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LOVE PHANTOM[旧友・オヤジ]




 かつて、通う高校が同じだった彼は、私と似た道を辿った。

 お互い権力を手にし、財力も蓄え、妻を娶り、子供も儲けた。

 ただ、今日に至るまで、


「久しぶり」

「……あぁ」


 顔を合わせることはなかったのだが。





      ― LOVE PHANTOM ―





 お互い老けたな。

 と、口を開いたのは彼だった。

 どのように過ごしてきたかは、ニュースや新聞・雑誌等で知ってはいたが、向こうの家族の顔ぶれすら目にしたのは

先日が初めてだった。


「君のお嬢さんは綺麗だな。父親に似るのは美人になると相場が決まっている」

「口は妻に似て太刀打ちできないがな」


 お互いの家族が、同じ結婚式の披露宴に招かれていた。

 彼は新郎の伯父として、私は新婦の叔父として、

 変なもので、遠縁になってしまった。

 別に、不都合があるわけでは、いや……大いにあるか。


「君が、女性を抱けるとは思わなかったよ」


 手にしていたグラスの中が、僅かに波打つ。

 私はなんでもない素振りをして、真白い皿に並べられたスモークチーズを一枚手に取った。


「奥方と一緒に、いい声で啼いたんじゃないのか?」


 さぞかし驚かれただろうな。

 と、静かに笑う彼に向かって、


「残念だったな。お前に頭からかけてやる酒は持ち合わせてない」


 そう言って残りのウィスキーを飲み干す。

 私はグラスを木製のテーブルに置くと、静かに立ち上がり、財布を取り出そうとジャケットの内ポケットに手を差し入れた。

 すると、


「……何のマネだ」


 彼が私のスラックスにボトルの酒をかけた。


「着替えないとな」


 妖しく微笑みながら。


「タクシーを呼ぶ。構うな」


 私は伸ばされてきた手を払い除け、その場から立ち去ろうとしたが、


「っ!?」


 途端に膝が折れてソファに倒れこんでしまった。


「き、さま……」


 蹲って言葉を吐き捨てる私の背に、気配が被さってくる。


「丁度良かった。上に部屋をとっている」


 かつて、当たり前のように囁かれた、甘美な声音。

 どうして、どうして、


「私に……俺に、あの頃の面影は、」

「あるよ。数十年たっても一目見て解った。俺にしか見えない、君の……」


 その呟きと共に、顎を掴まれ、後ろを向かされた。


「もう逃がしはしない。俺たちを阻むものは、全てこの手で……」




 かつて、通う高校が同じだった彼は、私と似た道を辿った。

 お互い権力を手にし、財力も蓄え、妻を娶り、子供も儲けた。

 ただ、今日に至るまで、俺はその理由を知らず、


「捨てたお前が、何を今更……」

「君を手に入れるためさ。俺の役目は果たした。これからは……」



 その理由を俺は今知った。

 彼は、必ずこの時が来ることを確信していた。

 そして俺は、



「ずっと、お前を忘れた日などなかった」

「当たり前だ」



 忘れないほど、君の中に俺をしみこませたのだから。




end


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