第201章 修道院の秘密(前編)
夜が更け、孤児院は静寂に包まれていた。
ルーアンはベッドに横たわっていたが、眠れなかった。昼間の科学アカデミーでの忙しさ、そしてギュスターヴ事件の後始末が頭から離れない。深夜、廊下から足音が聞こえてきた。
誰だろう?
彼はベッドに起き上がった。部屋には蝋燭が一本だけ灯っている。薄暗い燭光が質素な寝室を照らしていた。壁には十字架、ベッド脇の小さなテーブルには科学アカデミーから借りた化学文献と実験ノートが置かれている。
足音が扉の前で止まった。
ギィ——
扉が静かに開いた。
灰色の修道服を着た女性が入ってきた。頭巾を外した短い青髪が目を引く。額の青髪は真ん中で分かれ、耳元へと流れている。手には二杯のホットミルクを載せた盆を持っていた。
テレサだ。
彼女はルーアンの視線に気づき、驚いて盆を落としそうになった。慌てて盆を置き、ベッド脇に腰を下ろす。
「まだ起きてたんだ。明かりが見えたから……温かいミルク、持ってきたの」
頬がほんのり赤く染まる。
「ありがとう。テレサか、何事かと思ったよ」
ルーアンはミルクを受け取り、ほっと息をついた。
燭光が揺れる。室内は静まり返っていた。
「テレサも眠れないのか?」
「ルーアン……ギュスターヴのこと、本当に大丈夫なの?」
テレサはベッド脇に座り、自分のミルクを手に小声で尋ねた。
「ああ、大丈夫だ」
ルーアンはカップを置き、真剣に答えた。
「ドラクロワ院長もメシエ先生も、科学アカデミーの人たちも、みんな力を貸してくれる。俺はただ子供たちを守っただけだ。どんな法廷だってそこは考慮してくれるさ」
テレサは頷き、カップを持ち上げようとしたが、手が震えていた。
しばらくして、震えがひどくなっているのにルーアンは気づいた。彼は身を乗り出して彼女のカップを受け取ろうとした時、不注意で自分のミルクをテーブルから落としてしまった。
熱いミルクがこぼれた。
一部がテレサの修道服にかかり、数滴が彼女の手首に落ちる。
「あっ!」
テレサが悲鳴を上げ、慌てて立ち上がった。カップも床に落ちる。
「すまない!」
ルーアンも立ち上がり、咄嗟に手を伸ばして彼女を支えた。
「大丈夫か?」
しかしテレサは突然後ずさった。足元が不安定になり、床にこぼれたミルクを踏んでしまう。
体がバランスを崩した。
ルーアンは慌てて駆け寄り、後ろから彼女の腰を抱いて引き寄せた。
柔らかく温かい体が自分に密着する。
テレサは怯えたようにもがいた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……わざとじゃ……」
ルーアンは彼女の反応を見て戸惑った。まるでひどく怯えているようだ。ギュスターヴのことだけを心配しているわけではなさそうだ。
「いや、大丈夫だ。ミルクがこぼれただけだろう」
テレサは目を見開いて彼を見つめた。体は硬直している。
「怒って……ないの?」
「怒る? なんで? ただの事故じゃないか」
ルーアンは優しく言った。
彼の手はまだ彼女の腰を支えていた。テレサの全身が緊張している。ルーアンは彼女の修道服のミルクの染みと、手首の火傷で赤くなった皮膚に気づいた。
「火傷してる。冷水を持ってくるから」
彼は彼女の腰から手を離し、ベッド脇に座らせると、水を汲みに行った。
テレサはそこに座り、体を震わせていた。
ルーアンは冷水の入った器を持ってきた。清潔な布巾を浸し、そっと彼女の手首に当てる。
テレサの体がまた硬直した。でも今回は逃げなかった。
彼の指が彼女の手首に触れた時、彼女の呼吸が速くなった。目に恐怖の色が走る。
ルーアンの胸に不安が広がった。彼女の反応は明らかに普通じゃない。
彼はそっと冷湿布を当てながら、数ヶ月前の出来事を思い出した。
あの小さな火事のことを。
夕暮れ時、彼は台所で新しい料理を試作していた。孤児院の食事を少しでも良くできないかと思ったのだ。スープを煮込んでいて、食材を加えた後、火が急に大きくなった。油が火に跳ねたんだろう。
炎が「ボッ」と噴き上がった。
彼は鍋の蓋を掴んで覆い、火はすぐに収まった。ほんの数秒の出来事だった。
でもその時、悲鳴が聞こえた。
テレサが台所の入り口に立っていた。顔は真っ青で、目を見開いて炉を見つめ、体が激しく震えていた。
まるで何か恐ろしいものを見たような表情だった。
当時ルーアンは、彼女が火に驚いただけだと思った。少し慰めると、彼女は去った。その後数日間、彼女は何か心配事を抱えているようだった。
今思えば……
「テレサ」
ルーアンは静かに尋ねた。
「あの時の台所のこと、まだ……?」
テレサの体が激しく震えた。涙が突然溢れ出す。
ルーアンは息を呑んだ。
「ごめんなさい」
テレサは嗚咽した。
「ごめんなさい……あの日、火を見て……また、あれが……」
彼女は言葉を続けられない。涙が流れ続ける。
ルーアンの胸に強い不安が広がった。この裏には何かがある。
「また、って?」
彼は静かに尋ねた。
「テレサ、話してくれ。何があったんだ?」
テレサは唇を噛んだ。涙が流れ続ける。
長い沈黙。
やがて彼女は口を開いた。声が震えている。
「あの日……火を見て……思い出したの……サン=ジュヌヴィエーヴ修道院のことを……」
「サン=ジュヌヴィエーヴ修道院?」
ルーアンは眉を寄せた。
頭に曖昧な記憶が浮かんだ。元の持ち主の記憶だ。幼い頃、彼とテレサは同じ場所にいた。二人とも孤児で、教会に引き取られていた。後に養父ジャン=ポールが彼を連れて行き、夜警にした。テレサは……
彼は必死に思い出そうとしたが、テレサのその後については記憶が曖昧だった。
「君は……その修道院に?」
ルーアンは探るように尋ねた。
テレサは頷いた。目が赤く腫れている。
「十二歳の時。あなたがジャン=ポールさんに連れて行かれた後すぐ、司教が私を南のサン=ジュヌヴィエーヴ修道院に送ったの。そこで修道女になるよう育てられるって」
彼女は言葉を切った。声が震え始める。
「でも……あそこは修道院なんかじゃなかった……地獄だったの」
ルーアンの胸が締め付けられた。
彼はこの優しい修道女について、実はほとんど何も知らないのだと気づいた。




