第165章 狂気の狩り
その後の数時間は、まさに狂気の狩りだった。
ヴィラは二人を指揮し、森の中でホーンラムの痕跡を探し続けた。彼女は足跡の見分け方、糞の識別方法、木の幹にこすりつけた跡の見方を教えた。
「見て」ヴィラはしゃがんで地面を指さした。「この足跡は新しい。まだ湿っている。三十分以内のものよ」
ルーンとルナは身を屈めて観察した。
「それに」ヴィラは近くの低木を指さした。「ここの枝が折れている。角でこすった跡ね。ホーンラムは縄張りを主張するために、よく木に角をこすりつけるの」
「つまり」彼女は立ち上がった。「近くにいるってことね」
(なるほど……)
ルーンは感心した。ヴィラの狩猟知識は想像以上に豊富だった。
「罠を仕掛けましょう」ヴィラは前方の空き地を指さした。「あそこが通り道になっている。足跡が集中しているわ」
三人は協力して、素早く浅い穴を掘った。落ち葉で覆い、周囲の地面と見分けがつかないようにする。
「ルナ」ヴィラは彼女を見た。「準備はいい?」
ルナは深呼吸をした。手がまだ少し震えている。
「……はい」
「覚えておいて」ヴィラは真剣な目で言った。「あなたは囮じゃない。あなたは狩人なの。ホーンラムを罠に誘い込むコントロールしているのはあなたよ」
ルナは頷いた。
(私がコントロールしている……)
その言葉が、少し勇気をくれた。
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二頭目のホーンラムが現れた時、ルナの動きは少し良くなっていた。
彼女は空き地の中央に立った。月明かりが彼女を照らし、まるでステージの上にいるようだった。
藪から音がする。
枝が折れる音。
重い足音。
(来る……)
ルナの心臓が激しく鳴った。
ホーンラムが飛び出してきた。
月明かりの下、その凶暴な瞳が彼女を捉える。短剣のような角が光を反射した。
(怖い……!)
本能が叫ぶ——逃げろ、と。
でも——
(逃げない)
ルナは足を踏ん張った。拳を固く握りしめる。
(私は狼人。こいつより強い。ヴィラがそう言った)
ホーンラムはどんどん近づいてくる。
十メートル。
(……怖い)
七メートル。
(でも逃げない)
五メートル。
ルナの全身が緊張で強張る。だが足は——動かなかった。
(私がコントロールしているんだ)
三メートル——
「今よ!」ヴィラが叫んだ。
ルナはサッと横に跳んだ。
体が勝手に動いた。狼人の反射神経が発動したのだ。
ほぼ同時に、ホーンラムの前足が浅い穴に重く踏み込んだ。
バキッ!
骨が砕ける音が夜空に響いた。
「ギャアアア!」
ホーンラムは悲痛な叫びを上げ、横倒しになった。砂埃が舞い上がる。
(……やった?)
ルナは呆然と立ち尽くしていた。
(私、逃げなかった……!)
「撃て!」ヴィラはルーンに叫んだ。
ルーンは今度は迷わなかった。
クロスボウを構える。狙いを定める。深呼吸。
(迷えば敗れる)
ヴィラの言葉が頭の中で響く。
(余計なことは考えるな。ただ撃つ)
引き金を引いた。
シュッ!
矢が放たれた——
ホーンラムの体をかすめ、地面に突き刺さった。
「くそっ!」ルーンは思わず叫んだ。
(また外した……!)
「大丈夫、もう一回」ヴィラは落ち着いた声で言った。「焦らないで。的は動いていない」
ルーンは深呼吸をして、二本目の矢を装填した。
手が震えている。
(落ち着け……落ち着くんだ)
今度は当たるかどうかなんて考えなかった。外したらどうしようとか、そういう余計なことも何も考えなかった。
ヴィラの訓練を思い出す。
照準を合わせる。呼吸を整える。
(撃つ!)
シュッ!
今度は当たった。
矢はホーンラムの後ろ足に突き刺さった——麻痺毒が瞬時に広がっていく。
ホーンラムの暴れは徐々に弱まっていった。やがて完全に動かなくなる。
「……やった」
ルーンの声は震えていた。
初めて——本当の意味で——自分の手で魔獣を倒したのだ。
「よし!」ヴィラは感心したように頷いた。「進歩したわ、ルーン」
彼女はルナに歩み寄った。「あなたも。逃げなかったわね」
ルナは頷いた。まだ全身が震えていたが——その震えは、恐怖だけではなかった。
(私、できた……)
達成感。
それは小さな、とても小さな達成感だったが——確かに心の中で輝いていた。
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三頭目。
四頭目。
五頭目。
夜が更けるにつれて、二人の動きはどんどん良くなっていった。
ルナは徐々に恐怖をコントロールできるようになった。まだ完全に克服したわけではないが、少なくともパニックにはならなくなった。
ルーンの射撃精度も上がっていった。十発のうち、三発は当たるようになった。
「いいわね」ヴィラは満足そうに言った。「このペースなら、本当に二十頭いけるかもしれない」
彼女は空を見上げた。月はすでに中天を過ぎ、西に傾き始めている。
「あと三時間くらいね。夜明け前には終わらせないと」
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十頭目を倒した時、ルーンとルナはすでにクタクタだった。
「休憩しましょう」ヴィラは言った。「十分間だけ」
二人は倒れた木の幹に座り込んだ。
ルーンは手を見た。クロスボウを握りすぎて、手のひらに赤い跡が残っている。
「疲れたか?」ヴィラは横に座った。
「ああ」ルーンは正直に答えた。「でも……悪くない」
彼は笑った。疲れているが、充実感があった。
「今夜だけで、もう二十五リーヴルだ」
十頭。一頭五十スー。合計五百スー——二十五リーヴル。
三人で割れば、一人約八リーヴル強。
たった一晩で、夜警隊の二週間分の給料を稼いだことになる。
「お金のことばかり考えているわね」ヴィラは笑った。
「だって」ルーンは言った。「お金がなければ、何もできない」
彼は空を見上げた。
(強くなるには、資源が要る。魔法を学ぶには、お金が要る)
(教会は施してくれない。ならば、自分で稼ぐしかない)
「でも」ルーンは付け加えた。「それだけじゃない」
彼はクロスボウを見た。
「今夜、俺は自分の力で魔獣を倒した。誰かの施しに頼るんじゃなく、自分の手で」
そう——それが一番大事なことだった。
ヴィラは彼を見て、微笑んだ。
「いい目をしているわ」
彼女は立ち上がった。
「さあ、休憩終わり。残りの十頭を狩りましょう」
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夜明け前、森の中には二十頭のホーンラムの死体が横たわっていた。
ルーンとルナは完全に力尽きていた。地面に座り込み、荒く息を吐いている。
「全部……狩った……?」ルナは信じられないように言った。
「狩ったわ」ヴィラは淡々と答えた。彼女だけが、まだ余裕がありそうだった。「二十頭。約千スー——五十リーヴルね」
五十リーヴル。
「さて」ヴィラは言った。「ここからが本当の仕事よ。二十頭を解体して、素材を取り出す。魔晶、角、毛皮——全部ね」
「今から?」ルーンは呻いた。
「今からよ」ヴィラは容赦なく言った。「放置すれば腐るし、他の魔獣が匂いを嗅ぎつけて来るわ。早く終わらせましょう」
ルナは泣きそうな顔をした。
でも——誰も文句は言わなかった。
なぜなら、五十リーヴルのためだから。
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解体作業は、さらに三時間かかった。
ヴィラは丁寧に、各部位の取り方を教えた。
角の切り離し方。毛皮の剥ぎ方。そして——魔晶の取り出し方。
「頭蓋骨の後ろ、ちょうどここ」ヴィラはナイフで示した。「魔晶は必ずここにある。慎重に切開して——」
ナイフが骨を切り開く。
そして——
小さな、親指大の結晶が現れた。
淡い青色の光を放っている。月明かりの下で、それは神秘的に輝いていた。
「これが魔晶」ヴィラは結晶を手に取った。「魔獣の力の核。これを吸収すれば、自分の力を高められる」
ルーンは魔晶を見つめた。
(これが……力)
「でも」ヴィラは警告した。「吸収には危険が伴う。属性が合わなければ、エネルギーが暴走する可能性がある。初心者は売った方がいいわ」
彼女は魔晶をルーンに渡した。
「これはあなたに。練習用よ。今は売らずに持っておきなさい。いつか、吸収方法を教えるから」
ルーンは慎重に魔晶を受け取った。
手のひらの中で、それは微かに温かかった。まるで生きているかのように。
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太陽が昇り始めた頃、ようやくすべての作業が終わった。
二十頭分の角、毛皮、魔晶。
そして、使える部分の肉。
すべてを袋に詰めた。
「重い……」ルナは呻いた。
「当然よ」ヴィラは笑った。「五十リーヴル分の重さだもの」
三人は荷物を担いで、森を出た。
朝日が木々の間から差し込み、金色の光が地面を照らしている。
「疲れた?」ヴィラは二人に聞いた。
「死ぬほど」ルーンは正直に答えた。
「でも」彼は笑った。「悪くない」
全身が痛い。手は豆だらけ。足も棒のようだ。
でも——
心の中には、確かな充実感があった。
自分の力で稼いだ。
誰にも頼らず、自分の手で。
これが——本当の力だ。
「帰ったら」ヴィラは言った。「素材を売りに行きましょう。知り合いの商人がいるから、良い値段で買い取ってくれるわ」
「それから」彼女は二人を見た。「ゆっくり休んで。明日の夜も、狩りに行くわよ」
「え?」ルーンとルナは声を揃えた。
「まだやるの?」
「当然でしょ」ヴィラは当たり前のように言った。「この森には、まだホーンラムがたくさんいるもの。稼げるうちに稼いでおかないと」
彼女は意味深に笑った。
「それに——あなたたち、まだ訓練が必要よ。実戦に勝る訓練はないわ」
ルーンとルナは顔を見合わせた。
そして——笑った。
疲れているが、希望があった。
道のりは長いが、確実に前に進んでいる。
それが——今の彼らにとって、何よりも大切なことだった。
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**【狂気の狩り 終わり】**
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——まだ修行中の作者より




