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I  作者: あると
10/10

旅人

紅葉に誘われて、気づけば見慣れない道に入っていた。

すれ違いできないほどの細い道。濡れた小路にカエデの落ち葉が張り付き、この季節特有のタイル模様が浮かんでいる。少し得した気分になる。

戻ろうと思えば、ほんの数分で元の道に戻れる。だけど、なんだかもったいなくて、先に進んでみることにした。言わば探検だ。

子供の頃は、知らない道をほっつき歩いてばかりいて、よく迷子になっていた。両親には迷惑ばかりかけた。

その親ももういない。いわゆる天涯孤独の身というやつになった。

ひとりは嫌いじゃなかった。気ままに生きていけるし、旅行も好きだから一人旅はしょっちゅうだ。小旅行が長くなったと思えば、落ち込まないですむ。

知らない場所を訪れる。そして、その地域のことを知っていく。

それが単純に楽しい。全国津々浦々、いろいろなところを巡ってきたが、まだ行っていないところも多い。国の外に目を向ければ、未踏破地域は無限に近い。

あれ。

周りを見渡して、自分がどこにいるのかわからなくなっていた。迷子だ。道はぐねぐね曲がっていて、同じ方向に行き続けることは難しそうだった。

まいったな。

笑って頭をかいた。これでは子供と一緒だ。草葉の陰で両親も笑っているだろう。

本当のところ、困っちゃいなかった。むしろ楽しいとも思う。旅先でもよくあることだった。

どっちかな。

来た道と同じ太さの道が左に折れていた。まっすぐは、脇道のように細い道が続いている。

こっちだな、きっと。

曲がってみる。

数を減らしたカエデが続いていた。

あちらはどうだろうかと、脇道を覗いてみる。先が見えないほど霞んでいた。うねるように曲がっているけれど、落ち葉が続いていた。イチョウの黄色い葉も目立つ。葉が赤くなる黄葉とは異なり、黄葉というやつだ。赤と黄色が相まって、美しい光景に心惹かれた。

うん、やっぱりあっちにしよう。

踵を返して、細くなった道に一歩踏み込んだ。

かさりと、ジャケットのポケットで音がした。

そうだった。

内ポケットに入れておいた封筒から丁寧に折りたたんだ紙を取り出した。

婚姻届。

こいつにサインをもらいに行くところだった。すっかり忘れていた。時計を見ると、もう待ち合わせ時間を過ぎている。

怒るかな。いや、怒ったふりして笑うんだ、あいつは。どこ寄り道してきたのよって、頬を膨らませながら拳を握る。そして、私も行きたかったって言うに決まっている。

だから、一人旅はやめることにしたんだ。二人ならもっと楽しくなるだろう。

狭い道も、肩を寄せ合えば通れる。道で迷子になったとしても、あいつと一緒なら迷子とは言わない。二人でいる場所が、俺たちの場所だから。

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