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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

正しい休日の過ごし方

作者: 夕月ねむ
掲載日:2025/11/14

 本を読んでいた僕の視界の端で、マグカップが断りもなく持ち上げられた。

「お前が淹れるコーヒーは甘すぎる」

 勝手に飲んだくせに、そんな不満げな声が聞こえる。

「いつもこれじゃあ病気になるぞ」


「いつもじゃないよ」

 集中が途切れた本の世界から視線を上げる。少し強面の真面目そうな男が、じっと僕を見ていた。

「悪い。邪魔したか?」

 よく言う。最初から邪魔するつもりだっただろうに。


「いいよ、別に。ちょっと休憩する」

 腕をぐーっと伸ばすと、凝り固まった肩が鈍く痛い。ストレッチくらいはするべきか。マグカップを覗き込んで、空だと気付いた。

「あー、コーヒー……」

「やめとけ。糖分とりすぎ。カフェインもな」


 でも、と呟いたらマグカップを取り上げられた。

「白湯か麦茶にしな。これは洗ってきてやるから」

「ん。ありがと」

 まったく。世話焼きというか。甘やかすのがうまいんだから。


 こいつと同居……いや、同棲を始めてから、一年が経った。心配性で溺愛気質な恋人は、未だに僕の世話をするのが楽しいらしい。

「なんかごめんね。せっかくの休みなのに」

 僕が出かけたくないと言った上にずっと本を読んでいたから、それに付き合わせたことに若干の罪悪感があった。まあ、楽しげにゲームをしていたけど。

「家でゆっくりするのもいいだろ。ほら、麦茶」


 マグカップを受け取って、半分くらいを一気に飲んで。それから喉が渇いていたのだと自覚した。

「夕飯どうする?」

 できれば外には行きたくないなあ、面倒だなあ。そんな気持ちを込めて聞いた。

「ピザなんてどうだ? チーズましましのバカみたいな期間限定メニューがあるらしいぞ」


「流石にちょっと重くない?」

 お互い三十歳をいくつか過ぎて、少々油が辛くなってきている。

「たまにはいいだろ。コーラとか頼んで、何かくだらない映画でも見よう」

「いいね。なんか『正しい休日の過ごし方』っぽい」

「あ、でも。お前はダイエットコーラな。今日はこれ以上砂糖はやめとけ」

「はぁい。わかったよ」


 ソファにくっついて座って、どの映画を見るか選んでいる間に、ピザが届いた。

「うわあ、チーズすご……」

「そうか? 噂ほどじゃないけどな」

「いや、見てるだけで胸焼けしそう」

「それがいいんだろ、こういうのは」

「だね」


 結局、二人で選んだのは登場人物が踊りまくるインド映画で、予想よりしっかりとしたストーリーの、見応えあるものだった。

「なんか……思ったより良かった」

「そうだな」

「筋肉すごかった」

 隣に座る男がプッと吹き出す。

「感想それかよ」


「だって僕、鍛えてもああはならないし」

「ならなくていいって」

「もう少し体力欲しい」

「別にひ弱ってわけでもないだろ」

 こいつ。自分が体格に恵まれているからって。

「憧れってやつだよ」


「必要ないよ」

 意味ありげにじっと見つめられた。

「……なんで」

「お前はちっちゃくて細いから、可愛いんじゃないか」

「ちっちゃい言うな」

 ついでに『可愛い』も褒め言葉になってないからな?


「別に貶してるわけじゃないよ。すっぽり収まっていい感じ」

 ぎゅっと抱き寄せられると、小柄な僕は確かに腕の中で収まりがいいのだと感じる。

「でも。体力は欲しいんだよ」

「健康が気になるなら、運動より甘いものやめたら」

「そうじゃなくて」


 僕は恋人の頭を抱き寄せ、耳元に囁いた。

「いい加減、抱き潰されてばっかりじゃ困るだろ」

 真面目な強面、でもちょっとむっつりで僕のことが大好き。そんな恋人の顔がじんわりと赤くなった。








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