第188章 送別の頌
「アントワーヌ・ベルナール、私の教え子です」
デュポン判事が紹介した。
「勤勉で、弁論能力に優れた若者です」
詩才については……その言葉は飲み込んだ。お前、詩は得意じゃないのに、なぜこのタイミングで前に出てくるんだ?
金の懐中時計は自分のものだと確信していたアンリは、声を聞いて一瞬警戒したが、アントワーヌだと分かると気にしなくなった。軽蔑的な一瞥を送るだけだ。
同窓として数年、お互いの長所と短所は把握している。アントワーヌは法律論争で卓越しているし、判例分析にも造詣がある。だが詩作? それは彼の領域ではない。
金の懐中時計はやはり俺のものだ。
学生たちの視線がアントワーヌに注がれた。彼は人々の視線を感じながら、手にした詩稿をしっかりと握り、窓の外の沈みゆく夕日を見上げた。
そして、朗々と読み始めた。
「Demain, dès l'aube, à l'heure où blanchit la campagne……」
明日、夜が明けたら、野が白んできたら――
メシエ弁護士の眉が動いた。アレクサンドラン体か。だが、サロンでよく聞く堅苦しいものとは違う気がする。
「Je partirai. Vois-tu, je sais que tu m'attends.」
私は出発する。見よ、君が待っているのを私は知っている――
デュポン判事が僅かに前のめりになった。この素朴さ……だが深みがある。
ドラクロワ院長は静かに背筋を伸ばした。
「J'irai par la forêt, j'irai par la montagne. Je ne puis demeurer loin de toi plus longtemps.」
私は森を抜け、山々を越えよう。もう君から離れて、遠くに留まることはできない――
樫の間に静寂が落ちた。学生たちは息を殺している。
この映像が浮かぶ。森、山、遥かな道程……単純な言葉のはずなのに、なぜこれほど鮮明に情景が見えるのか。
アンリの表情が変わった。彼は硬直したまま振り返り、詩稿を手にしたアントワーヌを見つめた。馬鹿な……この孤児院出身の男が……?
アントワーヌは続けた。
「Je marcherai les yeux fixés sur mes pensées, sans rien voir au dehors, sans entendre aucun bruit……」
私は思いに目を凝らして歩いていく。外の何も見ず、いかなる音も聞かず――
メシエ弁護士が椅子の肘掛けを掴んだ。手が震えている。この孤独、この決意。
デュポン判事は完全に言葉を失っていた。ドラクロワ院長の目が潤み始めた。
「Seul, inconnu, le dos courbé, les mains croisées, triste, et le jour pour moi sera comme la nuit.」
ただ一人、人知れず、背を丸め、手を組み、憂いに満ちて。そして昼も私にとっては夜のよう――
誰かが息を呑む音が聞こえた。廊下の学生たちは完全に静まり返っている。最も騒がしい者でさえ、声を出さない。
アンリは青ざめていた。彼が五十リーヴル払って代筆させた詩――それがこの前では子供の遊びのようだ。
「Je ne regarderai ni l'or du soir qui tombe, ni les voiles au loin descendant vers Harfleur……」
私は暮れゆく夕べの金色も見ず、遠くアルフルールへ下る帆も見ない――
メシエ弁護士が立ち上がった。椅子が倒れかけたが、彼は気づかなかった。デュポン判事の手は震え続けている。
これは……これは学生の習作ではない。サロンで朗読されるべき作品だ。いや、それ以上だ。
アントワーヌは速度を落とし、最後の二行を丁寧に読み上げた。
「Et quand j'arriverai, je mettrai sur ta tombe un bouquet de houx vert et de bruyère en fleur.」
そして私が辿り着いたら、君の墓に置こう。緑の柊と花咲く石楠花の花束を――
沈黙。完全な沈黙が樫の間を支配した。
数秒後、ドラクロワ院長の目から涙がこぼれ落ちた。彼は震える手でハンカチを取り出し、目元を拭った。
「これは……」
言葉にならない。
メシエ弁護士が声を上げた。
「Magnifique! なんという……なんという詩だ!」
彼は興奮して拳を握りしめた。
「形式は古典だが、魂は自由だ。感情は深遠だが、言葉は素朴だ。これだ、これこそが詩というものだ!」
デュポン判事が頷いた。
「そして送別の主題に完璧に合致している。『明日、夜が明けたら、私は出発する』――師と別れ、自らの道を歩む学生の姿だ。『墓に柊と石楠花を』――柊は永遠を、石楠花は敬意を象徴する。恩師への別れとして、これ以上のものはない」
ドラクロワ院長はようやく声を取り戻した。
「アントワーヌ……お前が……これを……」
声が震えている。
廊下から拍手と歓声が湧き上がった。
「信じられない!」
「これが本物の送別詩だ!」
「モンモランシーのあれと比べたら、月とすっぽんだ!」
アンリの顔が紅潮し、その場から消え去りたかった。
フランソワとニコラは興奮で拳を握りしめた――見たか、平民でも貴族に勝てるんだ!
ドラクロワ院長は立ち上がり、アントワーヌの前に歩み寄った。
「アントワーヌ、お前が優秀な学生だということは知っていたが……このような詩才を持っているとは」
彼は金の懐中時計を取り出した。
「これはお前のものだ」
アントワーヌは懐中時計を受け取ったが、巨大な罪悪感に襲われた。
彼は深く息を吸い込んで、声を上げた。
「院長、皆様……この詩は私の作ではありません。真の作者がおります」
ざわめきが止んだ。
三人の重鎮の表情がそれぞれ変わった。デュポン判事は「やはりな」という顔をした――彼の普段の詩作の腕前を考えれば、当然だ。メシエ弁護士は驚いた様子だった。
ドラクロワ院長の反応が最も大きかった。彼は二歩前に出て、切迫した様子で尋ねた。
「誰だ? この学院の学生か? ここにいるのか?」
視線がアントワーヌを越えて、学生たちの間を探している。
「いえ」
アントワーヌは顎を少し上げた。
「私の友人です。ルーン・ウィンストン」
学生たちがまたざわめいた。
「ルーン・ウィンストン?」
「聞いたことがない」
「ソルボンヌか? それとも他の学院?」
「アントワーヌ、君の友人はどこで学んでいる? 誰の門下だ?」
学生たちは焦っている。三人の重鎮もアントワーヌを見つめた。
アントワーヌは躊躇した。ルーンは言っていた――目立つな、注目を集めるなと。だが今のこの状況では……
「友人のルーンは……」
アントワーヌは覚悟を決めた。
「彼は、レストランを経営しています」
何だと!?
樫の間が騒然となった。
「レストラン? 料理人?」
「料理人がこんな詩を?」
「馬鹿な!」
貴族の学生たちの反応が最も激しかった。アンリが冷笑した。
「下賤な料理人が詩を? アントワーヌ、お前は盗作を隠すために適当な人間を盾にしているんだろう」
「黙れ!」
フランソワが怒鳴った。
「アントワーヌはそんな男じゃない!」
「ならそのrestaurateurを連れてこい。その場でもう一首作らせろ!」
アンリが挑発した。
現場が混乱した。だがドラクロワ院長は手を上げた。
「Silence.」
彼の声は静かだったが、全員が黙った。院長はアントワーヌを見つめた。
「アントワーヌ、お前はこの詩がそのムッシュ・ウィンストンの作だと断言できるか?」
「はい、院長。私の名誉にかけて」
アントワーヌは真っ直ぐ答えた。
「Bien.」
ドラクロワ院長が頷いた。
「出自が才能を決めるのではない。料理人がどうした? 料理人には詩才がないとでも?」
彼は周囲を見渡した。
「諸君、法の前の平等――それが我々の理念だ。我々自身が身分で人を判断するなら、私の三十年は何だったのか?」
学生たちが恥じて頭を下げた。
ドラクロワ院長はアントワーヌに向き直った。
「君の友人に会いたい」
「ですが……」
アントワーヌは困惑した様子で言った。
「ルーンは控えめな性格で、名声を求めません。彼は、この詩は私のものだと言ってくれと頼みました」
なんという謙虚さ!
学生たちが息を呑んだ。料理人が、これほどの傑作を書きながら、署名も求めず、報酬も求めない……これこそ真の気高さだ!
ドラクロワ院長の目に深い感銘が浮かんだ。
「そのような才能を埋もれさせるわけにはいかない」
彼は二人の重鎮を見た。
「デュポン、メシエ、どう思う?」
二人は目を合わせ、院長の意図を理解した。
メシエ弁護士が突然アントワーヌの手を掴んだ。
「アントワーヌ、君の友人に会わせてくれないか。明日、私を連れて行ってくれ」
デュポン判事も前に出た。
「アントワーヌ、そのような才能をrestaurantに埋もれさせてはならない。私にはいくらか人脈がある。もし彼が望むなら、何らかの助力ができるかもしれない」
「それは……」
アントワーヌは頭が痛くなった。ルーンの反応が想像できる――「控えめにしろと言っただろう? なぜ大騒ぎになっている?」
だが三人の重鎮の期待に満ちた眼差しを見て、周囲の学生たちの好奇と敬意の目を見て、アントワーヌは悟った。もう後戻りはできない。
ルーン、すまない。だがこれはお前が受けるべき栄誉なんだ。
首席は予想通り、金の懐中時計はアントワーヌに渡された。ドラクロワ院長は満足げに皆に別れを告げた。
馬車に乗り込もうとした時、意味深長な言葉を残した。
「そのような才能を埋もれさせてはならない。メシエ、デュポン、諸君もそう思うだろう?」
二人の重鎮は黙ってドラクロワ院長を見送った。馬車が遠ざかり、街路の向こうに消えると、メシエ弁護士が突然アントワーヌの袖を掴んだ。
「アントワーヌ、私は君の友人に会いたい。明日は休日だ。訪問に連れて行ってくれないか」
デュポン判事が驚いて声を上げた。
「アントワーヌ、もし君が友人を紹介してくれるなら、私も同行したい。そのような才能の持ち主なら、きっと興味深い話ができるだろう」
メシエ弁護士が不満そうに言った。
「デュポン、君は後から割り込んできたな。私が先に言い出したんだ」
「先も後もあるか。才能ある若者に会いたいという気持ちは同じだろう」
デュポン判事が反論した。
「それに、私の方が彼に提供できるものが多い。法曹界の人脈、図書館へのアクセス……」
「ふん!」
メシエ弁護士が鼻を鳴らした。
「君の提供できるものは書物と理論だけだ。私なら実践的な弁論術を教えられる。法廷での実戦経験をな」
「実戦経験?」
デュポン判事が眉を上げた。
「君の詭弁術のことか? 真の法学は理論の基礎があってこそだ」
「詭弁だと!?」
メシエ弁護士の髭が逆立った。
「私は法廷で一度も負けたことがない! 理論だけで人は救えんのだ!」
「Superficiel!」
デュポン判事が机を叩いた。
「法律が訴訟に勝つためだけなら、街の詐欺師と何が違う?」
「Rigide!」
メシエ弁護士も負けじと言った。
「君の理論で冤罪の人間一人救えるのか?」
二人の高名な法律家が激しく言い争い始め、完全に威厳を忘れていた。
アントワーヌは冷や汗を流した。廊下の学生たちは呆然としている。普段は威厳ある二人が、なぜ突然……?
アンリは横で唖然としていた――料理人一人のために?
フランソワとニコラは興奮で震えた――才能だけが重要なんだ! 身分など関係ない!
「お二方、お二方!」
アントワーヌは彼らを止めようとした。
「どうか冷静に……」
「口を出すな!」
二人が異口同音に言った。そして彼らは目を合わせ、さらに険悪な雰囲気になった。
アントワーヌは泣きたくなった。ルーンよルーン、お前のこの詩が、俺にどれだけの面倒をもたらしたか……
だがよく考えれば、これは良いことではないか? もしこの二人の重鎮が本当にルーンを助けられるなら、彼にもっと良い機会を与えられるなら……それも俺が彼に報いる一つの方法だろう。
そう考えて、アントワーヌは深く息を吸い込んで、大声で言った。
「お二方! こうしましょう、明日一緒に行かれてはどうですか?」
二人は同時に言い争いを止めて、彼を見た。
「一緒に……」
メシエ弁護士が考え込んだ。
「まあ、悪くはない」
デュポン判事が渋々頷いた。
彼らは目を合わせ、まだ不服ではあったが、これ以上争っても意味がないことは分かっていた。
「それでは決まりだ」
メシエ弁護士が言った。
「明日の午前中、我々は一緒に訪問する」
「手土産を持って行くべきだな」
デュポン判事が言った。
「初めての訪問だし……私はモンテスキューの『法の精神』の初版本を持って行こう。署名入りだ」
「おや、それは良い」
メシエ弁護士が対抗心を燃やした。
「ならば私はヴォルテールの書簡集を持って行く。彼が直々に私に贈ってくれたものだ」
二人はまた競い合い始めた。だが今度は敵意ではなく、どちらがより良い贈り物を用意できるかという競争だった。




