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第196章 疾走する学者たち



11月23日、夕暮れ。


パリ法学院からパリ警察庁への官道を、三台の馬車がゆっくりと進んでいた。


最初の馬車にはドラクロワ院長とデュポン判事が、二台目には弁護士メシエとアントワーヌが、三台目には科学アカデミーのグランジャン院長とカルヴァン博士が乗っていた。


アントワーヌは馬車の中で、あの詩稿『送別頌』を握りしめていた。心の中では焦りが渦巻いている。


「先生、もっと速く行けませんか?」


彼は我慢できずに尋ねた。


「ルーアンに何かあったら……」


メシエは窓の外のゆっくりとした景色を見て、眉をひそめた。


パリ法学院からパリ警察庁まで、通常なら三時間ほどかかる。しかしルーアンの状況は緊急だ。財務大臣がいつ移送を命じるか、あるいは……


「私は先ほど、あんなに衝動的になるべきではなかった」


アントワーヌは後悔するように言った。


「もっと冷静に、対策を考えてから院長を訪ねるべきだった……」


「いや、君は正しいことをした」


メシエは彼を遮った。


「ある事柄は、即座に行動しなければならない」


彼はしばらく沈黙し、アントワーヌの焦燥に満ちた表情を見て、突然言った。


「アントワーヌ、君は法廷で弁護士が形勢を逆転できる理由を知っているか?」


「それは……弁護士が法律を知っているからですか?」


アントワーヌは不確かに答えた。


「法律を知っているだけではない」


メシエは首を横に振った。


「真に強力な弁護士が掌握しているのは、『言葉の力』だ」


彼は間を置き、目の中に深遠な光を宿した。


「この世界には、特殊な力の体系が存在する。魔法使いは瞑想と魔力で呪文を使い、騎士は身体を鍛えて力を得る。そして弁護士は……」


「弁護士は『言葉』によって現実を変える」


アントワーヌは固まった。


「現実を……変える?」


「そうだ」


メシエは頷いた。


「これがいわゆる『言霊使い』の道だ。第九階梯の『弁論者』から始まり、第八階梯『説得者』、第七階梯『契約者』、第六階梯『論理操者』……階梯を昇るたびに、言葉の力は強まっていく」


「そして私は」


彼の声が厳粛になった。


「第四階梯——『真理の歪曲者』だ」


アントワーヌは息を呑んだ。


第四階梯、それはすでに中位階梯の頂点ではないか!


「真理の歪曲者の核心能力は」


メシエは説明を続けた。


「『現実の再定義』と呼ばれる。一定の範囲内で、私が述べた『真理』は一時的な『法則』となり、事物の性質を変えることができる」


「しかしこの能力には制限がある——」


「第一に、変化の規模が大きいほど、消耗が大きく、持続時間が短い」


「第二に、変化の内容は何らかの『論理的根拠』に基づかなければならず、自然法則に完全に反することはできない。例えば『太陽は冷たい』とは言えない。それは基本的な常識に反するからだ」


「第三に、法廷、契約、審判などの『秩序の場』では、能力が大幅に増幅される」


アントワーヌは半分理解したように頷いた。


メシエは突然、車の幕を開き、前方で馬車を操る御者に言った。


「止めてくれ」


馬車がゆっくりと停止した。


「お降りになるのですか、旦那様?」


御者が不解そうに尋ねた。


「そうだ。これからは私が御する」


メシエは言った。


「君はここで待っていてくれ。後ほど誰かが迎えに来る」


御者は疑問に思ったが、従った。


メシエは馬車を引く馬の前に歩いていった。


それは普通の茶色い馬で、頭を下げて息を切らせており、すでにいくらか疲れているようだった。


メシエは馬の鬣を撫で、そしてアントワーヌに向き直った。


「よく見ておけ。これが『現実の再定義』だ」


彼は深く息を吸い、声が突然、荘厳で威厳に満ち、奇妙な韻律を帯びた。


「フランス王国馬政法令第三章第七条により、王室騎兵隊の軍馬は特別な訓練と飼育により、通常の馬の三倍の持久力を持つ。そしてこの馬は、まさに王室騎兵隊より退役した軍馬である」


その瞬間、アントワーヌは空気中の何かが変わったのを感じた。


次の瞬間、驚くべき光景が起きた!


あの普通の茶色い馬が突然、興奮して長く嘶いた!


その皮膚の下で、一本一本の腱が隆起し、体躯が膨張し始め、筋肉が盛り上がり、瞬く間に通常の馬よりほぼ倍も大きくなった!


馬の目は炯々と輝き、蹄が地面を掻いて、走りたいという渇望の嘶きを発している。


「これは……どうして……」


アントワーヌは目を見開いた。


「なぜなら私がそれを王室騎兵隊の軍馬と『定義』したからだ」


メシエは平然と言った。


「だからそれはこの定義に適合しなければならない。もちろん、この変化は約一時間しか持続しない。その後は元の状態に戻る」


「乗れ」


アントワーヌは呆然と馬車に乗り込んだ。


メシエは自ら手綱を取った。


「行け!」


その『軍馬』が猛然と飛び出し、速度は驚くほど速く、路傍の景色が曖昧な影に変わった!


馬車は官道を疾走し、巻き上がる土煙を残していく。


アントワーヌは馬車の手すりを固く握り、激しい揺れを感じながら、心の中で震撼していた。


なるほど……言霊使いの力には、このようなものがあるのか!


 * * *


メシエの馬車が疾走し去った時、後ろから冷笑が聞こえてきた。


ドラクロワ院長が自分の馬車から頭を出し、前方で巻き上がる土煙を見て、眉をひそめた。


「老メシエめ、先を越そうというのか?」


デュポン判事が隣で笑った。


「院長、あなたもまさか……」


「当然だ」


ドラクロワは立ち上がった。


「私は『知識の歪曲者』、第五階梯だ。メシエより一つ階梯が低いとはいえ、方法がないわけではない」


彼は馬車を降り、御者にも休むよう言った。


そして、あの黒い馬の前に来て、咳払いをした。


「古代ローマの博物学者大プリニウスの『博物誌』の記録によれば、アレクサンドロス大王の乗馬ブケファロスは六本の脚を持ち、力は強大だった。そしてこの馬は、まさにブケファロスの子孫であり、その血統を継承している」


黒馬が突然、嘶いた!


さらに驚くべき異変が起きた!


その黒馬の体躯が膨張し、筋肉が隆起した。


しかし違う点は——


その腹部の肉が突然分かれ、骨格がカチカチと音を立てて成長し、神経が交錯し、強引に二本の新しい脚が生えてきた!


六蹄の黒馬!


「行け!」


黒馬は六つの蹄で飛ぶように走り、巻き上がる土煙を残し、速度はメシエの四蹄馬よりも速く、後から追いついて瞬く間に追い越した!


メシエは車窓からこの光景を見て、髭が跳ね上がるほど怒った。


「ドラクロワ! この老いぼれめ、あまりにも卑怯だ! どこに六蹄の馬がいる!」


「『博物誌』に書いてある」


ドラクロワの声が隣から聞こえてきて、得意気だった。


「大プリニウスはローマ最大の博物学者だ。彼の著作に偽りがあろうか?」


二台の馬車が並走し、官道を疾走していく。


メシエは負けじと、再び口を開き、声はさらに威厳に満ちていた。


「ギリシャ神話によれば、太陽神アポロンの馬車は八頭の神馬に引かれていた! そして私のこの馬は、まさに神の祝福を受け、八蹄の力を持っている!」


茶色い馬の腹部が再び肉が分離し、また二本の脚が生えてきた!


八蹄の神馬!


その速度が再び急上昇し、六蹄の黒馬を追い越した。


ドラクロワは冷笑した。


「恥知らずな老賊め、私と争うというのか? ならば——」


彼は手を挙げ、荘重に宣言した。


「イソップ寓話『北風と太陽』の記録によれば、風の力は万物を支えることができる! そして今はまさに秋風の季節、フランス王国気象観測記録によれば、秋風の力は強い。ゆえに、我が馬車は必ず鴻毛のごとく軽く、風に乗って行く!」


一陣の秋風が吹いてきた。


本来重いはずの馬車が、突然軽々と浮き、まるで本当に鴻毛のように、風に支えられ、ほとんど地面をかすめて滑走している!


六蹄の黒馬が軽々とした馬車を引き、速度は信じられないほど速い!


メシエは激怒した。


「よかろう、君がそうするなら、私も容赦しない!」


彼は深く息を吸い、全力で叫んだ。


「プラトンの『国家』の論述によれば、完璧な理念は現実を超える! そして完璧な理念においては、馬車は飛鳥のごとく天空を翔けるべきだ! ゆえに、我が馬車は当然、雲に乗って行く!」


轟音——


白い雲が凭空に現れ、馬車の車輪の下に張り付き、馬車全体をゆっくりと空中へと持ち上げた!


八蹄の茶色い馬が雲を踏んで走り、地上三尺の高さで疾走している!


二台の馬車、一つは地面をかすめて飛び、一つは雲を踏んで走り、追いつ追われつ、速度は驚くほど速い!


アントワーヌは馬車の中で激しく揺られながら、目には震撼の光が宿っていた。


なるほど……これが超常者の力なのか!


なるほど……言霊使いの道は、このように強大なのか!


 * * *


その時、三台目の馬車の中で、グランジャン院長とカルヴァン博士は前方の二台の馬車の「演技」を見て、顔を見合わせていた。


「院長」


カルヴァンは苦笑した。


「彼らは……」


「言霊使いの能力だ」


グランジャンは平然と言った。


「典籍、法令、神話を引用することで、ある現象の『合理性』を『論証』し、それによって現実を歪曲する。第四階梯の真理の歪曲者と第五階梯の知識の歪曲者、どちらもこれができる」


「では我々も……」


「当然だ」


グランジャンは立ち上がり、目に戦意が宿った。


「でなければ遅れをとってしまう。それに、第三階梯の『学識の守護者』として、私の能力は典籍を引用するのではなく——」


彼も御者に降りるよう命じ、自ら馬の前に立った。


それは普通の灰色の馬だった。


グランジャンはあの深い青色のノートを取り出し、そのうちの一ページを開いた。そこにはルーアンが書いた簡潔で美しい化学方程式と物理公式があった。


彼の視線はその中の一行に落ちた。


F = ma


力=質量×加速度


これはニュートンの第二運動法則だ。ルーアンがこの簡潔な記号表現で書き記したものだ。


グランジャンはこの公式を凝視し、呟いた。


「学識の守護者の能力は、他人の理論を引用することではなく……理論を具現化することだ」


彼は懐から羽根ペンと小さなインク瓶を取り出した。


そして、空中で、彼は書き始めた。


紙の上ではなく、直接空気の中に書いたのだ!


墨跡が空中で凝固し、発光する記号を形成した。


F = ma


続いて、彼はその下に書き続けた。


m(質量)が0に近づくとき、a(加速度)は無限大に近づく


F(力)が10倍になると、質量が変わらない場合、a(加速度)も10倍になる


これらの公式が空中で淡い青色の光を放ち、まるで何か神聖な呪文のようだった。


グランジャンはその灰色の馬に手を触れ、声が威厳に満ちて力強くなった。


「ニュートンの第二運動法則により、私は今このシステムに調整を加える——」


「第一に、この馬車の有効質量を、元の十分の一に減少させる」


「第二に、この馬の筋肉の力を、元の十倍に増加させる」


「第三に、公式の導出により、加速度は百倍に向上する!」


彼の指が空中のあの発光する公式を横切り、それぞれの記号が激しく明滅し始めた。


そして——


轟!


無形の力が公式から溢れ出し、馬車と馬の中に注ぎ込まれた!


馬車が突然軽々となり、まるで大部分の重量を失ったかのように、軽く押せば浮き上がりそうだった。


あの普通の灰色の馬が全身を震わせ、筋肉が瞬時に再構築され、体型は前の二頭の馬のように誇張的に膨張しなかったが、それぞれの筋肉が引き締まって爆発的な力に満ちており、目には理性の光が宿っていた。


グランジャンは馬車に戻り、手綱を掴んだ。


「行け!」


灰色の馬が蹄を一蹴——


嗖!!!


馬車が砲弾のように飛び出した!


いや、砲弾よりも速い!


それはほとんど瞬時に音の壁を突破し、鋭い爆音を発した!


路傍の木々が衝撃波の中で激しく揺れ、塵が十数メートルの高さまで巻き上げられた!


瞬く間に、前方のまだ言い争っている二台の馬車を追い越し、その傍らで旋風を巻き起こし、ドラクロワのかつらまで吹き飛ばしてしまった!


「何だと?!」


メシエとドラクロワが同時に驚愕の声を上げた。


カルヴァンは馬車の中で手すりをしっかりと掴み、顔色は青ざめていたが、目には狂熱的な光が宿っていた——


これが科学の力だ!


神話を引用するのではなく、逸話を借用するのでもなく、直接数学と物理法則を用いて、現実を書き換えるのだ!


グランジャンの声が前方から聞こえてきて、いくらか得意気だった。


「お二方、科学の前では、神話も法令も道を譲らなければなりません!」


「あなた方が引用するのは古人の智慧ですが、私が運用するのは——宇宙の法則です!」


メシエとドラクロワは顔を見合わせ、互いの目に震撼と悔しさを見た。


彼らは当然その違いを理解していた。


言霊使いは『論証』によって現実を歪曲する——合理的な理由を見つけなければならず、たとえその理由が神話や伝説から来ていても。


しかし学者の道は違う。


学者の道は直接科学法則を用いて現実を再構築する——公式が正しい限り、それは必然的に成立する。


これこそが真の「知識が世界を変える」だ。


「くそっ」


メシエはため息をついた。


「忌々しい科学狂いどもめ」


「ああ」


ドラクロワも力を抜き、自分の六蹄の黒馬を見て、思わず笑った。


「しかし私のこの六蹄馬も面白いな。少なくとも彼の退屈な公式より創造的だ」


「よく言うよ」


メシエは鼻を鳴らした。


「明らかに私が先に神話を使おうと思いついたのに!」


「私が引用したのは『博物誌』だ。あれは立派な学術著作だぞ!」


二人はまた口論を始めたが、語調は以前のように剣呑ではなくなっていた。


三台の馬車が官道を疾走し、巻き上がる土煙を残していく。


そして後方では、置き去りにされた御者たちがこの光景を唖然と見つめ、特にグランジャンの馬車がほとんど「瞬間移動」のように視界の果てに消えるのを見て、一人一人が唾を飲み込んだ。


「あの……俺たちは今、何を見たんだ?」


「分からない……だが忘れた方がいいと思う」


「そうだな、何も見てない」


 * * *


アントワーヌは馬車の中で激しく揺られながら、握りしめたあの詩稿を見つめていた。


これが……学者の力なのか。


知識が、現実を変える力なのか。


そして、ルーアン・ヴィンスト——あの若者は、このような力をどこまで理解しているのだろうか?


疑問は尽きなかったが、一つだけ確かなことがあった。


三台の馬車は、通常なら三時間かかる道のりを、わずか三十分で駆け抜けていた。


パリ警察庁の建物が、視界に入ってきた。


「着いた!」


グランジャンが叫んだ。


三台の馬車が、ほぼ同時に警察庁の前で停止した。


馬たちは泡を吹き、激しく息をしている。数分後には、彼らの体は元の姿に戻るだろう。超常の力は一時的なものでしかない。


しかし、目的は達成された。


メシエ、ドラクロワ、グランジャン、カルヴァン、デュポン、そしてアントワーヌ——六人が馬車から降り、警察庁の正門を見上げた。


「行くぞ」


メシエが言った。


「ルーアン・ヴィンストを救い出す」


六人は、堂々と正門へと歩いていった。

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