第二話~魔王(勇者)、勇者(魔王)になる~
ええっと、アレだな
よく言う目が覚めたら世界が変わってましたってやつ
いやぁ、ホントによく言ったもんだ
まぁ現実そうそうそんなもんは起こることはないんだが、でも逆にさ、そんなことが起こっちまうと驚き以上のものが込み上げてくるもんだ
あぁ、そろそろいいか?
現実逃避もそろそろやめるから、一つだけ言わしてくれ
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「どうした!?」
「何事か!?」
「めんどいです……」
「お目覚めですし♪」
俺の魂の叫びに部屋の外で待っていた四人が雪崩れ込んでくる(若干名はトロトロと入ってきたんだが…)
四人の特徴なんてこの際どうでもいい
後でなんとかなる
それよりこの身体はなんだ!?
確かに俺は魔王にしては小柄な体格だった
だが悪魔並み(?)にはおおきかったはずで、
こんなにちんまりとし人間サイズではなかったハズだ
それが見てみれば貧弱なこの腕
脚なんぞモヤシ以下だ
「おぉ、やっと目が覚めたか」
「よかった!無事であったか」
「まぁ、殺したって死にはしませんよ…」
「んなことよりシズクがちゃんと戻ってきてよかったし」
そんなことなどお構い無しにザクザク俺のおさまらない心に踏み込んでくる
しかしどういう状況でこうなった?
俺は魔王だぞ?
何故魔王なんかの心配をしているんだ?
仮にも勇者のお仲間だろうに
「なぁ、俺がなんに見える?」
一か八かだ
俺もちょっと外見を見た限りいつもと違うんだが、それは俺がそう見えただけかもしれない
楽観的すぎるが
「なにってそりゃ~勇者だろうが?」
「そうだぞ、可笑しな事を言うなぁシズク殿は」
「いつもの馬鹿ズクと一緒です… 」
「そうそう、普段のシズクとおんなじだし」
「そ、そうか……」
やはりそうなんだな!?
この身が人間となったのも、少し長めの紺の髪に薄い青みがかった瞳とかわっているのも
というか勇者は女だっただろうに!?
お仲間達にも受け入れられてるし…
こんなところでご都合主義は要らんと言うのに…
あっ、いや別に女になりたかった訳じゃないんだからね!!
「まぁ今日はゆっくり休め、あんな戦いの後だからな」
「そうだな、では我々は退散するとしようか」
「ふぅ、やっと帰れるです」
「じゃあね、シズク。また明日だし♪」
「お、おう、またな」
そうして俺一人残されてしまった
静寂に包まれる室内
確かに疲れがあるが、妙に思考が冴えて眠れそうにもない
勇者になっちまうなんてなぁ
生まれてこのかた長く生きてきたが、こんなことになったのは初めてだ
あん時の“何か”のせいなんだろうが
あー、よくわからん!!
わからんけど入れ替わっちまったんだよな
ん?ということは………
「勇者が魔王になってるってことか!?」
わかってる。
もう何度と自分の身体を見返した。
こんな屈辱的なことはないけど、世界への冒涜に近しいけど、この姿にもう言い訳はできない。
あぁ、私もそろそろ叫んでいいかな?
理屈も事実も受け入れがたいがそうそこにある。
でも感情がそれらをねじ伏せたがる。
「もう、どうなってんのぉぉぉぉ!!」
「ま、魔王様!?」
隣で私の様子を伺っていた悪魔が飛び上がる。
三人衆の一人が聞いて呆れるよ。
「ねぇナイアージュ?私はどうしたらいいの?」
「はぁ、どうしたらと申しますと?」
「ううん、何でもないわ…」
悪魔に今の自分を相談しようとしている事に嫌悪感を覚えつつ、それほどに衰弱している自分にも気付く。
でも、そうなっても可笑しくない状況なの。
あんなに憎くて殺したくて、全てを壊してやりたかった魔王に自分がなっちゃうなんて。
やっぱりあの時の“何か”が原因なんだろう。
「魔王様、よくわかりませんが元気をお出しください」
「あ、うん、そうね」
ナイアージュの励ましを聞き流し、また思案にふける。
何でこの悪魔、それに魔王の配下で一番と言われるナイアージュはなんの違和感も感じていないの?
あなたの王は男でしょうに!?
現に今の私の身体は悔しいけど魔王の姿をしている。
隣のナイアージュと比較すればかなりこじんまりとしているが、以前の私よりもでかい。
腕や首にこれでもかと要らぬ装飾品がつけられていて、
悪魔よろしく、さらさらした漆黒の長髪の上から禍々しく渦巻く角がある。
でもしっかり女性的な側面も残っていて、胸の膨らみは、
「お、おっきくなってる!?」
「何がですか?」
「な、何でもないわ!!」
どういうことなの!?
何でこの姿の方が以前より身体つきがよくなってるのよ!?
しなやかに流れる流線美に可愛らしく突き出たお尻。
そしてたわわに重量感を伝えてくる胸。
唇も奇妙な程にみずみずしく、大きな黒色の瞳が艶かしい。
全体的に今までにない妖艶さを嫌がおうなしに放っている。
ちょ、ちょぴり嬉しいとかそんなこと思ってないんだからね!!
「魔王様、お疲れならお休みになられては?
あの戦いの後です。ご無理は身体に障られます」
「そうね、そうさせてもらうわ」
悪魔に身の心配をされても吐き気しか起きなかったけど、ここは大人しく従っておくことにする。
しかし、
「これから、どうすれば、いいのよ…」
弱音が口から漏れ出てしまう。
悲しみに絶望に押し潰されてしまいそうになる。
「エイムス、トウヤ、ミーちゃん、ししバカぁ…
ごめんね。」