はたらきアリ
階段の途中で蟻が荷物を運んでいた。
「よう、暑いな!」
真っ黒の身体を太陽に晒して、自分よりも大きな昆虫の死骸を引きずっている。地面の熱さと真夏の光に挟まれて、今にも干からびてしまいそうだ。
俺も乾ききる一歩手前だ。早く車に戻ってスポーツドリンクを飲みたい。
その前に、この荷物を運ぼう。車が入れない階段と細い道の先へのお届け物だ。重たい荷物を肩に担ぎなおして階段を踏み越えた。
「お互い、頑張ろう」
お前は巣に、俺は届け先に、大事な物を持っていくのが仕事だからな。仲間の喜ぶ顔やお客様の笑顔を見るために、汗水流して働こうぜ。
「終わった!」
最後の荷物を届けた後の達成感は半端じゃない。熱い陽射しもこの時ばかりは気持ちよく感じる。喉を通る水の旨さは格別だ。
「お父さん、お帰りなさい!」
「ただいまっと」
「あなた、おかえり」
子供と妻の笑顔を見て疲れが吹っ飛んだ。
この時ばかりは自分が届け物になった気になる。家族が俺の帰りを喜んでくれるなんて、こんな嬉しいことはない。
給料を運んでいるからだって、嫌みな先輩は言うけれど、そんなのあたりまえだろ? 大切な家族と暮らすためには、どうしても必要な物はあるじゃないか。それが給料ってだけだ。
「お父さん、聞いて聞いて」
「お話は後にしなさい。お父さん、疲れているのよ」
「いいって、どうしたんだ」
「あのね、今日学校でね」
それ以上に、俺は家族から大事なものをもらっている。
幸せってやつだ。




