第15話 偽装悪女は白夜公の真意がわからない①
この一週間、シンシアが離宮で過ごしてわかったのは、食事に毒が仕込まれるのは夕食だけであること。
そして薬草園に日中出入りしているのは、毎日薬草の世話をしている庭師の二人。しかも庭師たちは自分で薬草園の鍵を所持することは許されていないようで、作業時には必ず侍女たちが解錠し、作業が終わると施錠を行っているようだった。
鍵は普段、侍女長室に保管されているようで、持ち出すことが出来るのは、侍女のニナ、セイラ、マリア、そして侍女長のローザの四人のみ。どうやら他の使用人たちに、その権限は与えられていないようだ。
(裏門には夜中でも見張りがいる。もし薬草園に出入りしようものなら、それこそすぐにバレるだろう)
専属侍女の三人は、相変わらずそれぞれの得意分野を活かして仕えてくれている。日を増すごとに、なぜか個性に磨きがかかってきているのが、少し気にはなる。
でもそこから一切の悪意を感じないし、彼女たちなりに、シンシアが離宮でさみしくないよう気を遣ってくれているのかもしれない。
しかし――フェリクスの行動だけは、不可解だった。
なぜか毎日、彼から白い花が届くのだ。
現に今も、ニナが大きな花束を抱えて声をかけてくる。
「シンシア様、こちら旦那様からの贈り物です。今日はどこに飾りますか?」
綺麗ですねとニナは嬉しそうにしているが、毎日同じ花を贈ってくるフェリクスの意図が、シンシアには薄気味悪くて仕方なかった。
あの白夜公が花を贈ってくるなんて、最初は驚いた。
けれど二日目も三日目もずっと同じ花が届くことから、シンシアは次第に嫌がらせのように感じるようになっていた。
「お母さんと弟にも、見せてあげたいなぁ……」
「そう、だったら届けてあげればいいじゃない」
屋敷中が白い花で埋め尽くされていく光景にうんざりしていたシンシアは、厄介払いするように、そっけなく返した。
しかしニナは、慌てて首を横に振る。
「だ、ダメです! これは旦那様からシンシア様への、大切な贈り物なんですから!」
「どうせ、外の荷馬車にもまだあるんでしょ?」
「はい! 今日も荷馬車いっぱいの花束が届いております!」
贈られた花がすぐに枯れるわけもなく、すでに書斎や自室にサンルーム、廊下やエントランスにさえも飾ってある。
離宮中が、まるで死者への手向けのように白い花で埋め尽くされていた。もはや宣戦布告のような気さえしてしまった。
「もう飾る場所がないわ。それにゴミ箱にいくより、貴女が引き取ってくれる方が、花も喜ぶわよ」
シッシッと手を振って、シンシアは「さっさと片付けなさい」と促す。
ニナはぱぁっと顔を輝かせて、深々と頭を下げた。
「あ、ありがとうございます! セレスティは空気を綺麗にする効果があるので、肺を患っている母の部屋に飾ってあげたかったんです!」
「空気を綺麗にする? ニナ、その花にそんな効果があるの?」
「はい! ただその浄化作用の強さから、最近は葬儀の献花として使うのが主流になってしまって……価格が高騰して、私たち庶民には手が出せなかったんです。だから、本当に嬉しいです!」
その言葉で、フェリクスがなぜ毎日この花を贈ってくるのか、シンシアは察した。
(なるほど。私にヴィスデロペを使わせないための、対策だったのね)
以前魔法医のレイスに、ヴィスデロペで埃を吸い込んだと嘘をついたことを思い出す。おそらくこれは、空気清浄魔法具の準備が整うまでの緊急措置なのだろう。
フェリクスにとってみたら、悪女のシンシアがいつ気まぐれにスキルを使って暴発させるかわからない。
(徹底的なリスク管理に備えた結果、生きている私を死人扱いするなんて……縁起でもないわ)
お見舞いと称して、葬儀用の花を大量に送りつける。
遠回しな嫌味なのか、それともただ機能性しか考えていないのか。どちらにせよ、不愉快極まりない。
(白夜公は随分と、デリカシーに欠ける方なのね)
シンシアは冷ややかな溜め息をこぼし、美しく咲き誇る白い花々から視線を逸らした。
ニナが書斎を退室して少し経った頃、規則正しいノックが二度鳴った。
「奥様、旦那様がお見えになりました」
扉の向こうから、カイルが呼び掛けてくる。
フェリクスがやってきた目的をある程度察したシンシアは、席を立ち自ら出迎えた。
「わたくしに、何かご用ですか?」
何も知らないふりをして形式上聞いてみると、やはりフェリクスはシンシアの読み通りの回答をした。
「空気清浄魔法具を、離宮内に設置しようと思う」
そこまでは、予想通りだった。しかしその後に続くフェリクスの言葉は予想外だった。
「作業が終わるまで、本邸に来ないか? 君が以前希望していた、宝石商を呼んである」
確かにそんなお願いもしたようなと、フェリクスと初めて対面した時のことを思い出す。
正直、新しい宝飾品を新調しなくても、最初から用意されていたもので十分すぎる。しかし自分で頼んだ手前、断るのも不自然だ。
それに本邸に行けるということは、公爵家の内情を探る良い機会でもある。つまり、断る理由が見当たらない。
「まぁ、嬉しいですわ」
シンシアは、にっこりと悪女らしい笑みを浮かべる。










