第123章 狼人(ライカンスロープ)
狼の耳?
ルーンは一瞬その場で固まった。ルナが少し先へ歩いて行ってから、彼は慌てて目を擦った。もう一度見ると——ただの普通の短髪の女の子が歩いている。
しかし、彼は**絶対に**さっき見たものを確信していた。あの尖った奇妙な耳を! 三角形で、ルナの頭頂に生えていて、ピンと立っていて、銀白色の美しい産毛に覆われていた——間違いない! 吸血種として、ルーンは自分の視力と短期記憶にはいつも自信があった。
でも今のルナの頭には何もない。さっきの光景はあまりにも非常識だ。
「最近、変なものばっかり見てる気がする……」
彼は自分に言い聞かせるように呟いた。
「え? 今何て?」
ルナが突然振り返り、夜空の下で大きな瞳がキラキラ光った。
「変なものって何?」
(うわっ、耳いいな、この子……)
ルーンは心の中で驚いた。あんな小声でもちゃんと聞こえたのか。でも表面上は何でもないように手を振った。
「いや、見間違いだ。早く行こう、宿屋が閉まっちまう」
「あ、そっか」
ルナは巨大なスーツケースを肩に担いで先を歩きながら、相変わらずベラベラ喋り続ける。
「ねえねえ、この辺に夜食食べられるとこありますか? まだちょっとお腹空いてて……って、何で後ろ歩いてるんですか? 前で道案内してくださいよ、私道知らないし……」
ルーンは数歩で追いついた。
(この子、おしゃべりだけど……まあ、悪くないか)
素直で面白い性格だと思った、その時——
**「バサバサバサッ——!」**
さっきの不気味な羽ばたき音が再び上空から聞こえてきた!
今度ルーンはもっと素早く見上げた——そしてハッキリと見た。鷹ほどの大きさの蝙蝠のような黒い影が夜空を横切っていく! しかもその影は一周旋回した後、また戻ってきて、二人の頭上でぐるぐる回り始めた!
ルーンの心臓がドキッとした。
(待て……この気配は……)
吸血種として、彼は蝙蝠という生物に対して本能的な感覚を持っている。そして目の前のこの蝙蝠の気配は——知っている!
ヴィラの使い魔だ!
ルーンはほぼ確信した。あの巨大な蝙蝠はヴィラが飼っている使い魔の一匹だ。ヴィラの眷属として、あの蝙蝠に残るヴィラの気配を感じ取れる。
でも……ヴィラはなぜここに?
そして、なぜ使い魔で俺を監視している?
ルーンの頭が高速回転した。
(もしヴィラが近くにいるなら、なぜ直接会いに来ない? 何か表に出られない理由があるのか? それとも……誰かから隠れている?)
(いや、待てよ……そもそもヴィラが何してるかなんて、俺が知るわけないだろ。あの人、導師なんだから)
「大丈夫、たぶん野鳥が迷い込んだだけだ」
ルーンは平静を装ってルナに言ったが、心の中では警戒レベルを上げていた。
「ここ、郊外に近いし」
「先に行ってください、私……私すぐ追いつきますから、ちょっと用事が!」
ルナの声が突然すぐ近くから聞こえた。少し焦ったような口調だ。
ルーンは呆然とした。
「それはダメだろ。俺が道案内しないと。この辺の路地、入り組んでるから地元民でも迷うんだぞ……って、なんでそんな近いの?」
そこで初めて気づいた——ルナの顔が自分から数センチの距離にある。あの異常に明るい大きな瞳が自分をじっと見つめている。綺麗だけど、暗闇の中では本気でビビる。
気のせいか、ルナの顔には焦りの表情が浮かんでいる。彼女は夜空を見上げ、それから鼻を**クンクン**と鳴らした。
「先に行ってください、本当に追いつけますから、あなたの匂い覚えたし……もう、なんでそんなしつこいんですか、本当に自分の用事があるんです!」
「ダメだ!」
ルーンも頑固になった。
「もし何かあったらどうする? こんな真っ暗な夜中に女の子を一人残していけるか? 何の用事か言えないのか?」
心の中では疑問だらけだった——ヴィラはなぜ俺を監視している? ルナはなぜ突然こんなに焦っている?——でも、確かに女の子をこんな場所に残していけない。
それに、もしヴィラが本当に近くにいるなら、もうすぐ会えるかもしれない。
ルナの顔色はもう完全に焦っていた。しかも行動が明らかにおかしくなってきた。彼女は大きなスーツケースを地面に置いた——**「ドスン!」**と大きな音を立てて——それから周囲の高い壁を見上げ始めた。この小道の両側には二、三階建ての古い建物が並び、高低不揃いの黒々とした壁が道の両側を囲んでいる。夜空は建物の間にわずかな隙間しか見えない。
ルナの視線はこれらの高い壁の間を素早く動き回り、同時に頻繁に鼻を**クンクン**鳴らし始めた。まるで空気中から何かの匂いを必死に嗅ぎ分けようとしているようだ。そして軽く手足を動かし始めた——まるでウォーミングアップでもしているかのように。
この光景を見て、ルーンも鈍感じゃない。状況がおかしいと気づいた。さっきから夜空で二回も変な音がして、神経が高ぶっている。そして今、ルナの奇妙な行動を見て、彼女が何かを察知したことは明らかだ。
「ルナ……どうした?」
「まだいたんですか?」
ルナは驚いたようにルーンを見た。声には明らかな焦りが滲んでいる。
「さっきの話、全部聞いてなかったのか?」
ルーンは慎重にルナの隣に近づいた。口調は軽いが、すでに腰の短剣を握りしめている。
周囲に異常は見えない。しかし確かに雰囲気が不気味になってきた。淡い血の匂いと季節外れの冷たい風が、四方八方の暗闇の隅から漂ってくる。
吸血種として、ルーンの感覚は普通の人間よりずっと鋭い。ハッキリ感じる——何かが近づいている。
しかも一つじゃない。
そして何より、あの気配は……
ルーンの顔色が変わった。
魔物狩り(ウィッチハンター)の気配だ!
(クソッ、なんで魔物狩り(ウィッチハンター)がここに?!)
ヴィラを追跡しているのか? それとも……
ルーンの心に強い不安が湧き上がった。
(もし魔物狩り(ウィッチハンター)がずっとヴィラの家を監視していたなら、今夜ヴィラの家に行った俺の行動は、すでにバレているんじゃないか?!)
その時——
**空気が、変わった。**
血の匂いが一気に濃くなる。甘ったるい、吐き気を催すほどの濃密な血の香り。四方八方から冷気が押し寄せ、吐く息が白く凍る。
路地の両側の壁が——**ゆらり**と揺れた。
いや、違う。壁じゃない。
**影だ。**
建物の影が、まるで生き物のように蠢き始めた。黒い触手のように伸びて、夜空を覆い隠していく。月の光が遮られ、路地が完全な暗闇に沈む。
そして——
**「領域展開」**
低く、冷たい声が闇の中から響いた。
**「血塗られし狩場」**
瞬間、世界が反転した。
路地の石畳が真紅に染まる。壁という壁から血が滲み出し、**ポタポタ**と地面に滴り落ちる。空気そのものが赤く染まり、呼吸するたびに鉄の味が口いっぱいに広がる。
これが魔物狩り(ウィッチハンター)の領域——獲物を逃さず、確実に仕留めるための**殺戮空間**。
「クソッ!」
ルナが低く毒づいた。その声には怒りが滲んでいる。
「普通の人間まで領域に巻き込むなんて……魔物狩り(ウィッチハンター)のくせに!」
彼女はルーンの方を向いた。その瞬間——
ルーンは言葉を失った。
ほとんど見知らぬ少女が隣に立っていた。彼女は銀髪が腰まで伸び、容貌は秀麗だが、しかし人間のものではない金色の異様な瞳を持っていた。その淡い金色の瞳孔は領域の赤い光の中でも輝いている——普通の目の反射とは全く違う、獣の光だ。銀白色の狼のような耳が頭頂でピンと立ち、領域内の微かな音をすべて拾っている。時折**ぴくぴく**動き、敏感に周囲の殺気を察知していた。
そして少女の背後——煌めく銀色の尾が服の隙間から飛び出し、まるで剣のように鋭く**ピン**と張りつめている。
狼人……
ルーンの脳裏にこの言葉が浮かんだ。
(この子……狼人だったのか!)
「ごめんなさい」
ルナの声が嗄れた。彼女はルーンを見て、申し訳なさそうに言った。
「巻き込んじゃって。でも——大丈夫、絶対守るから。あなたみたいないい人、死なせたりしない。約束する」
(いや、待て……この子、俺を普通の人間だと思ってる?!)
ルーンは一瞬混乱した。
その瞬間——
**「ヒュッ——!」**
銀色の矢が暗闇を切り裂いた。
ルーンの心臓目掛けて——一直線に!
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