ランク7ダンジョン編2
明日の朝にダンジョンへ行く仲間たちで集まることになっている、とエリシアに言われた。
そして翌日。ギルドの集会所にやってくると、そこには四人いた。そのうちの三人は知っている顔だった。一人はもちろんヴィクター。もう二人のほうは、エリシアとアルマだった。
知らないのは一人だけだった。俺よりも若そうな女のハンターで、曙光みたいな色の金髪をボブカットにしていて、やたら露出度の高い装備を着ている。そういう装備は、動きやすさを重視するハンターのあいだではわりと普通に着ているものなので、気にならない。
問題はそのハンターの挙動だ。なにかわめきながら、ヴィクターを追い回しているのだ。なぜこんな状況になったのかまるで分からない。
ヴィクターが人を怒らせるようなことなんてない・・・・・・こともない。まったくしゃべらないせいで、見下して相手にしようとしない、などと勘違いされたのかもしれない。
そして大騒ぎしている二人を放置している、アルマとエリシア。なぜ止めない。
しかも、もう集合時間を過ぎているのに、一人足りない。
ツッコミどころが多すぎて、どこからツッコんでいいのかわからない。
「ああ、ようやく来たわねジョン」エリシアが言う。
「えっとエリシアさん、なんでいるんですか?」
「なんでって、私もダンジョンへ行くからよ」
よく見ると、彼女は背中に灰色のマントをつけている。彼女愛用のオールドパーツである、『疾風マント』だ。これを持ってきているということは、完全にやる気なのだろう。
「なに、来ちゃ悪いの?」彼女はギロリとこちらを睨む。
「いや、そんなことないですけど、でもギルドマスターの仕事は大丈夫なんですか?」
「そんなもの、全部部下に押し付けて来たわ!」彼女は堂々と言う。ここまで堂々としていると、むしろすがすがしささえ感じるな。
俺が何も言わなかったせいか、彼女は言い訳をし始める。
「しかたないでしょ、パーティバランスとか考えると、私が入るしかなかったの。けっして、ダンジョンで思い切り暴れたかったとか、そういうくだらない理由じゃないからね」
暴れたかったのか。いや、理由はどうだっていい。これでも彼女はギルドマスターになる前までは、ハンター業界の最前線を走るトップハンターの一人だったのだ。
ここ数年、デスクワークばかりしていたから腕はなまっているかもしれない。それでも、俺なんぞよりはるかに頼もしい存在であるのは間違いない。
問題はアルマのほうだ。
「でも、アルマは? 彼女は錬金術師であって、ハンターじゃありませんでしたよね?」
「私、ハンターだよ。しかもランク7」彼女は乏しい表情で、ピースサインを作りながら言う。自慢するな。
「ランク7。ランク3より、四つ上」彼女は言いながら、鼻で笑う。煽るな。
「あー、そうっすか」アルマのマウントを適当に流して、再度ヴィクターたちのほうを見る。「で、あれは? あれ、止めなくていいんですか?」
「止めてきていいわよ」エリシアはこともなげに言う。
「俺に死ねって言うんですか? お二人はランク7なんだから、そっちが行ってくればいいじゃないですか」
「ギルドマスターの私にやらせるつもりなの?」エリシアは言う。
「この建物を吹き飛ばしていいなら、止める」アルマは言う。
こいつら。
ちら、とヴィクターを追い回している女ハンターを見る。チーターみたいに建物内を走り回って、ドッタンバッタン音を立てている。手で捕まえるのは、まず無理だろう。
「おーい、二人ともそろそろこっちに来てくれー!」とりあえず、呼んでみる。これで来なかったら、手の打ちようがない。
呼んだ直後、ヴィクターがものすごい勢いでやってくる。そして、俺の背後に隠れた。
次いで、あの女ハンターが俺の目の前にやってくる。
「おいどけ、モブ」彼女は言う。口が悪い。
「モブじゃねえ、俺はジョン・スミスフィールドだ」
「私はメイプル・ローズキャッスルだ」彼女は名乗った。
いや、ちゃんと名乗るんかい。てっきり、知らねえとかなんとか言って、噛みついてくるものかと思った。
「メイプル、なんかあったのか? ヴィクターがなんか悪いことでもしたか?」
「ううん」彼女は首を横に振る。
「じゃあ、なんで追いかけていたんだ?」
「いやなんか、近づいたら逃げたから、おもしろいなーって思ったから、追いかけてた。暇だったし」
「ガキか! まったくもう、周りの人に迷惑だからやめろって、騒ぐのは」
「は? 迷惑なんかかけてないし。ちゃんとひとにぶつからないようにしてたし、壊した物は・・・・・・あ、花瓶割っちゃったんだった」
花瓶を割ったのか。しかし、壊したのが人じゃなかっただけ、まだいい。
「つか、お前なんなんだ、いきなり! 私に説教とかして、お前、私より強いのか?」彼女はひとさし指を俺に向けてくる。人を指さすな。
「強くなかったら悪いのかよ?」
「はあ? 私より弱いくせに偉そうにしてたのか? なんだおめー、生意気だな。やっちまうぞ?」彼女はぐっと顔を近づけて、にらみつけてくる。
やばい、このままだとやられる。とりあえず、土下座するか?
「メイプル、彼にケガさせたら報酬を減らすわよ」エリシアが言う。
それを聞いたメイプルはさっと俺から身を離す。
「怪我なんかさせてないじゃん」彼女はうそぶく。
「あと、彼はヒーラーだから、怒らせると戦闘中にケガしても傷を治してもらえなくなるわよ。それが嫌なら、弱いものいじめはやめなさい」
「え、弱いって」
「わかった! 私は弱いものいじめはしない。ダサいし」それから彼女はこちらを見る。「悪かったな、ジョン。もういじめたりしないからな。ほら、仲直りの握手しよう」メイプルは言って、手を差し出す。
せっかくいいかんじにまとまりそうになっているのに、ここで言い返すわけにもいかない。実際俺は、この中で一番弱いわけだし、間違っているとも言えない。だが、なんかもやもやする。
「べ、別に気にしてないから大丈夫だ。これから、よろしくな」
それでも、彼女の差し出した手を取って握手をする。ここまで不本意な握手は初めてだった。
彼女は俺の手をぎゅっと握り返す。細い手に似合わない、力強い握手だった。
「おう、任せとけ。ちゃんと守ってやるからな」
ここまでよんでいただけて、うれしいです! ありがとうございます! 次の話でもう一人の新キャラ出ます。4月8日夜11時30分に、投稿する予定です。
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