第124章 猟魔人(ウィッチャー)
その瞬間——
「ヒュッ——!」
銀色の矢が暗闇を切り裂いた。ルーンの心臓目掛けて——一直線に!
ルーンの瞳孔が収縮する。血族として反応速度は人間を遥かに凌駕するが、この矢は速すぎた。回避が——間に合わない!
**「ガキン!」**
銀白色の影がルーンの前に躍り出た。
ルナだ!
矢はその手に掴まれ、銀の矢尻から白い煙が**シュウシュウ**と立ち上る——超凡生物殺しの銀の矢!
「ふん! 奇襲? そうはいかないわよ!」
ルナは得意げに言うと、矢を**バキッ**と素手で折って地面に捨てた。
ルーンは呆然と目の前の銀髪の少女を見つめる。寒風に揺れる銀髪、夜闇で光る金色の瞳、そして何より——頭頂で**ピン**と立つ狼耳。容貌は変わらないが、今のルナは完全に別の生き物に見える。
だが、ルーンがホッとしたのは——ルナの性格は全く変わってないことだ。相変わらず大雑把で、暗闇に向かって変顔までしている。
この時、周囲の風がさらに冷たくなった。頭上の月光も不気味に歪む。ルーンは気づいた——周囲の景色がぼやけている。
いや、違う。
**黒い霧**が四方八方から押し寄せている。巨大な黒幕が彼らを覆い尽くそうとしている!
猟魔人の結界だ!
ルーンは血族として、超凡生物を狩る手段を知っている。ヴィラから警告されていた——猟魔人の最も得意な戦法は戦闘結界を展開し、標的を閉じ込めて各個撃破すること。
黒幕が広がるにつれ、小道の地面に薄い霜が張る。空の満月も黒く染まっていく。ルーンは血族として寒さに強いが、この黒幕は——超凡生物を抑圧する力がある。全身が重い。
しかしルナは全く影響を受けていない様子だ。
彼女は鼻を**クンクンクン**と激しく鳴らし始めた。狼耳が**ぴくぴくぴく**と四方に向きを変える。そして顔をしかめた。
「チッ……四人もいるの? 面倒くさ」
ルナが小声で呟く。
「四人?」
ルーンは驚いた。
「ああ、匂いでわかる」
ルナは周囲の暗闇を睨みつけた。
「猟魔人が四人。一人はあっち……」
彼女は右側の壁を指差す。
「もう一人はあっちの影に……」
左側の路地の奥。
「三人目は……」
ルナは上を見上げた。
「屋根の上。で、四人目は……」
彼女は眉をひそめた。
「どこかにいる。まだ動いてない」
その瞬間——
**「領域展開」**
低く、冷たい声が闇の中から響いた。
「血塗られし狩場」
瞬間、世界が反転した。
路地の石畳が真紅に染まる。壁という壁から血が滲み出し、**ポタポタ**と地面に滴り落ちる。空気そのものが赤く染まり、呼吸するたびに鉄の味が口いっぱいに広がる。
これが猟魔人の領域——獲物を逃さず、確実に仕留めるための**殺戮空間**。
「クソッ!」
ルナが低く毒づいた。その声には怒りが滲んでいる。
「普通の人間まで領域に巻き込むなんて……猟魔人のくせに!」
(……普通の人間?)
ルーンは一瞬戸惑った。
(この子、まだ俺が血族だって気づいてない?!)
「ごめんなさい」
ルナがルーンの方を向いた。申し訳なさそうな顔で。
「巻き込んじゃって。でも——大丈夫、絶対守るから。あなたみたいないい人、死なせたりしない。約束する」
ルーンは何も言えなかった。
この狼人少女は、本気で自分を普通の人間だと思っている。
その時——
「出てきなさいよ!」
ルナが暗闇に向かって叫んだ。
「隠れてコソコソしてないで! 四人もいるくせに卑怯者!」
沈黙。
数秒後——
足音が響いた。
まず右側の壁の影から、一つの人影が現れた。
男だ。三十歳前後、がっしりした体格で深色のロングコートを着ている。腰にはあらゆる武器——短剣、十字架、聖水瓶——をぶら下げている。顔には額から顎まで伸びる傷跡があり、それが彼をさらに凶悪に見せている。右手には銀色の長剣を握っている。
続いて左側の路地の奥から、もう一つの人影。
女だ。二十五、六歳。金色の長髪をポニーテールに結び、均整の取れた体つきで、戦闘向けのタイトな服とブーツを履いている。右手にはクロスボウ、左手には銀色の光を放つ液体の入った瓶を持っている。
二人はゆっくりとルナとルーンを囲むように位置取りした。
そして——
**「ほう、鼻が利くな、狼の小僧」**
上方から声が響いた。
ルーンとルナが同時に見上げる。
壁の上——いや、屋根の上に、黒いローブを纏った人影が立っていた。
月光の下で、その白く長い髭がハッキリと見える。
老人だ。
だがその身から発する気配は、前の二人を合わせたよりも遥かに強大だ。
老人はゆっくりと屋根から飛び降りた。黒いローブが風に**バサッ**と翻る。地面に着地した瞬間、周囲の空気がさらに重くなった。
「よく分かったな、弟子たちよ」
老人が低く笑った。
「はい、師匠」
男と女の猟魔人が同時に頭を下げた。
師匠——つまりこの老人が三人のリーダーか。
ルーンの心臓が激しく鳴る。
(やばい……この老人、只者じゃない)
「ふん」
ルナは全く怯まない。両手を腰に当てて老人を睨みつける。
「三人揃ったわね。で、四人目は? まだ隠れたままなの? 本当に卑怯者ね!」
老人の目が細まった。
「ほう……四人目も嗅ぎ分けたか。大したものだ」
彼はゆっくりと周囲を見回した。そして暗闇に向かって言った。
「聞いたか? もう隠れていても無駄だぞ」
沈黙。
誰も現れない。
数秒が経つ。
老人は眉をひそめた。
「……まだ出てこないか」
彼は小さく舌打ちした。
「仕方ない。お前はそのまま待機しろ。最後の保険だ」
(四人目……まだ姿を見せない)
ルーンは暗闇を警戒する。
見えない敵が一番怖い。
老人がルナとルーンを見下ろす。その目は冷たく、まるで獲物を品定めするような視線だ。
「狼人の小僧……それに**吸血鬼**の小僧か」
その「吸血鬼」という言葉には、明らかな侮蔑が込められていた。まるで害虫を呼ぶかのような口調だ。
**「え?」**
ルナの声が上がった。
彼女は驚いてルーンの方を振り返る。
「吸血鬼……って、この人が?」
老人が嘲笑う。
「気づかなかったのか? お前の隣にいる男——**血族の眷属**だぞ。あの吸血鬼女伯爵ヴィラの飼い犬だ」
ルナはルーンを見て、それから自分の鼻を**クンクン**鳴らした。
数秒後——
「……あー」
ルナがぽかんとした顔で言った。まるで今気づいたというように。
「道理で血族の匂いがすると思った……」
彼女は頭を掻いた。完全に呆けた様子だ。
「あはは……全然気づかなかった。てっきりヴィラの家で匂いが染みついたのかと思ってた」
(今それを気にするのか……)
ルーンは思わず呆れた。
この状況でそんな呑気な反応……
しかしルナはすぐに気を取り直したように、ルーンの肩を**ポン**と叩いた。
「まあいいや! 吸血鬼でも人間でも、ヴィラの仲間なら守るって決めたし!」
そう言ってニッと笑う。
老人は鼻を鳴らした。
「ふん、仲良しごっこは終わりか?」
彼は二人の弟子に目配せした。
「聞け、弟子たちよ。今夜の獲物はあの二匹だ——狼人一匹、吸血鬼一匹」
「はい、師匠」
男女の猟魔人が声を揃えて答える。
老人が冷たく命令を下す。
「狼人は厄介だ。まずあの吸血鬼の小僧から片付けろ。弱い方からだ」
その「吸血鬼の小僧」という言い方には、明らかな軽蔑が滲んでいた。まるでゴミを処分するかのような口調だ。
ルーンの心が沈む。
(やはり……最初から俺たちを待ち伏せしていたのか)
(これは偶然じゃない、罠だ!)
「了解」
男の猟魔人が銀の剣を構える。
女の猟魔人もクロスボウをルーンに向ける。
「ちょっと待った!」
ルナが前に飛び出した。
「私が守るって言ったでしょ! この人に手を出させない!」
「どけ、狼の小僧」
老人が冷たく言った。
「お前たち二匹とも今夜の獲物だ。違いは先に殺すか後に殺すかだけだ」
彼は懐から銀色の鎖を取り出した。
一つ一つの輪に、複雑な紋様が刻まれている。
猟魔人の拘束具——超凡生物を捕らえるための専用武器。
「やってみなさいよ!」
ルナはあの大きなスーツケースの前に歩いていく。片手で**ヒョイ**と持ち上げた——ルーンはハッと思い出した。このスーツケース、血族の自分でも持ち上げられなかったのに!
「カチャ」
スーツケースが開いた。
ルーンが覗き込むと——完全に固まった。
箱の中にぎっしり詰まっているのは武器!
あらゆる種類の武器——剣、斧、ハンマー、棍……年代物の火縄銃まである!
「あ、あった!」
ルナが嬉しそうに箱から太い金棒を引き抜いた。少なくとも1メートル50はある。真っ黒で、表面には鋭い鉄の棘がびっしり。見るからに威圧感がある。
(道理でスーツケースがあんなに重かったわけだ……中身全部武器じゃないか!)
ルーンはやっと理解した。
「これが私の宝物!」
ルナは金棒を得意げに振り回す。
「猟魔人専用よ!」
「ほう」
老人が冷笑する。
「武器があれば戦えると? 小娘、この私を——」
「私、五年間練習したんだから!」
ルナが老人の言葉を遮った。金棒を握りしめ、得意げに叫ぶ。
「私の必殺技——天馬流星金棒!」




