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わたくしを殺して、自由になりませんか?~偽装悪女の政略結婚~  作者: 花宵


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第25話 偽装悪女は宝物を手に入れる①

 食事会を終え、離宮への帰路につくため馬車に乗り込むと、車内には重苦しい沈黙が流れていた。


 それは迎えに行けなかったからと、律儀に送ると言って聞かないフェリクスが同乗しているせいだ。


 シンシアに上座を譲り、向かいの席に座ったフェリクス。しかし彼はなぜか、先ほどから視線を合わせようとせず、何も見えない暗い窓の外を凝視したまま、革手袋の縁を何度も触るなど、どこか落ち着きがない。


「公爵様、やはり無理されない方が……」


 座っているのも辛いのを、なんとかごまかしているように見えて、シンシアは思わず声をかけた。


「……違う。具合が悪いわけではない」


 フェリクスは短く否定すると、迷うように視線を彷徨わせた後、目を伏せた。そして意を決したように、懐から小箱を取り出した。


「これを……返しておこうと思って……」


 縋るような瞳で差し出された小箱を、シンシアは恐る恐る受け取った。


(返す?)


 フェリクスに貸したものなどない。その言葉が何を意味するのか、シンシアには見当もつかなかった。


「……開けてみてくれ」


 促されるまま、シンシアは緊張を滲ませながら、蓋を開けた。

 その瞬間、シンシアは思わず息を呑んだ。


「――――っ!」


 箱の中には、母にもらった、あの銀細工のブレスレットが入っていた。

 けれどそれは、シンシアが最後に見た悲惨な状態とは、大きく姿を変えていた。


 かつて熱膨張でズタズタに入っていたヒビは、消えていない。

 けれどその無数の亀裂が、光を受けるたびにプリズムのように乱反射して、深みのある輝きを生み出していた。まるで石の中に銀河を閉じ込めたように。


 そして黒く焦げて変色していた銀は、丁寧に磨き上げられ月光のような輝きを取り戻している。

 熱で溶けて歪んでしまった装飾部分は、削り取るのではなく、その歪みを活かすように新たな銀の蔦が絡められ、芸術的なデザインへと昇華されていた。


 さらにシンシアが驚いたのは、子供用の小さなバングルだったブレスレットには、繊細なアジャスターとチェーンが継ぎ足され、大人の女性の腕に合うサイズに仕立て直されていたことだ。


(まるで、新たな命を授けてもらったみたい……)


 あの事故と共に、壊れて無くしてしまったと思っていた。

 もう二度と、この手にすることが出来ないと思っていた宝物が、フェリクスの手によって、こんなにも美しく生まれ変わって返ってきた。


「…………っ」


 胸の奥から熱いものが込み上げ、気がつけばシンシアの頬を、一筋の雫が静かに伝い落ちる。


「――っ、すまない!」


 その涙を見たフェリクスが、顔色を変えて身を乗り出した。


「やはり、余計なことを……! 君が倒れた時に、ずっと握りしめていたものだと、報告を受けている。大切なものなら、身につけられた方がいいと思ったのだが……」


 フェリクスは言葉を切ると、自身の膝の上で、ギュッと拳を握りしめた。


「俺の独りよがりで、君の大切な思い出を台無しにしてしまった。……本当にすまない!」


 そこで初めて、フェリクスがブレスレットを勝手に加工してしまったことで、罪悪感を抱いているのだとシンシアは悟った。

 フェリクスの不器用で、けれど温かい謝罪の言葉が、シンシアの心に染み渡る。

 普通ならわざわざ修復しようなどと思わないだろう。それなのにこの人は、壊れた残骸に残る『思い出』にまで、心を寄せてくれた。


「どうか、謝らないでください」


 こぼれ落ちた涙を拭うのも忘れ、シンシアはブレスレットを大切に胸に抱きしめた。


 かつてコーデリアは、『善意』という名の暴力でシンシアの過去を否定し、燃やし尽くした。

 けれどフェリクスは、『独りよがり』だと詫びながら、傷ごと全てを掬い上げて肯定し、新たな輝きを与えてくれた。


(同じ『身勝手な優しさ』のはずなのに……どうしてこんなにも、温かいのだろう)


「嬉しいんです。私の宝物を……貴方が大切にして、再び輝きを取り戻してくださったことが」


 シンシアが心からの笑みを浮かべると、フェリクスは目を丸くし、それから安堵したように深く息を吐いた。


「……そうか。気に入って、もらえたなら……よかった」


 フェリクスは強張っていた肩の力を抜き、少し躊躇いがちに口を開いた。


「もし良ければ、つけさせてほしい。その、サイズが合うか、確認しておきたい」


 断られるかもしれないと思っているのか、自信なさげなお願いだった。

 シンシアは小さく首を縦に振ると、そっと左手を差し出した。


「……お願いします」


 許しを得たフェリクスは、微かに頬を緩めると、嵌めていた革手袋をゆっくりと引き抜いた。

 露わになった白く長い指が、シンシアの細い手首を慎重に掬い上げる。


「失礼する」


 触れられた指先は、氷魔法の使い手らしくひやりとしていて――けれど、そこには確かな体温と、壊れ物を扱うような優しさがあった。

 フェリクスはブレスレットをシンシアの手首に回すと、新たに付け足されたアジャスターを器用に留める。


 チリ、と。

 金属が触れ合う小さな音が、静寂な車内に響いた。


「……やはり、よく似合う」


 フェリクスは満足げに目を細めると、愛おしそうにその銀細工を指でなぞった。


「このサファイアには、強固な『守り』の魔法を施してある」

「守り……?」

「ああ。君の大切なものが……二度と、壊れることがないように」


 その言葉は、ブレスレットの修復になぞらえた、フェリクスなりの不器用な『誓い』なのだろう。

 素肌に伝わる彼の体温と、あまりに近い距離に、シンシアの心臓が驚いたように大きく跳ねた。


(……慣れていないわ。こんな、壊れ物を扱うような手つき)


 どう返事をすればいいのか分からず、視線が彷徨う。

 気まずい沈黙を破ろうと、フェリクスが何かを言いかけた、その時だった。


 ――ヒヒィンッ!


 突然、馬のいななきと共に、馬車が急停止した。

 

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