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第2章 絶望の牢獄、一筋の光



若い男が独房に入ってきた。看守のフランソワは扉を閉めたが、立ち去ることなく外で待機している。明らかに金を受け取ったものの、この面会で何か問題が起きないよう見張っているのだ。


男は疲れた目でルーアンを一瞥すると、低い声で言った。


「テレーズ修道女があなたを見舞うよう頼んできました。何があっても生き延びてほしいと」


テレーズ――修道女テレーズ。


前の持ち主の記憶の中で、唯一彼を気にかけていた人物。孤児院で十数年も世話をしてくれた優しいシスターだ。


「彼女は……」ルーアンの声は少しかすれていた。「今、元気ですか?」


「毎日教会であなたのために祈っています」男の声は落ち着いていたが、目の奥の疲労は隠せない。「あちこち頼み回って、誰か助けてくれる人がいないかと。でも……」


彼は言葉を切った。


「職務怠慢で軍資金を失わせた罪人を助けようなんて人は、誰もいません」


軍資金紛失……ルーアンの脳内で前の持ち主の記憶が素早く整理される。


三日前、ブレスト港へ運ばれ、アメリカでの作戦を支援するはずだった軍資金が、ブルターニュの森の道で襲撃された。三十万リーブルの金貨が混乱の中で小川に落ち、そして――消えた。


正確には「悪魔に飲み込まれた」のだ。


護衛たちは光る幽霊と火を噴く魔物を見たと主張している。小川の水が不気味に青緑色に変わり、刺激臭を放ち、金が水中で「溶けて」、奇妙な青い結晶だけが残ったという。


そして前の持ち主は、パリの夜警として、本来こんな任務に関わるはずがなかった。王室軍の給与輸送は通常、騎馬警察隊と正規軍が担当する――彼らには馬も武器もあり、専門的な訓練を受けている。市内の夜間巡回だけを担当する夜警に、そんな重要任務に参加する資格はない。


だが三日前、前の持ち主は突然臨時命令を受けた。


『記憶では……城防隊長が呼び出したんだな』


ルーアンは断片的な記憶を必死に辿る。


「明日の朝、レンヌ城外の森の駅に報告しろ。護送任務で人手が必要だ。二日間の仕事で、五リーブルの追加報酬がある」


月給わずか十二リーブルの夜警にとって、五リーブルは小さくない誘惑だ。前の持ち主は深く考えずに承諾した。


駅に着いてようやく、これが王室軍の給与護送だと知った。


彼の任務は車列の一里先で道路状況を調査すること――障害物を探し、橋を点検し、待ち伏せがないことを確認する。


事件が起きたとき、彼はちょうど上流一里足らずのところで小さな橋を点検していた。


叫び声を聞いて現場に駆けつけたときには、金はすでに消えていた。護衛隊の将校たちは口を揃えて、彼が事前に輸送ルートを調査せず、車列を危険に晒したと告発した。


『1778年……』


ルーアンは脳内で時系列を確認する。


前世でヨーロッパ史をそれなりに学んでいた。だから分かる――この年、フランスが正式にアメリカ独立戦争に参戦したことを。イギリスを弱体化させるため、フランスはアメリカ植民地の独立運動に巨額の資金を投じた。そしてこの戦争が最終的にフランスの財政を崩壊させ、十年後の大革命の導火線の一つとなるのだ。


『三十万リーブル……今の財政難のフランスにとって、決して小さな額じゃない』


「これをあなたに」


男は木製の十字架のネックレスを取り出し、テーブルに置いた。


「彼女の洗礼のときの聖遺物だそうです。神の加護がありますように、と」


ルーアンはその粗末な十字架を見つめる。


前の持ち主の記憶が、これがテレーズにとってどれほど大切かを教えてくれる。だが、ルーアンの心は何も動かない。まるで映画を見ているようなものだ。筋書きは分かるが、感情的な共鳴はない。


テレーズ……記憶の中に青髪の修道女の姿が浮かぶ。


幼馴染で、孤児院で一緒に育ち、後に修道女になった。前の持ち主は彼女をとても慕っていた。恋慕していたと言ってもいい。


だが今のルーアンには、彼女に何の感情もない。見知らぬ人の話を聞いているようなものだ。


『悪いな、前の持ち主。お前の体と記憶は引き継いだが、感情ってのは……』


それでもルーアンはネックレスを手に取った。どうあれ、これは好意だ。そして恐らく前の持ち主を気にかけてくれる唯一の人物の好意なのだ。


「ありがとう」


ルーアンは言って、目の前の男を見上げた。


灰色のコート、茶褐色の髪をポニーテールに結び、金縁の眼鏡をかけている。整った顔立ちだが、憔悴した表情で、目の下には血走った充血が見える。全身から疲労と……絶望が?滲み出ている。


前の持ち主の記憶がこのとき蘇る。


アントワーヌ・ドラクロワ。サント・マルグリット孤児院で一緒に育った仲間。去年パリ大学を卒業し、法律を学び、優秀な成績を収めた。


記憶はあるが、感覚が奇妙だ。


他人の日記を読んでいるようなもので、何が起きたかは分かるが、感情がない。ルーアンは前の持ち主とこの人物の関係が良好だったことは知っているが、彼自身は目の前の見知らぬ男に何の親近感も抱いていない。


『これが転生の代償というやつか……知識はあっても、感情が伴わない』


「座ってくれ」


アントワーヌは向かいの椅子を指さし、落ち着いた声で言った。


ルーアンは向かいに座り、この「幼馴染」を注意深く観察する。


大学卒業生で法律を学んだなら、前途洋々のはずだ。だが今のこの様子――充血した目、微かに震える指、全身から滲み出る疲労と絶望。


おかしい。非常におかしい。


「ここに来たのは」ルーアンは単刀直入に聞いた。「物を届けるだけじゃないだろ?」


前の持ち主の人間関係には何の感情もないが、前世の商人としての観察力は健在だ。目の前の男は明らかに何か抱えている。


アントワーヌの表情が一瞬固まった。


彼は数秒黙り込み、それから背もたれに寄りかかり、苦笑を浮かべた。


「……その通りだ」


彼の声が震えている。


「俺も君に頼みに来たんだ」


「頼み?」

挿絵(By みてみん)


「王室警護隊が五回も来た」アントワーヌの声が震え始める。「毎回深夜だ。捜索、尋問、脅迫。俺の住居を徹底的に調べ、知り合い全員に聞き取りをした。逮捕はされていないが……」


彼は眼鏡を外し、目を揉んだ。


「みんな知ってしまった。アントワーヌ・ドラクロワ、軍資金紛失事件の職務怠慢罪人の共犯者だと」


ルーアンは眉をひそめる。


「連座か? 法律上、そんなことが許されるのか?」


「法律上は許されない」アントワーヌは眼鏡をかけ直す。「ルイ十五世陛下の在位中に発布された法令で、証拠なしの逮捕は明確に禁じられている。だが実際には……」


『ああ、そうだ。ルイ十五世は1774年に崩御し、今はルイ十六世が在位している』


ルーアンは脳内で時系列を確認する。


「パリ大学は俺への推薦を取り消した。ドゥブレ判事の事務所は俺の職を取り消した。応募した書類は全て石のように沈んだ」


「同級生は俺を見ると逃げる。大家は追い出すと脅す。よく行くカフェでも、店主が来るなと暗に示してくる」


彼の手が震えている。


「一番恐ろしいのは何だと思う? 彼らは俺を逮捕しないが、放してもくれない。こうやって生かしておいて、自分の人生が少しずつ崩れていくのを見せつけるんだ。いつでも濡れ衣を着せられ、いつでもバスティーユ牢獄に入れられる可能性があるが、それがいつなのかは分からない」


ルーアンは黙り込んだ。


前の持ち主の友人には何の感情もないが、この絶望は理解できる。前世の日本でも似たようなことを見た――会社のスキャンダルが発覚した後、無実の社員でさえ社会から排斥され、新しい仕事が見つからず、絶望の道を歩むことを。


そしてルーアンは一つのことを理解した。


『これが旧体制下のフランスか……法律上は保護があっても、権力者が平民を破滅させるのは朝飯前だ』


これは重要な情報だ。ルーアンはこの時代のルールを理解する必要がある。


「もし俺が有罪判決を受けたら、お前はどうなる?」


ルーアンは聞いた。


「完全に終わりだ」


アントワーヌの声は落ち着いている。恐ろしいほど落ち着いている。


「『職務怠慢罪人の共犯者』というレッテルは一生ついて回る。俺は永遠に弁護士になれない。永遠に普通の生活もできない」


「だから……」


「だから頼みに来た」


アントワーヌはルーアンを真っ直ぐ見つめる。


「もし本当にお前が職務を怠り、軍資金を失わせたなら、素直に白状してくれ。誰の指示で、どう失敗したのか。協力さえすれば、俺がこの件と無関係だと証明してくれれば、王室警護隊は俺を放してくれる」


ルーアンは瞬きした。


『待て、この展開……』


「俺に自白しろと?」


「すまない」


アントワーヌは頭を下げた。


「自分勝手なのは分かっている。でも本当に……こんな風に破滅したくないんだ。六年間の勉強、全ての努力、全ての夢が……」


彼は顔を上げ、目が赤くなっている。


「テレーズは君に生き延びてほしいと言ったが、俺は……俺はただ自分が生き延びたいだけなんだ」


ルーアンは彼を数秒見つめた。


それから、笑った。


「断る」


「何?」


「断ると言った」


ルーアンは背もたれにもたれる。


「第一に、俺は職務を怠っていない。第二に、たとえ自白しても、お前を救えない」


「どういう意味だ?」


「考えてみろ」


ルーアンは指を一本立てる。


「もし俺が職務怠慢を認めれば、『失職官吏』という身分が確定する。そして俺の友人であるお前は、たとえ俺が知らなかったと言っても、人々は疑うだろう。『知らないはずがない? 彼らは幼い頃から一緒に育ち、一人は夜警に、一人は法律を学んだ。きっと早くから計画していたに違いない!』――人々はそう考える」


アントワーヌは呆然とした。


「逆に」


ルーアンは二本目の指を立てる。


「もし俺が無実を証明し、これが冤罪だと証明できれば、お前は自然と潔白になる。それどころか、もし俺が事件を解決し、真相を見つけられれば、お前は巻き返せる――『失職官吏の共犯者』から『軍資金紛失事件の真相解明に協力した法学士』に変われる」


「お前……」


アントワーヌは呆然とルーアンを見つめる。


ルーアンは彼の反応を観察する。


『よし、食いついた』


前の持ち主の友人には感情がないが、このアントワーヌは使える。法学院卒業生で、法律システムを理解し、今は追い詰められている――利用するには最高のタイミングだ。


もちろん、そこまで露骨には言わない。ルーアンはただ取引をしているだけだ。


「それで、生き延びたいか?」


ルーアンは聞いた。


「どうするつもりだ?」


アントワーヌの声が震えている。


「お前は牢に閉じ込められ、明日には判決が下る。何ができる?」


「情報が必要だ」


ルーアンは彼を真っ直ぐ見つめる。


「軍資金事件の全ての詳細――襲撃の経過、現場の状況、証人の証言、物証のリスト、そして最も重要なのは――消えた金に一体何が起きたのか。入手できるか?」


「正気か」


アントワーヌは首を振る。


「その記録は王室判事ド・ブロイのところにあり、厳重に警備されている。俺がどうやって――」


「お前はパリ大学の最終年にド・ブロイ判事の書記助手をしていただろ?」


アントワーヌが固まる。


ルーアンは続ける。


「お前は判事邸の書記官を知っているし、書庫がどこにあるかも、文書がどう分類されているかも知っている。これは全て前の持ち主の記憶にある。お前たちは昔、ある事件の記録整理方法について文通で議論していた」


「それでも……」


「盗む必要はない」


ルーアンは彼の言葉を遮る。


「見るだけでいい。そして記憶する。お前はパリ大学の優等生だ。記憶力は悪くないだろう」


アントワーヌは黙り込んだ。


彼はルーアンを見つめ、この人物を見直しているようだった。


「お前……変わった」


彼はゆっくりと言った。


「前のお前はこうじゃなかった。前のルーアンなら、こんなことがあればとっくに慌てて、絶望していた。だが今のお前は……目つき、話し方、問題を考える論理まで……」


『まずい、演技が過ぎたか?』


ルーアンは内心焦るが、表面は冷静を保つ。


アントワーヌはルーアンを見つめ続け、目には困惑と疑念が満ちている。


沈黙が数秒続く。


ルーアンは合理的な説明を与えなければならない。


「人は絶境で変わるものだ」


ルーアンはできるだけ冷静に言う。


「地下牢でこの数日、色々考えた」


「変化が大きすぎる」


アントワーヌは首を振る。


「前のお前は……臆病で、優柔不断で、何かあればすぐ慌てた。だが今、お前の目は別人のようだ」


ルーアンの心臓が速くなる。


『気づかれた?』


「もしかしたら……」


ルーアンはゆっくりと言う。


「もしかしたら、俺は一度死んだからかもしれない」


「何?」


「連行される途中で、高熱を出した」


ルーアンは後頭部を指す。


「頭部を負傷して、三日三晩高熱が続いた。目覚めたとき……多くのことが思い出せなくなっていたが、逆にいくつかのことがはっきりした」


これは完全な嘘ではない。前の持ち主の記憶はその期間確かに欠落している。


「記憶が……」


アントワーヌの表情が複雑になる。


「どれだけ失った?」


「あの日のことは、ほとんど覚えていない」


ルーアンは正直に言う。


「だから記録が必要なんだ。一体何が起きたのか、なぜ俺が告発されたのか知る必要がある」


アントワーヌは考え込んだ。


記憶喪失と性格の変化は、この時代ではまだ説明がつく。頭部負傷による記憶喪失の事例は珍しくない。


「それに……」


ルーアンは言葉を切る。


「俺はただのパリの夜警だが、この数年の仕事で観察することは学んだ。酔っ払いの喧嘩、泥棒の窃盗、毎回真実を見極め、嘘をつく者を見つける必要があった。以前は使わなかったかもしれないが、今使わなければ本当に死ぬ」


この説明でアントワーヌは少し落ち着いたようだ。


彼は深呼吸をする。


「仮に情報を手に入れたとして、それからどうする? お前はここに閉じ込められ、何もできない」


「推理できる」


ルーアンは言う。


「どんな犯罪にも論理があり、どんな嘘にも綻びがある。十分な情報をくれれば、真相を見つけられる」


「甘すぎる。王室判事が囚人の『推理』で再調査するはずがない」


「なら証拠を見つける。真犯人を見つける。消えた金を見つける」


アントワーヌの目が見開かれた。


彼は何か言いかけたが、言葉が口まで出かかって飲み込んだ。


扉の外から足音が聞こえる。


「時間だ」


フランソワの声が扉の外で響く。


二人とも動かない。


「本当に……勝算はあるのか?」


アントワーヌの声が震えている。


「正直に言えば、ない」


ルーアンは苦笑する。


「だが試さなければならない。なぜなら試さなければ、俺たちは終わりだからだ」


「俺は絞首台に上るか、アメリカに流されて苦役に就く。お前は……別の道を歩むことになる」


「だが試せば、少なくともわずかな希望はある」


アントワーヌは長い間黙り込んだ。


窓の外の灰色の光が彼の顔を照らし、その疲れた顔をさらに蒼白く見せている。


「……何の情報が必要だ?」


彼はついに口を開いた。聞こえないほど低い声で。


ルーアンは内心で喜ぶ。


「現場の物理的な詳細全て」


ルーアンは素早く言う。


「小川の色、臭い、温度、残留物。金が消える前後の全ての異常現象。護衛たちの証言、各人が何を見たか、どこにいたか。そして――」


「他には?」


「輸送ルート、通過した駅、検査担当の官吏、馬車の積載記録」


ルーアンは一気に言う。


「金がすり替えられた可能性を示す手がかり。それと、なぜ俺がその時間に臨時召集されたのか? 誰の命令だ? 命令は口頭か書面か? これは重要だ」


「扉が開く」


フランソワが外で急かす。


アントワーヌは深呼吸をする。


「試してみる」


彼は言う。


「だが成功する保証はない。その記録は厳重に警備されているし、俺は今疑われている立場だ――」


「お前ならできる」


ルーアンは彼の袖を強く握る。


「お前はパリ大学の優等生だ。誰よりも賢く、能力がある。もし気づかれずにあの文書に接触できる者がいるとすれば、それはお前だ」


「それに、選択肢はない」


ルーアンの声は軽いが、しっかりしている。


「お前の言う通り、俺たちは同じ船に乗っている。船が沈めば、俺たちは終わりだ」


アントワーヌはルーアンの目を見つめ、何かを探しているようだった。


それから、彼は頷いた。


「明日の夜」


彼は低く言った。


「もし情報を手に入れられたら、何とかして送り込む」


「どうやって?」


「フランソワ」


アントワーヌは扉の外を一瞥する。


「あいつは何でも密輸する。十分な金さえあれば。俺にはまだ少し蓄えがある……」


扉が開かれた。


「時間だ! 出ろ!」


フランソワが乱暴に言う。


アントワーヌは立ち上がり、最後にルーアンを一瞥した。


その目には恐怖、ためらい、そしてわずかな……希望が?


「無事で」


彼は言い、踵を返して去った。


ルーアンは地下牢に連れ戻された。


暗闇の中、湿った壁にもたれながら、ルーアンは思考を整理し始める。


『1778年、フランスはアメリカ独立戦争に参加したばかりだ。財政は元々逼迫しており、今また三十万リーブルの軍資金を失った。ルイ十六世の政府にとって、これは経済的損失だけでなく、政治的スキャンダルだ』


『彼らには身代わりが必要だった。前の持ち主は最底辺の夜警として、臨時召集され、たまたま現場付近にいたため、最も都合のいい標的になった』


『だが問題は……あの金は一体どこに消えたのか? それに、なぜよりによって前の持ち主が臨時召集されて前方の道路を調査したのか?』



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