失って知った想い。[?]
それは、突然の交通事故。
今、俺の目の前に、俺の親友が横たわっている
― 失って知った想い。 ―
薄暗い霊安室。
そいつは真っ白な布を顔にかけられ、ぴくりとも動かない。
俺はいきなりすぎてただただ呆然と、そいつを……タカユキを見下ろすだけ。
そんな俺の後ろで、タカユキのお袋さんがすすり泣いている。
か細い声で、タカユキ、タカユキ、とずっと名前を呼び続けて、力なく親父さんに縋り付いている。
「わざわざ……来てくれてありがとう、シュウジ君」
「……」
「……」
言葉を返せない俺に気をつかってか、親父さんがお袋さんをの体を支えながら
「行こうか……」
部屋を後にした。
残された俺は、顔にかかった布きれの端を掴むと、
「……」
ゆっくり上へはぐった。
そこから現れた。
「……ユキ」
真白い顔。
陶器のように滑らかで、白く美しかった肌は、今はただ……青白いだけで。
「ゆ、き……」
指先で触れた頬は冷え切って氷の様で。
「なんで、だよ……」
俺は、
「どうして、」
突きつけられた現実に……やっと涙が溢れて来て。
「うっ……ぁあっ、」
その場に崩れる様に膝まつき、
「なんでだよっ?!!」
冷たい霊安台に何度も拳を打ち付けた。
昨日、最後に交わした言葉を思い出す。
『シュウ……』
『ん?何よ』
『……おめでと』
『……お、おう』
『……』
『んだよ、改まって』
『……ゴメン』
『ゴメンて、何謝って……』
『ゴメン……』
そう言ってタカユキは俺の部屋から出て行った。
それは俺が彼女にプロポーズした翌日のこと。
結婚の喜びを真っ先に伝えたくて、タカユキに一番に言いたいと思ったら、彼がちょうど俺のいるアパートに来てくれた。
だけど、アイツは静かに帰った。
「こんな別れ方って、ねぇだろっ!?」
◇
それから一週間後。
俺宛の小包が届いた。
送り主はタカユキのお袋さんで、俺は部屋に戻るとデスクからハサミを取り出し、切れ味の悪い刃先で何とか紙袋を開けた。
中には少し古びた一冊のノート、それだけ。
俺はハサミと紙袋をデスクにゆっくり置くと、そのノートを広げながらベッドに腰掛けた。
「……なっ」
心臓が止まりそうだった。
「これ……」
そこには見慣れた字が、流れる様に走り書きされていた。
「タカユキの……文字」
そこに綴られていたのは、タカユキの仕事、小説のプロット。
何度も考慮を重ねたんだと思う。
書き出しては、消し、書き出しては、手直しをした後が所々にある。
それは悲恋モノで、男が愛する女の幸せを願って身を引く話。
不思議だった。
「ユキらしく、ねぇな……」
そう思ってページを進めていく。
だが、
「終わった……」
話は途中で終わっていた。
そこは男が女に想いを伝えようと、家に訪れたところ。
俺はふさぎこんだままノートを閉じようとしたが、
「ん?」
後ろのページに何かかが書かれているのを見つけた。
俺は結末かと思いページを開くと、
「……え、なんだよ、これ」
俺にはこの話の続きは書けない永遠に閉ざし、墓場に持っていこう。
気づくと、いつも傍らにいた。
彼は俺の太陽だった。
ずっと笑っていてほしい。
ずっと幸せでいてほしい。
だから俺は、この想いを封じよう。
だから俺は、彼の前から消えよう。
そして俺は、彼の友人として生まれ変わり、ずっと彼を、見守っていこうと思う。
けれど、せめて伝えることの出来なかった想いをここに残すことを許してほしい。ずっと、
「君を愛している」
『シュウジ』
俺はただ泣くことしか出来なかった。
ノートを胸に抱き、溢れる想いを涙と共に、流すことしか出来なかった。
「馬鹿、ヤローっ……」
これはアイツにじゃない。
俺自身に向けてだ。
俺は、俺だって、
「俺は、ほんとは……」
迷惑かけたくなくて。
幸せになってほしくて。
「やっと想いを殺したのに……」
俺に残されたのは、綺麗な思い出と永遠に想いを伝える事を奪われた後悔。
それはどこまでも澄んだ青空の日。
葉桜がもうすぐ夏の訪れを告げる頃の事。
end
* * *
この作品の続編として、『喫茶店。』が生まれました。
どこでどう転がるか解らないな私の妄想は。