劇の始まりだったのよ」
「悲劇……?」
「コマンダー・セアは、ヴァイスと敵対関係に陥っていた息子シアと上手く手を結び、――」
「ヴァイスを殺したのか」
ヴァイスからして見れば確かに悲劇だ。デスペリアから自分の近くに彼女を置いたがために、殺されてしまった。
にしても、ヴァイスとシアはどうなっているんだ? 敵対関係に陥るなんて…… しかも、殺すなんて信じられない。自分の父親なのに……
「……息子シアには、好きな娘がいたのよ」
「好きな娘?」
「ええ、そうよ。その子の名前はネイ」
まさか、そのネイとやらの取り合いか?
「父親のヴァイスは、ネイを“大切な息子シアを誘惑する娘”として、殺したのよ」
「は?」
「ヴァイスは連合政府リーダーの1人。フェアラートシティに住む田舎娘の殺害なんて、簡単に出来たのでしょうね」
父親殺しのシアもシアだが、ヴァイスもヴァイスだ。普通、そこまでやるか? 自分の息子が愛した娘を殺すなんて……
「……それで、シアは父親を殺したのか」
クラスタが言う。なるほど、これで父子の敵対関係ということが分かった。その敵対関係に、コマンダー・セアが入り込んできたんだ。
……セア? シア? ネイ? 私の頭に、3人の名前が駆け巡る。どこかで聞いたことがある。いや、似たような名前を……
「なるほど。……で、その後は?」
「一連の事件でヒーラーズ・グループは壊れてしまったわ。正式な手続きもないまま、シアがリーダーになり、コマンダー・セアがそれを支えるカタチになった。そして、今に至るのよ」
「今に至る? でも、今のヒーラーズのリーダーはセネイシ…… …………!」
自分で言って、ようやく気が付いた。セア、シア、ネイ。似たような名前。ヒーラーズのリーダーになったシア。――セネイシアだ!
「気が付いたようね。セネイシア閣下はかつて、シアという名前だったのよ。好きな娘の名とセアの名を自分の名に組み込んで、セネイシアという名前を作った」
「そうか、そんなことがあったんだ……」
「……セネイシアになったシア閣下から、コマンダー・セアは、“憎い敵を滅ぼし、心の悲しみを吐き出せる唯一の人”として、エデンの名を貰ったわ。でも――」
「でも?」
「――ごめんなさいね、なんでもないわ。……ほら、暗黒城が見えてきたわ」
ソフィアは道の先を指差す。そこには巨大な石造りの城が見えていた。不気味な城だ。人の気配が全くない。あそこにセネイシアとエデンが……
「大丈夫。味方の方が多いから」
「…………?」
私はソフィアの言葉の意味が分からなかった。でも、今はそれを問う時間じゃない。私たちは、静まり返った暗黒城の正門から中庭へと入っていく。いよいよ、だ――




