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第10章 归途

警察署の裏門を出ると、朝の光がすでにパリ全体を照らしていた。


リュアンは目を細めて、東の明るくなる空を見た。


どれくらい日光を見ていなかっただろう?


三日か、四日か?


もう覚えていなかった。


自由の空気。


久しぶりに感じる風。


彼は深呼吸した。胸いっぱいに冷たい朝の空気を吸い込む。生きている実感が、ようやく戻ってきた。


バスティーユ監獄の石壁、湿った独房、前の囚人が刻んだ絶望の言葉——それらすべてが、今は遠い悪夢のように思えた。朝の光が石畳の道を照らし、遠くからパン屋の焼きたてのパンの香りが漂ってくる。街が目覚めつつあった。


その時、馬車の音と馬蹄の音が近づいてきた。


褐色の髪の男性が馬車から降りてきた——シルヴィア・デュモン、デュヴァル予審判事の副官。深青色の制服を着て、腰には長剣を下げている。彼の後ろには、数人の制服を着た警吏が馬に乗って続いていた。


「リュアン・ウィンスター」シルヴィアが彼を呼んだ。声は低く落ち着いていた。「ついて来い。警察本部で正式な釈放手続きを済ませる必要がある」


リュアンは頷いた。


教父パランたちは?」彼は尋ねた。「ポールさんたちも釈放されるんですよね?」


「ああ」シルヴィアが頷いた。「だが彼らには職務怠慢の罪がある。戴罪留職の手続きがあるから、もう少し時間がかかる。お前は無罪だから、先に手続きを済ませられる」


彼は少し間を置いてから付け加えた。


「心配するな。デュヴァル様の命令で、彼らは午後には釈放される。私の部下が彼らを第三区の夜警署まで送り届ける手配もしてある」


リュアンは安堵のため息をついた。


原主ウィンスターの記憶によれば、ジャン=ポール・ボナールは街頭で瀕死の赤ん坊だった自分を発見し、聖光孤児院に送り届けてくれた命の恩人だった。その後も折に触れて様子を見に来てくれ、十六歳の時には夜警隊に入れるよう推薦してくれた。教父パランと呼ぶのは、法的な養子縁組ではないが、父親同然の恩義があるからだ。


「分かりました」


「さあ、乗れ」


シルヴィアが馬車のドアを開けた。


リュアンは彼の後に続き、馬車に乗り込んだ。


車内は想像していたよりもずっと広々としていた。座席は柔らかなクッション張りで、淡い革の香りが漂っている。窓際には上質なベルベットのカーテンまで掛けられていた。壁には小さな真鍮の燭台が取り付けられ、床には深紅の絨毯が敷かれている。


これは明らかに高級官吏の専用馬車だった。


馬車が動き出す。車輪が石畳を踏む規則的な音が響く。


シルヴィアは向かいの座席に座り、リュアンをじっと見つめた。


しばらく沈黙が続いた。


「今回の事件について」シルヴィアが突然口を開いた。「いくつか聞きたいことがある」


リュアンは彼を見た。


「お前が指摘した時間の矛盾——レンヌ城から魔の森まで、馬車で三十分しかかからないという点。あれは、どうやって気づいた?」


シルヴィアの声は尋問するような調子ではなく、純粋な好奇心に満ちていた。


「案件資料を読んだ時」リュアンは静かに答えた。「馬車の出発時刻と、事故が起きた時刻の記録が矛盾していました」


「だが、他の誰もそれに気づかなかった」シルヴィアが言った。「デュヴァル様も、私も、パリから来た調査官たちも。皆、『魔物が金を呑んだ』という話に気を取られていた」


彼は少し間を置いた。


「お前だけが、冷静に時間を計算した」


リュアンは何も言わなかった。


「それから」シルヴィアが続けた。「鍍金の技術。お前はあれを、どこで学んだ?」


「……薬剤師の下で働いていた時に」リュアンは慎重に答えた。「少し見たことがあります」


「少し見た、か」シルヴィアの口調に皮肉が含まれていた。「だがお前は、デュヴァル様の前であれほど流暢に実演した。金箔の貼り方、加熱の温度、冷却の方法——まるで何度もやったことがあるかのように」


リュアンは沈黙した。


シルヴィアはため息をついた。


「まあいい。誰にでも秘密はある」


彼は窓の外を見た。


「だが一つ言っておく——お前は、普通の十八歳の夜警ではない」


馬車は大通りへと曲がった。窓の外には、朝の市場が賑やかになり始めていた。


「炎色反応の知識」シルヴィアが続けた。「あれは王立科学院の錬金術師でさえ、すべてが理解しているわけではない。銅が緑、ナトリウムが黄、カリウムが紫——お前はどうやってそんなことを知っている?」


リュアンは彼を見た。


褐色の目が鋭く彼を見つめている。これは試しでも脅しでもない。純粋な好奇心と、ある種の評価だった。


「……本で読みました」リュアンは静かに言った。「昔、ある錬金術の書物を」


「本で読んだ、か」シルヴィアは口元に微かな笑みを浮かべた。「夜警の給料で、錬金術の書物を買えるとは思えないがな」


彼は身を引いて、腕を組んだ。


「まあいい。詮索はしない。お前が王国に害を及ぼさない限り」


馬車は再び角を曲がった。


シルヴィアは少し間を置いてから、声のトーンを変えた。


「だが、お前のその能力を、夜警として街頭をパトロールさせるのは、資源の無駄だ」


リュアンは彼を見た。


「デュヴァル様はお前を高く評価している」シルヴィアが続けた。「今回の軍資金事件、もしお前がいなければ、永遠に迷宮入りしていただろう。三千リーヴルの軍資金と、王国の面子も失われていた」


彼の声が真剣になった。


「ゆえに、デュヴァル様は、お前に機会を与えたいと考えている」


リュアンは彼を見た。心臓の鼓動が速くなる。


「パリ警察署の正規警察官だ」


シルヴィアは淡々と言った。


「夜警ではなく、正規の編制に入る。月給は五十リーヴル、制服と装備は支給、病気や怪我の際には医療補助もある。さらに重要なのは、正規警察官には昇進の道がある——巡査、警部補、警部、そして警視まで」


リュアンは呆然とした。


月給五十リーヴル——夜警の倍以上だ。


正規の編制。


昇進の道。


これは......


「どうだ?」シルヴィアが尋ねた。


リュアンは口を開こうとしたが、言葉が出てこなかった。


彼は前世で学んだこと——急いで決断してはいけない。特に重要な選択の時は——を思い出した。


だが、これは......拒否する理由があるのか?


「私は......」リュアンはようやく声を絞り出した。「本当に、その資格があるんでしょうか?」


シルヴィアは少し驚いた様子だった。


「資格?」彼は眉を上げた。「お前は今回の事件を解決した。それだけで十分な資格だ」


「でも私は......ただの夜警です」


「だからこそだ」シルヴィアが言った。「ただの夜警が、パリ中の調査官が解決できなかった事件を解決した。これは才能だ。才能は、適切な場所で使われるべきだ」


リュアンは沈黙した。


シルヴィアは淡々と言った。


月給五十リーヴル——夜警の倍以上だ。


正規の編制。


昇進の道。


これは......人生を変えるチャンスだ。


だが——


(正規警察官……確かに、悪くない選択肢だ)


リュアンの心が揺れた。


前世の経験から言えば、こういう機会は貴重だ。安定した収入、昇進の可能性、社会的地位——すべて魅力的だ。


だが、問題は——


(俺は、まだこの世界に来て二日しか経っていない)


転生してからたった二日。原主ウィンスターの記憶はあるが、断片的で不完全だ。


(警察官の試験って、何が出るんだ?)


(筆記試験があるのか?実技は?面接は?)


原主の記憶には、夜警の日常業務についての情報はある。だが、正規警察官については、ほとんど何も知らない。別世界の存在だったからだ。


(それに……)


彼の胸に、ある思いが去来した。


(もしかしたら……元の世界に戻る方法があるかもしれない)


この世界には不思議なことが多すぎる。あの真紅の月、魔法の存在、超常的な力——ならば、異世界から来た自分が、元の世界に戻る方法もあるのではないか?


(まず、この世界のことをもっと知る必要がある)


(どういう仕組みで転生したのか。魔法とは何なのか。この世界の法則は?)


(そういうことを調べる時間が……今は必要だ)


(でも……)


(ここで断るのは、賢明じゃない)


(もし元の世界に戻れなかったら?もし、この世界で生きていくしかなかったら?)


(その時、正規警察官という選択肢は、確実に夜警よりマシだ)


(今は……後路を残しておくべきだ)


「どうだ?」シルヴィアが尋ねた。


リュアンは少し沈黙してから、慎重に答えた。


「……考える時間をいただけますか?」


彼は丁寧に言った。


「これは人生の大きな決断ですから。少し時間をいただいて、よく考えたいんです」


シルヴィアは少し驚いた様子だったが、すぐに頷いた。


「もちろんだ。これは人生の大きな決断だからな」


シルヴィアはため息をついた。


「お前には一週間の時間がある。決めたら、警察本部の私を訪ねてくれ」


リュアンは少し考えてから尋ねた。


「あの……警察官の採用は、いつ行われるんでしょうか?」


シルヴィアは少し驚いた様子だった。


「採用?」彼は考えた。「正規の募集は、通常各季の初めだ。次は……来年一月だな。だが、お前の場合は特別だ。デュヴァル様の推薦があれば、時期に関係なく採用できる」


「試験は……」


「試験?」シルヴィアは首を傾げた。「読み書きができるか確認する程度だ。お前は案件資料を読んで理解したんだから、問題ないだろう。あとは面接だけだ」


リュアンは頷いた。


(推薦制か……思ったより簡単そうだ)


(だが、それでも今は時期が悪い。まず、この世界のことを理解しないと)


「分かりました。よく考えてから、お返事します」


シルヴィアの表情が少し和らいだ。


「それより」彼は言った。「手続きが終わったら、どこへ送ってやろうか?自宅か?」


リュアンは少し考えた。


自宅——サン・マルタン地区の安アパート。だが逮捕されてから家賃が払えなくなり、家主がすでに彼の持ち物を処分してしまったかもしれない。


それに......


彼の脳裏に、青い髪の優しい顔が浮かんだ。


テレサ。


聖光孤児院の修道女。原主ウィンスターを五歳の時から育ててくれた人。


彼女は今、自分が逮捕されたことを知って、どれほど心配しているだろうか?


「孤児院に寄ってもいいでしょうか」リュアンが言った。「聖光孤児院です。第四区にあります」


シルヴィアは少し驚いた表情を見せた。


「孤児院?」


「そこの修道女が……私が逮捕されたことを知って、きっと心配しているはずです。まず彼女に無事を知らせたいんです」


シルヴィアは彼をしばらく見つめた。


「……分かった」彼は頷いた。声が少し柔らかくなった。「手続きが終わったら、孤児院へ送ろう」


彼は少し間を置いてから付け加えた。


「お前の教父——ジャン=ポール・ボナール隊長も、釈放されたら孤児院に向かうと言っていた。そこで会えるだろう」


リュアンは頷いた。


馬車は警察本部の前で止まった。


---


三十分後、すべての手続きが完了した。


リュアンは釈放証明書を手に、再び馬車に乗り込んだ。書記官ピエールが用意してくれた書類には、無罪釈放の印が押され、没収された所持品のリストも添えられていた——何着かの服、いくつかの書籍、そして二十三リーヴルの現金。


「事件が完全に終結したら、受け取りに来い」ピエールはそう言った。「一週間以内には処理が終わるはずだ」


馬車が再び動き出す。


今度は第四区へ向かう。


車内の雰囲気は、先ほどより少し和らいでいた。


シルヴィアは窓から外を眺めていた。


「お前、孤児院で育ったのか?」


彼が尋ねた。声に先ほどの鋭さはなかった。


「はい」リュアンは答えた。「五歳から十五歳まで」


「それから?」


「夜警になりました。ポールさん——ジャン=ポール・ボナール隊長の推薦で」


シルヴィアは頷いた。


「彼はいい男だ。職務怠慢の罪はあるが、心は正しい。だからデュヴァル様も、彼に戴罪留職の機会を与えた」


馬車はセーヌ川に架かる橋を渡り始めた。川面がきらきらと光り、何隻かの貨物船が荷下ろしをしている。


「今、金は持っているか?」


シルヴィアが突然尋ねた。


リュアンは首を横に振った。逮捕された時に持っていた金は全て没収された。理論上は取り戻せるが、今は確かに一文無しだ。


シルヴィアはため息をつき、懐から小さな財布を取り出した。


「これに十リーヴル入っている。とりあえず持っていけ。報奨金の前払いということにしておく」


「これは……」


リュアンは驚いた。


「受け取れ」


シルヴィアは財布を彼に投げた。


「まさか腹を空かせたまま一週間過ごすわけにもいかないだろう。それに、お前が警察官になることを決めたら、同僚になる。同僚を飢えさせるわけにはいかない」


リュアンは小さな財布を握りしめた。


「ありがとうございます」


「それから」


シルヴィアが付け加えた。


「ちゃんとした服も買え。今のその格好じゃみすぼらしすぎる。警察官になるにしても、せめて体裁くらい整えないとな」


リュアンは頷いた。


馬車はセーヌ川を越え、第四区に入っていった。


街路はさらに狭くなり、建物も古びて、空気に貧しさの匂いが漂っている。ここの住人は大半が労働者、小商人、底辺の平民で、粗末な服を着て、疲れ切った顔をしている。


道端には物乞いが座り、子供たちが裸足で走り回っている。洗濯物が窓から窓へと渡されたロープに掛けられ、風に揺れていた。


二十分ほど経って、馬車は灰色の三階建ての建物の前で止まった。


「着いたぞ」


シルヴィアが言った。


「聖光孤児院だ」


リュアンは馬車を降り、この懐かしくも見知らぬ建物を見上げた。


門の上部には簡素な十字架が刻まれ、壁は色褪せ、窓のいくつかは壊れて板で塞がれている。中庭から子供たちの遊ぶ声が聞こえてきた。


原主ウィンスターの記憶が蘇る——ここで過ごした幼少期、いつも笑顔で慰めてくれた青い髪の少女、貧しくとも温かかった日々。


「送ってくれてありがとうございます」


リュアンは振り返ってシルヴィアに言った。


「どういたしまして」


シルヴィアは馬車の窓に寄りかかった。


「一週間後、返事を聞かせてくれ」


「そうします」


シルヴィアは馬車の壁を叩いた。


「行け」


馬車がゆっくりと動き出す。


リュアンは小さな財布を握りしめ、遠ざかる馬車の後ろ姿を見つめた。胸に温かいものが込み上げてくる。


彼は孤児院の門に向き直った。


門は半開きになっていて、中から子供たちの笑い声と優しい女性の声が聞こえてくる。


リュアンは深く息を吸い込んだ。


そして、門を押し開けた。


---


(章終わり)

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