第149章:夜鶯の声
幕間が終わり、観客たちが続々と席に戻ってきた。
ルーンも席に座り、何気なくプログラムに目を落としていた。
その時、視界の端で銀色の髪が動くのを捉えた。
ボーモン騎士が廊下を歩いている。別のボックス席へ向かっているようだ。
ルーンの心臓が一瞬跳ねた。しかし騎士は彼の方に目もくれず、そのまま通り過ぎていった。
巡回なのか……それとも……
判断がつかなかった。
ただ、少なくとも今この瞬間、危険は去った。
ルーンは小さく息を吐き、プログラムに視線を戻した。
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「お待たせしました」
シャルルとピエールが席に戻ってきた。
「ベッカーさん、これをどうぞ」ピエールが飲み物を手渡した。
「ありがとうございます」
シャルルはもう舞台に釘付けになっている。目を輝かせ、身を乗り出すようにして前を見つめていた。
「どうかされましたか?」ルーンが尋ねた。
「これからが全劇で最も素晴らしい場面なんです」シャルルが声を潜めて答えた。興奮で目が輝いている。「ソフィアさんがあの有名なアリア《月光の下の誓い》を歌われるんです」
「本当にお好きなんですね、彼女のことが」
「好きというより……」シャルルは率直に言った。「私は彼女の熱烈な支持者なんです。三年前、パリでの初公演を聴いて以来……」
言葉を切り、少し照れたように笑う。
「それからというもの、彼女のパリ公演はほぼ全て足を運んでいます」
ルーンは少し驚いた。
目の前のこの享楽的な若い貴族が、実は熱狂的なオペラファンだったとは。
「彼女の声は……」シャルルが続ける。声に敬虔さすら滲んでいた。「あらゆる憂いを忘れさせてくれるんです。どんなに最悪な一日でも、彼女の歌を聴けば……ああ、人生もまだ捨てたものじゃないと思えるんですよ」
ルーンはシャルルを見つめた。
この軽薄で享楽的に見える若者にも、心から愛するものがあるのだと、今初めて知った気がした。
「シッ――」ピエールが小さく注意を促す。「始まりますよ」
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舞台に照明が集まった。
ソフィア・アルヌがゆっくりと中央へ歩み出る。
衣装が変わっていた。純白のロングドレス――劇中人物の純潔を象徴している。髪を解いて肩に流し、照明の下で金色に輝いていた。
オーケストラが前奏を奏で始める。
柔らかく、哀愁を帯びた旋律。
そして――
ソフィアが歌い始めた。
最初の音が響いた瞬間、劇場全体が息を呑んだ。
高音だった。水晶のように澄み切りながら、深い悲しみを湛えている。
ルーンはオペラに詳しいわけではない。しかしこの瞬間、彼もまた心を揺さぶられた。
これは単なる技巧ではない。
これは――芸術だ。
ソフィアの声が劇場に満ちていく。時に高く激しく、時に柔らかく低く。
イタリア語の歌詞は分からない。けれど感じ取ることができた――
深い絶望と、それでもなお消えない希望と。
まるで月光の下、愛する人に永遠の忠誠を誓う女性のようだ。たとえ運命が二人を引き裂くと知っていても。
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シャルルは完全に音楽に没入していた。
ソフィアを凝視し、両手を強く握りしめ、体全体が前のめりになっている。
そしてソフィアが最高潮の部分に差し掛かった時――
8拍もの間続く高音C。
澄んで、響き渡り、完璧無比。
シャルルの目が潤んだ。
ルーンは横目で彼を見て、少し驚いた。
この普段は大雑把な若者が、一曲の歌に心を動かされて涙を流すとは。
しかしルーンが再び舞台を見た時、彼も理解した。
ソフィアは単に歌っているのではない。
彼女は声で物語を紡いでいた――
愛、裏切り、苦しみ、そして救済の物語を。
一音一音が正確無比で、一つ一つの旋律が感情に満ちている。
高音は雲を突き抜けるかのようで、天への祈りのよう。
低音は優しい囁きのようで、心の痛みを吐露するかのよう。
中音は力に満ちていて、運命と戦うかのよう。
これは普通の歌唱ではない。
これは――
純粋な、完璧無欠の芸術だった。
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公爵のボックス席。
オルレアン公爵は満足げに背もたれに身を預け、ワイングラスを傾けながら舞台を眺めていた。
「1200金ルイ……払った甲斐があったな」小声で呟く。
モンパンシエ公爵はソフィアの歌声に完全に引き込まれ、返事をするのも忘れている。
サン=ジェルマン主教は目を閉じて聴いているようだったが、眉がわずかに寄っていた。
「彼女の歌声は確かに心を打ちますが……しかし」
「しかし?」オルレアン公爵が尋ねた。
「完璧すぎます」主教が静かに言った。「完璧すぎて……ほとんど人間離れしている」
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舞台で、ソフィアのアリアが最後のクライマックスへと突入していった。
両腕を広げ、顔を上げ、声が滝のように流れ落ちる――
連続するコロラトゥーラ。速く、複雑で、極めて高難度の技巧。
しかし彼女は軽々と歌い上げた。一音一音が明瞭で、一つ一つの転音が正確無比。
そして最後――
完璧な高音Eで全アリアを締めくくった。
その音は空中に3秒間も響き渡り、それからゆっくりと消えていった。
劇場は静まり返った。
誰も拍手しない。
全員がまだ、あの心を揺さぶる歌唱の余韻に浸っていて、現実に戻れないでいた。
ついに――
パチン!
鋭い拍手が一つ。
シャルルだった。
勢いよく立ち上がり、力強く拍手する。目にはまだ涙が光っていた。
「ブラヴァ!ブラヴァ!」
彼の声が静寂を破った。
その瞬間――
劇場全体が雷鳴のような拍手と歓声に包まれた!
「ブラヴァ!ブラヴァ!」
「素晴らしい!」
「これは私が聞いた中で最も美しい声だ!」
貴族も富商も一般観客も、皆が立ち上がり、熱狂的に拍手を送った。
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公爵のボックス席。
オルレアン公爵も立ち上がって拍手していた。顔には得意げな笑みが浮かんでいる。
「見たか?これが私が1200金ルイを払った理由だ」
モンパンシエ公爵が興奮して叫んだ。「彼女はまさに天使だ!」
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拍手は5分間にわたって続いた。
ソフィアは舞台で何度も何度もお辞儀を繰り返し、顔には職業的な、完璧な微笑みを浮かべていた。
しかしルーンは気づいた――
彼女が顔を上げた一瞬、目に走ったもの。
疲労?
倦怠?
それとも……恐怖?
ほんの一瞬だけ。すぐにあの優雅で魅力的な微笑みに戻った。
しかしルーンは確信していた、見間違いではないと。
あの瞬間、ソフィアの目に宿っていた感情は、決して喜びでも満足でもなかった。
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拍手がようやく収まった。
照明が暗くなった。
第二幕が続く。
しかしシャルルはもはや芝居に集中できていなかった。
目はずっとソフィアを追い、顔には崇拝と陶酔の入り混じった表情が浮かんでいる。
「彼女は完璧すぎる」呟くように言った。「まさに神が創った奇跡だ……」
ルーンはシャルルを見て、少し心配になった。
この若者は、明らかにあのソプラノに深く魅了されている。
しかし……
ソフィアのような女性が、シャルルのような小貴族に目を向けるだろうか?
それに……
ルーンはずっと感じていた。ソフィアには何かおかしなところがあると。
あの完璧すぎて現実離れした歌唱技巧。
あの一瞬だけ見せた恐怖の眼差し。
それにサン=ジェルマン主教の言葉――
「完璧すぎて……ほとんど人間離れしている」
心中で警鐘が鳴り響いた。
まさか……
ソフィアも超常者なのか?
それとも……
彼女と「銀月仮面」、オルレアン公爵に何か関係があるのか?
あるいは……
彼女自身が標的で、誰かが狩人なのか?
ルーンは深呼吸し、自分を落ち着かせようとした。
考えすぎかもしれない。
しかし……
直感が告げていた――
今夜は、決して簡単には終わらない。
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第二幕が終わり、再び短い休憩になった。
観客たちが続々と席に戻ってくる。
その時――
右側の貴賓席エリアから、一人の若い貴族が立ち上がり、後方の観客席に向かって叫んだ。
「さっき誰だ!ソフィアさんをただの歌姫だなどと言ったのは!」
彼のこの一声で、場内がざわめいた。王立劇場には様々な階層の観客がいた――富裕な商人、弁護士、医師、小貴族、政府の役人たち。しかし貧民の姿はない。入場券だけで彼らの数ヶ月分の収入に相当するのだから。
だから誰かがこんなに無礼に大声を出すのを聞いて、すぐに立ち上がって反論しようとした者もいた。しかし立ち上がりかけた者たちは、叫んだ若い貴族の胸に飾られたラ・ロシュ家の紋章を見て、再び腰を下ろした。その言葉を聞かなかったふりをして。
一瞬にして、劇場ホール全体が奇妙な静けさに包まれた。舞台で準備していたオーケストラまでもが動きを止めた。
「私が言ったのだが、それが何か?」
シャルルがこの時、手に持っていたワイングラスを肘掛けに強く置き、立ち上がってクロードに向き直った。
「ラ・ロシュ様は、私がソフィア様の支持者の座を奪うのがお怖いのか?」
クロードの周りにいた五、六人の若い貴族たちが、すぐに声のする方へ駆け寄ってきた。クロードは仲間を押し分け、大股でシャルルのいる座席エリアへ歩み寄った。顔色がわずかに和らぎ、口調からも先ほどの傲慢さが消えていた。
「誰かと思えばルブラン様ではありませんか」クロードが言った。「どうされました?飲みすぎて、ソフィア様とその辺の低俗な歌姫をお混同なさったのでは?」
「混同などしていない」シャルルは口元をわずかに上げ、気楽な口調で言った。「ただ彼女が素晴らしく歌うと思っただけで、私が好きに評価して何が悪い。あなたと支持者の名誉を争うつもりはない。ただ純粋に彼女の歌唱を楽しんでいるだけだ」
クロードはシャルルを十数秒見つめ、突然笑みを浮かべた。
「ルブラン様がそう仰るなら、もちろん信じますよ。ではソフィア様をお慕いいただき光栄です。一緒に……一杯いかがですか?」
シャルルはわずかに頷いた。
クロードは手を挙げて給仕を呼んだ。「ルブラン様にもシャンパンを一杯」
給仕はすぐに酒を取りに走った。
「ソフィア様にはまだ最後の幕が残っていますね」クロードがシャルルと向かい合って言った。「歌い終わったら王国庭園で公爵の晩餐会にご出席されるそうです」
ルーンはシャルルの隣に座り、さりげなく目の前の情景を観察していた。
どういうことだ?
さっきまで一触即発だったのに、今は突然一緒に酒を飲もうというのか?
ピエールがルーンの耳元で小声で言った。「これが貴族界の作法なんです。表面上は体面を保たなければならない。たとえ対立があっても、公の場で顔を潰し合うことはできません」
ルーンは心の中で思った。
これは18世紀の支持者同士の争いだ。一群の熱狂的な崇拝者たちが、自分の敬愛する歌姫のために張り合い、表面上は礼儀正しく振る舞いながら、内心では相手を打ち負かしたいと願っている。
その時――
照明が再び暗くなった。
第三幕が始まった。
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