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オオカミ男+ヴァンパイア

作者: 早瀬一輝

中学の頃に書いた小説です。読んでみてください

 真夜中。


 二十代位の女性が一人で街灯しか点いていない商店街を歩いている。すると後ろに気配を感じ振り返る…しかし誰もいない。彼女は気のせいかと思いまた歩き始める。次は足音がしてきた。音はどんどん大きくなってくる。そして突然音が止み彼女は振り返る。やはり誰もいない。足音の本人はどこかで曲がったのかと思い前を向く。


 前には尖った耳と上の側切歯二本が尖っていて長い、まるで絵に描いた様なヴァンパイアが立っていた。そしていきなり彼女の首筋を噛み吸血する。


 吸い終えるとヴァンパイアは彼女を置いて夜の闇へと消えていった。倒れている彼女から少量の血が流れる。


「うわー!」


 という映画を見て真っ暗な部屋の中一人の少年が叫ぶ。そして一人の女性が電気を点けると少年は毛布をかぶりうずくまって出ようとせず震えている。


 しばらくすると黒髪のショートカットで焦げ茶色の瞳をした少年は顔を出す。


「ま、聡姉…。こ、これはまだ早過ぎるってー」


 震えた声で電気を点けた彼女に言う。


 このビビッてるのが俺、西城隼人十五歳。


 明日から入学する地元にある県立大森高校の入試を五教科全て満点を取った。


 将来数学者を目指す高校生……になりたかったヴァンパイア。


 昨年大森高校は、女子陸上部がリレーで全国初ベスト三に入った実績をもっているだけあって今年入学する一年は、女子ばかりだそうだ。


「まったくー。珍しく血の苦手を克服したいって言うから就職活動で忙しいのに手伝ってあげてるんだよぉー」


 彼女は俺の実の姉で大学三年の西城聡子二十二歳。優しくて弟思い出で、俺にとって自慢の姉。


 聡子は一流のヴァンパイアで家にはほとんどいない、ヴァンパイア一族リーダーで父の西城春馬と幹部で母の西城恵理からすごく信頼されている。


 それはさておき、俺はこの世の中で一番と言っていいほど血が苦手だ。


 一応言っておくがどの妖怪にも言えることだが今のヴァンパイアは人から吸血しなくても生きていけるし、昔とは違って弱点は無くなり身体能力と背中からコウモリの羽が出せる事など戦闘時での形態以外は人間と同じで寿命だって人間と変わらず生きている。


 しかし中には未だに人間を襲う妖怪は山ほどいる。そんな妖怪を倒し人間を守るのが俺たちの役目。


 なぜ人間を助けたり、同じ妖怪を倒すのかは詳しく聞かされてない。


 そして俺は血が苦手なせいか覚醒、ヴァンパイアの血が目覚めず九十九%は人間で妖気もまともに出せない。


 だけど一秒でも早く血を克服し、人間の役に立ちたいと思っている。


「ほら早く出てくるの」


 茶髪のロングヘアーで真っ赤な瞳をした聡子は隼人がかぶっている毛布を強引に取り上げた。


「あぁっ」


「あぁじゃない。この際お父さんとお母さんに言っちゃえば?」


「やだよ。この事知ったら破門にされるか三途の川を渡らなくちゃいけなくなるよ」


 両親はただでさえ、ほとんど人間な俺を役立たずだから嫌っているのに血が苦手だなんて知ったら二人は何をしでかすかなんて想像したくも無い。


「冗談よ。それよりまだ血が苦手な原因は分からないままなの?」


「うん。まったく…」


 聡子は部屋の時計を見ると既に午前0時を回っていた。


「じゃあもう遅いから寝なさい」


「うんおやすみ」


 隼人はベットに入る。


「おやすみー」


 聡子は電気を消してドアを閉める。




 翌朝。


「隼人―」


 西城家の前で大森高の制服を着た、隼人と同じ位の歳で金髪のツインテールをした鋭く赤い瞳をもつ少女が隼人を呼んでいる。


 玄関のドアが開く。


「お待たせー」


 隼人は大森高の制服を着て、渦巻き状のレンズのメガネを掛けた格好で少女の前から出てきた。


 彼女は白鳥愛同じ十五歳。俺とは幼馴染みで、大森高に入学する1年生。勉強は俺の方が出来るけど頭は良い方だし、運動も中学の陸上部でとてもいい成績を残していて胸以外の顔もスタイルもよく見た目はほとんど完璧に近いくらい。


 ただし見た目がいいせいか、口が人一倍悪い。


 でも本当は素直になれないだけであって根は良い子。いわゆるツンツン系だ。そして愛も仲間のヴァンパイアで小四の時点で既に覚醒している。


 愛は呆れた目で隼人を見ている。


「高校でもそのメガネ掛けるんだ」


 そう言いながら隼人が掛けてるメガネを指差す。


「うん。俺はヴァンパイアのくせに九十九%は人間だからこのメガネでなるべく目立たないようにしないと」


「メガネ掛けてなかった隼人は結構イケメンなのに…」


「ん、何?」


 愛のつぶやきが聞こえなかったらしく確認する。


「な、なんでもない!早く行くよ」


 愛は顔、そして耳まで赤くなり歩いていった。隼人も遅れずと愛の元へ走る。


「やっぱ愛は陸上部に入部するんだろ?」


「当たり前でしょ。その為にこの高校に入学したんだから。悪いけど運動の出来ない隼人とは違うんだから」


「はいはい」


 二人は十字路に来ると横から一人の少女がすごいスピードで走ってくる。


「どいてー!」


「愛!」


 隼人は愛を押し倒し、若緑色の髪でロングヘアーの黄土色の瞳をした彼女と思いっきりぶつかり倒れる。


「いてててて…」


 隼人は手の平に触れている何かを握る。


 その感触は今まで一度も触ったことの無い柔らかさだ。


「柔らかい…」


 もう一度握る。


「あぁっ……!」


 その声を聞いた時、嫌な予感を感じた。恐る恐る目を開けてみる。


「やっぱりそうか…」


 隼人の上に気絶した彼女が乗っていて、そして隼人は少女の胸を触っていたというまさに良くありがちな最近のラブコメの様な展開になっていた。


「それにしても大きいなぁ…」


 隼人は顔を赤くする。


「はーやーとー…」


 二人の横で愛が激怒して今にヴァンパイアの力を使ってもおかしくない状態になっている。


「こ、これは違うんだ。ただの不可抗力であって…ん?でもこういう予想もしていたからその時に離せばよかったのか?…」


 慌てて手を離す。それを見ると愛は隼人を置いて先に行ってしまった。


 しばらくすると少女は目を覚ます。


「うーん…」


 少女は寝ボケているのか、目が半開きになっている。


「おはようございます」


 隼人の言葉から数秒経つと、正気に戻り立ち上がる。


「すみませんでしたっ」


 彼女は深く頭を下げる。


「い、いいですよ。それよりその制服は大森高のですよね」


「はい…そういえばあなたも。私は今日入学する一年の南川涼です」


 あれ?


「ちょっと待って…一年生?」


「そうですが何か?」


 お、おいスタイルがいいのはまだしも胸のデカイ高一なんか普通いないだろと思いながら涼の胸を見る。


「ど、どこ見てるんですかっ!」


 涼は恥ずかしそうに胸を隠す。


「ごめんごめん。俺も一年の西城隼人だ。とりあえず歩こうか」


 隼人は歩き始め、涼も隣を歩く。


「西城さんも一年だったんですね」


「それはこっちのセリフ。あと隼人でいいよ。南川って足速いんだね」


「私も涼でいいですよ。中学の陸上部では男子にワンダフルウーマンなんて呼ばれてたんですよ。ワンダフルって素晴らしい位に足が速いって事ですよね?」


「あ、あぁ…」


 違う。その男子は足の事じゃなくて胸の事を言ってるんだ!なんて涼には言えない隼人であった。


「あの隼人君。さっき誰かと一緒にいませんでした?」


「ああいたよ。何で?」


「いえ。ちょっと気になっただけです。…あれはきっとその子の妖気ね……」


 涼の顔が険しくなっていく。


「大丈夫か?」


「え?ええ。ノープロブレムです」


 そんな事を話している間に大森高校の正門に着いた。すぐ傍には掲示板があり、一年生達は貼られていたクラス分けの発表を見ていた。二人も確認しようとするが一年生達の頭で見えない。


「これじゃ見えないな…ちょっと待ってて」


 隼人は無理やり人ゴミの中に入っていく。


 しばらくしてやっと隼人が出てきた。かなりへばっているようだが…


「大丈夫ですか?」


「ああ…で俺と涼は同じ一組だよ」


「本当ですか?!…よかったー」


 涼は心からホッとしている。


「一組がそんなにうれしいの?」


「いえ恥ずかしい話ですけど…私、大森高校に来るのに一人暮らしできたんで、知り合いがいないんです」


「それはうれしいなぁ」


「え?」


「だってそうだろ?こっちに越してから俺がファーストフレンドになるんだからうれしいんだ」


「友達ですか?」


「あっごめん俺なんかじゃ嫌だよな」


「そんな事ないです。逆に友達って言ってくれるなんてうれしいです」


 涼は隼人が涼に会ってから今日一番の笑みを見せる。


「ありがと」


「随分仲よさそうね。残念だけど私も一組だから」


 いつの間にか愛が二人の後ろに立って疑惑の目で見ていた。


「あっ紹介するよ。彼女は涼に会うまで一緒にいた白鳥愛」


「どーも」


 愛は無愛想にあいさつする。


「でこの子は南川涼」


「よろしくお願いします」


 一方涼は愛とは違いお辞儀までする。


「隼人。ちょっと来て」


 愛は隼人を連れて人気の無い場所に行く。


「どういうつもり?」


「何が?」


「南川って子の妖気に気付かなかった訳?」


「うん」


「はぁ…あれだけ強い妖気だったのに」


 呆れてため息をつきながら言う。


「大丈夫だよ。南川は悪の妖怪なんかじゃないよ」


「少しは隼人も人を疑うってこと覚えた方がいいわよ」


「でも疑うなんてことはあんまりしたくないし」


「私達ヴァンパイアの掟は?」


「え、えっと…その一我ら善の妖怪は人を傷つけてはならない。その二我らが妖怪であることは決して知られてはならない。その三人間を喰らう者は同じ一族であっても許してはならない…でいいんだよね?」


 隼人は戸惑いながら言う。


「うん!じゃ行くよ」


 戻ってくると涼はさっきの場所で待っていた。


「二人で何してたんですかー」


「何でもないよ。それより教室行こう」


 隼人はそう言って、校舎に入っていく。


「南川さん」


 愛の声で涼は愛を見る。


「隼人に何かしたら私が許さないから」


「へ?急にどうしたのですか?」


 怒り口調の愛に対して涼はとぼけながら言い、校舎に入っていった。


 一方一年一組の教室は初日だからか皆一言も喋らず指定された席に着いている。一番後ろの席の隼人は

運がいいのか両サイドが愛と涼だった。


「なぁ、後ろの女子二人かわいくねえ?」


 一人の男子生徒の一言で男子達がざわついてきた。


 その時、丁度黒いスーツを着た金髪で真っ赤な瞳の男性イケメン教師が入ってきて女子のざわめきが強くなる。


「静かにー。今日から一年一組の担任になる白鳥雅也だ。一年間よろしく」


 イケメン教師が軽く笑うと女子のざわめきがMAXになる。


 彼はこの一年一組のであり、愛の実の兄である白鳥雅也。彼は聡姉と同じ位の実力である。雅也さんの他にも教師の中に末端の末端だが妖怪が結構いるらしい。


「あっ隼人、久しぶり」


 雅也は隼人に気付き教卓から声をかける。


「どうも…」


 前から同級生たちの視線がくる中、返事する。


「聞いたぞー入試で満点取ったんだってな。まあ隼人は昔から頭良いかったからな。おっと、それじゃ体育館集合するぞー」


 体育館に来ると出席番号順に座らされた。開会の言葉や校長先生の話が終わり生徒代表挨拶に入った。


「…続いては生徒代表挨拶、一年一組大森優梨子」


「はい!」


 司会の人の呼び声で返事し立ち上がる。


 彼女は大森高校創設者の曾孫で入試は満点を取った大森優梨子。五日前電話で生徒代表が俺じゃ無いって聞いたから代表やらなくてホッとしている。


 黒い目と髪で三つ編みをし、文学少女的なオーラを出す優梨子は壇上に上がりマイクの前に立つ。そして喋ろうとした時……


ゴゴゴゴゴゴ。


 急に地響きがしだした。やみ終わると外が騒がしくなった。一人の教師が外の様子を見に行く。


 しばらくしてその教師が戻ってくる。他の教師達と何か相談している。話がつくともう一人の教師が壇上に上がる。


「今日の入学式は中止!早くここから非難知るんだ」


 だいぶ落ち着いている。あの教師は妖怪だろう。という事は…。


 壇上に上がった先生は優梨子を連れ、一組の席の方へ送る。隼人は丁度近くに愛が座っているのに気付き小さな声で話す。


「もしかして妖怪?」


「多分ね…でもフィールドを作らなかったなんてね。世ほどの馬鹿か、人に危害を加えたい、いや殺したいかのどちらかね」


 愛の言ったフィールドとは妖怪の持つ技みたいな物でそれを使うと、丁度この学校が一つ入るくらいの大きさになり使った妖怪に合ったステージに変わるという、ネーミングセンスはひどいが他にもこの中に入った人間は妖怪の許可が無い限り、無意識に気絶し解除後はどれだけ荒らしてもフィールドを使う前に戻りるいう案外便利な技だ。


「愛、俺が生徒達の非難をさせなくちゃいけないからその間は任せてもいいか?出来るなら倒してもいいぞ」


 いつに間にか雅也が二人の傍にいた。


「雅也さん、俺にも手伝わせてください」


「駄目だ。隼人はまだ覚醒していないし、それ以前に血が苦手な君がいても足を引っ張るだけだ」

 確かにそうだ。たった一滴でも見ただけで気絶しそうな位に苦手だけど…


「僕にもヴァンパイアとしてのプライドがあるんです!」


 しかしそれは自分の血が苦手なのを無理やり治す為の建前でしかなかった。


「分かった。でも無理だけはするなよ」


 そう言って雅也は生徒達を避難させる為に生徒と外に出た。


「私達も行くわよ」


 愛の言葉で隼人は頷き外に出る。校庭には大森高の建物五階分の屋上より、はるかに巨大な黒い人形妖怪が立っていた。


「ダイダラボッチね」


 妖怪には種類ごとにG~AそしてSとそれぞれランクに分けられている。その内日本の妖怪ダイダラボッチは打たれ強い体と破壊力からAランクに入っている。


 ダイダラボッチは二人に気付き足で踏み潰す。それを愛は隼人を連れ攻撃をうまく避け屋上まで大ジャンプする。


 屋上に着き隼人は下ろされると腰が抜けそのままそのまま座る。


「ご、ごめん」


「別にいいわよ」


 愛はそう言うと腕を上げ、指を鳴らす。すると太陽は赤い月へと変わり月から一匹のコウモリがやってきた。


「これが愛のフィールド?」


愛のフィールドって居心地がいいななどと思いながら周りを見渡す。


「えぇ。それよりこのコウモリを隼人に貸すから好きに使いなさい」


 愛は背中から小さなコウモリの羽を出し屋上から飛び降り、そのままダイダラボッチの耳元へ行き口から超音波を出す。しかし全く聞かずダイダラボッチの攻撃をわき腹にモロに食らい吹っ飛ばされろ。


「うっ…!」


 愛の意識が薄れていく。


「きゃーー!」


 体育館の渡り廊下で一人の一年女子生徒が叫ぶ。ダイダラボッチがそれに気づき彼女に迫る。

拳にした手を振り上げる。


「やめろー!!」


 その隼人の一言が沢山のガラスが割れる程のボイスになりダイダラボッチの耳に入る。

頭に響いたのか拳の軌道がはすれ、彼女から二十cm横を殴りうずくまる。彼女も気絶する。ちょうど愛は目を覚まし、ゆっくり立ち上がる。


「くそ…って一体何があったの?!」


 ダイダラボッチも立ち上がり次は隼人に怒りの矛先を向けた。


「隼人!…うっ」


 愛は隼人を助けに行こうとするが、さっき攻撃されたわき腹が痛み、飛ぶことも全力で走ることもできない。一匹のコウモリが守ろうとするがでこピンで簡単に倒される。ダイダラボッチは隼人の体を握りそのまま握りつぶそうとする。


「うわー!」


 その拍子でメガネが取れる。骨が折れそうな位痛い。隼人は愛を見ると愛は目を潤わせ腹を押さえながら必死でこっちに向かっている。


 隼人の体はもう自分の力で動かせなくなってきた。


「もう、駄目か…」


 そうつぶやき隼人は目を閉じていく。


「やだよ隼人…。これから高校生活が始まるのに。一緒に学校行って、一緒にお昼食べて一緒におしゃべりして…だから死んじゃやだよ。隼人―!」


 愛の言葉で隼人は少し意識が戻る。


 そうだ…俺、まだ色々やらなくちゃいけないことがあるんだ。こんなところで負けられない!


 力を望むか?…。


 するといつの間にか真っ暗な四次元空間にいた。隼人の前には一滴の血の雫が現れた。だが心の中だからかそれとも、もう反応できなくなったのか血が全く怖くない。


「そんな物いるか!…って言った方がカッコいいけどとりあえず一時的でいいから少し欲しいかな?」


 アンシンジラブルな奴だな。


「あんたって随分古い死語使うんだな」


 まあこれ以上だべっても仕方ないな。


「あ、ちょっと」


 真っ暗な空間がゆっくり明るくなる。気がつくとダイダラボッチはまだ自分を握り潰そうとしていた。


 あれからまだ、あまり時間は経っていないのだろう。


「死んでたまるかっ!」


 隼人は逃れようと悪足掻きをする。すると運良く隙間ができ、うまく使いそのまま地面に落ちていく。


「隼人!」


 落ちていく隼人から今まで感じたことのない強い妖気を感じる。赤い月からは何百ものコウモリが一斉にやって来て、隼人の体を包む。地面まで着くとコウモリ達は再び月に帰った。


 その中から前髪だけ白くなり、真っ赤な瞳の隼人が立っていた。


「おい!Bクラス風情が調子に乗るな。今ならとんこさせてもかまわないぞ?」


 いきなり死語を使う隼人に何も言う事ができない愛。ダイダラボッチは隼人の聞く耳を持たず踏みつける。しかし隼人の姿はなく四階の学校より遥かに高いダイダラボッチの頭上を足だけで飛んでいた。


「食らいやがれー」


 隼人は自分が落ちていく中、片足を使い残像が残る程のスピードの蹴りをダイダラボッチの体に食らわす。


 地面に隼人の足がつき、数秒経つとダイダラボッチは崩れる様に倒れた。


 それを確認し終えると隼人は愛の元へ近づく。


「隼人なの?」


 愛の言葉で軽く笑うと隼人はいきなり愛の方へ倒れ、愛も隼人を支えられず一緒に倒れる。今の隼人は髪も、瞳も元に戻り妖気一つ感じなくなっていた。


「は、隼人こんな所で寝ないでよ」


 愛は上で寝ている隼人を揺らす。


 しかし隼人は全くピクリとも動かない。



 しばらくすると雅也がやっと戻ってきた。


「これは凄い」


 雅也は呆然と全て割れたガラスと幾つもヒビが入った建物を見渡す。するとさっきまでダイダラボッチが倒れていた場所に一人の黒いスーツを着た、見知らぬ中年男が倒れている。


「リストラでもされて腹いせにこの高校を襲ったって所か…」


「ねぇ、そんな事してないで手貸してよー」


 一人で推理している雅也に愛は助けを求める。


「おっと、ごめんごめん」


 それに気づいた雅也は二人の元へ行き、眠っている隼人を引き上げる。


「それにしても愛がダイダラボッチを倒すとはね」


「私じゃないわよ」


「え?じゃあ…隼人?」


 雅也の答えに愛は頷く。


「一時的だったけど兄さん以上の強い妖気をいきなり出してそこからは一、二分で倒しちゃったの。この窓ガラスほとんどは隼人が壊したんだと思う」


 最初は冗談だと思った。だが戻る途中自分にも強い妖気を感じた事を思い出す。


「そうか、これは調べ外がある。愛、俺は隼人を連れて先に帰るからあとはよろしく」


 雅也は隼人を担ぎ見るからに新しい黒いスープラに乗せてさっさと帰った。


「はぁ、妹を置いて帰るなんて兄としてどうなのかしら…」


「やっと目覚めてくれたようだ」


 兄の雅也に呆れていたあいの前にフード付きのグレーのパーカーと、黒いジーンズの男が立っていた。顔はフードを被っていてよく見えない。


「あんた何者?」


 愛の質問には答えない。


「時は来た。ヴァンパイア最強の、ヴリコカラスの少年がこの世界の救世主メシアとなるだろう」


「どう言う事よ!」


 やはり何も答えずに、凄い勢いで彼は飛び屋根に移りながら消えた。


「あいつの妖気もさっきの隼人程じゃないけどかなり強かった。女子生徒をフィールドに入れたのもあいつね」


 そうつぶやき、愛は気絶した女子生徒の元に行く


「とりあえず後始末しなきゃ」


 彼女の頭に手をそっと触れる。すると愛の手の平からほのかな薄ピンク色の光が出てきた。やがてその光は少しずつ消えていき、光は消えた。


「記憶の消滅は完了っ。あとは…」


 女子生徒に触れている手をそのまま赤い付に向け念を込めると赤い月は消えいつも見る太陽に戻った。それだけでなく、壊された窓ガラスや折れた木々も愛がフィールドを作る前の校庭に直されていた。


「完璧ね。最後は…」


 次は倒れている中年男の元に行く。女子高生と同じように手で触れる。薄ピンクではなく、真っ白い光が出てきた。その光は中年男の体に入る。


 すると中年男の体はたくさんの小さな光の玉になり空に昇って行く。


「善の妖怪だったみたいね。安らかに眠りなさい」


 愛はその一言だけ言い、光の玉を見えなくなるまで空を見上げ続けた。


 その頃雅也は隼人を自宅まで送り、今は我が家の書庫でたくさん古い本を出し何かを調べていた。しばらくすると何か分かったのか凄く険しい顔をする。


「これだ…すぐに春馬様に伝えなくては!」


 雅也は隼人の父、春馬の元に今調べた何かを伝えるため大急ぎで書庫を出た。雅也の机にはギリシアについての厚い古本が置いてあり、開いているページにはヴリコカラスという単語が大きく書かれていた。




「う……」


 隼人はゆっくり目を開ける。そこは自分の部屋の天井が見え、横には聡子が心配そうに見ている。


「隼人、大丈夫?」


「うん。どの位寝てた?」


 そう言いながら体を起こす。


「二年」


「そんなに?!」


「…引く一年と三百六十四日と二十一時間」


「そんな面倒くさい事いらないからっ!」


 隼人は今になり聡子が冗談好きと言う事を思い出した。


「三時間か…思ったより短かったな」


「そんな事より隼人!」


 聡子がいきなり上目使いになる。


「な、何?」


 顔を赤くした隼人は聡子の谷間を気にしながら言う。


「Bクラスのダイダラボッチと戦闘中に覚醒してやっつけたって本当なの?!」


 子供が何か期待した様な目で見る真由美にますます赤くなる。


「分かった。言うからそれやめてよ」


 隼人は聡子から目線を離す。


「で、どうなの?」


 隼人の言われた通り上目使いを止め、改めて質問する。


「うん。それが俺もよく分からないんだ。俺はダイダラボッチの手から離れた後何故か眠っちゃって、今起きるまで真っ暗な空間をさまよってたんだ」


「聡子さん、隼人起きましたか?」


 隼人の部屋に愛が入ってきた。


「ええ。さっき起きたわよ」


「まったく覚醒してから三時間も寝てるってどういう事よ!」


「またまたー。三十分区切りで様子を見に来てたのはどこの誰でしたっけ?」


 隼人を睨んでたの愛は聡子の言葉で真っ赤にする。


「さ、聡子さんっ!」


「間違ってたかしら」


 恥ずかしそうにする愛を真由美は小さく笑う。


「愛…」


 そうか。愛は昔から何だかんだで心配性な奴だったな…。


「愛」


「な、何よ?」


 隼人に返事はするものの、恥ずかしくて目を合わせずらい。


「心配かけてごめんな」


 隼人の一言で愛の顔はさらに赤くなりそっぽを向く


「べ、別に隼人の為なんかじゃないわよ。これは…そう!隼人がいないと部活で忙しい私の勉強を誰が教えてくれるのよ。だから隼人がいないと困るだけなの」


 自分の中では最もらしい言い訳なのか自信気に言う。でも実際、中学の時も部活をやっていたが隼人に教えて貰った事など一度もなかった。


「話を変えるけど、愛ちゃん?」


「はい?」


 聡子の呼びかけに愛は返事する。


「愛ちゃん、隼人が覚醒した時近くにいたでしょう?その時の事詳しく聞かせてちょうだい」


「はい…」


 愛は聡子に隼人とダイダラボッチとの戦闘を詳しく話した。


「なるほどね…」


「あと兄が帰ってからも続きがあるんです」


 最後にグレーのパーカーを着た男の言った事も話した。


「聡子さん。ヴリコカラスって一体何なんですか?」


「ちょっと待ってて」


 聡子は小走りで隼人の部屋を出た。しばらくすると、真由美は一冊の古本を持ってきた。雅也の机に置いてあった物と同じだ。


 そして、ページを開く。


「これを見て…」


 開いたページにはヴリコカラスの事が細かく書いてあった。


「隼人、今から言う事を正直に答えてね」


「う、うん」


 隼人はこれほど聡子の表情が真剣になったのを見たことがなかった。


「心の中で誰かと話しなかった?」


「一滴の小さな血が俺に話しかけてきた。でもその血を見ても何とも無かったよ」


「そういう事ね…」


 真由美は隼人の体に起った現象を理解した様だ。


「もし隼人が仮にこのヴリコカラスだとするとヴァンパイアじゃなくてオオカミ人間になるわね」


 聡子の言葉を聞いた二人は自分が聞き間違えたのかと思った。それもそのはず、隼人は…もちろん愛も、隼人はこれまでヴァンパイアとして生きてきたのに今になってオオカミ人間だなんて言われても納得いく訳がなかった。


「で、でも真由美さん。隼人が覚醒した時目はちゃんと赤くなっていましたよ?!」


「まだ仮って言ったでしょう?普通のヴァンパイアは覚醒したら赤い目のままなはずだけど隼人の目は真っ黒。ヴリコカラスは生まれた時はオオカミ人間。そして一度死んだらヴァンパイアと化す。」


「なら隼人はもうヴァンパイアじゃ…」


「いいえ。さっき愛ちゃんは隼人の前髪が白くなって目も赤くなったって言ったわよね?それが隼人のヴァンパイアよ。でもヴァンパイア化したヴリコカラスは二度とオオカミ人間には戻ることは出来ないから隼人がヴリコカラスという仮なの」


 すると隼人はベッドから出て部屋の窓から雲が月を覆った空を見上げる。


「俺がそのヴリコカラスだと仮定して言うけど、今の俺はヴァンパイアじゃないけど3大妖怪の一種オオカミ人間なんだよね?だったらこれから俺は愛達の役に立つって訳でいいんだよね…」


「ねえ、隼人?」


 聡子が後ろから隼人の肩を叩きながら呼ぶ。隼人は振り返ると目に入ったのは血の写った写真だった。流れで大声で叫び、気絶しそうになったが何とか腰を抜かすだけで済んだ。


「さ、聡姉―」


 写真をすぐ近くの勉強机に置く聡子を床に座りながら隼人は震えた声で言う。


「少しはマシになったみたいだけどこんなんじゃまだ戦いどころか私生活だってやっとじゃない。たまたま分かった自分の力に過信するんじゃないわよ」


 痛い所を衝かれ下を俯き何も言わなくなった。


「まあ一晩よく考えなさい」


 聡子は隼人の頭を軽く叩き「愛ちゃんも行くわよ」と言い無理やり手を引っ張って部屋を出た。


 そして一人になった隼人…。


「聡姉の言う通りだ…。俺の力が分かった所で血が苦手だと言うのは変わらないじゃないか…」


 そうつぶやくとさっきまで腰が抜けていたのにも関わらず普通に立ち上がり、ゆっくりベッドの方へ歩く。そしてうつ伏せで倒れるように横になった。


「はんーーっと、俺情けねえなあ…」


 その一言だけ言い、いつの間にか眠っていた。





 一方聡子と愛は風呂に入っていた。


「愛ちゃん…ただ普通の人より少し発育が遅いだけだから気にしないほうがいいよっ!」


 いきなり言い出した聡子の言葉で中二からその事を自覚している愛は顔を真っ赤にして腕で胸を隠す。


「大きなお世話です!そんな事より隼人って意外と弱虫なのにあんな強く…」


「愛ちゃん、隼人がどうして頭良いか知っている?」


 愛の言葉を最後まで聞かず話をする。


「隼人ってヴァンパイアとして生きてきた訳だから覚醒が遅すぎるって周りの妖怪たちから嫌がらせされていたの。特に優秀な愛ちゃんと幼馴染みだから余計ね」


「全然知らなかった。じゃあ私のせいで…」


「あ、別に愛ちゃんが全部悪いって訳じゃないよ。ほら姉の私もいたし」


 暗くなった愛を見て、聡子は必死に言うと「あっそうですよね」何事もなかったように元通りになる。


「ま、まあ隼人が小学四年生の頃、愛ちゃんが学級委員で遅くなった夏休み直前の日に他の妖怪にボコボコにされて帰って来たの…」




 ――夕日の赤い光が住宅街を照らす中、まだ十歳の隼人は泣きながら家に帰っていた。家に着くと中から十七歳の聡子が出てきた。


「隼人?!どうしたのこんな怪我して」


 聡子は隼人を、リビングに連れて行き消毒をする。


「愛ちゃんがいない時に狙われちゃったか。それにしても、よく自分の血を見ないで来れたね」


 事情は何も話してなかったのだが、理解していた聡子に頷く。


「うん。もう皆覚醒しているのに僕だけが覚醒してないなんて不公平だよ…」


「なら自分の誰にも負けない得意な物を一つで良いから作りなさい。そしたらきっと他の子達も隼人の事を分かったくれるから」


 消毒が終わり、ばんそうこうを貼ると隼人の両肩に自分の手を乗せる。


「隼人ならできる!」


「うん!」


 聡子の笑顔で隼人も元気になる。


「じゃあ僕は…あ、勉強を頑張る!」


「勉強なら妖怪も人間も関係無いしね。頑張りなさい」


 隼人は大急ぎで自分の部屋へ行った…――



「それから夏休みの七割は勉強していたわねー。その結果、小学校を卒業した頃には中三の勉強してから今じゃ大学の勉強も終わりそうな位頑張ってるの。だから隼人は一度決めた事を一生続けるかもしれない程、根性あるから少し強く言った方がいいのよ」


 五年前の話を終えると聡子は風呂を上がった。


 そしてもう一方雅也はとある教会にいた。


「寿命は縮んだとはいえ、教会に入れる今のヴァンパイアは最強だなー」


 遠まわしに自分の種は最強などと、独り言をぼやきながら奥に進む。すると一番前の席に一人の男性が座っていた。


「あ、春馬様。ヴリコカラスの力が隼人にあると思われます。しかしまだ、コントロールができない様子です」


「日に日に限界無く強くなる最強のヴァンパイア、ヴリコカラスの力が出来損ないの隼人にあったとはな。今は様子見だ。だが計画の方は進めておけ」


 やたらと低い声で命令する春馬は一つの計画を持ち上げた。


「新ヴァンパイア計画…ですね?」


 雅也の答えで軽く頷く。その後すぐ春馬の姿がたくさんのコウモリになり、一斉にドアから出て行った。




 翌朝。


 隼人の部屋に目覚まし時計のアラームが響く。黙ってアラームを止めた隼人は、ゆっくり起き上がり窓へ向かう。窓を開けると暖かい春風が部屋中に入ってくる。


 リビングでは聡子が朝食を食べていた。昨日は色々あって顔を合わせるのが気まずいが、いつまでも立ち止まってはいられずリビングに入る。


「お、おはよう」


 目は合わせられず下を向いたまま、朝食の用意された席に座る。


「うん。おはよう」


 くちはいつも通りだが隼人と同じく目を合わせられないのか、リモコンでテレビを付ける。


「で、どうするの?」


 聞かれたくない昨日の話題を出された。


「うん…聡姉はあぁ言っていたけど、俺はこの歳まで皆から出来損ないって思われてきた。それが今さらオオカミ人間でしたって言われてもヴァンパイアとして皆からどんな事を言われても挫けず耐えてきた。だってこんな俺でもヴァンパイアとしての誇りをだけは守ろうと思った。でも今は違うどんなに自惚れ過ぎだって言われてもいい。それが俺に出来る精一杯だから」


 隼人の答えで聡子は隼人を見る。そして聡子は思った。もし自分が隼人と同じ立場だったら同じ事を言っていたと…。今まで守って貰ってきたも守れる力があるなら…守りたい人達に使いたい。


「ちゃんと顔を上げなさい。そんな調子だと妖怪を相手にしたら死んじゃうわよ」


 顔を上げると聡子は優しい笑みでこっちを見ていた。


「うん」


 隼人も万篇の笑顔で返した。




 その後、日を改めて入学式を行い無事に終わることが出来た。入学式終了後すぐ創設者の曾孫、優梨子が隼人に代表の事を高く弱弱しい声で深く謝られたが何だかんだで仲良くなれたというのはまた別の話…。


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