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第59章 上質な肌触り

ルーンの手が突然フィオナの鎧の縁に沿ってゆっくりと上に滑り始めた。


フィオナの表情が一瞬で凍りついた。顔色を失って叫ぶ。


「あ、あんた、何してるの?!」


「さあ、何だろうな?」


俺はこんなことしたくないんだけど、かといってやりたくないとも言い切れない。女騎士に押さえつけられて、自尊心が許さないんだ。ルーンも怒りが爆発した。


「当然、お嬢さんの願いを叶えてやろうってことだよ」


ルーンの手が彼女の腰に触れた瞬間、奇妙な感触が指先に伝わってきた。


鎧で覆われていない腹部――そこは薄い革のベルトと布地だけで、その下の柔らかな肌の温もりが直接感じられた。触れた部分は驚くほど滑らかで、まるで上質な絹のようだった。金髪のフランス貴族らしい、白磁のような肌。わずかに張りのある若い女性特有の弾力が、指に心地よい抵抗を返してくる。


鎧の冷たい金属とは対照的に、その部分だけが生命の温かさを持っていた。ルーンの指が無意識のうちに、ベルトと布地の境目をなぞる。細く引き締まった腰の曲線が手のひらに収まる感覚――騎士として鍛えられた身体でありながら、女性らしい柔らかさを失っていない。


ルーンは心の中で動揺した。鎧を着た女騎士という冷たく近寄りがたいイメージと、今手のひらに感じる生々しい温もりとのギャップが、彼の理性を揺さぶった。


そしてさらに――彼の指がピアノを弾くように彼女の脇腹をくすぐり始めた。


フィオナは怒りと焦りで、白い頬が真っ赤に染まった。強気な目には涙が浮かんでいる。


「や、やめなさいよ! 本気で殺すわよ!」


「お前が先に手を出したんだろう? だったらこっちだってやり返す権利はあるぞ」


さすがは聖光騎士。フィオナはルーンを睨む目が突然鋭くなった。まるで彼の虚勢を見抜いたかのように、軽蔑的に笑った。


「ふん、口だけね。本当にやれるものならやってみなさいよ。どうせあんたみたいな臆病者には何もできないんでしょう?」


彼女は挑発するように続けた。


「あたしに手を出す度胸があるって言うなら、証明してみせなさい。できないなら、二度とあたしの前で偉そうな口を利かないことね」


一番恐れるものは何か? それは女に見くびられることだ!


窮鼠猫を噛む、兎だって追い詰められれば噛みつく。


ルーンは怒りで笑った。元々あった五分の躊躇いは燃え上がる尊厳に焼き尽くされた。


「いいだろう。後悔するなよ、フィオナ」


彼の手が彼女の腰をしっかりと掴んだ。そして――


もう片方の手が、躊躇なく彼女の胸に伸びた。


「きゃあ——!」


フィオナは感電したようにルーンの体から跳ね上がり、ソファのもう一端に落ちた。信じられないという様子で、触られた胸を両手で押さえ、震える声で叫ぶ。


「あ、あんた……本当に……!」


彼女の白い顔が一瞬で真っ赤に染まった。強気だった瞳には涙が浮かび、唇が震えている。


ルーンも呆然とした。


あの感触が手のひらに残っている。柔らかくて、でも張りがあって――鎧の下に隠れていた、想像以上に豊かな膨らみ。一掴みしただけで形が変わったのに、手のひらには弾力のある抵抗が感じられた。


騎士として鍛えられた身体でありながら、確かにそこには女性らしい柔らかさがあった。


顔を真っ赤にした二人はこうしてソファの両端に座り、見つめ合っていた。一人は羞恥と怒りで震え、一人は自分のしたことの重大さに青ざめている。彼女は剣を抜いて斬りかかりたい。彼は命からがら逃げたい。まるで一触即発の戦場のようだった。


ちょうどその時、ドアの外から足音が聞こえた。


「ルーン、お料理が冷めてしまうわ……どうしましょう?」


救世主のように現れたのは、特蕾莎(テレサ)だった。


短く切り揃えられた青い髪が、扉の隙間から覗く彼女の顔を柔らかく縁取っている。清楚な修道服に身を包んだ彼女は、小さな頭を扉から覗かせて、中の様子を窺った。


そして――部屋の中の異様な空気を感じ取った。


聖光騎士のフィオナがソファの端に座り、顔を真っ赤にして胸を押さえている。反対側の端には、これまた顔を青くしたルーンが座っている。二人の間には、まるで戦場のような緊張が張り詰めていた。


「あの……お邪魔……でしたか?」


テレサの声が小さく震えた。


フィオナは鷹の爪のように曲げていた五本の指を、手首で器用に回転させた後、自然な動作で金色の短髪を撫でつけた。ルーンの苦笑いを見て、目に一瞬憎しみが走ったが、すぐにテレサに視線を移すと、表情が少し和らいだ。


「いいえ、テレサ様。お邪魔なんてとんでもない」


フィオナが立ち上がり、優雅に姿勢を正す。さっきまでの凶暴な女騎士はどこへやら、今は礼儀正しい貴族令嬢の顔だ。


女というのは本当に変わり身が早い。数秒前まで殺し合いをしそうだった人間とは思えない。


「あの……本当に大丈夫ですか?」


テレサは心配そうに二人を見比べた。


「ええ、大丈夫よ」


フィオナが微笑む。その笑顔は完璧だったが、目の奥にはまだ怒りの炎がくすぶっていた。


「ただ、この……ろくでなしと、ちょっとした意見の相違があっただけです」


「意見の相違」という言葉に込められた殺意を、ルーンは敏感に感じ取った。


「そ、そうだ! テレサ、料理が冷めるって?」


ルーンは話題を変えようと必死だった。この気まずい空気から一刻も早く逃げ出したい。


「ええ……マリーナが作ってくれたお料理が、もう三十分以上も食卓に並んだままで……」


テレサが困ったように言う。


「あなたたち、もしかして……まだお昼を召し上がっていないの?」


フィオナが驚いたように尋ねた。


「ええ……フィオナ様がいらした時、ちょうどマリーナが料理を作り終えたところで……」


テレサが説明する。


「私は厨房の後片付けをしていたので、お二人が……その……調査のお話をされている間……」


彼女は恥ずかしそうに視線を落とした。


フィオナの表情が少し柔らかくなった。テレサに向ける目には、ルーンに向けるそれとは全く違う温かみがあった。


「まあ、それは申し訳ないことをしました」


フィオナがテレサに向かって優雅に一礼する。


「私の調査のせいで、せっかくのお食事が台無しになってしまって……」


「い、いえ! そんな!」


テレサが慌てて手を振る。


「フィオナ様のお仕事は大切ですから……ただ、ルーンがどうしたいのかと思って……」


彼女はちらりとルーンを見た。その青い瞳には、幼馴染みとしての心配が滲んでいた。


ルーンは立ち上がった。


「テレサ、悪かった。すぐに行く」


そしてフィオナに向き直る。


「フィオナ隊長、調査に必要な書類は家に取りに行かなきゃならない。少し時間をもらえないか?」


「……いいわよ」


フィオナが冷たく言った。しかしテレサがいる手前、さっきまでのような凶暴さは抑えられていた。


「でも逃げようなんて思わないことね。あたしはここで待ってるから」


その言葉には明らかな警告が込められていた。


「わ、分かってるよ」


ルーンは冷や汗をかきながら答えた。


テレサは二人の様子を不安そうに見つめていたが、何も言わなかった。ただ、小さく唇を噛んで、困ったような表情を浮かべている。


「テレサ様」


フィオナがテレサの手を取った。


「よろしければ、この無礼者が戻るまで、私とお話ししていただけませんか?」


「え? でも……」


「大丈夫よ。あなたのような清らかな方とお話しできるなんて、光栄だわ」


フィオナの笑顔は、ルーンに向けるそれとは百八十度違っていた。


フィオナがテレサの小さな手を握り、温柔地微笑んで言った。


「ルーンの言うことなんて聞かないでいいのよ、テレサ様。怖がらなくて大丈夫。私はルーンの友人なんですから。ね、ルーン――」


このクソ女、歯を食いしばって俺の名前を呼んでやがる。どう見ても恐喝だろ。


虎は子を食わずと言うが、凶暴な獣ほど温和な一面を持つものだ。フィオナというこの暴竜は、どうやらテレサのことが相当気に入ったらしい。そのためなら俺との関係を近づけることも厭わず、テレサに近づこうとしている。


正直に言えば、俺はこの女が嫌いというわけじゃない。むしろ、その単純で率直な性格には少し好感すら持っている。


ルーンは気まずそうに頭を掻いて、テレサに向かって言った。


「ああ、そうだよ。確かに俺たちは最初ちょっとした誤解があったけど、まあ友人と言えなくもない、かな。ははは」


テレサはその言葉を聞くと、もう何も言わなくなった。俯いて何か考え込んでいる様子だった。


ルーンは心の中で思った。いつかこの子の寡黙な性格を何とかしないとな。


ため息をついて、フィオナに向かって言った。


「テレサは性格が内向的なんだ。苛めないでやってくれよ」


「私が……」


フィオナは反射的に拳を振り上げようとしたが、必死に堪えて勢いを止めた。そして、何とか笑顔と言えなくもない歪んだ表情を作り出し、甘ったるい声で言った。


「わたくし……そんなに怖いですか?」


悪寒が走った。


ルーンは全身に鳥肌を立てながら、部屋を出た。





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