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「断罪の刃は、愛しき喉元へ」(3)

「フン! 大口を!」


言葉が終わるより早く、“ミューサ”の堪忍袋の緒が切れた。 長剣を提げ、足元で凄まじい速度を爆発させ、自ら突っ込んでくる。わずか二歩で、暴風のような斬撃が目の前に迫る!


ガギン!キン、キン――。


エドはまともには受けなかった。 分厚い鉈で剣先を弾き、素早く二刀を擦り合わせて長剣を激しく「削り」、その反動を利用して再び後退する。


だが今回、“ミューサ”はもうこの「かくれんぼ」に付き合う気はなかった。 エドが下がった瞬間、“ミューサ”は踏み込み、長剣を暴風雨のように振るい、無慈悲な追撃を開始した。



キン、ガギッ、ダン!


攻勢が一瞬で逆転した。 先程までの猫と鼠の遊びは、致命的な絞殺刑へと変貌する。“ミューサ”の長剣は毒蛇が鎌首をもたげるように、エドの喉元と心臓ばかりを執拗に狙う。 恐ろしい剣閃が皮膚を掠めるたび、エドの瞳孔は本能的に収縮する。


だが、彼に恐怖はない。 狂乱の剣閃の中、エドは恐ろしいほど冷静だった。反撃はしない。ただ、ボロボロになったその二刀で、長剣の「同じ箇所」を、何度も何度も叩き続けた。


剣刃が激しく衝突を繰り返すたび、耳障りな金属音の中に―― ついに、微かな異音が混じった。



カチッ。



音は小さいが、それは雷鳴のように響いた。

その瞬間、“ミューサ”はエドの瞳に走った一瞬の「隙」を見逃さなかった。


「死ね!」


この好機を逃さず、“ミューサ”は素早く身を翻し、空間を切り裂く気迫と共に、長剣を銀の線に変え、エドの心臓を直突きにした!


速すぎる。 瞬きする間もない。


電光石火の刹那、生存本能が電流のように背骨を駆け上がり脳髄を直撃した。エドは即座に半身になり、二刀を跳ね上げ、その斜面を利用して剣の軌道を逸らそうとした。


ガチッ、ズリュッ――!


本能的な機転が、剣先を偏らせることに成功した。 だが、その必殺の一撃はあまりに鋭すぎた。 剣身は二刀の表面を滑り、心臓こそ避けたものの、エドの肩に深々と突き刺さり、貫通した!


「ぐぅ……ッ」


激痛に呻き声が漏れ、顔から血の気が引く。


だが彼は退かない。逆に凶暴な光を目に宿した。 下唇を噛み切り、左肩の筋肉と骨格を猛烈に収縮させ、その血肉の体で、長剣を体内に死ぬ気で固定した!


同時に、右手首を返す。 分厚い山刀の峰を内側に向け、高く振り上げると、長剣の刀身に刻まれた無数の亀裂――その一点めがけて、思い切り叩きつけた!


「はあああッ!――」


パキィィン――。


心臓が凍るほど清脆な金属の断裂音が、夜空に響き渡った。 あまりに唐突な出来事に、“ミューサ”さえも一瞬の驚愕に動きを止める。


この一瞬だ! エドは激痛を堪えて二歩下がり、勢いそのまま右手の山刀を飛斧のように、“ミューサ”の剣を持つ手めがけて全力で投擲した!


ヒュルルルル――!


重い山刀が空中で高速回転し、身の毛もよだつ風切り音を上げる。


ドスッ!


「ぐっ……きサま、――」


山刀が“ミューサ”の手首に深く食い込み、血飛沫が舞う。


“ミューサ”が悲鳴を上げるより早く、エドはすでに無表情で、自分の肩に刺さっていた半分の断剣を引き抜いていた。


生温かい血が滴っているが、今の彼は全く意に介さない。 逆手に持ち替えると、短剣のようにして“ミューサ”の喉元へ猛然と投げつけた!



シュッ――


「このクソガキがぁ!――」

腐っても“ミューサ”は頂点の剣術使いだ。片手を潰されても、その反応は神速だった。


手首の激痛も顧みず、左手の二本指を稲妻のように突き出し、千鈞一髪のところで飛来した断剣をしっかりと「指で挟み止めた」!


しかし。 エドが断剣を投擲したその瞬間、小さな体はすでに高く跳躍していた。



「はあああああああッ!!!」


決死の咆哮を上げ、両手で鉈を振り上げ、“ミューサ”の頭蓋へと迫る。



「馬鹿め、隙だらけだ!」


“ミューサ”は獰猛に笑い、手首を返して断剣を投げ返し、空中で身動きの取れないエドを串刺しにしようとする。



エドは自分に迫る断剣を見ても、微塵も避ける素振りを見せない。 彼は奥歯を噛み締め、左腕を猛然と振り抜いた!


泥と、砕石と、そして自分の鮮血が混じった砂礫の塊を、“ミューサ”の両眼めがけて叩きつけたのだ!


ザッ――!


「ぐぅっ! がぁ……目が……!」

血生臭い砂礫が、何一つ遮るものなく“ミューサ”の両眼に入り込む。 異物混入の激痛に本能的に目を閉じてしまい、手にした断剣も狙いを外し、エドの頬を掠めて血筋を作っただけだった。


この千載一遇の好機。


エドは両手で鉈の柄を握りしめる。 無防備になったその首筋へ、全身の重量と憎しみのすべてを乗せて、思い切り振り下ろした!


ズドンッ――!!!


鉈が肉を断ち、鎖骨と首の間に深く食い込んだ。 噴水のように鮮血が吹き出し、エドの歪んだ顔を赤く染める。




「言っただろう! 言ったはずだ!!!」


エドは柄に全体重を乗せてしがみつき、“ミューサ”の体にぶら下がるようにして、刃を少しずつ、少しずつ押し込みながら、喉が裂けんばかりに咆哮する。


「お前のその化け物の首を、切り落とすってなァ!!!」



「あ、あぁ……が……ッ……」


“ミューサ”は壊れた鞴のような喘鳴を漏らし、体を痙攣させて抵抗しようとするが、エドに死に物狂いで抑え込まれる。


「俺の師匠を返せ!!! あの人を……返せよぉぉぉ!!!」


死寂に包まれた森の中、少年の悲痛な叫びが、手負いの孤狼のように、哀しく、絶望的に響き渡った。


「何を馬鹿なことを言ってるんだ、小僧」

下に組み敷かれた“ミューサ”は、苦痛を見せるどころか、軽蔑したように笑った。


「俺はここにいるだろう?」


「騙されるか! この人皮を被った化け物が!」

エドの両目は充血し、理性は怒りの炎で焼き尽くされている。


「一体何の目的だ! なんで俺の大事な人たちの顔を真似るんだ!」


「真似? いいや違う……」 怪物は血塗れの手を伸ばし、エドの頬を優しく撫でた。

「全部本物だよ。みんなお前の中に生きている……だが、それも全部お前が殺しちまったんだよ……ムッ!?」


ゴリ、ゴリ――。


エドは相手の戯言に耳を貸さなかった。


奥歯を噛み締め、両手で柄を押し込み、鉈の刃を怪物の鎖骨の深くまでメリ込ませる。 言葉で精神をへし折ろうとする悪意ある戯れが、逆にエドの無名の怒りに油を注いでいた。


「痛ぇなぁ……クソガキ。言っただろ? 忘れちゃいけないぞ……その善良で優しい心を」


「師匠はこうも言った! 苦痛に立ち向かう勇気を忘れるなと! ましてお前のような化け物に! 優しく接する価値などない!!!」


ズドンッ――!!!


刃がさらに数寸沈み込み、鎖骨を強引に断ち割った。


「そうか……優しくされる価値がない、か……」


怪物の声が、唐突に変わった。 粗野でしゃがれた男の声ではない。磁力を帯びたような、艶めかしい口調へと。


恍惚とする中、視界の景色が狂ったように歪み始める。

身の下にある岩のような男の肉体が、煙のようにボヤけ、軟化していく。

血に染まったボロボロの布服は、妖しい光の中で見慣れた紫色のローブへと織り変わる。

浅黒く無骨だった肌は、殻を剥いたゆで卵のように、白く、滑らかに、潤いを帯びていく。

剛毅だった顔の輪郭が和らぎ、最終的に――エドが日夜想い焦がれた、美しい顔立ちへと定着した。



「――!?」


エドはカッと目を見開き、呼吸を止めた。 眼下の人物を信じられない思いで見つめ、鉈を握る手が凍りついたように動かなくなる。



「あ……あ……、どう……して……」


目に映ったのは、もう“ミューサ”ではない。 彼の人生において、いついかなる時も守りたいと願った、最も大切な姉――タリアだった。


変貌した“タリア”は、宝石のように妖艶な赤紫の瞳をゆっくりと開いた。 魂が抜けたようなエドの表情を見て、その桜色の唇が、愉悦の弧を描く。


「どうしたの? 私に会えて……嬉しくない?」


「う……あ……」 エドは感電したように手を離し、よろめきながら後退った。


「なんで……どうしてそんな姿に……」


「今なら、私は優しくされる価値……あるかしら?」

“タリア”はゆっくりと上半身を起こした。首の致命傷は、肉眼で確認できる速度で癒合していく。 彼女はエドに手を差し伸べた。その声は水が滴るほどに甘く、優しい。


「おいで、エド。お姉ちゃんに抱きつきたくない?」


「来るな……!」


エドは慌てて武器を探そうとしたが、さっきまでの鉈はいつの間にか消失していた。 代わりに、一本の冷たく鋭利な短剣が、虚空から湧いたように彼の手の中に現れる。


(これは……?!)


反応する間もなく、“タリア”の影が亡霊のごとく瞬時に接近した。 彼女は短剣を握るエドの手を優しく包み込み、持ち上げ――。 鋭い切っ先を、自らの雪のように白い喉元に押し当てさせた。


「ち、違う……離せ!」


エドは必死に手を引こうとし、その忌まわしい短剣を捨てようとした。 だが、その華奢で柔らかそうな手は、鉄の万力のように彼の手首を固定し、微動だにしない。


「何を慌てているの?」

彼女の顔が近づく。温かい吐息がエドの顔にかかる。そこには、甘ったるい香りが混じっていた。


「さっきまでは威勢がよかったじゃない? 私を食い殺さんばかりの勢いだったのに。どうして今は……顔も見られないのかな?」


「やめろ……やめてくれ……」


エドは苦痛に目を閉じた。 だが目を閉じれば閉じるほど、封印されていた記憶が鮮明に湧き上がる。


――記憶の奥底。 ――あの見慣れたベッドの上で、タリアが必死に抵抗し、泣き叫んでいる。

――ルグナーという男が、下卑た笑みを浮かべ、乱暴に彼女の服を引き裂く。

――そして自分は、あの子爵に踏みつけられ、ただ目を見開いて、姉の絶望的な悲鳴を聞いていることしかできない……。




「随分と激しい反応だこと」 “タリア”は痙攣するエドを見て、鈴を転がすような笑い声を上げた。


「師匠が死んだ時は、そこまで取り乱さなかったのにねぇ。アハハハハ……」


苦痛、屈辱、絶望。 無数の負の感情が津波となってエドの理性を押し流した。 彼は白目を剥き、極限の精神的拷問に耐えきれず、気絶寸前まで追い込まれる。


「チッ」

それを見た“タリア”は、顔に浮かべていた愉悦の笑みを消し、失望したように小さく溜息をついた。


「この子……こういう遊び方は、ちょっと刺激が強すぎたかしら……」

彼女は軽いため息をつくと、エドの手を離した。 そして両腕を広げ、崩壊した少年を優しく抱きすくめた。


「よしよし……もう痛くないわよ……」


ドスッ!


「あ……?」

心臓を抉る激痛が、エドの混乱した意識を瞬時に断ち切った。 無慈悲な刃が左胸に突き刺さり、心臓を貫通していた。

収縮を続ける心筋が鋭利な刃と擦れ合い、発狂しそうな戦慄が走る。


「どう……して……」

エドの暗赤色の瞳は、生命の流出と共に、徐々に元の澄んだ鳶色へと戻っていく。 脳裏を占めていた苦痛の記憶も、狂った殺意も、この一突きと共に霧散した。


体が弛緩し、“タリア”の温かい胸の中に重く倒れ込む。


「やっぱり、記憶を封じないと駄目ね」

“タリア”は微笑み、二本の指をエドの額に当てた。 指先から滲み出した暗赤色の霧が、少年の眉間へとゆっくり染み込んでいく。


霧が浸透するにつれ、エドの虚ろな瞳から恐怖と苦痛が消え、代わりに異様な安らぎが満ちていく。 瞼が重くなり、深い深い睡魔へと落ちていく。


奇妙な光景が広がった。 エドの体にあった無数の傷口、全身を覆う血の汚れが、時間を巻き戻すように急速に褪せ、消えていく。 ほんの数瞬で、彼は傷一つない、清潔な寝間着姿の少年に戻っていた。


今の彼は、“タリア”の柔らかな太腿に心地よさそうに枕し、安らかに寝息を立て、時折安心したような寝言さえ漏らしている。

“タリア”は月明かりの下、少年の頬を慈しむように撫でた。



「おやすみ……」


「次は……どんな方法で遊んであげようかしら? 可愛いのエドちゃ~ん……」

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