第10話 えへへ、見て見てっ!
【ウォルタミア防衛師団本部 最高司令室】
水流都市ウォルタミアシティに夜が訪れた。日は沈み、街はビルやマンションの窓、街頭から発せられる光でいっぱいになる。
水流都市の名を持つだけに、市街地にはいくつもの小さな川のような水の道がある。普段は小型の船でそこを移動する人も多くいるが、今日は誰一人としてそこを通っていない。ウォルタミアの市民は、ヒーラーズ軍に強制的に市内の公共施設に避難させられたからだ。
私は誘導される市民に紛れていたところを捕まった。でも、それは作戦の内。私が騒ぎを起こしている隙に、クラスタはあのエリアを突破したハズだ。
「お前は国際政府特殊軍の将軍にして、臨時政府の総帥」
私を捕まえた戦闘士アーカイズが私の前に立っていう。彼女も剣闘士レーリアと同じく七衛士(上級幹部)の地位を持つ。その実力は怪物クラスだろう。ここで下手に抵抗して勝てる相手じゃない。
「お前を人質に取り、“私の軍”と共に、政府首都グリードシティを攻撃する」
アーカイズの軍…… ヒーラーズ強襲部隊(第3a兵団)のことか。ソフィアからヒーラーズ精鋭部隊(第3b兵団)と共に、精鋭揃いの強力な兵団って聞いている。兵力はヒーラーズ制圧部隊やヒーラーズ掃討部隊ほどじゃないけど、1人1人がとにかく強いらしい。
ヒーラーズ駆逐部隊、ヒーラーズ掃討部隊、ヒーラーズ強襲部隊、ヒーラーズ精鋭部隊。この4兵団が首都を攻撃したら、国際政府は滅ぶ。この4兵団から首都を守るだけの力は、今の国際政府にはない。
「タンザナイト中将、スギライト中将」
アーカイズはコンピューターを操作する2人の一般幹部に声をかける。戦闘系の一般幹部は、そこそこ強いらしい。ソフィアによると、あの2人は確か戦闘系だ。
「ダーク・サンクチュアリのセネイシア閣下に連絡を。――これから首都攻撃を開始する、とな」
「……イエッサー」
「それと、私の軍にウォルタミアシティに集結するように、と――」
アーカイズがそこまで言ったときだった。最高司令室の扉が左右に開かれ、誰かが入ってくる。……年齢がやや低い女の子――召喚士のクリアだ。
「やぁ、アーカイズちゃん!」
「クリアか。何の用だ?」
「んふふっ、アーカイズちゃんに吉報だよっ! ……さっき、臨時政府のクラスタを見つけたんだ」
「なにっ!?」
「…………!」
私はクラスタの名を聞いたとき、心臓がぎゅっと握られるかのような感覚に陥る。そして、ヒヤリとした汗が背を走る。身体が震える。
「……まだ仲間がいたのか」
「…………」
クラスタが見つかってしまった……! その事実に、私は絶望を覚える。これでウォルタミア防衛師団要塞を鉄壁の如く固められてしまったら、手も足も出なくなる。ひっそりとウォルタミア防衛師団本部に侵入しアーカイズを倒す、という計画は完全に崩れる。そして、政府首都で決戦を迎えることになる。
「それでクラスタはどうなった?」
「うん、――殺したよ」
「……えっ?」
殺した……?
「射殺とはいかなかったけど、殺したのは確かだから安心してよ! なんなら、死体でも持ってこようか?」
クリアは楽しそうに話す。アーカイズも安心したような表情を浮かべている。それはそうだろう。クラスタが死んだということは、臨時政府軍は主力を失ったも同然なのだから。
私の脳裏に、クラスタとの記憶が駆け巡る。彼女とは何度も共に戦い、苦楽を共にした。大切な仲間だった。その彼女は、もうどこにもいない。
……心のどこかで、今回の作戦もきっと上手くいくと思っていた。クラスタは死なない。そう思っていた。でも、死んでしまった――
「なんで、クラスタっ……」
熱い涙が頬を伝う。心に悲しみと絶望が広がる。それと同時に、ヒーラーズ軍に対する憎しみも湧き上がってくる。アーカイズが、クリアが、クローン兵士たちが、セネイシアが――憎い! 殺してやる! 殺して、その身体を剣でズタズタに斬り裂いて――!
コンピューターを操作していたスギライトとタンザナイトがアーカイズの横に立つ。
「えへへ、見て見てっ!」
「クリア、わざわざ死体を召喚しなくても……」
「…………!?」
クリアが何かを召喚しようとしている。いや、何かはすぐに分かった。クラスタの死体だ。私の大切な仲間の亡骸を、アーカイズの前に晒そうというのだろう。
私は意識せずに目を背ける。見たくなかった。クラスタの死体を。認めたくなかった。クラスタが死んだという事実を――
……ここにいる全員を、即座に殺し、クラスタを連れて帰ろう。どこか、彼女が安らげる場所を探し、お墓を立てよう。
そして、それが終わったら、臨時政府の軍勢を率いて、ヒーラーズ軍を滅ぼしてやる。セネイシアも、レーリアも、エデンもみんな殺してやる。いや、セネイシアの前でまず仲間から殺してやろうか。生きて失う悲しみを、あの子供にも受けさせてやる――!
どす黒い感情に、心が呑み込まれていく。戦いを欲し、憎しみのままに全てを滅ぼそうとする、私の黒い心が台頭してくる。
だが、そのときだった。
「――クリア、これはどういうつもりだ?」
「……えへへ、見たまんまだよ。アーカイズちゃん」
「えっ……?」
私が顔を上げたとき、信じられない光景が広がっていた。
「……パトラー」
スギライトとタンザナイトの2人がアーカイズに武器を向けている。クリアの前には、ジャスパーとヘキギョクの2人がいる。そして、――
「作戦は予想に反して大成功のようだ」
死んだと思っていたクラスタが、2本の剣を手に立っていた――!




