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第29章 陸軍

そう言い残すと、彼は踵を返して立ち去った。


フィオナは石段に腰を下ろし、ルーンの濡れた背中が混乱する広場の縁に消えていくのを見つめていた。立ち上がりたかったが、体はまだあまりにも弱々しく、座り続けるしかなかった。


無限の圧力がドラークの身体から放たれ、広場の人々は一瞬、まるで自分たちが柔弱な羊の群れとなり、隠れる場所のない草原で飢えた獅子と対峙しているかのような錯覚に陥った。この威圧は無形無跡で、まさに精神と魂に直接作用するものだった。


金獅子の瞳に珍しい殺気が走り、無形の精神の嵐が広場を満たした。戦っていた者たちは皆手を止め、この精神の嵐に必死に抗っていた。功力や心志の弱い者は思わず一歩一歩後退し、何人かはこの精神的圧力に耐えきれず、意志が完全に崩壊して泣き叫びながら四散した。瞬く間に、広場の中央に大きな空間が生まれ、リリアナ、審判官、そして堕落竜サグラスだけが対峙を続けていた。セラスでさえこの巨大な圧力に耐えきれず、一歩ずつ後退していた。


セラスが全力で歯を食いしばって耐えていると、突如異変が起きた!


背後からタタタッと軽い音が響き、十数本の聖光の矢が雨のように降り注いできた。ドラークの威圧に全神経を集中していたセラスに、背後の異変に気づく余裕などあろうか?幸い数百年の生死の境を彷徨った経験が、彼の直感を研ぎ澄ませており、本能的に血霧と化して回避し、命を落とす危機を逃れた。しかし矢は多く、距離も近く、しかも奇襲だった。全てを避けられるはずもない。セラスが再び姿を現すと、右肩には既に二本の矢が突き刺さっていた。


セラスは怒髪天を衝く勢いで、奇襲者を探し振り返ると、若い聖光騎士が神聖な面持ちで自分の背後に立ち、長弓を手にし、弦がまだ震えているのが見えた。もう見るまでもない、あの矢のうち二本が自分の肩に刺さっているのだから。


この騎士はまだ神聖な表情を浮かべ、悪を懲らしめ民を救う正義の使者とでもいうような顔で、凶悪な魔獣でも見るような目で自分を睨んでいる。これで怒らずにいられようか?セラスは激怒のあまり血が頭に上り、突然灼熱感と虚脱感が全身に広がり、危うく倒れそうになった。驚愕した彼は、右手から既に青い煙が立ち上っているのを見た。顔も同様だろう。血族の王子が奇襲されるだけでも屈辱なのに、矢に聖水まで塗られているとは?


今は命が大事だ。セラスは長く吠えると、全身が無数の血色の蝙蝠となり、密集して空を覆い尽くした。血族化した後、彼は状況を見極めてすぐさま逃走した。さすがは数百年生き延びた血族王子、その決断の速さは見事というほかなかった。


若い騎士は惜しいと思ったが、血族化した王子を追う勇気はなかった。相手は序列五の血族貴族でもあり、その実力は侮れない。彼は賛美歌を詠唱し始め、聖光の加護を呼び求めた。今回騎士が使った聖水は、ベテランの神父から高値で買ったものだったのに、相手に傷を負わせただけで逃がしてしまうとは。


この若い騎士は先の戦闘でわざと弱さを見せ、手加減していた。聖光騎士の慈悲深さを存分に演じていたのだ。実際は容赦なく攻撃したかったのだが、一撃必殺のチャンスを見つけられず、敵の警戒を解くまで待つしかなかったのだ。だからこそセラスはこの若い騎士を軽く見て、まさかここで墜ちるとは思わなかった。


これもセラスの不運というもので、聖光騎士の中でこれほど腹黒い策略を使う者は、後にも先にもいないと言っていいだろう。


ルーンは顔色を失っていた。今、彼の精神は怒涛の中の一本マストの小舟のように、ある神秘的な力に引かれて必死にもがいていた。この牽引から逃れようと懸命だったが、遠方のどこかから、ある吸引力が彼の精神をしっかりと掴み、少しずつ未知の方向へと引っ張っていく。ルーンはこの力の源を全く知らず、ただ脳裏の「助けて」という声がどんどん明瞭に、どんどん切迫していくのを感じるだけだった。


こうなると分かっていたなら、ルーンは何があっても川にフィオナを助けに行かなかっただろう。今やこの精神的牽引とドラークの威圧という二重の苦しみの下、元々強大とは言えなかったルーンの精神力も徐々に枯渇していった。牽引力のもう一方の存在は、この最後の命綱を固く握り締めて離さず、むしろルーンの精神と魂を全て引きずり込む勢いだった。ルーンは心の中で既に自分を何百回も罵っていた——なぜ余計なことをしたのか、なぜ人を助けたのか、なぜよりによってこんな時に頭が熱くなったのか。


心中の恨みは重かったが、ルーンは黄河を見るまで諦めないタイプだった。この危機的状況でも、まさに生命ある限り抗い続けるという言葉通りだった。もちろん、抗うのを止めれば命も尽きる。必死に耐える中、彼の精神力はどんどん引き伸ばされ、徐々に弱まっていったが、それでも粘り強く途切れなかった。その精純さが窺える——これはおそらく黒田陽介のいた世界で精神力を修練した賜物だろう。


この時、広場でドラークと対峙していた各勢力も決して楽ではなかった。ドラークはまだ序列三の聖騎士に過ぎないが、この序列三こそが天地の差なのだ。聖騎士を前に、リリアナも、審判官も、堕落竜サグラスも、誰一人として勝てると軽々しく言えなかった。精神的な威圧だけでも絶え間なく狂ったように増大し続け、まるで底なしのようだった。その深く海のごとく、威厳山のごとき力を前に、各勢力は密かに退却を考え始めていた。


ドラークがそう簡単に彼らを逃がすはずがない。聖光の巨剣がまず最も脅威的なリリアナに向けられた。女魔法師は顔色を変えた。なぜ真っ先に自分が狙われるのか?サグラスと審判官は同時に警戒し、ドラークが動けば共闘する構えだった。


一触即発の緊張が走る中、突然全員の表情が変わり、同時に夜空を見上げた。元々混乱していた夜空に、突然血赤い稲妻が走った。間もなくまた一筋。その後、電光はどんどん増え、密集していき、血月が雲間に見え隠れした。


血月が突然輝き、目を射るほどの光を放った!


強烈な光の後、絶世の美女の姿が空中に立っていた。深紅の法衣が風になびき、銀色の長髪が風もないのに舞い上がっている。まさにリリアナだった!


しかし先ほどとは違い、今の彼女からはより強大な魔力の波動が放たれ、まるで別人のような気配だった。額の三日月形の紫水晶が激しく輝き、その光の中に巨龍の幻影がぼんやりと見えた。


ドラークは眉をひそめた。「リリアナ……お前、まさか……」


「その通りよ」リリアナは微笑んだ。その笑顔は美しくも冷たかった。「私は『赤龍の伝承』を完成させたわ。感謝すべきね、ドラーク。あなたのプレッシャーがなければ、最後の封印を解くこともなかったでしょう」


審判官が驚愕の声を上げた。「序列三……序列三の大魔導師だと?!」


ドラークの表情が険しくなった。聖光の巨剣を握りしめ、全身の金色闘気が爆発的に膨れ上がった。「たとえそうだとしても、貴様を逃がすわけにはいかん!」


その時——


「吼おおおお——!!」


天を震わす龍の咆哮が響き渡った!


広場の端で徘徊していた堕落竜サグラスが、赤龍の伝承の気配を感じ取り、突然激怒した。その巨大な身体が空へと舞い上がり、朽ちた紫色の翼が暴風を巻き起こし、ドラークに直撃した!


「赤龍の伝承……赤龍の気配……」サグラスの声は憎悪と狂怒に満ちていた。「ドラーク!かつて貴様ら聖光騎士団は龍族を虐殺した。今日こそ血の借りを血で返してもらうぞ!」


リリアナの美しい瞳が空中のドラークを捉えた瞬間、もう他の者は目に入らなくなった。深紫色の瞳に赤い光が走り、ドラークに向かって甘い声で言った。「ドラークったら、この頑固者。お姉さん、あなたを見くびっていたわね!さあ、この頑迷なお馬鹿さんをお仕置きしてあげる」声は甘ったるいが、身体から放たれる暴風怒涛のような魔法の波動が彼女の本心を暴露していた。


ドラークは巨剣を握りしめ、冷たく言った。「リリアナ、貴様は堕落竜と結託し、既に闇に堕ちた。今日こそ法の裁きを受けてもらう!」


リリアナはもう彼を相手にせず、両手を前に伸ばし、真紅の稲妻が胸の前で急速に集中し始めた。あの天地を滅ぼす赤龍咆哮の魔法をまた使おうとしているのだ。


その時、清冽で威厳ある女性の声が突然遠くから響いてきた。「もう十分です。ドラーク団長、ここにはこれほど多くの無辜の民衆がいるのに、あなたはこの都市が瓦礫の山になるのを黙って見ているおつもりですか?」


この一言は雷のようで、全員を凍りつかせた。リリアナは驚愕のあまり、紅い唇をわずかに開けたまま言葉を失った。赤龍咆哮の魔法は自然と中断された。


声は大きくなかったが、その場の達人たちは皆聞こえた。しかしこの言葉の衝撃力はあまりにも大きく、ドラーク、リリアナ、サグラスは一時呆然と立ち尽くした。


衆人の視線が注がれる中、ドラークは心を動かされたが、すぐに姿勢を立て直した。


「まさか、陸軍聖女……キルキ閣下か?」ドラークの声は幾分重々しかった。


遠方から明瞭な返答が返ってきた。「ドラーク団長はさすが耳聡いですね。教皇陛下が私を派遣されたのは、まさに事態の失控を懸念してのこと。今の状況を見ると、陛下のご心配は杞憂ではなかったようですね!」

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