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(またボーっと窓の外みてるよ。)
俺(中内)の前の席に並んで座る女子が、優を見ながら笑っていた。
・・・お前らは、何も知らないから笑えるんだよ。・・・
そう思いながら優を見る。
薄暗く雨の降っている外を眺める優の姿はいつもと変わらない。
「・・・さて、この問題を・・・。山崎」
「山崎 優いないのか?」
優の方を見ながらクスクスと笑う声が聞こえる。
「・・・優の奴まただな」
隣に座る木村が笑って話掛けてきた。
「いつものことだろ」
と話していると、
ガタッ!!
と言う音とともに優が窓から飛び降りた。
一瞬自分の目を疑い、声が出ないまま木村を見た。木村と目が合ったが動けない。
「キャーーーー!!」
女子の声が教室に響いた。
その声で身体から硬さが取れた。俺と木村は教室を飛び出し、階段を駆け下りて外に出た。優の姿が無い。上を見上げると2階の教室の窓から皆こっちを見ていた。それほど高くないことに安心し優を探した。
「裏門から外に出てった!」
教室からの声に手を挙げて答え、走った。
いつも薄暗い裏の通りは、雨のせいでいつもより暗く気味が悪かった。
人影が見え声を掛けた。
「ゆう!」
体育館の横の道に優はいた。
「何してんだよ」
「焦ったぞ」
特に怪我も無い様子の優に木村と2人で安心し、声を掛けた。
「・・・」
「大丈夫か?」
返答なく項垂れる優にもう一度声を掛ける。
「・・・ああ」
ようやく出た声はとても小さく弱弱しかった。
「今戻っても後で戻っても怒られるのは変わんないから、あそこに行こう。」
木村の声にうなずき「いつもの場所」へ向かった。
合宿所に入った途端に外の雨が激しくなった。
(とりあえず、びしょ濡れはまずいな。)と思っていると
「お前ら、頭だけでも拭いとけ。」
と、木村がタオルを渡してくれた。優も俺もお礼を言い濡れた髪を拭いた。
「ごめんな。迷惑かけて・・・。」
優が小さい声で言った。
「気にすんな。」
笑っていう木村の言葉に俺も頷いた。
「でも、どうしたんだよ。急に飛び降りるから焦ったぞ。」
木村が言うと。
「・・・兄貴が見えたんだ。」
優がゆっくりと答えた。その答えに俺と木村は固まってしまった。
「見えた気がしたんだ・・・。」
「見えた気がしたって・・・。お前の兄貴は・・・」
「分かってる!」
木村の言いかけた言葉を無理やり断ち切るように、優は言った。
「分かってる。・・・兄貴がもういないのも、二度と会えないのも分かってる。でも、兄貴だって思った瞬間気づいたら飛び降りてたんだよ・・・。」
俺も木村も何も言えなかった。
「ごめん。」
沈黙をやぶるように優が言った。
「大丈夫か?」
唯一出た言葉に優が笑って頷いた。無理やり作った笑顔に深い悲しみが見えた気がした。