第三話~とりあえず、自己紹介side勇者~
朝だ。
勇者と入れ替わるという大それた事をしても、変わらず朝はやって来る。
普段ならナイアージュに起こされるまで寝ているはずなんだが、変に目が冴えてしまった。
意識はあるんだが頭は全くといって働いちゃいない。
微睡みの時間とも違う不思議な感覚だ。
「変わっちゃ、、いないよな………」
希望的に腕を見てみても、やはりそこには人間としての頼りない腕があった。昨日と変わらずただ、そこに。
「ふぅ~~、どうすっかな………」
珍しく思案にふける態勢に入ったのだが、
コンコン。小さくノックされる音が響く。
しかしそんなことは知ったことではない。
今は今後の自分のことを考える方が重要だ。
「なんとかナイアージュと合流したいんだが、
アイツが俺のことをちゃんと魔王と認識出来るんだろうか?」
想像してみよう。
心は立派な魔王様、しかし見た目は悪魔最大の敵にして憎憎むべき悪(?)の勇者。
そんなやつが堂々とさも魔王として振る舞えどうなるか。
うん、即死だなこりゃ…
ドンドン!壁がうるさくなってきたが気にすることもない。
「やっぱり原因となるあれを調べるべきか……」
突如として襲われて気付けば入れ替わっていた。
雷のような速さで、竜巻のような激しさで。
自然現象をある程度操れた俺にもわからない現象。
しかしこれがわからない限りは魔王に戻れないわけだし。
現実に避けては通れないものだ。
ガンガン!!何かを殴り付けるような音になっているが、相変わらず気にもしない。
「――いい加減開けんかバカ者!!」
咆哮とともに扉が切り捨てられこちらに吹き飛んでくる。
「ちょっ!?あぶねぇな!!」
「迅速に開けなかったシズク殿が悪い!!」
「ドアが開かなかったら切り捨てるか普通!?」
「ドアなどあったか?」
「存在を消してんじゃねぇよ!?」
なんだこの、超絶侍ガールは。
「まぁそれはいいとしてだ」
「いや、よくねぇよ」
「そろそろ起床の時間だ」
「お前のおかげで嫌なくらいに目が覚めたよ」
すると急に顔を赤らめて、
「シ、シズク殿……褒めてもなにも出んぞ?」
「褒めてねぇしなにも出さんでいいわ!!」
「むむ、そうか」
そう言って侍ガールは胸の前で腕を組んだ。
組んだ先は、、
「今後に期待かな?」
「シズク殿?切り伏せましょうか?」
「い、いえ、結構です」
胸の話はタブー。そう心のメモに書き付けた。
しかし、どうするか。俺はこの侍ガールの事は名前すら知らない。何度かは戦場で顔を見合わせているはずだが、こちらの認識としては勇者のお供。そんなカテゴリーで括ってたからな。名前とか経歴とか気にしたことがなかった。
それがこんなところで仇となるとは。
俺は侍ガールのことは知らない。
けど向こうは俺を勇者だと思っている。
だから俺が侍ガールの事を知らないのは困る。
要は相手を知らなくても知ってるように見せかけれるものや、それに近しき状態。
「そうか!!」
「相乗平均!!」
わけのわからないボケは放っておいて、
「ちょっといいか?」
「どうした?」
「実はな、俺記憶がないんだ」
「………はぁ?」
「あの時のゆ、魔王との戦いで何が落ちてきただろ?
「あぁ、あの不気味な緑色の光の事か」
「そう、それが原因だと思うんたが、今の俺には全くといって今までの記憶がない。だから、君の名前とか仲間の仲間も思い出せないんだ 」
俺が選んだのは記憶喪失という手段。
これなら相手にこちらとの面識があってもなんとか誤魔化せる。
「なるほど、だから昨日はあんな態度を………」
「あ、あぁそうなるな」
あの時は入れ替わりの驚きが強すぎてそうなったのだが、結果オーライものだ。
「では、改めて自己紹介しておこうか、私は……」
「ちょっと待った!!」
「な、なんだ?」
「えっと、あのなんだーその、記憶失った俺が言うのもなんなんだけどさ、もう少し驚かないわけ?」
俺としては固まって口をパクパクさせるか、悲しみに涙を流すかと思っていたのが、妙に淡白としている。
「私も色々経験していてな。確かに驚きはしたがこういうことが今までなかったわけでもない。
シズク殿がそうなってしまったのは大変遺憾ではあるが」
意外に色々あるようだな。勇者の連れと言えば当然かもしれないが。
「では、続けていいかな?」
「すまない、お願いする」
「それでは改めまして、私はトウヤ・ミゥン・トウカ。
以後お見知りおきを」
侍ガール改めトウヤはその侍たるを表す力強い黒曜石の輝きを見せる瞳。
青と水色の中間色の長髪はポニーテールで後ろに流れて、
綺麗な顔立ちに平均よりは高いであろう身長。
世に言う美少女になるのだろうか。
「よろしくな、そう言えば年は?」
「女性に年齢を聞くのはタブーだと思うんだが?」
「あっ、す、すまん」
「まぁ気にするほどのことでもない。確かシズク殿と同い年だったと思うが?」
「お、同い年!?」
「むっ?そんなにおかしいか?」
「い、いや、なんでもない!!」
そうか、今は勇者なんだったな。
魔王としての年齢考えてたからビックリした。
「お互いに十七同士だ。仲良く頼む」
「ああこちらこそ」
トウヤが差し出した手をしっかり握る。
細っとしたラインにも鍛えられた筋肉が見てとれる。
「そういやトウヤ」
「なにかな?」
「トウヤそこそこ身長もあってスタイルもいいのに、
なんで胸は………」
「は、発展途上なんだぁぁぁ!!」
握られたままで背負い投げ。背中に衝撃が来るころには鼻先に剣先が向けられていた。
心のメモに二重線を引かなきゃダメだったようだ。