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こんなに取り乱す優を見るのは、久しぶりだった。
優には、家族がいない。嫌。正確にはいなくなった。このことは、俺も中内も同じ中学だった奴らはほとんど知ってる。事故で死んでしまった。と聞いた。
優に話すつもりがないなら、詳しい話は聞かないにしよう。と思っていた。きっと中内もそうだったのだろう。
事故のことについて、色々と聞かれていた優はほんとに辛そうだった。あの頃は今より不安定で声を荒げている優をたびたび見た。かばってやることも出来たが、家族を亡くす辛さを知らない俺は何も言わずにいつも通りに接してやることしか出来なかった。
それを歯痒いと思ったし、出来るなら力になってやりたい。と思った。
中内にそのことを話したこともある。中内は
「俺もそう思ってる。でも、今はあいつにとって楽な場所を作ってやろう。」
と言った。その考えに賛成し今まで優の場所を作ってやれた。始めは同情からだったかもしれないが、優と中内は失いたくないと思える数少ない俺の友人だったから、同情なんて考えはすぐに頭から消えた。
優にとって楽な場所は、俺にとって、とても楽しい場所だったから。
でも、3人でいる時に優はいままで取り乱したことはなかった。声を荒げることも。
最初は誰かといることも辛そうだったし、家族のいる俺たちを羨ましいと思ったと思う。でも、優は何も言わなかった。人前で泣くこともなかったし、辛いと口にすることもなかった。
だから、目の前で取り乱した優を少し信じられなかった。始めて優の悲しみに触れた気がした。
そう思ったら、こいつの口からすべてを聞きたいと思った。
口に出すのも嫌かも知れない。話したことで、3人でいることを辛いと思ってしまうかもしれない。それでも、話して欲しい。力になりたい。
そんなことが頭の中をぐるぐると駆け回った。
「優。話してくれないか・・・。事故のこと。」
気づいたら口に出していた。