言葉にならない
――そっと、瞳を閉じた。
君の眼差しが眩しいすぎるから。
その瞳に吸い込まれ、自分を見失いそうになる。
こんなにも愛して止まない君を正面から見つめられない。
月明かりが差し込むベランダでソファーに腰掛けた彼女は、柔らかな笑みを浮かべながら窓越しに映る夜景を見つめている。
臆病な僕は、気の利いた言葉を囁く事もできずに隣で身を固くして途方に暮れる。
彼女は待っている。
変化の時を。
変えるのは僕だ。
今思っている言葉を口にすればいい。
それが無理なら抱き寄せればいい。
彼女はきっとわかってくれる。
ほんの少しだけ勇気を出せば変えられる。
一歩だけ足を前に踏み出せれば……二人の途は交わり一つになるはず。
勇気。
ひとかけらの勇気があれば。
静寂が支配する部屋で、たった一言が口にできない。
――言葉にならない。
この気持ちを言葉にできない。
この想いは陳腐なセリフで表す事などできない。
それでも、この身から溢れ出る想いを伝えたい。
それでも、この想いは言葉に変えられない。
愛しさと切なさ。
不安と期待。
様々な想いが交錯し、本当に伝えたい言葉を見失う。
愛しくて、切なくて、儚すぎる無音の時。
今宵も僕は踏み出せずに彼女を待たせてしまう。
――そっと、瞳を閉じた。
君の眼差しが眩しいすぎるから。
臆病な僕はその真摯な瞳に胸が締め付けられる。
君がくれた愛が心に染みて、この想いを果てしなく膨らます。
口にできない。
声に出せない。
言葉にならない。
たった一言が伝えられない。
いつまでも続く沈黙の時。
心を奮い立たせて前に踏み出せ。
ほんの少しだけ、ひとかけらの勇気を振り絞ればいい。
そうすれば変えられる。二人の未来は変えられる。
言葉にならないなら想いを込めて瞳で語ろう。
彼女はきっとわかってくれるから……。




