第192章 薔薇と茨
庭園の片隅、闇の中から一人の人影が現れた。
がっしりとした体格の中年の男で、濃い色の革鎧を身につけ、腰には幅広の剣を帯びている。左手の指は二本欠けており、顔には眉尻から顎まで走る古い刀傷があり、月光を受けて青白く光っていた。
「閣下」
武人は低い声で言った。
「あの狼人、さっき言っていたことは本気でしょうか」
「さあな」
マルゼルブは淡々と答えた。
「異常者というのは、大抵こういう気質だ。どこか一本、ネジが外れている」
武人ベルトランはしばらく黙っていた。
「あのルーン・ウィンスターは、先の調査の折にお会いしました。見込みのある若者です。本当に放っておくのですか」
「ベルトラン」
マルゼルブは振り向きもせずに言った。
「徴税請負人の息子が、そんな大物だと思うか?」
武人は戸惑った。
「それは——」
マルゼルブはあの高いレバノン杉の下まで歩み、顔を上げて天を覆う樹冠を見上げた。
「このレバノン杉は、1771年に私が罷免されたとき植えたものだ」
その声は軽く、独り言のようだった。
「あの頃、私は田舎の荘園に流され、まる三年、することもなかった。師のベルナール・ド・ジュシューが言っていた、植物を観察すれば忍耐を学べると。その三年間、私はほとんどすべての時間を園芸に費やした」
振り返り、ベルトランを見た。
「なぜだか分かるか」
ベルトランは首を横に振った。
「植物は嘘をつかないからだ」
マルゼルブはあのダマスク・ローズの株の前まで歩み、身を屈めて花の香りを軽く嗅いだ。
「人の心は測りがたく、朝廷は争いに満ち、今日の盟友が明日の敵になることもある。だが植物は違う——陽と水を与えれば花を咲かせる。粗末に扱えば枯れる。単純で、直接的で、決して欺かない」
身を起こし、懐から精巧な嗅ぎ煙草入れを取り出して、軽く一嗅ぎした。
「フルリー家は確かに権勢がある」
彼はゆっくりと言った。
「徴税請負人だからな。金があり、王国の財政でもそれなりに重きをなしている。だがパリというこの深い淵の中では、彼らもまた一匹の魚に過ぎない」
「では閣下はなぜ——」
「ルーンの傍には、巡夜隊中尉のジャン=ポール・デュポンがいる。血月の女伯爵ヴィラがいる。そして今しがたの——」
少し間を置いて、口元に意味深な笑みが浮かんだ。
「脱獄しようとする狼人がいる」
ベルトランの口元が引きつった。
「あの程度の人脈も使いこなせず、あの程度の厄介事も片付けられないなら、私が心を砕く価値もない」
ベルトランはしばらく黙って、その言葉を噛み締めているようだった。
「閣下のお考えは——これは試練だと?」
マルゼルブは直接答えず、嗅ぎ煙草入れを懐にしまい、再びベンチに腰を下ろした。
「この桃色の薔薇の花言葉を知っているか?」
肘掛けのダマスク・ローズを手に取り、鼻先で香りを嗅いだ。
ベルトランは首を横に振った。
「感謝、敬慕——」
マルゼルブは少し間を置いた。
「そして——『あなたのことを忘れない』」
薔薇を肘掛けに戻し、顔を上げてベルトランを見た。
「調べてくれ。ギュスターヴ・ド・フルリーが最近何をしているか。それから、徴税請負人である彼の父親に、何か——弱みがないか」
ベルトランの目に了解の色が閃いた。
「閣下は——」
「私は何も考えていない」
マルゼルブが遮った。
「ただの備えだ。万が一、あの若者に多少の才覚があって、この関門を越えたなら——」
彼の視線は白薔薇の株に落ちた。
「手土産を用意しておかねばなるまい」
「承知いたしました」
ベルトランは頷き、身を翻して夜の闇に消えた。
* * *
# 第X+21章 救援
二台の馬車がゆっくりと街道を進んでいた。それぞれに、先ほど口論を終えたばかりの二人の重鎮が乗っている。
アントワーヌと数人の学友たちは馬に乗り、馬車の後ろに続いていた。
「さっき本当のことを言うべきじゃなかった」
アントワーヌは少し後悔していた。
二人の重鎮が唾を飛ばして激しく言い争い、今にも殴り合いになりそうだった時、アントワーヌは率直に言ったのだ――実は先生方は後世に伝わる詩をもう一首得たいだけではないですか、と。
場の雰囲気が気まずくなった。
二人の重鎮の喧嘩は止まったが、アントワーヌは本当のことを言うべきではなかったと悟った。
「やはり俺は言葉が足りない。直さないと」
アントワーヌは人生で何度目かの反省をしていた。
彼は懐に手を伸ばし、あの金の懐中時計に触れた。アントワーヌは満足げに遠くを眺めていたが、視界に一頭の馬が疾走してくる姿が現れた。
しばらくすると、その姿の輪郭が目に入ってきた。養父のジャン=ポール・デュポンだ。
アントワーヌは呆然とした。馬腹を蹴って、馬車を追い越して迎えに行った。
「養父上、どうしてここに……」
言い終わると、アントワーヌの心が沈んだ。養父の顔色から、事態が非常に悪いことを察した。何が起きたのかは分からなかったが。
ジャン=ポールは最速で事情をアントワーヌに伝えた。
徴税請負人の息子が街でテレーズを……フーリエとジャンを踏み殺そうと……ルーンが警務所に連行された……アントワーヌの頭に血が上り、怒りが込み上げてきた。
「アントワーヌ、ルーンの生死はお前にかかっている」
「養父上、落ち着いてください」
アントワーヌは様々な考えが頭を巡った。すぐに考えがまとまると、馬の向きを変えて馬車を止め、大声で言った。
「デュポン判事、メシエ先生、アントワーヌには頼みがございます」
簾が開いて、デュポン判事とメシエ弁護士が顔を出した。
「何事だ?」
「友人が難に遭っております。デュポン判事とメシエ先生に助けていただきたいのです」
アントワーヌは養父から聞いた事情を繰り返した。
デュポン判事は彼を見つめ、重々しい声で言った。
「それは、あの詩を書いた才人か?」
彼の声は厳粛で真剣だった。まるでこれが非常に重要であるかのように。
「その通りです!」
アントワーヌが頷いた。
デュポン判事が何か言おうとした時、隣の馬車からメシエ弁護士が遮るように言った。
「アントワーヌ、君の友人のことは私に任せろ。君は先生と一緒に学院に戻りなさい」
「ふん!」
デュポン判事が冷笑した。
「余計な者が口を出すな。私の教え子のことは私が処理する」
ジャン=ポールは喜びを隠せなかった。息子の顔がこれほど利くとは思わなかった。
「デュポン判事、メシエ先生、友人は警務所に連れて行かれました。どうか急いでください。遅れれば変事が起きるかもしれません」
アントワーヌが焦って言った。
今は口論している場合じゃない。
「行くぞ!」
デュポン判事が馬車の御者に命じた。
「待て!」
メシエ弁護士も負けじと言った。
「私の馬車の方が速い!」
「速さを競ってどうする!」
デュポン判事が怒鳴った。
「二台とも行けばいいだろう!」
二台の馬車が向きを変えて、警務所へ向かって疾走し始めた。
アントワーヌとジャン=ポールも馬に鞭を入れて後を追った。
フランソワとニコラも迷わず馬を走らせた。他の学友たちも顔を見合わせて、次々と後に続いた。
夕暮れの街道を、二台の馬車と十数騎の馬が疾走していく。
通行人たちが驚いて道を開けた。
馬車の中で、デュポン判事は眉をひそめていた。
徴税請負人の息子……厄介だ。あの連中は王国で最も手を出しにくい存在だ。だが、あの詩を書いた才人を見殺しにするわけにはいかない。
もう一台の馬車では、メシエ弁護士が考えを巡らせていた。
警務所か……おそらく警務督察も呼ばれているだろう。厄介な相手だが、私にはまだ使える人脈がある。あの若者を助けなければ。
二人の重鎮は、それぞれ異なる考えを巡らせながらも、同じ目的地へ向かって急いでいた。
警務所が見えてきた。
入口には豪華な馬車が二台停まっている。一台は紺青色――貴族の馬車だ。もう一台は黒い馬車――警務督察のものだろう。
デュポン判事の馬車が先に到着した。彼は馬車から飛び降りると、大股で警務所の扉に向かった。
メシエ弁護士も遅れて到着し、急いで後を追った。
「デュポン、待て!」
「待てるか!」
* * *
同じ頃、シャトレ砦の地下。
ルーンは目を閉じたまま、壁に寄りかかっていた。
牢の外で、足音が響いた。一人ではない——少なくとも三人、いや四人。
足取りが重い。鉄の軍靴の音だ。
そして、もう一つの足音。軽やかで、優雅で、まるでサロンの舞踏会に赴くかのような。
ルーンは目を開けた。
鉄扉の小窓の向こうに、一つの顔が現れた。
若い顔だった。二十代半ば、金髪を丁寧に整え、薄い唇には冷たい笑みを浮かべている。絹のクラヴァットを完璧に結び、上着にはフルリー家の紋章が刺繍されている。
「やあ、ルーン・ウィンスター」
ギュスターヴ・ド・フルリーは鉄格子越しに微笑んだ。
「久しぶりだね。数刻ぶりかな?」
ルーンは黙っていた。
「口がきけなくなったのかい?」
ギュスターヴは眉を上げた。
「それとも、この場所の空気が喉に合わないとか?」
「何の用だ」
ルーンの声は平坦だった。
「用?」
ギュスターヴは可笑しそうに笑った。
「僕の顔を殴っておいて、『何の用だ』? 面白いことを言うね、君は」
彼は一歩後ろに下がり、両腕を広げた。
「見てごらん、僕の顔を。腫れてるだろう? 父上の晩餐会に出席できなくなった。母上はひどく心配してる。医師は一週間は外出を控えろと言っている」
「それで?」
「それでって?」
ギュスターヴの目が細くなった。その薄い笑みの奥に、冷たい光が走った。
「君は代償を払うんだよ、ルーン。それだけのこと」
彼は懐から一通の封書を取り出し、指先でひらひらと振った。
「明日の夜明けには、君の裁判が行われる。傷害罪、貴族への暴行罪、公序良俗違反。証人は十分に揃っている。判決は——そうだな、ガレー船送りか、それとも植民地での強制労働か。どちらがお好みかな?」
ルーンは答えなかった。
ただ、ギュスターヴの目を見つめていた。
その沈黙が気に障ったのか、ギュスターヴの笑みが消えた。
「何をそんなに落ち着いているんだ」
彼は一歩前に出て、鉄格子に顔を近づけた。
「君に味方はいない。あの巡夜隊の中尉——君の養父だったか? 彼は今頃、自分の職を失う心配でもしているだろう。血月の女伯爵? ただの流れ者だ。他に誰がいる? 孤児院の子供たち? 狼人の小娘?」
彼は鼻で笑った。
「君は一人だ、ルーン。完全に、徹底的に、一人だ」
ルーンは微かに笑った。
本当に、微かに。
ギュスターヴの顔が強張った。
「何がおかしい」
「いや」
ルーンは壁から背を離し、ゆっくりと鉄扉に近づいた。
「君の情報収集能力が、少し心配になっただけだ」
「何?」
「ルナのことを『狼人の小娘』と呼んだな」
ルーンは鉄格子越しにギュスターヴの目を見つめた。
「彼女がどういう存在か、君は知らないようだ」
「何を——」
「それに」
ルーンは続けた。
「君は一つ、大きな計算違いをしている」
「計算違いだと?」
「ああ」
ルーンの目が、ふいに鋭くなった。
「俺を敵に回したこと。それ自体が、計算違いだ」
沈黙が落ちた。
牢の外で、蝋燭の炎が揺れた。
ギュスターヴは一瞬、言葉を失った。
それから、彼は笑い出した。甲高い、引きつったような笑い。
「素晴らしい」
彼は手を叩いた。
「素晴らしいよ、ルーン。牢の中から脅しをかけるなんて、度胸だけは認めよう」
彼は踵を返した。
「明日の夜明けを楽しみにしていてくれ。君の『計算違い』が、どれほど滑稽なものか、思い知ることになる」
足音が遠ざかっていった。
鉄の軍靴の音と、優雅な革靴の音。
やがて、静寂が戻った。
ルーンは牢の中央に立ったまま、しばらく動かなかった。
それから、彼は小さく息を吐いた。
「夜明けか」




