風に負けない
――撒き上がる砂埃。
思わぬ突風に手をかざし、目を閉じて吹き抜ける時を待つ。
無意識に身を強ばらせ息も詰まる思いで瞼を固く閉ざす。
闇の中で一陣の風が刹那の暴威を奮い、肌を刺す冷気を残して無に還る。
雪の季節に吹き抜ける風は、大地に積もる冬の妖精を凍らせ足元を不安定にさせていた。
目を開けば消え去った風の名残が大地に広がっている。
薄氷の上を渡るが如く、されど足を取られぬよう力を込めて歩む影。
逸る想いに駆け出したくなる焦燥感を抱きながらも、それを懸命に抑え一歩一歩確実に大地を踏みしめ彼は先を急いだ……。
いつからだろう。
彼女を意識し始めたのは。
思い描くだけで胸の鼓動は高鳴り、声を聞くだけで心ときめく様になったのは……。
――幼い頃から気まぐれに振り回す彼女。姉弟より深い絆で結ばれるも他人より遠くに感じる存在。二人の間には何の隔たりもなかったはず。そんな身近な存在に心揺れ動き、想うだけで胸が熱くなっている――。
彼は積もる雪のカーペットを恐る恐る進みながら己に問い掛ける。
(……わかってる。あの日から、僕らの関係は変わったんだ……)
あの日。
《聖なる日》と称されるあの日にサンタさんから贈られた“恋”という名のプレゼント。
あの日から二人を包む空気が変わったのだ。
クリスマスを境に――彼は初めて人を好きになる気持ちを知り、どことなく変わった彼女の態度に戸惑いを覚えつつもその恋心を大きくしていく。だが、日に日に強まる想いに彼は不安をも覚えていた。
自分に対する彼女の態度はあの日を境に確かに変わった。しかし、いまだに想いを伝え切れぬ上に彼女の気持ちもはっきり聞いたわけじゃない。
――もし、勘違いだったら?
そう思うと胸を締め付けられ切なさがこみ上げてくる。そして、以前よりも“距離”を感じてしまう。
(……幼なじみという関係は終わったんだ……)
意識し始めた時から、彼女を“幼なじみ”としてではなく“異性”として見るようになった。それが微妙な距離を生み出し、彼の心に期待と不安を抱かせる。
今まで気にもならなかった男友達との他愛のないお喋りも……不安と嫉妬を煽る鋭い痛みに変わり、彼女に対する独占欲に自分を見失いそうになる。恋する切なさに悶え苦しむ。
――彼女は、自分の事をどう思っているんだろう?
待ち合わせ場所にいる彼女は、どんな気持ちで自分を待っているのか。
同じ気持ちなのか、それとも……。
――鳴りを潜めていた風が再び彼を襲う。今度はまるで恋の試練と言わんばかりの烈風が行く手を塞ぐ。
しかし、今度は立ち止まらなかった。
この恋はまだ始まったばかり。こんなところで挫けちゃいけない。
この風に打ち勝てば恋が実るんだ、と自分に言い聞かせながら彼は一歩一歩進んで行った……。




